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【終焉の絆】滅びを望むもの

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【終焉の絆】滅びを望むもの

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大樹攻略作戦 7


「十分通信の圏内なのに、なんでまた発光信号なんか?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はセント・アンドリューから送られてきた発光信号の内容に目を通す。
「なになに……我々は諸君らがその義務を全うする事を確信する……と」
「口頭でいうよりも、信号という部分に風情があるな」
「楽しんでるみたいじゃない。それで、やっと私達の番ってわけね」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は頷く。
「扉はこじ開けられた、前進する」



「引き付けるよ、セティ」
 エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)フォルセティの像娘『セティ』に告げる。向かってくるミサイルの数は十二発、速度をあえてセーブしミサイルを寄せたところで急加速でミサイルの追尾を振り切る。
 ミサイルはそれでもフォルセティを追おうとするが、大半は途中の障害物にぶつかって爆発した。
「おー、弾薬けちっても落とせるもんだな」
 アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)が味方のミサイルで撃墜されたフライオーガの数を数える、三体撃破。
「上手く行ったね」
「悪いが次だ、黒騎士が撃ってくるぞ」
 正面から黒い光の筋が飛び込んでくる。アルフの目のおかげで、引き金を引かれる前に回避。
「次っ」
 アルフの声、フォルセティも接近するミサイル四発を捕捉。
「だったら!」
 自らフライオーガに接近したエールヴァントは、迎撃の拳一歩手前で急停止し拳を空振りさせると、ビームサーベルを突き出した。抵抗なくフライオーガを貫通する。
 突き刺したフライオーガを、ミサイルに向かって振り払う。ミサイルは仲間を回避する事なく直撃、炸裂しまだ息のあった怪物に止めを刺した。
 ミサイルを処理したのち、フォルセティはそこで百八十度向きを変え、地上に向かって移動する。飛び込んできたこの機体を殴りつけようと向かってきていたフライオーガ達は振り上げた拳のまま、機銃を受けて吹き飛んだ。
「へへ、こりゃいくらでも撃墜できるな」
 金元 シャウラ(かねもと・しゃうら)は鼻を指でかく。
 ラグナロクの艦上で、ユングフラウは空を睨んでいた。
「それでも適当に撃つと、当たらないもんだけどな」
「いいんだよ、敵がいっぱいいる時の景気づけみたいなもんだからさ」
 ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)にシャウラは少し不満そうな声で返す。
 空中部隊は、国連軍のイコンのほとんどが地上仕様という事もあって、契約者達がカバーしなければいけない部分だ。個々の性能と技量は国連軍と契約者では比べ物にならないが、一度に対処できる数にはどうやたって限界がある。
「どんどん落としてやるぜ」
 相手はヘリをベースにした怪物であるため、旋回性能や小回りについては合格点だが、最高速度や加速能力では大きく劣る。もとより、撃墜を覚悟したぶん性能を控えめにし、代償に簡略化して生産性を向上させているようだった。
 彼らの武装が、実弾ライフルと実弾のミサイルであるのも、固定武装ではなく生産品を利用する事によって怪物の原料を節約しているのだろう。
「爆撃型がそっちに向かってる」
 前に出て立ち回るエーヴァント機から通信。
 バスターゴブリンを運搬し、爆撃ないし乗艦を狙ってくるタイプを便宜的に爆撃型と呼称している。見分けるのは簡単で腰に取り付けられている六連ミサイルランチャーが無く、背中にランドセルのような箱を背負っているのが爆撃型だ。
 ランドセルの中には自爆ができるバスターゴブリンが詰め込まれており、艦上を通過しながらこれをばら撒いてくる。甲板で自爆されるのも厄介だが、内部まで乗り込まれるとその被害は果てしなく大きくなる。被害を抑えるためには、爆撃型は最優先の撃墜目標だ。
 シャウラ機もすぐに爆撃型を捕捉する。数は二体、こいつらは五体セットが通例だが、エールヴァントが削っておいてくれたのだろう。
 さっそくシャウラは二連機砲でこれを撃退を狙う。敵の移動距離を勘案した偏差射撃でまず一機を撃墜。怪物はランドセルを抱えたまま落下する。もう一体はこちらに乗り込もうと不安定な軌道を描き津tも、かなり接近された。
「しまった」
 いくつかの被弾を受けながらも、フライオーガは前進をやめず、ランドセル降下の地点までなんとかたどり着いた。そこでランドセルの下部が開き、小粒のバスターゴブリンが投下される。
 人間の降下部隊と違って、バスターゴブリンにはパラシュートなんて装備は無い。地面落下のダメージで死ねば自爆するし、生き残れば艦内へ向かうのだ。
「できるだけ数を減らすしかねぇ」
 まずはフライオーガに射撃。もともとボロボロだった敵は艦上からそれて落ちていく。すぐさま狙いをバスターゴブリンに切り替えて機銃を掃射する。
 空中で花火のようにゴブリンは次々と爆発するものの、百点満点には届かない。
「こいつの装甲も強化してあるんだよな?」
「間接部分を中心には……っておいおい、本気かよ」
 ユングフラウはゴブリンの降下地点に向かいながら、さらに射撃で数を減らす。そして、一番密度が濃い部分に、ユングフラウは飛び込んでいった。
 イコンの大きさの体当たりは、二連機砲とは比べ物にならない表面積を持つ。大量のバスターゴブリンを巻き込み、今まで一番大きな爆発を起こした。
「ぐわあああ」
「ちっ、さすがにいくつかエラーを吐き出してんな」
 吹き飛ばされたユングフラウは、その機影をそのままにラグナロクの上を転がった。
 そこへ、対空砲をすり抜けたフライオーガの一匹が飛び掛ってくる。振り上げられるは、その強固な拳。
「もう変形なんてするつもりねえんだろ、派手にやっちまえ」
 ナオキにたきつけられるまでもなく、シャウラは既に向かってくるフライオーガを見据えていた。交差の刹那、ユングフラウは回避ではなく前に出つつ足を振り上げた。
 完璧なカウンターを受けたフライオーガは、きりもみ回転しつつ広大な船の上から外れて墜落していく。
「はは、これで完全な固定砲台ってわけだ」
 一方のユングフラウも、爆発でダメージを受けていたところに勢いの乗った相手に対するカウンターによって、片足が間接からへし折れてしまった。幸い、船の上に足は残っているので、修理もいつかはできるだろう。
「弾薬がなくなるまでは、ここで敵を蹴散らすか」

