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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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chapter.20 第三の部隊……1 


 ヘクトルたちが頂点に辿り着いたそのころ。
 メルヴィアから『ブライドオブヴァラーウォンド』を託された第三隊も頂点に到着しようとしていた。
 これからのことを語る前にすこし時間を遡ろう……。


「パイクはヘクトル殿が。シュトルムボックは私が預かることになったが、問題はヴァラーウォンドだな」
 ヘクトル班の前には三つに分かれた道がある。
 一方はヘクトルの分隊が担当。もう一方はメルヴィア。そして残る一方だが、誰かにウォンドを預ける必要がある。
 メルヴィアは値踏みをするように隊員たちを見回した。
 ただ見ただけなのだが、眼光は鋭く目を逸らす者もちらほら。ナチュラルに視線が殺すぞオーラを放っている。
「大尉殿、僭越ながら自分に任せては頂けませんでしょうか」
 大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)上等兵は一歩前に。折り目正しく敬礼をした。
「もしくはヒルダに」
 その相棒のヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)も立候補する。
「貴様らか……」
「ヒルダたちじゃ階級も力量もないけど、だからこそポーターぐらいしか出来ないヒルダたちは向いてると思うの」
「戦闘能力に優れた方に護衛をお願いし、自分たちは輸送に専念。これが適材適所であります」
「待ってくれ、大尉」
 すると今度はダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が前に出た。
「戦闘能力の低い者を守りながらなど空論で愚策だ。指揮官は達成確率の高いほうを選び部下の命を守るのが得策」
「大した自信だな。貴様なら任務を達成できると?」
「無論だ」
「語り合う機会こそありませんでしたが、ウォンドの獲得に私たちが尽力したのは大尉もご存じかと思います」
 敬礼をしながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)中尉は言う。
「策もあります。我ら『鋼鉄の獅子』にウォンドをお預けください」
「ふむ……」
「ちょっと待つのだよ。メルメル大尉」
「今度はなんだ……って、誰がメルメルだ! 殺すぞ!
 殺意の視線に晒されたのは、黒薔薇の魔導師リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)
 しかし、いつもどおりの仏頂面で殺意の視線もどこ吹く風といった様子である。
「不浄妃からウォンドを抜いたのはリリたちなのだ。功績を上げた者が重要な役を担うのは当然なのだよ」
 そのあと持ち逃げしようとしていた気もするが……。
「今回は剣の花嫁も連れてきて準備万端なのだ」
 そう言うとひょいとウォンドを奪った。
 そして、ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)の胸元に突き付ける。
「さぁ入れるのだ」
そ、そんなおっきいの入らないですぅ
 ポッと頬を赤らめるユリ。
「なにを言うか。馬鹿長いパイクや太いシュトルムボックに比べれば、こんな杖、ポークビッツみたいなものなのだ」
「無理ですよぉ。壊れちゃいますぅ」
「ええい、四の五の言わず、ちゃっちゃと突っ込むのだよ」
「痛っ、痛い」
 ビクッと身体を強ばらせ、ユリはリリを突き飛ばした。
「なっ……」
「ワタシはリリの花嫁なのです。リリのアレしか駄目なのですよ……」
「しかし、ほかの花嫁たちは……」
「ワタシ、そんな不思議な穴ないですから。もっと優しくしてほしいのですよ」
 どうやら彼女は強化型光条兵器を格納出来ないタイプの花嫁のようだ。
「……すまなかったのだ。剣の花嫁もさまざまなのだな」
 それから耳元でささやく。
「その代わり、パラミタに戻ったらユリの身体をじっくり調べさせてもらうのだよ」
「えっ……」
 ユリが恥ずかしそうに目を伏せると、リリはそっとその胸の谷間にウォンドを入れる。
「とりあえず今日はここに格納して、こんな感じで行こうと思うのだが……ダメ?
ダメに決まってるだろうが!
「ぎゃあ!」
 しとどに打ち込まれるメルヴィアの鞭にリリの悲鳴が上がった。
「アレだの、穴だの……ここをどこだと思っている! 戦場だぞ!」
「アレも穴も別に普通の言葉なのだよ。そんなふうに思うほうが厭らしいのだ。大尉はスケベなのだよ
だ、誰がスケベだ! 撤回しろ!
 カァーッとメルヴィアは耳まで真っ赤になった。
 乙女18、お年頃である。些細なキーワードに敏感になってしまうのも仕方のないこと。
