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【創世の絆】光へ続く点と線

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【創世の絆】光へ続く点と線

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遺跡調査


 国頭 武尊(くにがみ・たける)は光条世界に通じる何かを見つけて功を立てようと考えていた。遺跡の入口からアクリト達がヒトガタを見つけた場所までは遺跡内部の構造が判明している。同じパラ実のジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)、自身のパートナーのシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)を連れ、未知のエリアがポイントではないかと探索活動を行なっていた。
「折角宝探しに来た遺跡で手ぶらで帰るとかありえねーだろ。
 光条世界関係ってことでシーリルに丸投げしちまうのが一番かもしれんが……。
 一応こっちも光条石を握ってトレジャーセンスでも試してみるか」
「遺跡内部は高度なニルヴァーナ文明の機晶技術が使われてるって話だ。
 その高度な機晶技術とは違う技術で作られた物とか見つける事が出来れば御の字だろ」
シーリルはブライドエンジェルを連れ、トレジャーセンスを発動していた、二人ともが何か感じられればより確実性があると考えたのだ。
「私が感じた場所と武尊さんが感じた場所にズレが生じるなら、私が感じた場所に向かう事を優先でいいのね?」
「ああ。それでいい。光条世界に全く縁がないオレよりは光条世界に関連する何かを発見する可能性が高くなる」
志を同じくするジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は探索の定石としては学者や技術者、あるいは鍵になりうるレナトゥスやアラムの側に付いて行動するのが効率的だとは思っていた。しかしその場合発見物が調査隊の成果とされ没収 されてしまう。それではニルヴァーナのパラ実分校生としては面白みに欠ける。それゆえ独力での探索を選択したのである。サルガタナスは商人の切り札を使い。遺跡内の移動に移動に最適なアンダーグラウンドドラゴンを駆ってジャジラッドの傭兵達の先陣を務めていた。トレジャーセンスのカンも頼りだ。そのほかに彼女は保険として遺跡に潜る前、『不可思議な籠』に『この遺跡に眠るヒトガタ以外のもう一つの秘宝の在り処は何処?』と書いた紙を入れておいた。時間がないため、最悪これを使おうというわけだ。
ジャジラッドは慎重にリモコン付きスペアボディを先行させ、安全性重視でダークビジョンを使い、周囲を警戒しながら進んでいた。
「ここはインテグラル開発が行なわれた研究施設でだという話だ。
 と、すればヒトガタのほかに研究の過程で破棄された実験体が存在するかもしれん」
ジャジラッドがサルガタナスに言う。
「もし見つかれば、わたくしのこの大商人の無限鞄に放り込んでパラ実分校へ持ち帰ればよろしいわ」
「そういうインテグラルなら、女王に盲目的な忠誠がないだろう。
 あるいはウゲンならオモチャとして欲しがるかもしれん。そもそもここ自体、玩具箱かもしれんしな。
 最悪遺跡でウゲンと鉢合わせという事も考えられるな」
「それはあまり……いただけない展開ですわね」
「まあ、発見したものがウゲンにとってさほど重要でないものなら、ちょっかいを出してくる可能性は低いだろう」
「だといいですわね」
二手に分かれていた彼らだったが、トレジャーセンスと剣の花嫁のカンは奇しくも同じエリアに彼らを導いた。サルガタナスの不可思議な籠も裏付けるような返答を出していた。
