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【創世の絆】光へ続く点と線

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【創世の絆】光へ続く点と線

リアクション


遺跡から離脱せよ

 レナトゥス、アラムに同行を呼びかけてきたのは、夫婦でシャンバラにて仕事中の御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)だった。はっきりではないが、レナトゥスはこの場所を覚えているのだという。それを聞いた天城 一輝(あまぎ・いっき)の提案で防衛システム関係を停止できれば内部の脅威が大分違うだろうと彼らとの同行を決めた。一輝のパートナー、ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)は単身救出部隊を支援する為、遺跡周辺での敵の動向――イコン部隊によるけん制の調子等――を小型艇で遺跡上空を偵察しながら銃型HCで逐一報告していた。身軽さを最大限に生かすため、あえて戦闘力は無視しての哨戒特化任務である。一輝はインテグラルが万一遺跡に侵攻すれば即殲滅される恐れがあると考え、ローザを外部警戒に当たらせたのである。紅茶セットを入れた愛用のリュックを背負ったコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)と目いっぱい武装したユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は調査隊との合流をすべく、彼らの元から立ち去った。
「別行動なの?」
ノーンが尋ねた。
「ああ、俺は戦闘ではあまり役立たないが、機械に詳しい。だから先に管制システムのほうへいく」
「すぐに本隊と合流の予定ですしね」
アラムが言った。レナトゥスの案内で一行は遺跡通路をまっすぐに目的に向かって歩いていく。
「破壊対象が調査中の遺跡だろう? もしかしたら学者や技術者達が標的なのではないかな?
 ただでさえ少ない学者や技術者達が遺跡ごと……。専門の知識を持つ人がただでも足りないからな。
 そう考えると敵の戦略は合理的なんじゃないか?」
一輝がいう。
「でも、それなら遺跡も一緒にでなくてもいいのじゃないか?」
アラムが静かに言った。
「一石二鳥だろう?」
「それなら先回りして、調査が入っていない遺跡を先に破壊してもいい。そのほうが効率はいいはずだよ。
 何かを見ることがなければ、今までみたいに中途半端にでもデータを送られる心配もない」
「……うーん、そう言われればそうかもしれないな」
一輝は腕組みをして考え込みながら歩いている。ノーンが明るく言った。
「今はとにかく。調査隊の人たちを助け出すのを考えたらいいと思うんだ。理由はあとでゆっくり考えられるもの。
 クィーンさん……じゃなかった、レナトゥスちゃん、アラムさんと一緒に助けに行こう」
「お前は確カ、私がルークから脱出した場にもいたナ」
レナトゥスが記憶を探って呟いた。
「わあ、覚えていてくれたんだね!」
ノーンがにっこりと笑いかけると、レナトゥスは今までに感じたことのない暖かい気持ちが湧き上がるのを感じた。まだ複雑なことや機微はわからないものの、確実に人間的な感情はレナトゥスのうちに育ち始めている。
「レナ、あの人たちもキミを気にしているのではないかな?」
アラムが彼らが遺跡に入ってからずっとかなり後方を付いてきている二人を見やっていった。その二人。紅い色の髪の毛のカツラを被り、眼鏡をかけて変装した音無 終(おとなし・しゅう)と、髪の毛をまとめて帽子の中に押し込め眼鏡をかけ、終を守るために彼の後ろにつき声無く、表情無く歩みを進める銀 静(しろがね・しずか)である。インテグラルとしての宿命から解放された彼女が、この先どうなっていくのか。生まれ変わり、再生を意味する名前をインテグラル・クイーンは己が名として選んだ。前は名前の意味も分からなかったのに、凄い成長速度だ。
『まだ、彼女の成長は終わっていないみたいだし、観察を続けよう』
終からの思念が静に届く。
『終はクイーンが居なくて寂しい? 結構面倒を見ていたし……』
『静、何だいきなり? 別に……寂しくないし……心配もしていない』
終から思念が返ってきた。静は終になにも告げなかったが、彼女自身はレナトゥスの不在に物足りなさを感じていた。
『……終はやっぱりレナトゥスが心配なんだね』
『……なんでもない、本当だ』
静の思念は質問ではなく、断定だった。そこにすっとレナトゥスが歩み寄ってきた。
「終、静。きてくれたのダナ」
「……やあ、レナトゥス……。
 生まれ変わりを意味するその名前を名乗ったのは、もう昔の自分とは違う、と言いたかったのかな?
