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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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 師匠も走る月
 
 
 
 やっと到着したルカルカ・ルー(るかるか・るー)の実家は、東京から新幹線で4時間半、在来線特急で2時間、普通に乗り換えて1時間、そこからバスで30分、最後の30分は徒歩で山道を行かなければならないという、山の中の一軒家だった。
「本当に日本か、ここは」
 呆れたような口ぶりのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)に、ルカルカは答える。
「でも、ネットもBSCSもあるよ♪」
「成る程、日本だな」
「それで納得して良いのか」
 そんなやりとりを、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はおかしそうに眺めた。
 
 家に入っても誰もいない。
 ルカルカが留守録やメールをチェックしてみると、父母からのメッセージが入っていた。
 自衛官の父親は、イコン導入のゴタゴタで泊まり込みだとのこと。フリーの傭兵をしている母親は、今はアフリカにいて帰って来られないらしい。
「母親はルカに似て緊張感の無い喋り方だな。父親は穏やかで張りのある声をしているが……どこ所属だ?」
 夏侯 淵(かこう・えん)に聞かれ、ルカルカはちょっと言えない所、とほにゃっと笑う。
「ルカは2人に勝てないから、まだ半人前ね」
「ルカより強い? 化け物の血を引き化け物に育てられると、ルカができあがるのか」
「失礼しちゃうわね。普通よ、普通」
 完全にそう思っているらしきルカルカに反論され、
「確かに、御主の家族にとっては普通だな。得心いった」
 そういうことかと淵は納得した。
 ルカルカの方は、さあ、と気合いを入れるように手を打ち合わせ。
「さて、と。新年を迎える用意をするわよ。まずは物置に配達されてるお歳暮の類を中に入れて頂戴。送り状だけ別にしてくれたら、中身は欲しい物があったらあげるわ」
「オセイボ?」
 聞き返したカルキノスに、ルカルカは説明した。
「日本の風習よ。年の瀬にお世話になった人に贈り物するの。どんな物を贈るのかは開けてみれば分かるわ」
 物置に詰まっているお歳暮の品々を出してきて、送り状をはずす。
「お歳暮ってのは美味いモン沢山だな♪」
 整理を手伝いながら、カルキノスはがぶりとハムにかじりついた。
 
 お歳暮の整理が終わりこれで一段落かと思いきや、ルカルカに言わせればここからが本当の始まりらしい。
「みんなちょーっち手伝ってね♪ カルキは庭の掃除、ダリルは家の中の掃除お願い。用具はココね」
「庭って……この広い庭を1人でか? 人使い、いや竜使いが荒いぞ」
「庭もそうだが、この広い家を俺1人で掃除するのは無理がないか」
 カルキノスからもダリルからも抗議が上がる。庭もだだっ広ければ家も広い。ここをそれぞれ1人で掃除するのは大変だ。
「その忙しさが『日本の年の瀬』よ。正月休むには必要なの♪ まあ、時間もそんなにないことだから掃除はテケトーでいいからー。あ、淵はルカと買い出しね」
 買い出しならば掃除ほど大変ではないだろうと、ルカルカに連れられていった淵だったが。
「……どこへ行くのだ?」
「へ? 買い出しって言わなかった?」
「ならば何故列車になど乗っておるのだ」
 バスに乗って、列車に乗って。一体どこまで行くのだろう。
「お節を百貨店に予約してあるから県都まで行くのよ。買う物たくさんだから、ちゃっちゃと買い物しないと日が暮れちゃう」
 お節に蟹に門松に鏡餅に……とルカルカは指を折ってゆき、また伸ばし、また折り……を繰り返した。
 