 ところどころ崩れた通路の先に、どこかあの『黒い種子』を思わせる扉に行き当たった。照明も灯っていないかわりにガードシステムもここは作動していない。シーリルがブライトオブブレイドで無造作に隔壁を切り裂くと、その奥は真っ暗だった。当時としてもほとんど使っていなかった場所なのだろう。4人は慎重にその空間に足を踏み入れた。昆虫のマユか卵を思わせるような破損した透明な縦2メートル、幅50センチほどのほどの大きさのカプセルが突き当たりの部屋に散乱していた。部屋はかびと饐えた肉、化学薬品が入り混じったような匂いがする。
「なんだか……ゾクゾクする……」
シーリルが身を震わせた。
武尊とジャジラッドが慎重に片端からカプセルを調べてゆく。カプセルのほとんどは破損したり、中に固まった黒い残渣があるだけだったが、ひとつだけ無事なものがあった。内部は透明な液体で満たされ、その中に浮かんでいたのはぐるりとキバに覆われたぽかりと開いた口と、その上に昆虫の単眼を思わせる3つの黒いガラス球のような目を持つ頭部、昆虫のような外殻に覆われた胴体、金属の鱗に覆われた黒い触手が脚代わりについた生き物だった。
「スポーンの出来損ないみたいだな……」
武尊がじっくり検分しながら言った。
「……生きているのかしら」
サルガタナスが畏怖をにじませた声で呟いた。彼女とシーリルは無意識になのだろうが身を寄せ合い、顔には嫌悪の表情を貼り付けている。
「廃棄標本か何かだろう」
ジャッジラッドが言った。
「何かの資料にはなりそうだ。持ち帰ろう」
武尊が言い、サルガタナスが大商人の無限鞄に収納する。
「さて、脱出するぞ。ヤバそうなら巨大化カプセルで脱出だ。
 どうせ、ぶっ壊されちまう遺跡だろうから、多少壊れても誰も気にしないだろ。
4人は急ぎ、出口方向へと向かった。

 黒崎 天音は尋人との通信を切ったあと、“創造主たち”のシステムについて思いをめぐらせていた。今回天音は不測の事態に備え、機晶支援AIシューニャをインストールした機晶ゴーグルをHCに接続、ヘッドフォン型通信機を装備して手を使わずに通信が行えるようにしていた。とにかく今は急いで探索をしなければならない。天音が探索の合間に紅い瞳の漆黒のドラゴニュート、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)に言った。
「さて、今後に繋がるものを探し出せると良いけれど。
 ゾディアック・ゼロは破壊ではなく、消滅したと言われているよね。痕跡も残さず忽然と消えたという話だっけ?」
天音が探索の合間にブルーズに言った。
「そういう話だな。……天音、お前が求める“創造主たち”のシステムの真理とは何だ?」
天音は会話合間にそのの声の反響に歌姫の耳を澄ませ、周囲の音の変化からも何か読み取れないかと神経を研ぎ澄ませている。
「『ナラカ世界に課せられた役割と運命』僕らが世界と認識する全てへの、圧倒的な『真実』かな?」
「世界の創造と破壊……についてのか」
「まあ、そういうようなことだね」
長い付き合いにはなるが、天音の目的――知的好奇心の満足――のためにはやや手段を選ばないところや、思いもかけない発想に生真面目一本やりのブルーズにはついていけないと思う部分もままあった。それでも天音は彼にとっては何故か、とても大切な存在であるのだ。
「うん? この先に誰かいる気配があるね。行ってみよう」
天音が言い、警戒しながら慎重に進む。
 その気配の主、樹月 刀真(きづき・とうま)はパートナー、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)とともに調査隊と分岐しての遺跡探索にあたっていた。殺気看破のスキルで油断なく警戒しながら遺跡の枝道を探っていた。
(光条世界、月夜や剣の花嫁達の根源がある世界か……どんな所なんだろう? 月夜の記憶とか何かあるかな?)
