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【終焉の絆】滅びを望むもの

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【終焉の絆】滅びを望むもの

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大樹攻略作戦 8


「はっはっは、やりやがったぜ。こりゃ、失敗したら怒られるでは済まないんじゃないか」
「だったら、集中しろ」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)の二人は、甲板の上からセリオス機が突貫していく様を余すところ無く目撃していた。
 ミサイルの直撃を受けた大樹は、表面がぱらぱらと薄利していくのが確認できる。効果あり。だが、大樹もただでやられるつもりはないようで、巨大な力が集まっていくのを感じる。
 聖なる山の力を吸い上げようとしているのだ。
「させねぇぜ」
 既にラグナロクは大樹への突貫を開始している、二秒まって地門遁甲で力を吸い上げようとする根を露出させた。
「あ」
 その余波でセリオス機が土流に消える。大丈夫だとは思うが、あとで謝っておくべきか。
「……悪いが、おかげで全力でいけるか」
 一番大樹に接近していた味方を巻き込む心配が消えたという事で、淵は惜しみなく水門遁甲を放った。水圧カッターでは刃が甘く切断には及ばないため、ありったけの精神力を用いて、強烈な水蒸気爆発を連続で発生させる。
 そうこうしている間にも、どんどんラグナロクは大樹に接近。フライオーガと黒騎士のライフルによる迎撃も激しくなるが、ラグナロクは自身の兵装をここにきて防御には使わず、艦上のイコン部隊に全てを委ねた。
「前進のエネルギーもカットしていい、慣性で目標地点に届く。残りのエネルギーを主砲のチャージに回す」
 ブリッジのダリルは冷静な計算の元、ラグナロクは一直線に目標地点に向かう。
「さあ行こう、雑草狩りの時間だよ!」
 格闘技で言えば、ノーガードで利き腕を振り上げながら突っ込んでいくようなものだ。
「よし、甲板の部隊を収納しろ」
 こうして完全に防御機能が失われるが、そう容易くラグナロクは沈んだりはしない。飛来するミサイルとライフルの黒い光を受けてなお、前進する。
 かくして、黒い大樹に肉薄した。
「まずは挨拶の一発、荷電粒子砲、てぇぇぇ!」
 フルチャージの荷電粒子砲が放たれる。艦首から真っ直ぐに打ち出された光の奔流は黒い大樹に直撃。
「なんという防御力か、だが―――」
 光の道は、大樹に当たると二つに別れて大樹の後方の山の形を変えてしまっていた。大樹自身も皮を抉られ、身を削られているが、それでも堪えている。
「防御を一点に集中してるみたいね」
「だが、こちらの手札はもう一枚ある」
 発射準備を整えていたビックバンブラストが、至近距離から放たれる。ミサイルは直前まで荷電粒子砲が焼いていた部分に真っ直ぐ突っ込み、半身を黒い大樹に突き刺さってみせたあと、炸裂した。
「きゃあ」
「何かに掴まっていろ」
 流石に、至近距離過ぎてラグナロクにも被害が発生する。慎重で丁寧で思い切った制御によって、詰めに詰めた間合いを離しつつラグナロクは体勢を整えた。
「―――随分、頑丈じゃない」
 爆煙が晴れてみると、そこには幹の半分を抉られながらも、そこに鎮座する黒い大樹の姿があった。抉られた部位も、細くて黒い何かが伸びて、再生しようとしているのがわかる。だが、その動作もクローラの特殊弾の影響か、繋がっては勝手に千切れてを繰り返している。
「もう一発あれば」
「今のでジェネレーターに損傷がでた、チャージには時間が必要だ」
「後ちょっとなのに」
「後ちょっとでいいんだな?」
 割り込んできた通信の声の主は、朝霧 垂(あさぎり・しづり)のものだった。ダリルが垂の機体、を確認する。
「単騎で地上を駆け抜けてきたってわけ」
 鋼鉄の獅子が大樹の近くで戦っているのは、ラグナロクに艦載して一番分厚い防衛網の部分を強引に通り抜けたからだ。地上部隊の主戦場はまだ変わっていない。
「無視してきた。だってこっちが本命だろ?」
 答えながらも、向かってきた黒騎士を見事な体捌きで回避する。
「よし、直線通った。喰らいな、超空間無尽パンチ」
 射程無限の伸びるパンチが放たれ、鵺の爪ががっちりと大樹に食い込む。
「うおりゃああああああ!」
 本来は戻ってくる拳だが、がっちりと固定されているために機体が大樹に引き寄せられていく。あまりの速さに、まるで空間を飛び越えたように見える速度でだ。
「もう1つの地球のかけがえのない仲間達の為に、この身を燃やすぜ!」
 大樹に固定されていない拳が、光り輝く。
 イコン格闘技、波羅蜜多龍滅掌が尋常ではない速度で大樹へと迫り、叩きつけられた。
 超空間無尽パンチから、最後の拳が叩きつけられるまで、周囲に展開していた黒騎士の多くは、鵺を捕捉することもままらなかった。一拍遅れて、強烈な打撃音が轟いてやっと彼らは振り返る。
「……どうだ」
 既に抉られ、毒を打ち込まれた大樹に、小さなヒビが入る。
 ヒビは亀裂となり、ゆっくりと侵食するように広がっていく。その光景は、樹木が折れる瞬間というよりも、強固な魔法壁が崩れていく様に似ていた。
 鵺の拳を始点にし広がっていった亀裂が、反対側に届くその瞬間―――
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)!」
 誰にも捕捉されていなかったイコン、剣神グレートエクスカリバーンが何の脈絡もなく現れた。
「よし! 超神剣グレートエクスカリバーン・スラッシュを叩き込むのだ!」
「いいだろう! 今回の俺の役目は、あの大樹を叩き斬ること! 剣の勇者である俺に相応しい役目だ!」
 聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)がバラバラに分解し、手に持っていた、剣状態のエクスカリバーンに合体する。
「これぞ、神剣としての真の姿! 受けてみよ、超神剣グレートエクスカリバァーン・スラーッシュ!」
 ツインリアクターとブースターで加速された刀身で、黒い大樹へと斬りかかった。

 黒い大樹は、悲鳴にも聞こえる程に大きく軋みながら、ゆっくりと倒れていった。
 その光景を、契約者達も怪物達も、半ば呆然とした様子で見守っていた。
 最後に、地面を大きく揺らしながら大樹が倒れる。
「なぁ……」
 まだ各通信は静かで、目的達成の報告が飛び交う前に、垂はラグナロクの乗員に通信を繋げた。
「なんか、向こう側でどっかで聞いた事あるような声が聞こえた気がしたんだが……」
 黒い大樹は巨大であるため、向こう側なんてまず見えない。
「……気のせいだろうな」
 一機のイコンが威勢よく飛び出したあと、そのまま大木の下敷きになるまでを粒さに観察していたダリルは、特に迷った様子もなくそう返答した。
「ルカ、董大尉に大樹の破壊の報告を全隊に通達をするように要請を。目標は達成したが、まだやる事がある。突入部隊が戻ってくる前に、一体でも多くのフライオーガと黒騎士を排除する」
「了解、この子にももうちょっと頑張ってもらわないとね」