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ぶーとれぐ ストーンガーデン 白と赤

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ぶーとれぐ ストーンガーデン 白と赤

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 第四章 GRAND COMPLICATION WATCH(複雑機構搭載機械式自動巻き時計) 

◇◇◇◇◇

<ブリジット・パウエル>

 百合園女学院推理研究会代表(私を会長って呼ぶもののところには、もれなくロ○ロスが飛来するわ)にして名探偵のブリジット・パウエルよ。

「誰が名探偵じゃ。そなたのせいで舞はすっかり怒ってしまったではないか。
だいたいあんなパイをみんなに食べさせて、どんな意味があると言うのじゃ。かえって実家の人気商品の評判を落とすだけではないか」

 さっそく、邪魔がはいったわね。
 隣で吠えているのは、金仙姫(きむ・そに)。私のパートナーなんだけど、かなしいことに私の頭脳の回転についていけなくて、いつもわけのわからない世迷い言をつぶやいては、歌をうたって自分を慰めているの。
 でも、私はでそんな彼女でも大切な友達だと

 イタッ。

「叩くことないでしょ。いくら頭ではかなわないからって暴力に訴えるにのは愚かすぎ、アタタ。ちょっと、腕をつねるのやめなさいよ。仙姫。あなた、どこか静かな場所で療養して、日がな一日、歌でもうたってた方がいいんじゃないの」

「誰が療養じゃ、そなたこそ、そのうちヤードの留置所に収容されるぞ。妄想、虚言でいつも周囲を振り回しておるのは、そなたじゃ。もし、あのパイが辛いものが大の苦手なわらわに当たっていたらと思うと、そなたの恐ろしさには鳥肌が立つわ。わらわを殺す気か。まったくブリにもほどがある」

「ふぅ。例え、パートナーでも、私の深遠な知性は理解しきれないのね。悲しいわ。選ばれしものの恍惚と不安、二つ我れ、ちょっとぉ、仙姫、危ないでしょ。フルスイングのパンチなんて、私が避けなかったらどうなっていたと思うの。いくら寛大な私でもこれは」

「パンチではなく平手の愛の鞭じゃ。これ以上、そなたが道を踏み誤らんうちにわらわが指導、矯正してやらねば」

「ブリット。仙姫。静かにしなさい。二人とも、さっき私がお話したことがまだわかっていないのですか」

 抑えた、でも怒りをひめた声で、私と仙姫を注意したのは、橘舞(たちばな・まい)。彼女も私のパートナーなんだけど

「私が契約者で、ブリジットと仙姫は私のパートナーです。いいですね。ブリジット、捜査の様子を録画しておくのはかまいませんが、あまり、事実とかけ離れたことを言ってはいけません。
それに、仙姫も子供ではないのですから、暴力は禁止です。親しき仲にも礼儀ありですよ」

 今日の舞がいつになく真剣なのは、ようやく舞も自分が推理研の一員だと自覚し

「ブリジットがあんまりでたらめなことばかりするので、黙ってみていらなくなったのです。私が口にしたあの辛子とタバスコで真っ赤になったパイの原料のカ○ルさんたちも、自分たちを使ったお料理をあんなふうに使われると知ったら、安らかに眠れないではありませんか」
カ○ルが成仏できるかなんて、私、知らないわ。

「それがいけないのです。食べ物を粗末にして、人々に不快な思いをさせるような人に名探偵を名乗る資格は、ありませんよ。わかりますね」

 なんだか、幼稚園の授業みたいね。

「ブリジット! そういう態度がよくないのです」

「わかったわよ。私が悪かったわ。あれは、舞じゃなくて仙姫が食べる計画だったの。血のような真っ赤なパイの具を吐いて、もがき苦しむ仙姫の姿をみせて、犯人に心理的動揺を与えようと思って。わっ。仙姫。なに、武器、構えてるの。落ち着いて。ね。落ち着きなさいよってば」