 
 庭に積もった雪を掻いて、雪の下から出てきた濡れた枯れ草を集めて……とそこまでをカルキノスが終えた頃には日は傾いていた。
「掃除や料理はパラミタでもやっているから勝手は分かるとはいえ……正直キツイな」
 ダリルも一瞬たりとも手を止めることなく、大車輪で屋内の掃除。やっと成果が見えてきた頃、買い出し組が帰ってくる。
「ただいまー♪」
「ま、前が見えぬ……」
 ひょいと玄関をくぐって入ってくるルカルカと、加減が分からずに手探り足探りで入ってくる淵。どちらも山積みに荷物を抱えている。
「買い出ししてきたから、ダリル海鮮鍋お願い」
「掃除が終わればすぐに料理の支度か。休む間もないな」
 この年末年始の家庭内任務を回避する為に、ルカルカの両親は外泊しているのではないかと思うくらいの多忙さだとダリルは思う。
「日本人の年の瀬は、師匠も走る忙しさーってね♪」
「『師走』の言葉の意味が分かった気がする……」
 そう言いながらもダリルは買い出ししてきた物品を確かめ始める。
「蟹の殻は後で出汁を取ろう。カニ鍋カニシャブにはしないのか?」
「することもあるけど、蟹はやっぱ朝獲れたものを浜茹で、これに勝る物無し! 冷凍はダメ、味がズタボロだもの。あ、鍋の出し汁は一部雑煮にするから別にしてね」
 大晦日の醍醐味は紅白を見ながらの海鮮鍋と茹でカニ、そして除夜の鐘を聞きながらの年越しそばだと言うルカルカに、今年のうちにまだそんなにやることがあるのかと、ダリルは師走の意味を噛みしめるのだった。
 
 
「夕飯うめぇ」
 蟹を殻ごとばりばりかみ砕きながら、カルキノスが舌鼓を打つ。
 年末の大仕事にぐったりしていた淵も、鍋を肴にお歳暮から貰った日本酒を飲んでご機嫌だ。
 そろそろ年越しそばの準備をとダリルが温ソバの準備を始めようとすると、
「年越しはオロシソバが定番だよっ。雪がちらつく中、暖房の効いた室内で冷たいオロシソバを食べるの」
 そんなものかとオロシソバを作り、山の遠くから聞こえる鐘を聞きながら皆でソバをすする。
 それでやっと、忙しい師走の一日が終わった。
 
 新年が明けると、少し仮眠を取った後、今度は着替えて初詣に行く。
「そこの日本人、写メ撮るな」
 携帯を向けられてカルキノスが手を振り回す場面もあったけれど、皆で手を合わせて新たな年の願いをかける。
 ダリルは王国の復興と皆の息災を願ったが、何を願ったかは言わずにおいた。
「次は初日の出よ」
「まだ行くところがあるのか」
 日本の年越しは疲れるものだと言う淵を、
「これが終わればお正月はのんびりと、コタツにミカンに水羊羹の日本の冬だよー」
 と励まして、ルカルカはこっちこっちと皆を初日の出が綺麗に見える場所へと連れていくのだった。
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

 
 ご参加ありがとうございました。
 前回の『地球に帰らせていただきますっ!』同様、こちらのシナリオの内容は他のシナリオに内容を持ち込めない代わり、かなり設定をゆるめに認めていただいています。皆様のキャラクターのイメージ作りのお役に立てたのなら幸いです〜。
 
 1組1ページという構成なので、目次をつけさせていただきました。
 ご自分、あるいはお知り合いを捜す際はこちらをご利用下さいませ。
 目次を見れば、おおっ○○さん、里帰りしてるじゃん、というのも一目瞭然です★
 
 
 里帰りシナリオを書いていると、お宅拝見というか、突撃隣のなんとやら、のような、ええっこんな所見せていただいていいんですかっ、という気分になってきます。
 お知り合いの所を読むと、わぁこんな過去を持っていたのか、こんな両親に育てられたのか、と新たな発見があるかも知れません〜。
 きゃーきゃー言いながら執筆させていただきましたので、読んで下さる方も楽しんでいただけたらなぁと思います。
 
 また長期休暇にあわせて里帰りシナリオを出させていただくかも知れません。その際にはまたどうぞよろしくお願い致します〜。