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リアクション
〜〜試練の塔〜〜
「うぐっ!」
膝をつきながらに御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は左脇に手を添えた。痛い。弾丸が突き抜けているかなんて正直どうでも良い、そんなことよりも、
――くそっ、本当に撃ってくるなんて……
「どうしはったん? もぅ終わり?」
『魔道銃トリックスター(魔道銃)』の銃口が紫音に向けられている。構えているのはパートナーの綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)―――
――違う! 風花は…… 風花は俺に銃を向けるなんて事はしない。
「風花! 俺だ…… 紫音だ! もうこんな事やめてくれ!!」
「まぁ。私のことを信じてくれてはるんやなかったん?」
「ああ゛っ!」
放たれた銃弾が左足をかすめた。抑えるような笑い声、そして近づいてくる足音。きっと銃口はこちらを向いているのだろう。
――くそっ…… こんな、こんな事があってたまるか。
「信じてくれてはるんやろ? そのまま撃たれて眠ぅてぇな」
「………… ふざけるなよ」
――こんな、こんなのは風花じゃない、風花の姿形をした…… そう、これは試練、塔が俺に課した試練なんだ。
意を決して上げた額に、銃口が突きつけられた。
「怖い目ぇやわ。そないな目ぇで見んといて欲しいわぁ」
「黙れ偽物…… お前なんか…… お前なんかが風花なもんか」
右手は…… 大丈夫、『ブレード・オブ・リコ』を握れている。銃口を外して突きを放つ、この至近距離なら十分やれる―――
「信じてくれないん?」
――くそっ。
風花の声で、優しい口調で言いやがって。
「信じてくれないん?」
「うおおぉぉおおおお!!!」
銃口を外し、地を蹴って跳ね、そして―――
ぎゅっと風花を抱きしめた。強く強く抱きしめた。
「できるわけないだろ。偽物だろうが何だろうがお前は俺が護るんだ! 文句は言わせねぇぞバカやろう!」
強く強く抱きしめている―――ところに、
「見ろ! アルス! 主が風花に抱きついておるぞ!」
「ぬおっ、本当じゃ。主様が欲情しておる」
パートナーのアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)とアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)の声がしたと思ったら、珍しいものでも見つけたかのようにジロジロと覗き込んできた。
「欲情? あぁ確かに、この顔は欲情した雄の顔じゃ」
「そうじゃろう、主様も所詮は男。閉ざされた空間で若い女子に囲まれれば、欲情するのが普通じゃ」
――って、何だ? こいつ等もキャラが違うぞ!
「若い女子とは…… アルスよ。それは我らも含まれているのかの?」
「もちろんじゃ、もちろんじゃよ、いやじゃのう」
「そうかそうか、いやじゃのう、ノホホホホホホ」
――何だ? いったい何なんだ?! 悪ノリ大会か何かなのか?!!
「ノホホホホホホ」
「ノホホホホホホ」
――ノホホホホホホじゃない!! おフザケも大概にしろっての。
「ほらっ!」
「のっ!」
「きゃっ!」
強引に2人も引き寄せて、一緒に抱きしめた。その瞬間にすべての幻想は砕け散った。
おフザケが過ぎた3人には、キツク言っておこうと思っていたのに、
「目を覚ました…… よく覚めたのう…… うぅ……」
「こんなに長いこと…… グスッ…… 目を覚まさない者があるか」
「紫音―! 紫音―!! 紫音―!!!」
心配そうな顔は泣き顔に変わり、横たわる俺の体に抱きついてきたから。
――これじゃあ怒れないよ。
3人の涙はとても柔らかく、そしてとてもとてもに熱かった。
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は逃げていた、全速力で逃げていた。
「うお!? あぶねっ! ちょ、どうしたんだお父さん! お母さん!」
そりゃあ逃げるでしょう、これまで大切に思ってきた両親が機関銃を肩からかけていて、そんでもっていきなり撃ってきたなら…… そりゃあ逃げるでしょう!
「なっ!!」
前方から『雷術』が迫ってきた。あと一瞬でも気付くのが遅ければ直撃を受けていただろう。放っていたのはルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)だった。
「ちょっ、ルーシェ…… 何やって―――」
ルシェイメアの背後にはセレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)とアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の姿も見えたのだが、
「おい…… おいおい待てよ」
アリスは『セフィロトボウ』を構えているし、セレスティアは―――
「ぬわぁぁああ〜!!」
いきなり『ファイアストーム』を放ってきた。これ、逃げて正解でしょう?