 舞も仙姫も興奮しすぎよ。パートナーたちがこれだから、私も苦労がたえないわ。

「それはこっちのセリフじゃ。今度、生命の危険を感じたら、そなた相手でも容赦はせぬぞ。アホブリめ」

「大ゲサね。ただの激辛パイじゃない。カエルも仙姫も捜査のための尊い犠牲よ」

「ブリジット! いい加減にしなさい」

 舞に耳元で怒鳴られて鼓膜が破れたかと思ったわ。
 今日は私の受難の日ね。やれやれ。
 と、舞も仙姫もなんて目で私をみてるのよ。やめてよ。

「冗談。冗談よ。あんたたちは私の大事な親友よ」

 だから、名探偵の私が舞の推理に付き合ってこんなところまでついてきてあげてるんじゃないの。

「私の考えだとこれからお会いする方が事件のすべてを教えてくださるはずです。
ブリジットも仙姫もくれぐれも失礼のないようにしてくださいね」

 舞が事件の解決のための舞台をセッティングしたっていうので、私も仙姫も、ついていってあげることにしたの。

「私はいまの状況で可能な限り、ガーデンの四つの棟の管理人さんたちにお話をお聞きしました。
それらを総合して考えた結果、事件を謎をすべて知るためにはどうしたらいいのかの答えをみつけたのです」

 私も仙姫も、舞のその答えに従って、ガーデンのすべての塔、廃墟の中に、舞が手書きした招待状を置きにいったのよ。
 全部で軽く百通は超えてる気がするわ。
 文面はすべて同じよ。


 前略。
 事件についてお話をうかがいたいと思います。ガーデンの馬小屋カフェでお待ちしておりますので、きてくださいね。

 百合園女学院 橘舞



 時間の指定も細かい説明もまったくなし。まるで逢引の呼び出しよ。

「また、いい加減なこをと言ってますね。あれで十分、意味が通じる方におだしている手紙ですから、あれ以上の文章は必要ないんですよ」

 舞は自身満々なんだけど、廃墟の部屋の真ん中に封筒を置いてまわった私や仙姫は、事件とは関係ない次元で舞が違う世界の扉を開こうとしてるんじゃないかって、すごく心配になったわ。

「大丈夫です。手紙は届くべき人のところに届いたと思います」

「勝手に、自分こそ舞からの届くべき人だと思い込んでる人のもとに行っちゃう可能性もあるじゃない」

「それはありえないですよ。知らない女の子から手紙を偶然、手にしたからって、わざわざ会いにくる人なんているわけないじゃないですか」

「いるわ」

「それは、おるじゃろ」

 はからずしも、仙姫と意見が一致してしまったわね。
 だいたい馬小屋カフェってなによ。名前が怪しすぎるわ。なにするところよ。

「カフェはお茶を飲むところに決まってます。別にどこでもよかったんですけど、そこなら同じようなお店はガーデンに他にはないですし、間違えずにきていただけると考えたのです」

 了解。
 細かいことは、もう聞かない。

 ガーデンの外れの公園の中にある馬小屋カフェは、以前は馬小屋として使っていた建物をカフェに改造したお店で、外観は馬小屋そのもの。
 看板もでていないので知らない人には、カフェってわからない感じだった。ガーデンのお店は看板をだしてないところが多いのよ。それは、看板なんてなくても、ウチが商売をしているのはみんな知ってるていう村社会的、考えのあらわれなの。
 外部からくるものの少ない閉ざされた世界ならでは、考え方よね。ガーデンの生まれで、ここをでる人もほとんどいないみたいだし。
 カフェはさすがに馬糞や草のにおいはしなかったわ。
 中はカウンターがあって、テーブルとイスの置かれたこじんまりした普通の喫茶店よ。
 照明が少し暗めね。
 長袖シャッに蝶ネクタイ、中肉中背の年齢不詳の馬ヅラのマスター(馬スターね)が一人いるだけで、お客は誰もいない。

「きてないわよ」

「おらぬのう」

「二人ともダメですよ。人をお待たせするよりも、自分が待つ方が気が楽じゃありませんか。
お茶でも飲んでこられるのを待ちましょう。
おいしい紅茶があるといいですね」

 私たちが席につくと、馬スターが注文をとりにきたの。

「失礼ですが、お嬢さんがたが橘舞さんですか」

 そう言われると、グループ名みたいね。

「はい。私が橘舞ですが」

「この店を宣伝する広告を配ってくださっているのようですね。これを持って何人かのお客さんがいらっしゃいましたよ」

 馬スターは例の手紙を取りだしてみせたわ。
 ほらね。
 私と仙姫は顔を見合わせたわ。

「まあ、そんなカン違いされる方がいらっしゃるなんて、思いもしませんでした。
御迷惑をおかけして申しわけありません」

「いいえ。代々、家族でやっている店なんで宣伝なんてしたこともなくて、新鮮でおもしろいじゃないですか。はじめは商売女にウチの店を利用されてるのかと思ったが、あなたがたがそんな連中でないのはわかります。なにか事情がおありなのでしょう。どうぞ、お好きなようにやってください」

