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【創世の絆】光へ続く点と線

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【創世の絆】光へ続く点と線

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遺されたもの

 香菜とルシアがアクリト、キロスらの元を離れようとしているのに、いち早く気づいたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。
「ちょっと、香菜、どこへ行くつもり?」
「古代ニルヴァーナ文明が抱える秘密を追うのよ! 遺跡が壊される前に何か見つけなくちゃ」
ルシアも頷く。
「私はリファニーを助けたい。インテグラルの秘密がここにあるなら、何か手立てがあるんだと思うの」
「でも、今はかなり危険な状態になってるんだよ……?
 まったく、こんな危険な状況で独自に調査するなんて、香菜たちも無茶するんだから。
 まあ、無茶は嫌いじゃないけど……ほら、さっさと何か見つけて、遺跡を脱出するよ」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は黙ってバードマンアヴァターラ・ランスを構え、ルシアの横に並んだ。
「戦力は少しでもあったほうがいいよね」
早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)もすぐに追いついてきた。
「ほらほら、単独行動は危ないいって。キロっちがまだ何か用事してるじゃない。
 勝手に行っちゃったらまずいんじゃないの?」
ラージャが香菜に声をかける。
「でも……時間がないのだもの」
ルシアがあせりをにじませた声で言う。
「私とコハクもついていくよ。危なっかしすぎて……」
「ありがとう、美羽先輩……」
「俺らも共に行こう。
 香菜……ウゲンは光条世界を求めて姿を消した。ここで何がしか得られれば、彼の足跡に繋がる可能性もある。
 そう考えても不思議はない。……ウゲンのことが気になっているのだろう?」
呼雪の言葉に香菜は黙って頷いた。かつて世界を滅ぼそうとし、皆を危険な目に合わせた兄ウゲン・カイラス。兄妹でありながら香菜には、ウゲンの行動も思考がまるで理解できない。自分の兄、ウゲンというのは一体何を考えているのか。そのままにしておいたらまた何か大変なことをしでかすのではないだろうか。レナトゥスに奪われたというドージェ、ウゲン同様の秘められた力についても、今の彼女にとって困惑の種だった。その力は兄弟との絆でもあるが、今まで気づくことなく暮らしてきた自分がそのような力を欲しているのか、扱えるのかすら解らない。ラージャが軽い口調で言う。
「停止したインテグラルが動き出す……前にも似たような事あったような。
 ゴーストイコンとか、ね。
 ま、ウゲンのお茶目とは限らないけどね。ここで光条世界へのヒントが掴めれば、何か分かるかもー?」
調査隊の後方にいた董 蓮華(ただす・れんげ)スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)は、一行からルシア、香菜らが離れていくのを見て、あわてて近くの調査員に声をかけた。
「ルシア達がどっか行こうとしてるんで、私たち後を追います!
 他の調査隊の人達はこのまま脱出して貰った方が良いと思います。彼女達は契約者ですから、追いつけるかと。
 皆さんは先に進んでてくださいって、アクリトさんに伝えておいてください!」
「わ、解りました」
いきなり腕を掴んでまくし立てられた調査員は、気おされた様子で頷いた。蓮華とホークは急ぎ香菜たちと合流した。
「ちょっと待って、私たちもいくよ! ルカ大尉は調査隊全体を守らないといけないから、香菜達は私が守る!」
蓮華が言った。ホークは真剣なまなざしでルシアと香菜を見やる。
「俺達の目標は、香菜達の調査の成功と無事な帰還だ。
 遺跡で得た情報やデータは、他の大勢の人にとっても大変重要なものだ。
 小さなことであってもいい、発見できたことは上に報告したいと思っている。
