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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

リアクション

 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)はこれでも大真面目なのだ。
 いや、大真面目でなければむしろ困る。

 パートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)とともにこの地に降り立ったハーティオンは、あまりに荒廃した過去の東京の姿に唖然とした。
「これが1946年の日本……まるで別世界ではないか」
 窓の外の世界を眺め嘆息したのである。なおハーティオンは、半壊したまま放置されている建物の陰に出現したので誰にも目撃されていない。
「現代の日本の発展ぶりはよく知るところ、この状態からよく復帰できたものだな……」
 思わず腕組みしてしみじみと語ってしまう。
 ところがそんなハーティオンの感慨に構わず、
「はろはろーん♪ 蒼空学園のナンバーワンアイドル(自称)のラブちゃんよ〜!」
 ぽーん、と薄青い雷光をまとったハーフフェアリーが、薄黄色の羽をふるわせて飛び出してきた。なお、この雷光はタイムワープの余波である。
「な〜んて1946年の日本で言っても誰にも通じる訳も無いわよね〜」
 けらけらと笑って、ラブはくるくるとハーティオンの顔の回りを翔んで回る。
「楽しそうだから、着いて来たけどホーント焼け野原みたいねー。未来の地球でもハーティオンやあたしは珍しいもの扱いだったけど、ここだと更に奇異の目で見られそうね〜」
 かく言うラブの口調は妙に明るい。彼女とすれば奇異の目であろうと「注目されるならオールオッケー♪」らしいのである。ところがハーティオン困ったように言った。
「判っているのであれば、少し考えてはもらえまいか」
「へ? 何、ハーティオン?」
「この容姿の事もある。この時代の石原肥満に上手く信用してもらえる様な理由を考えなければ……。ラブ、何かいい考えはないだろうか」
「正体を隠す方法〜?」
 するとラブは、ハーティオンの肩にちょこんと腰掛けて腕組みしたのである。
「ん〜……そうね〜、どうしても正体を隠すなら『チンドン屋』って名乗ればいいんじゃない?」
「チンドン屋……?」
 思わずハーティオンは訊き返していた。初めて聞く言葉だ。
「チンドン屋ってのは要するに派手な格好した請負広告業ね。あたしやあんたがありえない格好してるのも、広告のためってことにするのよ」

 と、いったやりとりを経てハーティオンとラブは石原の足跡を求め、ようやくこの場所に辿りついたのだった。それでも、せめて違和感を少しでも減ずべく、拾ったボロをまとったりして色々ごまかしている。だがあまりにも特殊な格好であることは誤魔化せそうもなかった。
 さて、こうして最初の言葉を終え、ハーティオンは石原の反応を待った。
「やっぱり怪しいんじゃない?」
 ボロの内側からラブがハーティオンにささやいた。身長30センチの彼女が姿を見せればパニックは必至だろう、ということで、彼女は「えーっ! アイドルなのに顔出しNGってどういうこと!?」と不満たらたらながら姿を隠しているのだ。
「むう……なるべく怪しくないように正直を心がけたつもりだが……」
 小声でハーティオンが応えたそのとき、石原側に反応があった。
 石原は何も言わなかったが、剃刀のような目をした男――鷹山が言ったのである。
「チンドン屋か。だとすればなんの宣伝だ」
 返答次第では、という表情がそこからにじみ出ている。
「え、せ、宣伝……宣伝というのは、あー……」
 そのとき突然、ボロの内側から甲高い声が飛び出した。
「なんの宣伝って? そりゃあたしの歌に決まってるじゃん! あたしの歌を聞けー!!」
 そしてラーララと幸せの歌を歌い始めた。
 すると石原は笑い出したのだった。鷹山ですら、苦笑気味に肩を震わせている。
「なるほど、腹話術もやるのか。どうやら本業らしいな」
「そう、そうなんだ……」
 と、またたどたどしく話し始めたハーティオンを押さえるべく、またもラブが声を出した。
「あのねー。こいつ本当に心から怪しいけど根はいい奴だからさ。なんか勝手に悩んで考えちゃうけど、バカ素直で素直なバカだから手加減してあげてね♪ ん? あたしは誰かって? よくぞ聞いてくれました♪ あたしは伝説のアイドル歌手ラブ・リトル様!」
 座はどっと笑った。石原自身、人なつっこい笑みを浮かべている。
「いいんじゃねぇか」
 と、石原による鶴の一声で、彼らも一員に加えてもらえることになった。
 加えてもらうといっても、石原の愚連隊は暴力団のように組織だった集団ではない。杯を交わしたりすることはなく、上納金云々などというシステムももちろんない。ただ、仲間と認められたというだけのことである。