「ありがとうございます」

舞がお礼を言い終わらないうちに、封筒を手にした若い男の人の二人連れが店に入ってきたわ。
あきらかに手紙に釣られたぽいわね。

「馬スター。舞目当てのお客さんは、まず、必ずなにか飲み物を注文するってルールにしてちょうだい。
できるだけ私たちと離れた席へ案内して。
飲み物が出終わった頃に、私たちの方からそのテーブルへでむいて、事情を話してご挨拶するわ。
これで店にも損はないでしょ」

「悪徳商法じゃよ」

「違うわ。間違えてきた人に、説明をしてあげるだけよ。カフェにきたんだから、お茶ぐらい飲むのは当然よ。客としての義務ね」

「わかりました。ブリジット。私が責任を持って説明します」

「舞だけだと危険よ。馬小屋だし、相手はサカってるかもしれないわ。私と仙姫も行く」

「なぜ、わらわが行くのまでそなたが決めておるのじゃ」

 私たちは、ぽつぽつとやってくる舞目当ての客たちにトークと、希望者には別途料金で、舞との記念撮影と握手、仙姫の歌と、私のサインのサービスをしてあげたわ。
 そうこうしているうちに、舞が本当に招待したかった彼が、物置とつながっているはずのドアを開けて、やってきたの。

◇◇◇◇◇

月詠司(つくよみ・つかさ)

「と、いう感じで百合園女学院推理研究会のブリジット・パウエル代表一行は、マーリン氏から事件の真相を聞きだしました。
しかし、アーサー王伝説がどうの、という話は一度きいただけでは理解しにくいですね。
とりあえずは、ここMOVEMENTの正常さを保つことが必要らしいです。
私たちはこのまま作業を続けましょう」

 はじめはゲドー・ジャドウくんの弁護のために事件を調べていたのですが、彼らが逃げだしてしまったりして、あれこれあって調査の結果、ガーデンの地下の機械群MOVEMENTにたどりついた私、月詠司は、精密機械の門外漢でコンジュラーの私と、白衣の総合科学者六鶯鼎(ろくおう・かなめ)くん、装置の恣意的捜査に果敢に挑戦している影野陽太(かげの・ようた)くん、被験者というか突撃係のヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)くんの四人でMOVEMENTの点検を行っています。
 点検というかまあ、見学ともいえますかねえ。
 全員、ばらばらにMOVEMENTまでやってきたのですが、目的が同じなので協力してるんですよ。

「普段は全然、つながらないのに、いまみたいに、突然、携帯がつながることもあるんですよ。
私がコンジュラーなので、電波をキャッチしやすいのですかね」

「霊が電波、電磁波の一種として観測可能だというのは、たしかに聞いたおぼえがありますね。
しかし、オカルト関係は科学として確立させるには、難しい分野だな。
まず、観測、研究の前に、真偽の判断が必要だろうし、真偽の判断基準、手段自体があるようなないような状態ですからね。
ところでキミは、その推理なんとか会のメンバーなのですか」

 鼎くんは一般的な科学の研究者のイメージに忠実で、いつもこんな感じの話し方ですね。
「私のパートナーが所属しているのですよ。陽太くんは、推理研のメンバーとはなじみが深いですよね。たしか」

「少年探偵の弓月くるとくんが調査する事件では、よく一緒になると思います。
個性的な女の子探偵さんのグループですね。
ところで、あの、たぶん、このやり方で、この装置をテストできると思うんですけど、ベスくん、準備はいいですか。ここに入ってください。そこにはふれないように気をつけて、その枠の中の各歯車は、たぶん、そのうち高速回転すると思うんです」

 陽太くんの指示に従って、ベスくんことヴェッセル・ハーミットフィールドくんが装置に入ります。

「回転はいいけど、俺のいる隙間がなくなったりしねぇだろうな、完全に押しつぶされると、さすがに俺もヤバイぜ」

 ベスくんは、どんな罠にも必ず引っかかり、なおかつ致命傷を負わない数奇な星の下に生まれついているそうで、ここでもMOVEMENTの数々の機構を自ら体験してその効果を測定してくれてるんですよ。
己の危険をかえりみない貴重な存在ですね。