――くそっ、何だ何なんだ、どーなってる。
あいつらまで攻撃してくるなんて。何だ…… 何か怒らせるような事をしたっけか? ……いや、あの瞳は真剣だ。
――ん?
何かが引っ掛かった。…… 瞳、そうだ瞳だ。操られているという可能性も考えたけど、瞳はいつもの通りにみな美しい。
「そうだ! みんなの瞳は美しい! 美しすぎて俺にはとても正視できな―――ぬわっ!」
『サンダーブラスト』を撃たれた。くそっ、おだてるって作戦もダメか…… でも、操られている訳じゃないなら偽物か幻惑の類って事だ。
「そうと分かれば」
まず狙うはルシェイメア、いやセレスティアも一緒にだ。
闇雲に逃げてきた訳じゃないんだぜ…… と強がってみたり。
「おおおぉぉおお!!」
迫り来る『雷術』を華麗に…… 何度か喰らいながら。『凍てつく炎』も…… 熱かったよ冷たかったよ。それでもおかげで。
2人の動きが不意に止まった。
「ごめん!」
ルシェイメアを当て身で、セレスティアは延髄チョップで気絶させた。2人が向かい合うように誘導した、それに気付いた2人は互いを認識した途端に攻撃を止めた。その瞬間を狙ったのだ。
――偽物でも、ちゃんと互いに気付くんだな。
温かい気分に浸るのは一瞬だけ、次の瞬間からは痛覚に耐える時間となった。
アリスが放った『セフィロトボウ』の矢を、全て左腕で受けて間合いを詰めた。4本ほどの矢が腕に刺さったが、おかげで小柄なアリスを捕まえる事ができた。
「へへっ、安いもんだ」
言った所で世界が壊れた。現世の自分はどうやら横たわっていたようで、目を開けた時に飛び込んできたのは心配そうに覗き込むアリスの顔だった。思わずビクついてしまったが…… 仕方がないだろう?
「フーン、ひょっとしてそれが試練の塔の試練なんじゃナイ?」
事情を聞いたアリスは何やらややこしい言い方をして返して来たが、考えてみれば確かにそうなのかもしれないと思えなくもなかった。
「まーいいじゃないドウデモ。こうやって起きたんダカラ、きっと試練に受かったのヨ」
「なのかなぁ」
「上まで登ってみれば解るワヨ」
「いや、ちょっと休ませて」
正直いろいろ整理したい。頭も体もヘトヘトなんだ。
しばらく休んだらまた登り始めるさ。それまで少し、休ませてくれ。
「本当によく似てるよね」
桐生 円(きりゅう・まどか)は敢えてゆったりとした口調で言った。
「そうねぇ〜 驚くほどにそっくりよねぇ」
オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)も自前のまったり口調に拍車をかけて続けようとしたようだが、戦況がそうさせてはくれなかった。
「つっ!!」
オリヴィアはスッと右肘部に手を添えた。波動砲がかすった肘部の服は焼け、皮膚は赤く焦げていた。
「オリヴィア!!」
「大丈夫よぉ〜 撫でられただけだから」
僅かに触れただけでこの威力……。
「どうやら、あのパワーランチャーも本物みたいねぇ〜」
十二星華の一人、蠍座のパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)。円たちの前に立ちはだかったのは彼女に瓜二つな彼女だった。
「でや−!!」
「ちょっと! ミネルバ?!」
ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)がパッフェルへと駆け向かっていった。
大砲の如き威力のランチャーで驚異的な早撃ちを成せてしまう、それが彼女の強さの証でもあるのだが、それでもあくまで彼女は狙撃手、ゆえに間合いを詰めて接近戦に持ち込めるなら―――
「ぬわぁ―!!」
彼女の左瞳に捉えられた瞬間にランチャーからは拡散波動弾が放たれていた。
「とぉっ! てやっ!! そいやぁっ!!!」
連続して放たれた拡散波動弾をミネルバは体を捻ったり捻ったり跳んだりしてどうにか避けきる事に成功した。逃げ戻ってきたことで間合いはすっかり元通りになってしまったが。
「わぁ。ミネルバ様、すごいです」
円に装しているアリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)がミネルバを褒め迎えた。本当なら両手をパチパチと合わせて迎えたかったのだろうが、今は弾ませた声にその思いを込めていた。
「まあね―! パッフェルちゃんの技は何度も何度も見てきたからね―、避けるのだって楽ちんなのさ―」
