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【創世の絆】光へ続く点と線

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【創世の絆】光へ続く点と線

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海岸線の攻防3


「やれやれ。一段落したかと思ったのにまだまだ一波乱。まずは目の前の現状を何とかするしかないね。
 相手の数は尋常じゃない、けどまあ一定時間持ち堪えれば作戦目標はクリアだ。
 こっちの行動拠点、機動要塞は海上。とにかく出来る限り海岸線の防衛線で食い止められる様に行動だね」
ヴァ―ミリオンで周囲の様子を索敵しながら十七夜 リオ(かなき・りお)が言う。フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)は頷いて各種センサーからのナイトのデータをチェックしながら言った。
「連携を絶つだけでもかなりこちらに有利だと思います」
「敵機接近。射撃、白兵のコンビ5ペア。無傷の新手! まぁ、いつも通りに、無理せず無茶していくよ、フェル」
索敵していたリオの声が響き、そこに僚機である紫月 唯斗(しづき・ゆいと)魂剛から通信が入った。
「近接戦は任せてくれ」
「了解」
リオが短く言う。
「あの遺跡にはルシア達が、友人達がいる!インテグラル如きにゃあいつ等をやらせねぇよ!
 お前等如きに手ぇ出させる訳にはいかないんだ」
意気込む唯斗に向かい副操縦席のエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が釘を刺す。
「一対多だ、他の者とも連携せねば数に呑まれるやもしれん。……余り突出し過ぎるなよ。
 まぁ、その辺は妾でフォローするがの」
「こちらも中距離からのインファント・ユニットを中心に射撃を行う。
 後方はあまり気にしなくていい」
フィーニクス成田 樹彦(なりた・たつひこ)が冷静な声音で告げる。以前ビショップ戦での火力不足からそれを補うための武装にチューンナップしている。
「なんで私じゃうまく扱えないんだろう……イコンの操縦を学んだ時期は一緒なのに……。
 どうして私より兄貴の方が上達が早いのよ……」
仁科 姫月(にしな・ひめき)がサブパイロット席でぼそりと呟く。正面のモニターや計器類を素早くチェックし、イコンを巧みに操りながら樹彦が返す。
「……感覚の差……だろうな。俺がドラゴニュートだってことも関係しているのかもしれないが」
樹彦はドラゴニュートである。普段イコンレベルの敵と相対できる彼は、イコンを操縦する時でも全神経を集中して自分の体同様にイコンを扱うことが出来る。イコン自体と一体化し、その動きを感覚のように感じ取ることが出来るのだ。イコンを巧みに操れるものにはそういったセンスが必要だ。イコンを『外殻』として各種センサーやレーダーを頼っている姫月とではどうしても操縦感覚に差が出来てしまう。
「……そう言えば兄貴って、ドラゴンだっけ」
姫月は呟いた。普段兄としか思っていないため、どうしても自分と同じ地球人として見てしまい、言われないとつい忘れてしまう。……兄貴は兄貴なのだから。
「まあ、そういうことだ。イコンについては紙の上で、あるいはマニュアルどおりに学習するんじゃない。
 イコンを通して周囲のことを感じ取る。そうして初めて思うとおりに動く、そういうことだ……行くぞ!」
 フィーニクスの砲火が一機から放たれているとは思えないほどの威力を持って射出され、やや動きの鈍い遠距離型インテグラル・ナイトの腕を狙う。それを阻止しようと斧を手に突っ込んでくる近接戦闘型ナイト。
(V−LWSをマニュアルに変更! 細かい操作はこっちで引き取るから、思う存分飛ばしていきな、フェル!
 長期戦になるだろうから、『覚醒』は余程の事が無い限り使わない方針でいこう)
リオの思念がフェルクレールトに呼びかけ、ヴァ―ミリオンは近接型のナイトに超電磁ネットを使い、行動に制限を加える。そのまま白兵型のそばを高速ですり抜け、高速機動で飛んでくる光弾を回避しつつ、急接近する。
「バリアフィールド収束、突撃します」
フェルクレールトがエナジーバーストのバリアを展開したまま、射撃タイプのナイトに突っ込んでゆく。
 紫月の魂剛はその名のごとく鬼神さながらだった。
「足止め? 奴ら全員を殲滅するつもりで戦う! 足を止めて戦うのは愚の骨頂。
 全神経を研ぎ澄ませ。回避すらも攻撃をとなす! 敵の攻撃すら己が一手としてくれる。