「ところで鼎くん、これはなんという装置なんです」

「時計は私の専門外なのですが、この巨大なフレームの中にある歯車の数々は、先ほどみてきた装置との関連も考えると、メインの駆動系の補助装置的なものだと思います。
この宙に浮いている巨大な円形フレーム自体が回転すると、脱進器全体が回転していることとなり、等時性の保持、つまり、MOVEMENTの機構全体が重力や地形の変化の影響を受ける可能性を軽減する効果を生みます。
つまり、腕時計でいえば、つけた腕を動かすことで時計自体がどんな位置に移動しても、部品の動作に影響でるケースがなくなるみたいな感じですね」

 鼎くんの説明はわかりやすくはあるのですが、それでも、もともと時計、機械の知識のない私には、わかりずらいですね。

「機械式時計でいうトゥールビヨンですよ。天才時計職人アブラアム・ルイ・ブルゲが発明した機構です」

 勉強熱心な陽太くんは、時計についてもいろいろ調べているようです。
 私たちが見守る中、ベスくんは、中心軸になっている半径数メートルはある鉄柱によじのぼり、軸につらぬかれ中空にある、一見したところ、200mトラック大の円形フレームの枠内、幾重にも重なりあい、ぎっしり詰まった歯車群の奥へ消えていきました。
 たしかにこうして体験しなければ、わからないことも多いでしょうけど、冷静に考えると彼の行為は無謀としか思えないのですけれども。

「ベスくんは中に入りましたが、歯車が動いてないように見えるのですが。この装置は、故障しているんですかねぇ」

「いや、これはこの規模の、しかも地下に直接設置されたMOVEMENT(駆動系群)の場合、常時、フル回転させる必要はない装置でしょうね。等時性の保持が確認されていれば、使う必要のない機構といえます。
時計はどこにでもある、ありふれた超精密機器。
その時計によって、人と人の時間感覚がずれてしまいます。
MOVEMENT。中々に興味をそそる機械群です。
ガーデンはそれすべててが一つで時間を刻む、時計って感じなのでしょうかね。
・・・この時計はいったい誰の、いやどこの時間を示しているのでしょうね。」

 殺人事件よりも、MOVEMENTの噂に興味を持ってガーデンを訪れた鼎くんらしい発言です。
 彼と反対に私は、ガーデンの建物が風水の四神と一致している点が気になっていたのですが、そこらへんは、他にも調査された方がいらしたようなので、ここでこうしてベスくんのとんでもチャレンジを眺めるのも、悪くないかな、と思います。

「あー、わかりました」

 急に鼎くんが声をあげました。

「どうかしましたか」

「ここでは立証しようがない気がするので、あくまで推測なんですが、ガーデン内で電波が伝わりにくい問題のこたえがみえましたよ。
これは私の推測ですが、MOVEMENTをみるかぎり、やはりガーデンは時計です。
それもおそろしく高度な技術で造られた機械時計ですね。
ところで、私たち科学者が日常で機械式腕時計をつける場合、注意しなければならないことがあります。
機械式時計は磁力に弱い、あまり強い磁力にさらされれば、内部の機構が狂ってしまいますからね。
ですから、電子機器などによくふれる科学者が腕時計をつける時は、耐磁性能を備えているモデルを選びます。
魔法関係は私にはわかりませんが、ガーデンほどの機械式時計ともなれば、当然、その精度を保っために高度の耐磁性を備えていると思いますよ。おそらく、ぜんまい部分にニオブ(Nd)を主とした合金を仕様しているのではないでしょうか。
科学的にはこれが地下にあるために、ガーデン内の電波のやりとりに悪影響を及ぼしているのだと思います」

「わかりました」

 としか答えようがないですね。

「ベスくん。もうじき動きだしますよ。気をつけてくださーい」
 
 陽太くんがベスくんがいるはずの方向へ叫びました。
 そして。

 ぐわしゃぐわっしゃんしゃんん。ガシャギャシャシャギャシャシャ。

 轟音が鳴り響き、枠内の歯車とフレーム自体がかなり高速で一斉に回転したのです。
 すぐ隣にいる鼎くんの声さえ聞こえない嵐の騒音。
 いくらなんでもこれでは。
 ベスくんが。
 想像以上のトゥールビヨンの激しい動きに、私も、鼎くんも、陽太くんも同じ思いにいたったらしく、三人ともフレームを見上げあ然としています。
 機械音に混じって、ぎゃー、とか、うぉおー、とか獣じみた悲鳴が何度かした気もしました。

