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【創世の絆】もう一つの地球と歪な侵略者

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【創世の絆】もう一つの地球と歪な侵略者

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アナザーの戦い 7



 アナザー千代田基地外周部。
 物量と大量の兵器の導入で、一時は押し込まれそうになった千代田基地ではあったが、契約者達の獅子奮迅の活躍により、なんとか怪物を押しとどめかけていた。
 だが、硬直するかに見えた戦況は、全身金色の鎧をまとった一体の怪物により、大きくバランスを崩す。
「ふむ、下級兵を使いすぎた、か。これでは我が精鋭を展開する隙間が無い。それもこれも、オリジンの戦士が有能であったが故、その力を見抜けなかった我の見る目の無さか」
 前線へと繰り出したダルウィの鎧には、いくつかの傷が散見された。
 ここまで、ダルウィと直接戦った契約者は、小鳥遊 美羽とコハク・ソーロッドの二人だけだ。二人がどれだけ時間を稼いだのかといった正確な情報は伝わっていないが、しばらくして負傷した二人を黒豹大隊が回収したという報告があった。
 この怪物の危険性を知るコリマから、ダルウィに対しては極力手を出さないように指示がなされていた。とはいえ、もう千代田基地まで目と鼻の先であり、これ以上自由に歩かせるわけにも行かない。
「であれば、その失態はわが身で補うのみ。さぁ、道を明けてもらうぞ、オリジンの戦士達よ」
 ハルバートを振り上げ、地面に叩きつける。
 ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)はこれを大きく後ろに跳んでさけた。
「え?」
 まだ二人が着地をする前に、強烈な閃光と熱風が二人を襲う。
 ハルバートがたたきつけられた地点が、突如爆発したのだ。
「並の者であれば、これで軽く吹っ飛ぶのだがな。やはり、オリジンの戦士は、アナザーの雑魚とは違うな」
 熱と衝撃に身を打たれながらも、二人はそれぞれの足で地面に立っていた。
「今のは……なんでしょう?」
「はわわ、スカートの裾が」
 ヘスティアは自分のスカートについた小さな火を慌てて消した。
「えと、何か言いました?」
「いえ、いいです」
 ダルウィはハルバートを振り下ろしたまま、動きは無い。
 今なら、と前に出ようとしたペルセポネの腕を、ヘスティアが掴んで止めた。
「え?」
「ペルセポネちゃん! 機晶合体です!」
「は、はい!」
 合体パーツαと合体パーツγが共鳴し、どこからともなく現れた光の中で二人は合体する。
 具体的には、ヘスティアの背中のウェポンコンテナからミサイルユニットが展開し、空いたウェポンコンテナの中に、ヘスティアの人型部分が「よっこいしょ」と体育座りで入り込み、ウェポンコンテナがペルセポネの背中にドッキングしたのだ。だが、これらの工程はよくわからない光で、ダルウィにはよく見えなかった。
『合体機晶姫オリュンピア』
 合体したオリュンピアから聞こえるのは、二人の声だ。
「ミサイル、全弾発射です!」
 ウェポンコンテナから、大量のミサイルが飛び出した。空中で軌道を制御し、一発も漏らさずダルウィへと向かっていく。
「小ざかしい!」
 ダルウィがハルバートを振るう。いくつもの爆発が連鎖反応し、爆煙にその体躯が一瞬隠れるが、すぐにそれを突き破ってダルウィが姿を現す。
 突進の勢いは衰えることなく、そのまま手を返し、ハルバートが振るわれる。オリュンピアは後方に向かって加速し刃を逃れるが、ハルバートとオリュンピアの間の空間が、閃光と共に破裂する。
 至近距離の爆発に吹き飛ばされ、瓦礫の一部となっているバスに背中を強打する。
「ぐ……」
 ペルセポネは苦痛に声を漏らしたが、背中のウェポンボックスの中にいるヘスティアは衝撃をもろに受け、気を失ってしまっていた。
 ヘスティアが戦闘不能になってしまったため、合体の効果が途切れてしまう。くっついたパーツが外れる事はないが、背中に大きな重りを背負っているようなものであり、これではただの足かせだ。
 だが、ペルセポネにヘスティアを置いて逃げるなんて選択肢は当然無いし、だからといってゆっくりとこちらに迫るダルウィをやり過ごす手段も無い。
「……?」
 死神の足が、唐突に止まった。
 ダルウィは素早く振り向き、ハルバートを振るう。すると、ハルバートは途中でぴたりと止まる。
「獲物を前に舌なめずりする三下だったら、簡単にいったんだけどねぇ。うまくはいかないか」
 光学迷彩が途切れ、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)がその姿を現す。
 恭也はダルウィが体勢を整える前に、一端大きく間合いを取った。純粋な力勝負は、どうやっても勝てそうにないようだ。
「さっきまでやってた爆発って、自分にはきかないとかそういうもんなのか?」
 恭也はダルウィに見えないように、ペルセポネ達に手で下がれと伝える。意図はすぐに伝わったようで、彼女達はその場から退散していった。
「そう思うか?」
「だよな。随分頑丈にできてるようで」
 さすがに見た爆発を、TNTが何トン分の威力だ。と見極めるような真似はできない。だが、少なくとも晶姫爆弾一つや二つ程度の火力ではないのは理解した。
「ふむ、逃げる算段はついたか?」
「まさか。この身が目指すはただ一つ、絢爛舞踏なりってな」
 爆発を恐れず、恭也は接近戦を仕掛けた。
 ダルウィの行う爆発は、一種のスキルのようなものだろう。効果は任意であり、その使い勝手はそこまでよろしくはない。むしろ危険なのは、僅かに武器を合わせた際に感じ取った剛力だ。
 最初に仕掛けたのが不意打ちで、あちらもただ払うためだけに獲物を振るった。あれがもし、断ち切るためのものであれば、ああいう形にはならなかっただろう。
 真横に振るわれたハルバートを、恭也は身を低くして潜り抜けた。爆発は、無い。
「その武器じゃ小回りはきかないな」
 素早くを横をすり抜けつつ、太刀風を鎧の隙間をなぞるようにして振るう。滑らかに刃は理想の道を進み、恭也は再び大きく間合いを取った。
「ほう……見事だ」
 ダルウィは手を傷口に当てる。
 手を離すと、そこには煮えたぎる真っ赤な血のようなものが付着していた。その量は僅かではあったが、ぼこぼこと嫌な音を立てて泡を作っては破裂させる。
「この身に傷を負う感覚というのは、久しく感じた事が無かったがこれほどまで気分が高揚するものだったとはな。できればこのまま心の赴くままに戦い続けたいものだが、どうやら時間切れのようだ」
 手についた血を、ダルウィはハルバートの刃に塗りつけた。
 沸騰していた血液は静かになり、ハルバートの刃全体がオレンジ色に発光する。
「まともに戦いにもならぬ強すぎる身を呪った事もあったが、これからはそうはならずに済みそうだ。さぁ、とくと見よ、我が渾身の一撃を!」
 発光するハルバートが地面に叩きつけられる。
 刃と同じ光が地面に亀裂をつけながら走りぬけていった。ハルバートが叩きつけらられた中心は、その光を強くすると、地面を突き破り巨大な炎の蔦が空に向かって登っていった。
 御伽噺にでてくる豆の木のように大きくなった蔦は雲の届く手前で成長が止まると、天辺に大きな蕾ができる。早送りの映像のように蕾は開いていき、一輪の巨大な花を開花させると、そこから火の粉が放射状に広がって周囲に降り注いだ。

