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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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第二章  衝突

 居城を目指すマルドゥークの軍勢、先頭をゆくケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)が地平の先に何かを見つけた。
「何だ?」
 水面を跳ねる稚魚のような…… しかしここは地上だ、全てが砂に埋まり見渡す限りに砂海状態であるといっても地を泳ぐ魚など居るはずが―――
「いや…… 待て! 止まれ!!」
 ファウストの声が切迫している、それを感じ取った天津 麻衣(あまつ・まい)が薙刀型の『光条兵器』を具現化し、それを空に掲げて大きく刃先を振り回した。こちらは同じく先頭をゆく偵察部隊への合図、そして、
「わあってるよ。ドオリャアァァァァ!!!」
 アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)が放った『ファイアストーム』は後方の本隊への緊急合図。空の彼方をめがけて何度も何度も炎嵐を空へと放った。
「イルカだ! ファウスト」
 神矢 美悠(かみや・みゆう)の『イルカを見つけた発言』にファウストは「んな馬鹿な、ここは砂地だ、砂漠だっていってもオカシくねぇ。イルカなんかが泳いでるわけが―――」
「シャチも居るぜ!!」
「だから! んなもんが居るかって…… あ、いや、イルカとかけたわけじゃねぇぞ、んな馬鹿な事いってる場合じゃねぇ、オレたちは偵察部隊として正確な情報をジーベックたちに―――って!!!」
 地平を跳ねる稚魚たちの姿が徐々にはっきりと見えてきて、
「シャチだあぁぁぁッッッ!!!!」
「だから言っただろ!!!」
「イルカも居るぅぅぅッッッ!!!!」
「それも言ったっつ―んだよ!!! バカウストっ!!!」
 『サンドドルフィン』に『砂鯱』、どちらの背にも人影が見える、つ―ことは。
「城を守ってる奴らが出張って来たって事かぁ?」
 ったく余計なことを。大人しく居城で待ってろってんだ。
「ファウスト。どうする」
「あぁ?! んなもん決まってんだろ」
 麻衣に応えながらにファウストは考えた。居城までの距離はあと僅かのはずであるが、現時点では地平の先にも見えない。代わりに見える鯱やイルカは面倒な事にその数がどんどん増えている。このまま進軍して偵察部隊の兵士30名と共に向かえ討つ事も出来るが―――
「撤退だ撤退ぃ!! ジーベックとアイアルにこの事を伝えるんだよ!!」
 偵察部隊としての務め、そしてこんな所で無駄に兵を失うわけにはいかない。
 ファウストたちは慌てて急いで本隊へ帰還した。




 マルドゥーク軍列の後方。
 アイアルと共に物資の護衛をしているフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)は、後方から接近する『小型飛空艇ヘリファルテ』を発見した。
 数は一機だったが、アイアルはすぐに兵に呼びかけ迎撃体勢を取らせた。それはすぐに杞憂に終わったが、代わりにもたらされたのは衝撃の事実だった。
「何っ!! ネルガルが大軍を?!!」
「えぇ。そうよ」
 機体の主は雨宮 渚(あまみや・なぎさ)、彼女はジバルラの元からこの地へ向かう最中にネルガルの軍勢に遭遇した事を伝えた。
「正確な数は分からない、でもワイバーンは50以上、兵に至っては1,000人近いかも」
「1,000?!!」
 マルドゥークの軍勢はせいぜい600人弱。正面からぶつかれば飲み込まれる。
「私が行ってくる」
 フレデリカが『光る箒』に跨りて飛んだ。アイアルには兵の指揮をとってもらわなければならない。フレデリカと共に軍列の中央、マルドゥークの元へ急行した。




「50名ほどで―――」
「それは無茶だ」
 マルドゥークがこれを遮った。『居城から迫る軍勢を向かえ討つのに、50名の程の兵士を貸してほしい』と提案した戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)に、マルドゥークは「それでは少なすぎる」と反論した。
「そんな事はありません。『砂鯱』や『サンドドルフィン』が相手ならシャンバラの生徒たちの方が適している。人間の兵士は50名もいれば十分でしょう」
「しかし……」
「生徒たちを多く連れていく、という事か?」
 と問いたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に、小次郎は「えぇ」と応えた。
「鯱やイルカの軍勢を排除してしまえば居城へ攻め入るのも容易になる。早急に居城の奪還を果たしてしまえば」
「なるほど、挟まれたまま戦うのは危険すぎるからな」
「そういう事です」
「それでも…… 100人は連れていってくれ。それなら良いだろう?」
 ダリルの提案にマルドゥークはしぶしぶ首を縦に振った。居城奪還を考えれば100人でも少ないように思えたが、1,000の敵兵が迫っている事を考えればこちらに兵数を割きたいのもまた事実だった。
「分かった、その代わりメルカルトとは合流してくれ。今も奴は居城へ討ち入る機会を伺っているはずだ」
「わかりました」
 軍を二分する。一方はネルガルの軍勢を迎え撃つため、そしてもう一方は迫る『砂鯱』と『サンドドルフィン』を撃破し、居城を奪還するために。
 マルドゥーク軍は南北の敵を向かえ討つべく背を向けたのだった。