 数分後、歯車は止まり、静寂が戻りました。

「時計は、歯車を爪楊枝の先で軽く押しただけで止まってしまったり、思いがけない動きをする神経質な機械です。もし、ベスくんが……なら、MOVEMENT全体に影響を及ぼす可能性がありますね」

「ベスくん、死んじゃったかもしれませんね」

 鼎くんの冷静すぎる意見も、陽太くんの直接的すぎる言葉も、このうえ、私はなんと言えばいいのでしょうか。
 現段階で一番の問題は、誰がベスさんを見に行くかだと思います。

「私は、全体を観察したいんでここから動けないですね」

 あ。

「司さん。俺がナビしますから、安心してあがってください」

 は、はい?
 気づいたら、私、軸棒をのぼってるんですけど。

「もし、動きだしたら、その場で小さくなってじっとしててくださいね」
 
 ナイスなアドバイスです。頼りになりますね。ははは。
 だんだんと上の方にきましたよ。
 ベスくんはこのへんから内部へ入った気がしますね。私もこの油のにおいのする闇に入らないといけないんですか。はぁ。血ににおいがしないだけ、マシかも、ですが。

「           」

 声が聞こえました。


「                 」

 誰かなにか言ってますよ。
 私は声に導かれるように奥へ進みます。歯車の森で私を待っていたのは、巨大歯車の上に腰をおろした。アルビノの青年。ベスくんでした。

「よう、ツッキー。ここのビス、ゆるんでるんだ。歯車がグラついててさ。工具、持ってきてくれたか」

「きみ、よく無事で」

「あん。別になんにもねぇだろ。
 
 あの程度は俺の人生じゃ、よくあることだぜ。
 俺もほんとは一度、地上に戻りたいんだけどよ。ここも戦闘のまっ最中だし、とにかくMOVEMENTをちゃんと動くように整備するのが大事だもんな」

「ベスくんはいい人ですね」

「なに言ってんの。おまえ。え。工具ないわけ。なにしにきたんだよ。俺がここで待ってるから、持ってきてくれよ。他にも直したいとこがあるんだよ」

 はいはい。

「すいません。すぐに持ってきますね」

 急がないといけません。ベスくんが言うように、いま、MOVEMENTでは集団戦闘が行われているのです。
 他の捜査メンバーが戦ってくれているからこそ、私たち四人はこうして調査をしていられるのですよ。
 早く調査を完了させて、戦闘班のみなさんと合流しないと。