「ハ、ハハハ、凄いじゃないか」
 爆発の影響で揺れる千代田基地内部で、ドクター・ハデス(どくたー・はです)はその爆発を目撃した。
 巨大な花から飛び散る火の粉は、一つ一つの大きさは人間の頭程の大きさがあった。広範囲に炎をばら撒く炎の植物は、花を咲かせているのに花粉のような印象を受ける。
「しかし、暑いな。こうまで高温になると、せっかくのサンプルが変質してしまうかもしれん。ああ、残骸を回収に行かせたい、行かせたいのに!」
 秘密結社オリュンポスの部下である部下のペルセポネ、ヘスティアは先ほど特に収穫も無いまま帰還しており、同じく出動させた戦闘員もゴロゴロ転がるゴブリンみたいな奴の骸は見つけてくるが、戦車やヘリには近づく事もできない。というか、戦場が縦に伸びすぎなのだ。
「む、敵の動きが妙だな……」
 彼の冷静な分析眼が、戦況の変化を見抜く。敵の後続部隊や、戦車などの兵器が撤退を開始しているのだ。まだ戦闘が完全に終結するには時間がかかるだろうが、怪物達は千代田基地の攻略からは手を引くつもりらしい。
「今のは撤退の合図だったのか……ん?」
 ふと、地面が発光しているのに彼は気が付いた。
 時を同じくして、恭也もその光を感じ取り、目を開いた。
 暗く湿った空気と、足元にある鉄の部品が、柔らかい明かりに照らされている。鉄の部品は鉄道のレールだった。
「地下鉄、か」
 見上げてみるが、天井は塞がっている。何で自分がこんなところに居るのか。考えるに、振り下ろされた一撃で爆発に飲み込まれる前に地面が崩れ、落ちたのだろう。
「運が良かったみたいだな。にしても、この光はなんだ?」

