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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 取り戻すための戦い
 
 
 
 人が見たら眉をしかめるかも知れない。
 けれど伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)にとってスラム街は大切な故郷だった。
 最初のパートナーにパラミタに誘われスラム街を離れはしたけれど、藤乃にとってここは思い出の地だ。
 久しぶりの故郷……だが、その目の前まで来た時に知り合いと出くわした。
「どうしたんですか?」
 藤乃が声をかけると、よろよろと歩いていたグリーズが弾けるように顔を上げた。スラム街ではリーダー格のグリーズだが、今はその威勢も形を潜めている。
 服のそこかしこが破れ、血が滲み。頭にはひどい怪我をしており、青いオールバックの髪が血に汚れていた。
 傷口からはまだ血が流れていて、グリーズは自分に声をかけてきた相手の顔を見ようと、額から垂れてくる血をぬぐった。
「フジノ?」
 グリーズの言葉がくぐもって聞こえるのは口元が腫れているからだ。相当痛めつけられたようで、藤乃を確認する間にも身体が揺れて傾きかけるのを、仲間が慌てて支えていた。
「はい。一体何があったのですか?」
 藤乃が聞き返している間にも、次々にスラム街の仲間たちがやってくる。その誰もが打ちひしがれた様子だった。
「フジノ……帰ってきたのね」
 藤乃の姉貴分であるミストレスの声に振り向けば……彼女は戸板の上に載せられて運ばれていた。綺麗な薄緑色のロングヘアから覗いた牛の角……けれどそれも血にまみれている。
 明らかにこの地に何かが起きている。
 話を聞くにも、まずこの怪我を何とかしなければと、藤乃はフラワシを呼び出すとグリーズとミストレスの怪我を癒した。
 改めて何があったのかと問うと、グリーズとミストレスが代わる代わる自体を説明してくれた。
 
 藤乃がパラミタに発ってから、スラム街では多少の小競り合いはあったけれどそれなりに平穏な日々が続いていた。
 けれど、これまでスラム街が守られていたのは、契約者の力を持つ藤乃がいたからこそ。
 藤乃がいなくなったことにより、これまで手を出しあぐねていた政府関係者がスラム占拠に乗り出した。
 そして今まさに、スラム街で暮らしていた彼らは居場所を追われ、こうして逃げてきたのだと言う。
 藤乃の妹分であるメルセデスは、自分たちの家を占拠されたことにショックを受け、ずっと泣き通しだ。藤乃にぎゅっとしがみついて、わぁわぁと大声で泣く合間に訴える。
「私の家が……知らない人に取られちゃった……家が……フジノ、どうしよう……」
「メルセデス、落ち着いて。大丈夫、私がスラム街をまた取り戻します。『占拠してもまた奪われる』ということで政府関係者も諦めてくれるでしょう」
「ほんと? ほんとにフジノが何とかしてくれるの?」
「ええ。だから泣きやんで下さい」
 うるんだ瞳で見上げてくるメルセデスを落ち着かせると、藤乃は単身スラム街へと入っていった。
 
 
 スラム街を手中に収めようというくらいだから、政府関係者もそれなりの戦力を揃えてきてはいた。
 これでは仲間が歯が立たなかったのも仕方がない。
 けれど、契約者となった藤乃ならば話は別だ。
 古代の祭司が魔物を追い払うために使った弓を翳し、藤乃は街を占拠している者たちを蹴散らしていった。
 政府関係者が法令が、暴力だとわめき立てたけれど、そんなことにはおかまいなしに藤乃は攻撃し、占拠者たちを追い立てる。
 易々と弓を扱う藤乃の能力に恐れをなし、占領者たちは退散していった。
 
 無事取り戻したスラム街では、藤乃の訪れと街奪還の祝いをこめての食事会が開かれた。
 高価な食材はなく質素だったけれど、出せる限り美味しいものを並べた食卓は、藤乃にとって何よりのものだった。

 スラム街での短い滞在を終えると、藤乃はまたパラミタへと出発することにした。そうしてかの地へと旅立てるのも、このスラム街という巣があってのこと、だ。
「今度帰ってきたときには、もう少しゆっくりしてもらえるといいな」
「せっかくフジノが取り戻してくれた街だもの。私たちも全力で守ってみせるわ」
 グリーズとミストレスがそう言いながら藤乃を送り出す。
「フジノ、元気でね」
 メルセデスは寂しそうだったけれど、それでも笑顔で見送ってくれる。
 それは藤乃が最初にパラミタに発った時も同じだった。誰も反対する者なく、皆が藤乃の出立を応援してくれる。だからこそ。
「いってきます」
 また戻ってくる為にも、この場所を、ここで暮らす皆を守らなければと心に決めつつ、藤乃はパラミタに旅立つのだった。