 しかし、ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)大尉は仕方ないではスルー出来なかった。
「いけません、メルヴィア! 年頃の娘がそんな言葉を口にするなんて! はしたないこと山の如しです!」
「ええい、保護者ぶるな、マキャフリー大尉! ムカムカする!」
「保護者ぶるだなんて、なんならお父さんとよんでくれても……
父性をだすな、父性を!
 作戦をともにしてからというもの、ルースは彼女を娘にしたい衝動にかられていた。出来れば養子縁組したい。
 まぁそれはさておき……。
「オレからもダリルを推薦しておきますよ。同じ鋼鉄の獅子です、彼らの能力の高さはよく知っています」
「コンロンでの戦いぶりは見ている。戦闘能力に疑問は抱いていない」
「となると、大尉と彼らはあまり接点がないようですし、やはり信頼の問題ですか……」
「当然だ」
「もし、彼らに信用がおけないのなら、オレを信用してもらうことはできませんか。作戦の責任はオレが持ちます」
「大尉を……?」
 ルースをまじまじと見つめ、メルヴィアは考え込んだ。
「そういうことなら、俺は大熊氏を推薦するよ」
 ふと、ロイヤルガードのひとり、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は言った。
「わたくしも賛同する」
 姫神 司(ひめがみ・つかさ)も丈二を推薦する。
「今回ウォンドを託される人物がロイヤルガードを次善とし、大尉との親交に預けられたのは意味があると考えている」
「それは、ニルヴァーナ探索隊が契約者の皆さんやパラミタの人達が手と絆を結び合い協力してことを成すための象徴となっているからではないでしょうか。大尉も時折気に入らぬふうですがエリュシオンの方と協力しているのですから」
 グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)も補足するように言った。
「それに俺はハルパーに関わったから知ってる。あれは危険なものだ。独占を考えてる人間が持つべきじゃない」
 正悟はダリルをじろりと睨んだ。
「…………」
「一方からの意見としても、タシガン駐在を外され、軍の権力を個人で使った人間にウォンドを託すのは個人的にもロイヤルガードとしても反対だ。この差し迫った状況で不安要素は入れたくない。そう思うのは俺だけじゃないはずだ」
(言いたいことはそれだけか?)
「!?」
 ダリルはあえてテレパシーで正悟に言う。
(おまえが葦原でブライドシリーズの簒奪を図ったのは既知。この場でおまえの正体を明らかにしてもいいんだぞ)
「なんだと!」
 正悟はムッとしてダリルに詰め寄る。
「こそこそくだらない脅しをかけやがって!」
「ほう、ならこの場ですべてを白日の下に晒してやろうか?」
 険悪なふたりの空気は、まわりの人間を巻き込んでの騒動になった。
 ダリルか丈二か、どちらがブライドシリーズを託されるのに相応しいか。
 担当者の選択は重要であるが、しかし、作戦を前に教導団同士で揉めるというのは根本的に間違っている。
 メルヴィアもイライラと頭を抱えた。
「どこまで私に恥をかかせる気だ、このクソどもが……!」
 正直、この中で彼女が信頼してもいいと思ってるのはルースぐらいだ。
 ほかは信用していないわけではないが、安心して任せられるというほど人物を知っているわけでもない。
 ルースの推薦するダリルを……と一瞬思ったが、この騒ぎを目にするとその考えも間違いのような気がする。
 と言うか、なんならルースに預けるのが一番てっとり早いのだが、しかし……。
「あの娘は目を離すとなにするかわかりませんからねぇ。オレのような年上がついていないと心配で……」
 と、完全にメルヴィアについてく決意をバキバキに固めちゃってるのでそういうわけにもいかないのだ。
「これ以上揉めても時間を浪費するだけであります」
 不意に上がった丈二の一言に、しんと騒動は鎮まった。
「こんな自分を推してくださった如月殿と姫神殿には申し訳ありませんが、ウォンドはダリル殿に譲るであります」
「!?」
「おい、なにも身を引かなくても」
「いえ、如月殿。ここで揉めている間にも戦況はどんどん不利になります」
「それはまぁ……敵も戦闘態勢を整えてるとこだろうしな」
自分達の目的は作戦の成功。それを危険に晒してまでウォンドを求めても仕方のないことであります
「大人だな……」
 司は言った。
ウォンドは勲章ではありませんから
「む……」
 その言葉にダリルは表情をすこし曇らせた。
「ともあれ決まったようだな。ダリル・ガイザック、託された以上、死んでも任務を達成しろ。失敗は許さん」
 メルヴィアがウォンドを差し出すと、ダリルは緊張した面持ちでそれを受けとった。
「ああ、わかっている……。決して失望はさせない」
「それから、大熊上等兵」
「はっ」
「任務を優先する貴様の姿勢は軍人として正しい。私は評価する」
「あ、ありがとうございます……!」
 鬼将校からかけられた言葉に、丈二は思わず表情をほころばせた。


 それから幾ばく。
 第三の部隊はオクタゴンの頂点に到達した……!