 俺は立場が立場であり、キミの傍に居るのはキミの為にも良くないと、このような手段を選んだのだが……」
終はし方なさそうに笑い、変装を解いた。
「こういうのを……ん、ウレシイ……だ。そう、私はウレシイ、会えてウレシイ」
レナトゥスがぎこちなく言う。相変わらず無言、無表情のままではあったが静の顔が、ぱあっと光を放ったように輝いた。ノーンが嬉しそうに微笑む。レナトゥスは微笑のような表情を浮かべていた。それは自然に出てきたもののようだった。
ノーンが手を叩いて跳ね上がった。
「レナトゥスちゃん、すごい進歩だねっ! 嬉しいときはね。笑うんだよ!」
「笑う……。今のがそうカ。だが、それは学習のプログラムにはなかっタ」
「勉強は上手くいっているかい? 皆は良くしてくれるかい?……君は君の望んだ者に成れているかい?」
終が問いかける。
「わからナイ。まだいっぱい学ばねばならナイ。だが、前と違う。何もかもが違う」
「レナトゥスちゃんは心機一転で頑張ってるから、ノーンもいっぱい応援するよ!」
ノーンが言って、レナトゥスの腕を取った。
「そうか……キミが自分の意思でここに来たのなら、困難も自分で乗り越えないとだね」
レナトゥスは黙って頷いた。彼らの会話をアラムは夢の向こうのような気持ちで聞いていた。薄くなっているとはいえ生身だ。攻撃にあえば自分は傷つくだろう。怪我は治るのだろうか……? そこまで考えたアラムは自分の考えに違和感を抱いた。自分はすでに使命を終えている。今はわずかに存在が残っているが、役目を終えた以上、自分の存在は徐々に消えてゆくのだろう。そしてそのことを自分はすでに、ゾディアック・ゼロを停止させたときに受け入れているはずなのだ。だが、この思いはなんだろう? アラムの物思いを、ローザからの通信が破った。
『今のところ貴様らの危険はございませんわ。イコン部隊による攻撃で、敵は海岸線からさほど進行して来ておりません』
丁寧なのかどうなのかよく解らない口調で、通信機でローザが状況を伝えてくる。
「了解。定時連絡を絶やすな。それと少しでも変化があったらすぐ知らせてくれ」
『わかりましたわ』
ローザは白磁の肌、美しい紅茶色の髪、ラヴェンダーブルーの瞳を持つ外見はすばらしく優雅な美女だが、会話を続けるうちに、優雅な立ち居振る舞いからは想像出来ない単語が全てを台無しにするという、いろんな意味で残念なヴァルキリーなのである。
 静が殺気看破で敵の気配を、終がトラッパーで罠を警戒しつつ進んでゆく。だが勝手知ったるレナトゥスは、難なくコントロール・ルームへと皆を導いた。一輝がすぐにシステムとアクセスする。キーや操作はレナトゥスの援助もあり、すんなりといった。
「よし! これで隔壁は全て開いたし、トラップも解除した!……機晶ロボの停止は?」
一輝が問いかけると、レナトゥスが首を振った。
「作動してしまっているものハ、独自に動いてしまっている。もはやこのコントロール下にない」
「……そうか、じゃ早いとこ本隊と合流して、ロボットを潰さないとか」
「そうダ、隔壁などはそのコンピュータからも操作できるよう、バイパスしたらいい」
一輝が急ぎHCにデータを移し、現在位置と本隊の位置を確認してから急ぎ調査隊の元へと向かう。ちょうどわき道から機晶ロボの一隊が調査隊の前後を挟むように現れたところだった。
 すぐにノーンが幸運のおまじないと僥倖のフラワシのラッキー効果で祝福し、イナンナの加護、アブソリュート・ゼロ、蒼氷花冠で調査隊を守護する。前方に現れたものはプッロが救出部隊の盾兼囮としてプロボーグを使い陽動をはかった。聖騎士の駿馬に跨り、広い通路を駆け抜けてゆく。警備用の機晶ロボはまんまと作戦に引っかかり、一斉にプッロのあとを追う。
『プッロ、そこを右に曲がれ!』
一輝の指示に従い、プッロは通路を折れた。追ってくる機晶ロボの目の前に隔壁が下り、小さな爆発音がその向こうから響いてくるのが聞こえた。一輝がトラップを作動させたのだ。
『プッロ。ミッション完了。戻ってきていいぞ』
『了解』
引き上げるプッロの後方で次々と隔壁が降りてゆく。これでやつらは封じ込められたも同然だ。
 隊の後方の敵はアラムがその存在感の薄さを生かし、レナトゥスは闇にまぎれることでて偵察に向かい、位置を知らされた終がスナイパーライフルによるシャープシューター、スナイプを使い、一体ずつ確実にしとめてゆく。
「インテグラル・クイーンを……いや、レナトゥスを傷付けようとする全ては滅せよ!」
静は隊のすぐ傍のロボットたちをフォースフィールド、ミラージュを発動させ身を守りつつ、行動予測でロボットのの動きを先読みし、カタクリズムでまとめて倒している。調査隊の後方から追ってくるロボットを殲滅し、プッロも合流したのを確認すると、一輝が調査隊の後方に隔壁を下ろして安全対策を講じる。コレットが少し休んだほうがいいと提案した。
「お茶をいれるからちょっとだけ休憩しよう? それと、もし怪我をした方がいたら、治療しまーす」怪我は転倒などによる軽症ばかりで、一休みできたことと、隔壁による安全確保が出来るようになったことで、調査員たちに安心感が広がる。