 明倫館の意地と技巧だって天学に劣る物じゃねぇ。俺が選び、俺を選んだ魂剛を、舐めるな!
 貴様ら全てこの地で死の舞踏を踊らせてやる」
エクスが忙しくコンソールの上で指を動かしながら目をくるりと上向ける。
「遺跡に向かった連中とも随時連絡を取って調査・脱出の状況を確認せねばじゃぞ。
 無限に戦い続けられる訳でも無い……勢い込むのも良いがほどほどにの」
魂剛はアンチビームソードを手に敵の光弾を最小限の動きで避け、斧の一撃を受け流して返す刀でその体に流れるように切り付ける。ナイトの一体が取り落とした斧をそのまま剣を持たぬ腕で掴み、膂力を生かして近くのナイトに投げつけ、そのわき腹を切り裂く。
「大型機だからって動きが鈍重だと思うなよ」
全身の加速器の出力調整を機体の挙動と連動させる事で使用エネルギーを最小限に、瞬間的な加速を得て魂剛は戦の舞を舞っていた。エクスはレーダーと周囲のモニタリングに神経を集中した。乱戦時の狙撃は最も警戒せねばならない。射程距離内の射撃型インテグラルを見逃せば一気に危機に陥いるだろうことは想像に難くないからだ。
(近接型は唯斗の感覚に任せて問題無いだろうが……射撃型は妾が目を光らせておかねばな。
 射撃の兆候があれば即座に伝えて回避なり迎撃なりせねばの)
「後方から新手のインテグラル。ナイトの群れが接近中!」
フィーニクスから姫月の声が新手の来襲を告げる。付近でナイトと交戦していたザーヴィスチのエレナが直ちにテレメーアに連絡を入れた。
「第2波の迎撃部隊に新手のナイトの一群が接近中です。かなりの数がいるようです。
 第3波迎撃部隊の派遣をお願いします」
エレナは各種センサーの感知度を最大限にし、索敵範囲を広げた。佐那は付近で戦闘している樹彦のフィーニクスに連絡を取る。
「援護します。次の迎撃部隊がこちらへ向かっていますから、もう少しがんばりましょう!」
「了解。感謝する」
樹彦が短く応えた。ザーィスチは新式ダブルビームサーベルでファイナルイコンソードを放った。遠距離型ナイトの攻撃をエレナが素早くかわし、回避行動の合間に佐那がウィッチクラフトライフルで迎撃する。ややあってリオがフェルクレールトに呼びかけた。
「弾薬、エネルギーの量が50%切ってるから注意!」
「……余力があるうちに次の部隊に引き継がないと危険ですね。攻撃しながらの撤退になりますから」
フィーニクス、魂剛も高火力で戦い続けているから似たような状況にあるはずだ。リオはすぐさま機動要塞と連絡を取り、メンテナンス手配を行った。
「ヴァーミリオンは覚醒が使える。後方のカバーをするから撤退を開始して」
「ザーヴィスチもヴィサルガ・プラナヴァハを使えます。撤退時危険なようでしたら援護します」
佐那からも援護の申し出が入った。
「わかった。ありがとう」
フィーニクスが光弾を撃ちながら後退して来る。同じ部隊に所属するほかのイコンも同じように後退しながら遠距離攻撃で応戦している。
「魂剛もヴィサルガを使える。殿はともに護ろう」
紫月が応じた。
「リミッター解除、コード:朱の明星使用します」
フェルクレールトが淡々と告げる。
「了解!コード入力、V?LWSをブレードモードに移行! ツインリアクターシステム、フルドライブ!」
ヴァーミリオンが覚醒の淡い輝きを帯びる。腰部三連レーザーウィングを収束したブレードによるファイナルイコンソードで周辺を薙ぎ払う。魂剛もヴィサルガを使った。イコンの右肩から黄金の翼が三枚現れ、武器に銀の輝きが宿る。
「伸びよ光刃!奴らを薙ぎ払う!」
長大な光刃であたりを薙ぎ払い、広範囲に強力な斬撃を放つ。
味方機の撤退と自軍の別部隊が向かってくるのを確認し、万が一の奇襲に備えて2機のイコンは覚醒、ヴィルサルガの効果を保ったまま撤退を開始した。
 そのとき、一群れのインテグラル・ナイトの射撃タイプが海岸線に出てきた。狙い撃ちするつもりだろう。
「まずいわ! 覚醒の切れかけた機体しかこちらにはいない。第3波もまだ射程外。
 今動けるのはザーヴィスチだけ……撤退時の切り札にと思っていたけれど、ここは仕方がないわ!」
即座にザーヴィスチが切り札を切った。ヴィサルガ・プラナヴァハで機体が光輝を帯びる。その強力な効果を載せ、素早くウィッチクラフトライフルで居並ぶナイトに狙いをつけ、光弾を打ち込む。まるで射的の的のように砕け散るインテグラル・ナイトたち。
「任務完了。テレメーア、これより帰投いたします」
エレナが母艦に通信を入れた。
「ひゅぅ! たいしたもんだね。さてと、補給・修理の確認してくるから、その間に休憩だ!
 連戦になるんだから、短くてもしっかり休んどきなよ」
着艦後すぐにリオはそう言って通信を切った。