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第44章 教導団の機晶姫

「すみません。私はあまり友人が多い方ではないので、機晶姫のパートナーがいて、かつ比較的気軽に相談できる相手というと、李大尉しか思いつきませんでした」
「うん、それはいいのだけれど……」
 シャンバラ教導団の訓練場で、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)李 梅琳(り・めいりん)と共に、射撃訓練を行ている機晶姫達――リリ マル(りり・まる)エレーネ・クーペリア(えれーね・くーぺりあ)を見守っていた。
 パートナーのリリがバレンタインやホワイトデーに興味を持ち出し何かと煩いので、機晶姫の友達を作らせてしまおうと考えたのだ。
「李大尉もご予定がありますよね。噂によればこういうイベントの時にはしっかりとお相手を確保しているようですから」
「こう見えても、イベントの時じゃなくても相手はいるのよ」
 梅琳は軽く笑みを見せた。
「もしかして、エレーネさんに仕事を任せて、お出かけになるおつもりでした?」
「ふふ、それちょっとだけ考えてたわ。でもまあ、緊急の仕事はないし、私はもう出かけるわ。エレーネのこと頼んだわね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
 梅琳はポンとアリーセの肩を叩いて、訓練場から出て行った。
 アリーセは梅琳を見送った後、視線を機晶姫達へと戻す。
 リリは落ち着かない様子だったが、エレーネはいつもと変わらず淡々と訓練を行っているように見える――。

「ま、まさか本当に一緒に訓練を行うことになるとは……!」
「……不服ですか?」
「と、とととんでもないであります! 光栄であります!」
 エレーネは銃器の取り扱いを得意とすることから、いつか射撃訓練を一緒に行う約束でもと思っていたリリだが、早々と叶ってしまい、混乱気味だった。
(ど、どうすればいいのでありましょうか? バレンタインやホワイトデーにお菓子をあげたりもらったりしたい、と言ったのは自分自身でありますが、まさかこんな事になるとは……)
 何を話したらいいのか、どう接したらいいのかリリには分からなかった。
 このままではエレーネは一人訓練を終えて、帰ってしまいそうだ。
「……なんなら、私を使って射撃訓練をしてもらっても!」
 そう言うリリに、エレーネは無表情の顔を向ける。
「こう見えても精度と威力には自信があるのであります」
 リリ自身がスキルを使う為、ただの武器とは違うのだ。
「メイリン様の為に、仲間の性能を知っておくのも良いかもしれません」
 エレーネがリリを持ち上げて、リリが装着しているライフルを的へと向けた。
「一撃で撃ち抜きます」
「了解であります!」
 エレーネの合図を受け、リリが銃を撃つ。
 エレーネは逆の手に持つ銃も、同時に撃っていた。
 二つの弾は、左右の的の中心近くを撃ち抜く。
「なるほど……あなたは、慣れていない新人のサポートが出来るかもしれませんね」
「そ、そうでありましょうか。新人の訓練を行う際には、協力するであります」
 エレーネは首を軽く縦に振った後、また淡々と自らの訓練に戻っていく。
「さすがエレーネ殿。的確でありますな。自分も腕を磨くでありますよ」
 エレーネの隣で、リリも訓練に勤しむことにする。
 とりあえず、知り合いにはなれたようだ。