その割には一目散に逃げ戻ってきましたけど。『彗星のアンクレット』で素早さを上げていたのも波動弾を避けるのに大きな助力となったようだ。
「でもあれってさ―」
「そうなのよねぇ〜」
「???」
ミネルバとオリヴィアの言葉にアリウムが言葉尻を傾けていると、円が、
「そう、あればパッフェルちゃんじゃない」
と言った。
「パッフェル様ではないのですか?」
「うん。彼女は拡散波動弾を連続して撃つなんて事はしなかったし」
「そぉねぇ〜 それに」
再び放たれた波動砲を今度はみな無傷で避けた。遠くの地面に撃ち爆ぜたのだろう、小さな山なら一瞬で吹き飛ぶような爆発が遠くの一帯に起きていた。
「幾ら何でもあれはやりすぎなのよぉ〜 彼女の力なら出来るんだろうけどぉ〜 滅多な事じゃあんな出力で撃たないのよぉ〜」
それでも試練として立ちはだかる以上、円たちは彼女を倒さなくてはならない。それが例え幾多もの戦場を共に戦ってきた友だとしても、多くの時を共に生きた仲間だとしても、パッフェルの姿をしたパッフェルを倒さなければならないのだ。
「行くよ」
円の声で駆けだした。
狙いは変わらず接近戦に持ち込むこと、その為には。
オリヴィアが『地獄の天使』で彼女の左瞳の側にわざと飛び出した。右瞳に眼帯をしているパッフェルにはどうしても感知が鈍る右半身側へミネルバが一気に駆け込んだ。
それでも捉えて波動弾を撃ってくる辺りは流石だが、ただの連射ならばどうにか逃げられる。
――パッフェルちゃん!!
正面から円が跳びついた。既に『光学迷彩』は発動している、加えてアリウムの『神速』で加速も十分、これで一気に間合いを詰め跳んだ。
空中で、あと本当に僅かに時が過ぎるだけでパッフェルに抱きつけるという所で、彼女はパワーランチャーの銃口を瞬間で向けた。
彼女のパワーランチャーは光条兵器、素早く消失出現が可能、そして早撃ちの技量がそれを可能としたのだろう。彼女は小山を吹き飛ばす波動砲を刹那に放った。
「させませ―――んっ………………」
「アっ―――アリ……………… ウム……」
波動砲が魔鎧であるアリウムの胸部を粉々に吹き飛ばした。
「アリウムちゃん!!」
「円!!」
オリヴィアが『奈落の鉄鎖』でランチャーの銃口を地に落とし、一気に間合いを詰めたミネルバが『しびれ粉』を振りまいた。
「パッ…… フェル………… ちゃん……」
朦朧とする意識の中で円は手を伸ばし歩み、そしてパッフェルに抱きついた。
――やっぱりキミは…… パッフェルちゃんじゃない!!
残りの力を振り絞って円はパッフェルを抱きしめた。
本物ではない、しかしもう二度と彼女に銃は向けない向けたくない、だから。
力の限りに抱きしめた。お願い止まって! そう願い抱きしめた。そうして次第に彼女の体は煙のように揺らぎ消え、それと同時に円たちの視界も現実世界を映し捉え始めていった。
円たちはどうにか試練に打ち勝ったようである。
「痛っ!」
人の姿をしたアリウムは胸に手を当てて痛みを訴えたが、木っ端微塵に砕かれたダメージはどうやら同等には反映されなかったようだ。
「よかったぁ〜 よかったよ―」
今度はアリウムに抱きついて円は声をあげてボロボロ泣いた。試練を乗り越えたから? いいや、大切な友が無事だったことへの安堵だろう。
グッとギュゥゥと抱きしめて、しばししばらくと円はアリウムを抱きしめていた。
古龍ラグズグ。
龍の逝く穴ではイコンアンズーを求めてさまよう自分の前に姿を見せた。そんなラグズグが再びにイコンを求め欲する自分の前に現れてくれた。
――悪くない演出だと思ったんだがな。
瓜生 コウ(うりゅう・こう)はキッと瞳に力を込めて前方を見つめみた。
迫り来る火球は3つ、距離は十分、これだけ離れていれば十分避けられる。それなのに―――
「なっ!」
余裕を持って避けたはずなのに『冒険者のマント』の大半が焼き焦げた。
――何だ? 何が起こっている。
避ける事はできる、しかしその距離が問題だった。大きく避けたと思っても放たれた火球は体のすぐ横を過ぎてゆく。
仕掛けがあるのか? それともそういう能力なのか?
「面白い! もっと来い! もっと見せろ! 必ず解いてみせるぜ!!」
大いなる知恵と知識を有する龍。そんな龍との知恵くらべ。
火球の謎解き明かすべくコウの戦いは始まった。
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