その名にふさわしい漆黒の美しい髪の持ち主、月夜はトラッパーで罠のほうを主に警戒している。
「防御システムが作動したってことは、逆に言うとシステムの防御が厚い所に大切な何かがある……って可能性が高いね」
二人はあえて機晶ロボの多く集まるエリアを探し、そこを重点的に探るつもりでいた。光条世界への手掛かり――その鍵を握るものがもしもヒトガタだとして、インテグラルの研究所であった場所だ。他にも何かあるかもしれない。刀真はそう考えたのだ。探索開始からずっと月夜が銃型HC弐式、篭手型HC弐式・Nを連携して使い、今までわかっている遺跡のデータや施設のマッピングなどを行っている。全てのデータをきっちりと纏め上げ、あとで教導団の団長やジェイダスに報告するためだ。
「待って。トラッパーに反応が」
月夜が低く叫ぶ。一見なんということのない扉に、触れれば即座に全身が麻痺し、心臓が弱ければその鼓動を止めるほどの電流が流されている。丁寧にシステムを解除すると、その横にあった扉から3体の機晶ロボが飛び出してきた。
「下がってろ!」
月夜に呼びかけると刀真はロボットのビーム発射口の向き、機晶ロボの重心移動から相手の動きを予測して最小限の動きで避けた。放たれたビームが天井の照明に当たり、周囲は一気にほの暗くなった。月夜はダークビジョンをすぐさま使い、周囲の様子を把握できるようにし、刀真は光精の指輪を使って光源を確保すると同時に、流れるような動きで相手の武器の死角へ回り込むと、ヴァンダリズムの力を乗せた白の剣でコントロール中枢のある頭部を切り付ける。たちまち2体が白煙を上げ、ショートし動かぬ木偶と化す。やや離れた位置の一体にはワイヤークローを使い、絡め取って動きを封じる。叩き壊そうと白の剣を振り上げた刀真に、後方からやってきた天音が待ったをかけた。
「あ、ちょっとそれを壊さないでほしいな」
「……調査か?」
刀真も天音の気配は察知していたが、同じような目的でやってきた契約者であると気から知れていたため警戒はしていない。ブルーズはつかつかと束縛された機晶ロボに近づくと、エンド・オブ・ウォーズで無力化した。HCをロボに接続し施設情報の吸出しを試みるが、その表情が曇る。
「……こいつら、黒砂に汚染されている。データ類は壊されていて読み取れん」
「なんだって?」
天音と刀真が異口同音に叫んだ。何故最近まで封鎖されていたはずの遺跡のものまで汚染されているのか。襲ってきたロボットが控えていた場所はからっぽだった。帯電していた扉の先の部屋には、キャビネットがあり、大量ののデータチップがあるが、適当に選んで解析してみるものの、大部分読み取れなくなった中から吸いだされてきたのは、どうやら所員の娯楽用のゲームや一般書籍の断片ばかりだ。
「ん〜、仕方ないな。これ全ては持ち帰れないし、全部調べる時間もない。
 蝕まれ喰われ空っぽになったとはいえ……ニルヴァーナの大地を長く支えていた神。
 その導きに頼るのもアリかな?」
ふと思いついた風に天音はイアペトスの灯を手のひらに乗せ宙にかざしてみる。
「……覚醒光条兵器に何か反応があるかもしれない。……月夜が消耗して動けなくなってしまうが……」
「私はかまわない。もしかしたら、いつかの声が聞こえてくるかもしれないし」
「わかった。やってみよう」
グッタリと倒れ掛かる月夜の身体を金剛力を使い片腕だけで抱き上げ、刀真は覚醒光条兵器を宙にかざす。全身に強い倦怠感と疲労を感じながらも、月夜はかつて聞こえてきた『声』に向けて会いたいという意思を振り絞り、意識を集中してみる。
仄かな明かりに浮かび上がるように反応したのは1枚のデータチップだった。そこに残された読み取り可能なデータの大半は日々の雑事を記した日記のようなものだったが、最後のほうに奇妙な記述があった。
『光条兵器はさらに高度なる装置の制御の鍵となるものである。そしてその理由、……今でも信じられない。……恐ろしいことだ。空想的な伝説に興味をを持つ時期の子供たち以外に読むものもないであろう古代ニルヴァーナに伝わる世界の創造神話。それがあのような意味を持っていたとは。知らなければよかった……』