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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 着せ替えノルンちゃん
 
 
 
 鄙びた無人駅を出た所は商店街になっている。
 けれどそれも短い距離ですぐに終わってしまい、後はぽつぽつと家があるだけの田舎道が続く。
 そこから神代 明日香(かみしろ・あすか)の実家までは歩くには遠い距離だけれど、夏に帰省した時と同じく明日香とノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)はゆっくりと歩いて家へと向かった。
 パラミタにいる時なら、空飛ぶ箒で飛んで行けば良いのだけれど、この辺りの人はそんな姿を見たらきっと驚いてしまうだろうから。
 田舎のことだから、すれ違う人のほとんどは明日香の顔見知りだ。
 寒そうに歩いている人に声をかける明日香に倣って、『運命の書』ノルンも同じように挨拶する。
 そしてまた夏の時のように、明日香と一緒にいるのは妹なのか誰なのか、と近所の人たちが飽きず噂話に花を咲かせてるのを背に聞きながら、実家への道を辿ってゆくのだった。
 
 
 帰省した2人を迎えたのは、世話役の女性だった。
 両親が年内には帰って来られないことは、事前の連絡の際に聞かされていた。明日には帰ってくるはずなので、両親に会ってからパラミタに帰る予定を立ててある。
「お帰りなさい」
 明日香を笑顔で迎えた後、世話役の女性は明日香の隣にちょこんと立っているノルンに言う。
「いらっしゃい、ノルンちゃん。大きくなったわね」
「お世話になります」
 きちんと挨拶しながらも、大きくなったと言われたノルンはまんざらでもない顔になる。
 ……といっても、夏に帰省した時からノルンは1ミリたりとも成長していないのだけれど。
 社交辞令に喜んで、もっと大きく見えるようにといつもより背筋伸ばし目になっているノルンを微笑ましく眺めた後、明日香は世話役の女性に尋ねた。
「あれは用意しておいてくれましたかぁ?」
「ええ。明日香ちゃんのお部屋に出しておいたわ」
「ありがとうございますぅ。ノルンちゃん、お部屋に行きましょう〜」
「はい」
 何を用意してあるのだろうと思いながらも、ノルンは明日香に手を引かれて部屋に行った。
 
 
 明日香の部屋は、いない間もいる時と同じように整えられている。
 前来た時と違うのは、部屋に真ん中にどんと置かれた衣装ケースだけだ。
 部屋に入るとすぐ、明日香は衣装ケースを開けてみた。
「懐かしいですぅ」
 入っていたのは明日香の小さい頃の服だった。あらかじめ実家に連絡して、ノルンと同じくらいの身長の頃に着ていた服を出しておいてもらったのだ。
「これは明日香さんのものですか?」
「はい〜。10年くらい前に着ていたんですよぉ」
 衣装ケースの中には可愛い服がぎっしりだ。自分ではっきり覚えているものもあれば、こんな服あったっけというものもある。
「ノルンちゃん、これ着てみませんか〜」
 明日香はケースから出した服をノルンにあててみた。
「これはどうやって着るんですか?」
「ええっと、ここが肩になって……着てみた方が分かりますよぉ」
 凝った飾りのついている服を、明日香はノルンに着せてみた。着る前はどうなるのか分からなかった布の部分が、着てみると立体的なリボンになっている。
「ノルンちゃん、とっても可愛いですぅ。これはパラミタに帰るときに持っていきましょう〜。じゃあ次はこれを着てみましょうねぇ」
 次から次へと衣装を取り出しては、明日香はノルンに着せた。
「これは着ぐるみ寝間着なんですよぉ。とっても温かくて、ぬいぐるみに抱かれて眠ってるような気持ちになれるんですぅ〜」
「これも着るんですか?」
 最初のうちは色々な服を着るのが楽しかったけれど、何着も何着もひたすら着替え続けるとだんだんノルンも疲れてくる。けれど、
「わあ、とても似合いますぅ。ノルンちゃん可愛いですぅ」
 手放しで似合う可愛いと褒めてもらえるのは、嬉しいような気もする。何より明日香がとても楽しそうに着せ替えをしているのに水を差したくなくて、ノルンは疲れは見せないように心がけて着替えをするようにつとめた。
 ふかふかファーのコート、ふにゃっとした着やすい素材の部屋着、従姉妹の結婚式でフラワーガールをした時のドレス。
 着替えるたびに違ったノルンが見られて明日香は上機嫌だ。
 基本的に明日香の子供の頃の服だから、どれもノルンには似合う。ただ、デザインによっては時代遅れになってしまっているものもあるから、着せてみて可愛かった服だけをパラミタに持ち帰る用に取り分けておく。
「もう少しで一通り終わりますよ〜」
 明日香に言われ、ほっとしたのもつかの間。
「はい、これで冬物は終わりですぅ。今度は春物ですねぇ」
 終わったのは着せ替えではなく、冬服の分だけだったようだ。
 思わず力が抜けかかったノルンに、明日香が心配そうな顔を向ける。
「ノルンちゃん疲れましたかぁ? 休憩をはさみましょうか?」
 心配させたくはないから、ノルンは大丈夫ですと笑顔で答えると、また明日香から服を受け取った。
 
 ……けれど。
 
「……ンちゃん? ノルンちゃん?」
 明日香の声が間遠に聞こえる。
「ふぁ……はい……?」
 きちんと返事をしているつもりなのに、ノルンの言葉は不明瞭になってしまう。
 ゆら……ゆら……世界が波打っているようだ。
「おねむですかぁ?」
「ちが……ぃ……ま……すぅ……」
 言いながらノルンはこてんと横に倒れて、すぅすぅと寝息を立て始めた。
 明日香はくすっと笑うと、ノルンを抱き上げてベッドに寝かせた。ちょうど寝間着を着ていたところだからちょうど良い。
 やわらかいネル地にひよこ柄の寝間着を着てすやすや眠るノルンに目を細めると、明日香はふんわりと布団をかけてやった。
「残りは明日にしましょうねぇ」
 あの服もこの服もきっとノルンに似合うはず。明日もまた、可愛いノルンの姿が見られるのを楽しみに、明日香は衣装ケースの服を飽きず引っ張り出しては、それをノルンが着た所を想像して時を過ごすのだった。