「間もなく射程内だが……」
 フォトンのミサイルポッドの中には、通常弾ではなく対大樹ように製造された特殊弾が装填されている。
 これは以前の戦役にてクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)が開発したものである。鹵獲ダエーヴァへの効果は以前と同じようにあり、変更点はほぼ無い。
「あの邪魔なのをなんとかしない事には、使うに使えないね」
 このミサイルに予備はない。使うからには当てる必要がある。そのためには、黒い大樹に群がる黒騎士とフライオーガの群れを突破する必要がある。
 セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)は後ろの様子を確認する。
 現状、鋼鉄の獅子の部隊が一番前に出ている形になっている。機動要塞はこの作戦に五隻導入されているが、ラグナロク以外の機動要塞は味方の補給修理のために少なくないリソースを裂いており、一方自分達の旗艦は攻撃に重きを置いている。
 地上部隊がほぼ拮抗して動きが少なくなってしまっており、突破口を作るのならば空が最適であり、味方の支援もあって突入のための道も用意された。
「問題は帰り道が無いって事だよな」
「目標を破壊すれば帰路に迷う事もないさ―――突入する」
「道を開きます」
 エールヴァントの声と共に、フォルセティが前に出る。流石にここまで接近すると、フライオーガだけでなく黒騎士も迎撃にあがる。
 フォルセティ一機に対して、三体で黒騎士がかかる。
 そのうちの一体を、フォトンは足で踏み、地面に向かって蹴落としながら飛び越えた。
 そこへさらに二体の黒騎士が道を塞ぐ、厄介な事に一体は盾持ちだ。盾で前進をカバーしながら突進してくる黒騎士だったが、その途中で横から殴られたかのように吹っ飛んでいく。
「ひゃっほう、俺の射撃見ましたか、大尉?」
 シャウラの声、機体が大破したという連絡が先刻あったが、その状態でも無理やり動いているのだろうか。無理は推奨できないが、今の支援の効果は大きい。
 もう一体の黒騎士は槍を持っていたが盾はない。ソニックブラスターで押し飛ばす。
「よーし、計算どおり」
 フォトンのコックポットで、セリオスが小さく呟く。黒い大樹への突貫という目的が無ければ、クローラにも吹き飛ばされた黒騎士がこちらに向かってライフルを構えていた黒騎士にストライクした瞬間を見る事もできただろう。
 とはいえ、味方に恵まれ技量で切り抜けられたのは二枚目の壁までで、まず敵のライフルマンがフォトンの左腕をもぎ取った。
 継いで槍を持って詰め寄った黒騎士を飛び越えようとしたが、突き出された槍が左足を切り離す。ブースターの出力を調整して、転倒を防ぎ前進する。
 四枚目の壁は、もはやフォトンに手段はなく、機体を怪物の槍が貫いた。コックピットの外壁を削り、怪物の槍がその巨大な刃を二人に見せ付ける。
「俺達の、勝ちだ」
 フォトンは、残った腕を怪物の背中に回した。クリンチだ。これでは黒騎士も槍を引き抜けない。そして、ミサイルポッドが火を噴き、白煙を残しながらミサイルが飛翔する。