『急いでくださいまし。貴様らの安全がそろそろヤバイでございますわ』
ローザからの通信が入った。レナトゥスの助力により一輝が隔壁とトラップは掌握できたが、稼働中の機晶ロボはいかんともしがたい。調査隊を護り続けてきていた契約者たちにも疲労の色が濃くなってきている。それを見越してそれまでカルキノスが守護する入り口までの最も楽であろうと思われるルートの確保に動いていた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が調査隊の元に戻ってきた。ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)がHCのデータを契約者や調査員などの同期可能なHCに一斉送信する。
「最良と思われるルートのデータだ。神経的にも大分参っているだろうし、広い、見通しのいい通路を選んだ」
「そろそろいきましょう。あと一息ですよ」
ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が調査員たちに優しく声をかけた。
「そうそう、みんなもうちょっとで出られるよ〜! 疲れているだろうけど、もうちょっとだよ!」
ノーンも勤めて明るい声で皆に呼びかけ、熱狂と幸せの歌で万一の襲撃に備えて全員のガードを固める。甚五郎らが探索した全ての通路のデータは、抜け目なくブリジットがメモリープロジェクターにて記録を行っており、万一選定したルートでトラブルが起きたときは即座にルート変更できるようにバックアップ体制をとってある。
「人命も成果も大事だ! いずれも失うことなく、無事脱出を図るぞ」
甚五郎が言い、パートナーたちは頷いた。草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が周囲を見回して言う。
「やれやれじゃ、本来なら妾達も調査を行いたかったものを、インテグラルめが。
 なんにせよ全員無事に帰還して、可能な限りの今回の調査の成果を持ち帰ってもらうわねばな」
あと一息、こういうときが最も気の緩みを招き、危ない。彼らはそれを懸念して体力等を今まで温存して来た。出口までの間の警護は万全の体制で臨み、なんとしても全員無事に脱出するのだ。ブリジットが甚五郎に声をかけた。
「トラップも掌握しているとのことですが、一応警戒はしておいたほうがいいですね。
 それと、調査隊の後方にインビジブルトラップも設置しておきましょう。
 追っ手がもしあれば、遅らせる役には立つと思います」
「ワタシも行くよ。もし遅れてる人とかいるといけないから、取り残されてる人がいないか調べてみるよ〜。
 時間も無いから急いでいきましょう〜。調査隊も成果物もみーんな無事に脱出してもらうですよ!」
ホリイがブリジットと連れ立って調査隊の後方に向かい、アクリトに声をかけた。
「アクリトさん〜、調査員さん全員いるかの確認お願いします〜!」
「そうだな。皆疲弊している、調べてみよう」
全員いることを確認すると、ブリジットは単身通路の奥に進んだ。HCに送信してもらい、あるいは収集した今までの機晶ロボの行動パターンのデータに目を通す。黒い砂の汚染で警告等の機能が動作しなくなり、侵入者に対し無差別に攻撃を加えるように変化しているほかは、ガードロボットとしての行動パターンの変化はないようだ。それらを確認した後、ある程度の間隔をあけてブリジットは手早くトラップを仕掛けてゆく。
 一隊に先行して油断なく進んでいた甚五郎と草薙は、枝道からの機晶ロボの襲撃を受けた。パトロールのものだろう、数は多くないが即攻撃態勢をとってくる。甚五郎は霊断・黒ノ水を抜き放ち、歴戦の飛翔術での流麗な動きで燕返しで切り付ける。ロボットの頭部がきれいに切断され、火花が散った。
「遺跡の影響で光条兵器に何かの変化があるかもしれんな? どれ。試し切りをさせてもらおう」
草薙が光条兵器を抜き放ち、目にも留まらぬ速さで攻撃を行う。ロボットが全て戦闘不能になると、彼女はしげしげと光条兵器を見る。
「うーん。特に変わりはないかのう……。ところで、これらは片付けておいたほうがよいのだろうか?」
草薙がスクラップ化したロボットを蹴飛ばす。
「いやいやいや、そのままでいい! とにかくいじるな、現場保存も大事だ、うん」
甚五郎はあわてて制止した。草薙は掃除をしようとすると災厄を招く――どうやったらそうなるのか本人すらも不明だが、紙屑を拾おうとして、家が焼失したりする――スキルの持ち主なのである。ここで何かやらかせば、無事ですむものもすまなくなる。
「……現場保存というのは、警察が調査する現場で必要なのではなかったか……?」
考え込む草薙を引っ張って、甚五郎は先に進む。そのあとから調査隊を護衛する契約者たち、調査隊、後方哨戒部隊が続く。みなの助力によって、全員が遺跡入り口に到達した。
 薄曇りの空だが、明るさの乏しい遺跡にいたみなの目にはまぶしい空と映る。灰白色を背景にジェイダスの機体を先頭に、リア、北都、尋人らのイコンが周囲を警護しながらやってくるのが見えた。