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これが私の新春ライフ!

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●ポートシャングリラにて――思い出お持ち帰り

 ミーナ・コーミアは、「次はあそこ!」と、ランジェリー専門店を指さした。菅野葉月にはあまり縁のなさそうな店とはいえ、騎士はどんな場所も恐れてはいけない。葉月は「参りましょう」と恭しく一礼した。
 たたっと駈け込んだミーナは、さっそくブラジャーを取ってしげしげと眺めている。
「葉月も買おうよ、可愛い下着がいっぱいあるよ〜。こういうのどう?」
 と、葉月にミーナが差し出したのはレース飾りのついたピンクのブラだ。たしかに可愛いではあるが、
「いや、えーと……僕には可愛すぎるような……」
 葉月は困ったような顔をした。そんな二人のやりとりを見て、一瞬、店員がギョッとしたような顔をしている。きっと、葉月が男性のような格好をしているからだろう。
(「ああした反応は慣れていますが……少しは女らしくしないといけないかな?」)
 女装が趣味の人もいるとはいえ、下着まで堂々と買いに来る人はいない……とは思うのだが、世の中には奇特な人もいるわけで、もしかしたら自分も『そういう人』に見られているかもしれない。悩ましい気持ちになる葉月であった。
 そんな葉月に構わず、
「これなんかどう? えっちすぎる?」
 これまた際どいデザインのブラジャーを引っ張り出し、ミーナはきゃっきゃと笑うのだった。

 パラミタに来て初めての正月、十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)たちはこの日、噂に聞くポートシャングリラを初めて訪れていた。
「凄い人だな……それに、あまりにも広大な場所だ。このモールの全容を知っている人などいるのだろうか」
 率直な感想だ。少なくとも日本では、つぐむはこれだけの規模のショッピングモールを見たことはなかった。その多様さと深さは、この土地を一つの王国のように思わせる。
「圧倒されていても仕方がないだろう」ロボット姿のパートナー、ガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)が、その深緑色の眼を鈍く光らせた。「これだけ大きければ、見つからないものなどまずなさそうだ。さっと買い物をすませようではないか」
 今日、彼らには夕方から新年会に参加する予定があった。その飲み物、酒のツマミやお菓子を買いに来たのだ。
「そうだな、では三人で分担して買うとしようか」
 と、歩み始めたつぐむに、
「すみませんが、後で合流するので先に行っていてくれませんか? ワタシは先に、行っておきたいお店があるのです」
 もじもじとした様子でミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)が告げた。
「何か買うのか? なんなら一緒に……」
 と、つぐむが言いかけるもミゼは手を振って、
「いいんです。後でお披露目しますので、それまで楽しみにしていて下さい。ではお先に……」
 はにかむように笑むと、楚々とした仕草ながら小走りで姿を消した。

 一番熾烈そうな戦場に突入し、赤羽美央はその洗礼を受けまくっていた。すし詰めだ。苦しい。日本の朝の満員電車というのは、こういうものだと聞いたことがある。
(「こんなにおしくらまんじゅうになるなんて。人口密度が高すぎるのに慣れてないのかちょっと……でも、我慢しなくては」)
 それなのにほとんどの客が、楽しそうなのは何故なのだ。
 楽しそうといえば、エルム・チノミシルも楽しそうだ。……って、エルム!?
「エルムは付いてきちゃだめですよ、と言ったでしょう。危ないから戻って待ってなさい」
「えー、大丈夫だよ。窮屈だけど意外と面白いしー」
 エルムはちょこちょこと動き回り、色々な服を手にしていた。黒いチュニックを取って、
「ほらほら、みお姉もこんな服を買ってみたら……」
 と言いかけたところで値札を見て、エルムは目を丸くする。
「って、布っきれなのにすっごく値段が高いよ! ねーねー、どうしてこんなに高いの? どうしてどうして?」
「それはブランド品だからです……高いといっても、今日はそれが半額なのですよ……だからこんなに混んでるんですが」
「ふーん。じゃあ、これ買うね」
 随分大人っぽいデザインのチュニックだが、エルムは自分のお小遣いを出してレジに向かおうとした。
「ああ、ちょっと、エルムには大きいんじゃないですか? ここは大人サイズの服しかないから……」
「ちがうよ」エルムは振り返り、にこっと笑った。「これは、みみ姉へのプレゼント! 連れてきてくれてありがとう、って気持ちだよ」
「え……」
 嬉しいやら気恥ずかしいやら――美央の胸は、熱くなった。