「最も大事な事は、アワビの養殖を邪魔されないようにする事だ。我はそのために、アナザーなどというわけのわからない場所にわざわざやってきたのだ。もしも助けに来たのが、あのつるっパゲ……いや、アナザーコリマでなければ突っぱねてたかもしれないが」
 照明も何も無い真っ暗な洞窟の中を、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)マネキ・ング(まねき・んぐ)は進んでいた。
 ここは、千代田基地の下にあるという遺跡だ。みんなが防衛だ探索だ、と忙しくしている最中、マネキはこの遺跡に繋がる出入り口を見つけたのである。
「いいのかな、こんな事してて……」
 彼らの頭上では、怪物達と人類が必死の戦いを繰り広げている最中だ。冒険者として遺跡の探索というのは血が疼くものではあるが、今はそんな最中にこんな事をしている負い目を感じないでもない。
「いいのだ! むしろ、この道に我が気づかなければ、我らはあのつるっパゲに寝首を掻かれていたかもしれんのだ」
「その見つけたもの、ってのまであとどれぐらいだ?」
「間もなくだ」
 マネキ曰く、かなり重要なものがあるというのに、マネキはアワビの養殖に関する事や、アナザーコリマが怪物と渡り合えたのは太陽光を頭で反射するビームのおかげに違いない、なんて真面目に耳を傾けるだけで疲れそうな話を延々と続けた。こっそり、という概念は無いようだ。
 間もなくといわれてから三十分ぐらい進んだところで、自然の洞窟とあまり見分けのつかない遺跡の内部に変化が現れる。淡い光が、遺跡を奥からゆっくりと広がっていったのだ。
「ついたぞ」
 マネキが案内した先にあったのは、円状の手狭な部屋になっており、中央には大きな棺が置かれていた。よくわからない人形らしきものや、くすんだ宝石や黄金できた装飾品もある。墓地遺跡の王の間のような場所だった。
「この……女の子は?」
 中心の棺には、年齢十四、五といった女の子が祈るように手を合わせて眠りについていた。
「アムリアナ様だ……先代のシャンバラの女王である」
「シャンバラの、女王? なんで、ここに女王がいるんだ?」
「その疑問については、私から話そう」
 声に振り向くと、アナザーコリマが一人でこちらに向かって歩いていた。
「ここは立ち入り禁止していたのだがな。こうも易々と抜け道を見つけられるとは思わなかったぞ」
「なんで、あなたがここに? 戦いは?」
「ダエーヴァは撤退を始めた。まだ戦闘は終わっていないが、間もなく戦闘は終了するだろう。痛手という一言では片付かない被害を被ったが、なんとか持ち堪える事ができた」
「そのような事はどうでもよい。何故、シャンバラの女王がこのような姿で、こんな場所に居るのか、答えよ」
「事が成った今なら、隠し立てする必要もあるまい。我々が、護らなければならない道とは、他ならぬ彼女の事だ」



 まるで隕石のように、真っ直ぐに地上に着陸したストークは、舞い上がった土ぼこりの中から、その完全な姿をあらわした。
 多くの契約者が、そして怪物達が見つめる中、コックピットのハッチが開かれる。
 入念に設置された照明が、現れたその姿を隠す事なく映し出す。
 シャンバラからたった一機のイコンで、東京へと舞い降りた、シャンバラの女王アイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)の姿を―――