 一般に公表するかどうかは上の判断によるが、ニルヴァーナ文明や一連の遺跡群の謎は、共有したい」
「……解っています」
ルシアが頷いた。コハクも頷く。
「僕たちも香菜たちと、香菜たちが発見したものを、遺跡脱出まで無事に守りきるつもりだ。
 香菜や美羽が発見したものが、ニルヴァーナを救う手掛かりになるかもしれないしね……。
 アクリトの所に持ち帰って、彼に詳しく調べてもらおう」
彼らはもう探索隊の本隊から大分下に降りてきた。ラージャがディメンションサイトで、美羽はホークアイを使い、周囲の様子を油断なく探る。蓮華は全員にイナンナの加護をかけ、殺気看破とトレジャーセンスで周囲を探る。皆で協力しながら探れば、効率よく探索が出来るはずだ。
「ゲルバッキー…ニビルはインテグラルの開発者であると共に、多くの剣の花嫁を手掛けていた。
 光条世界にリンクし、力を引き出す為にどんな方法を用いていたかの手掛かりがここにも残されているかも知れないな」
呼雪が言う。
「けど、理事長達がイコンで抑えていてくれるとはいえ、そう猶予はないだろうから、急がないとね」
と、ラージャ。確かに余り時間はない。
 襲撃は突然だった。呼雪がカモフラージュを作動させていたので、それまでは襲われることはなかったのだが、センサー付の扉を開いたとたん、一団の機晶ロボが現れたのだ。呼雪は即座に香菜とルシアにベルフラマントをかぶせ、動かないように言うと、危機的状況でのみ使おうと考えていた古代の力・熾を使い、ロボットと対峙する。美羽は3人のSインテグラルポーンに、香菜とルシアの護衛を任せ、自らはSウルフアヴァターラソードを手にしてトリッキーな動きで補足されぬようにしながらロボットに切り付ける。コハクも身軽な動きで攻撃をかわしながら、手にしたバードマンアヴァターラ・ランスで的確にロボットのコアを貫く。蓮華はホークの援護射撃を煙幕に、アブソービンググラブ――相手のエネルギーを吸い取る――で七曜拳、鳳凰の拳を放ちロボットを無力化してゆく。。ラージャがポイントシフト、グラビティコントロールを使い、ロボットのガードのまさに死角である通路の天井に張り付き、行動予測などのスキルを目いっぱい使い、皆に付近の機晶ロボットの動きを伝える。真下にきたロボットの上にフワリと降り立つと、エンド・オブ・ウォーズを発動させる。
「ごめんねー、相手してる時間ないんだ」
皆のすばやい対応で、10体あまりの機晶ロボは戦闘不能に陥った。
「ふー、危なかったですね。怪我はない?」
美羽が言って辺りを見回す。
「ポンコツ化したのはこいつらだけのようだ」
ホークが言って、機晶ロボのコアを拾い上げた。あるいはこれも何かの資料になるかもしれない。
「ところで、何を護ってたんだろう?」
コハクが言って、ロボットたちが出てきた部屋を覗き込んだ。そこはどうやら生物化学系の実験室のようだった。各種の実験器具類が壊れてあちこちに散乱し、破損した水槽のようなものや、培養カプセルのようなものもある。呼雪はティ=フォンを使ってマッピングを行い、ニルヴァーナ知識、機晶技術を併用して周囲の機械類を調べてみたが、データは消されているか読み取り不能となっており成果はなかった。
「この奥にもうひとつ部屋があるようだ」
歩き回って調べていたホークが言い、全員がそちらに向かった。扉は施錠されておらず、簡単に開いた。もともとそこにあったものは、標本類のようだった。もとは保存液に漬けられた生物の断片などが、いくつも並んでいたのだろうが、容器は破損し、原形をとどめていない。棚のひとつに扉のあるものがあり、それを開いてみると一つだけ無事な標本のようなものがあった。
「これ……スポーンみたい……」
香菜が言った。液体で満たされた透明な容器の中には、見慣れたドラゴンに似た頭部、触手と翼のある体、金属と黒い皮質に覆われた20センチほどの生き物が丸くなっている。後方で通信を行っていた蓮華が声をかける。
「そろそろ時間切れよ。得られた情報と皆の命をキープして帰るのに切り替えましょう」
「ルカ大尉も必要性は分ってると思うから、形だけ『単独行動はあまりしないようにね』と言うでしょうけど。
 『でも無事で良かったわ。それに、手ぶらじゃないみたいだし』と笑うと思うよ」