 月崎羽純は不機嫌であった。同行者の遠野歌菜、カティヤ・セラートがどんどん買い物して彼の手荷物を増やしていたからである。
(「体は一つだろうに、どうしてこんなに着たいものがあるんだ……」)
 男にとっては永遠の謎ではないか、と羽純は思うのだった。
「はぁ……」
 ようやくフードコートで休憩となった。席を取ると、羽純は椅子にぐったりと身を沈めた。ところがカティヤはまだまだ余力があるらしく、
「買い忘れた物があるから行ってくるー」
 と言い残して姿を消した。それを見て、
(「更に荷物が増えるのか?」)
 思わず羽純は、げんなりとした表情を眉に浮かべた。
「羽純くん、私、飲み物買ってくるよ。ホットコーヒーでいい?」
 歌菜の声を聞き、ああ、と多少ぶっきらぼうに返事して羽純は背筋を伸ばす。
「はい、羽純くん」すぐに彼女は戻ってきた。彼にコーヒーを手渡し、「お疲れ様。ごめんね、たくさん荷物持たせちゃって……帰りは私も持つから」と、彼をいたわるような表情をした。
 ――そんな顔をされては、羽純は弱い。
「サンキュ。荷物のことは気にするな。これくらいなら一人で持てる」
 彼は身を起こしコーヒーを口にした。熱くて美味しい。
「歌菜は楽しいか?」
「うん、すっごく楽しい! カティヤさん、本当のお姉ちゃんみたいで……こういうのっていいね。あと……」いくらか照れつつ、彼女は笑った。「あと……その、羽純くんも一緒だから、余計に楽しい」
 ふっ、と羽純は微笑みを浮かべた。不思議なもので、歌菜のその笑みだけで、買い物疲れなんて吹き飛んでしまった。
「……そうか、なら、いい」
 彼は手を伸ばして彼女の頭を撫でた。
 さてそんな二人の様子を、物陰からカティヤが見守っていた。
「ふふふ、嘘ついて二人っきりにしてあげたら、さっそく良い雰囲気じゃない♪」
 これはカティヤなりの、羽純へのお礼の示し方なのだった。
 さて、戻って少し、羽純と歌菜をからかってやるとしようか。

 快進撃を続けていたミルディア・ディスティンであるが、さすがに……疲れた。
「はぁー。買いすぎた……」
 欲望を全開にしてしまうと体がきつい。パンパンに膨らんだ買い物袋を両手ばかりか背中にも負って、両腕も腰もギシギシと痛むほどの重量を抱え、よろめく。
「こ、これが名物『空京の着倒れ』ってやつかな……ちょっと違うか?」
 ところが光明、彼女の前に、輝く受付が現れたのだった。
 ――すなわち、宅配便預かり所。
「すみません。郵送できますか?」
 そこでは菅野葉月が、大量に買った荷物(といっても大半がミーナ・コーミアの購入物である)を預けていた。彼は振り向いてミーナに告げた。
「さあ、これで身軽になりました。フードコートでランチにしましょう」
 財布の中身も身軽になったわけだが、それは言わない葉月なのである。
 あれはいいアイデアじゃないか。ミルディアもすぐに身を乗り出して荷物を預けた。配達先は自宅だ。明日の昼頃、でっかい荷物が届くことだろう。
「さーて、どうしよっかなー?」
 ミルディアは清々しい笑みを浮かべた。さっきの人達みたいにランチにしてもいいが……。
「もうちょっと買い物、しようかな?」