◇◇◇◇◇

長原 淳二(ながはら・じゅんじ)> 

ゲドー・ジャドウたち率いる新興宗教「心教」の信者たちと、俺たち、ガーデンの事件の調査にきていたメンバーはMOVEMENTで激突しました。人数的には、ざっと五十人以上はいる、あちら側に分がありますが、俺たちの陣営は猛者揃いです。
心教の連中の目的は、ガーデンの心臓部、MOVEMENTを徹底破壊することらしく、俺たちはそれを守り抜くために団結、協力しました。
ガーデン内でパートナーのシメオン・カタストロフを教祖とする新興宗教「心教」の布教活動を行っていたゲドー・ジャドウとジェンド・レイノートは、集会で虐殺事件をおこし、犯人として身柄を拘束され、ガーデンの住民法廷に立たされました。
しかし、彼らは信者たちの手を借りて裁判所を抜けだし、信者たちとともに今度はガーデンの破壊活動をはじめまたのです。
俺自身は、IDEALPALCEで如月正悟にやられた後、今回の事件の全貌を知るためにMOVEMENTについて調査を開始して、結果、ここまでやってきました。
こうなったら、殺人事件どうのよりも、ガーデンの住民すべての平和のためにも、ここを壊させるわけにはいきません。MOVEMENTとガーデンは一体です。MOVEMENTを破壊されてしまったら、ガーデンの存在意義もなくなる気がします。
ベテランの職人たちへの聞きこみで俺が得た情報では、この地に集まった四つの部族は、当時すでにその姿をどこかへ消していた賢者の残した設計図に従って、まず、地下のガーデンを建設してから、地上部分を建てたのだそうで、ガーデンの平和にためには、MOVEMENTが正常に作動していることが必要だと、職人たちは、異口同音に語ってくれました。
俺は、彼らの言葉を信じます。
ただただ破壊を求める心教の信者たちの好きにはさせない。
戦闘に臨んでいる俺たち六人の前衛は、アフロにサングラスで執事服を着た、一見すると、その筋の人にしかみえない逆三角形体格の獣人、ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)さん。ヴィゼントさんはまだ獣化はせずに、その体を生かして迫り来る敵たちをブン殴り、ちぎっては投げをエンドレスに繰り返しています。
時おり、ぐおおおおっ! とか雄叫びをあげてて、味方でも近づきがたい一人ハリケーン状態。
豪快な反面、動きに隙が生まれやすいヴィゼントさんの横で、薙刀を振り回し、細かく敵を各個撃破して敵の連携を断ち切る、ヴィゼントさんの援護的な小気味よい戦いを展開しているのが、鞆絵御前こと中原鞆絵(なかはら・ともえ)さんです。
鞆絵さんが薙刀を振るたびに、周囲の敵が負傷し、倒れてゆく。
いまの鞆絵さんには、奈落人になった源氏の猛将、木曾義仲(きそ・よしなか)さんが憑依しているそうで、俺の出身国日本の英雄、源氏の名コンビが二心同体で復活しるわけですね。
同じく前衛で、ヴィゼントさん、鞆絵さん&義仲さん組の逆サイドにいるのは、吸血鬼のソーマ・アルジェントさん。ソーマさんはMOVEMENTで迷いまくったあげく、ここにたどりついたらしく、

「どけ。俺は外にでたいんだ。俺の邪魔をするな」

いらだたしげに怒声をあげながら、ファイアストームを連発し、立ちはだかる敵たちを紅蓮の炎で焼き払っています。接近戦を挑んでくるものには、スキルの罪と死で、杖から闇黒をだして応戦。
細身で美男子のソーマさんを甘くみて挑んできた連中は、みんな瞬殺されていきます。
心教の信者たちは次々を打ち倒され、戦闘不能状態に陥って、ついに教祖であるシメオンが前線にでてきました。
しかし、こちらの前衛の3人は、それでもまだまだ数がいる多くの信者たちに囲まれており、シメオンを攻撃できる余裕のある人は、いない様子です。
シメオンが倒れれば、トップを失った連中は戦意を喪失して、総崩れになるかもしれない。
後衛として、前にいる人たちの背後を守る位置にいる俺は、持ち場を離れて、シメオンを倒しにいこうか、迷いました。ですが。

「オニーサン。持ち場を離れちゃだめヨン。
あの上半身のスキンむきだしの細マッチョさんは、あたしの獲物ダヨ。
ようやく、歯ごたえのありそうなのがでてきて、ヨダレがとまんねぇッスよ」

定位置はなく、気分のおもむくままに動き回って、側にいる敵をタコ殴りにしたり、すでに他の人に受けたダメージで倒れている敵にトドメの一撃的な攻撃を加えたりしていたヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)さんが、血まみれの拳の両拳を構え、うれしそうにシメオンの方へと駆けていき、かなり離れた場所から大ジャンプし、彼の横ツラに頭突きをかましました。
ヒルデガルドさんの拳の血は、ほとんどが彼女が殴った敵の血だと思います。
いきなりの予期していなかった衝撃にふらつき、大地に倒れるシメオン。
ヒルデガルドさんは、そのままシメオンに馬乗りになって、拳、肘の雨あられの乱れ撃ちです。

「アーハーン?
反撃しないと死ンジャウぜ。救世主サマ。
まだ、イクのは早いんジャナイノデスカ。
アナタハ、神ヲ信じますか?
カタクテ壊れにくい、いい顔シテンナ。
ハッハァー!! てめえは骨太デ、殴りがいがありすぎて、ゾクゾクしてきたヨ。あたし、濡れちゃいそう・・・!!」

「教祖さんが倒れましたよ。心教のみなさん、戦闘は終了です!
あなたたちが破壊活動をやめなければ、教祖は死んでしまいますよ!」

効果があるかどうかわかりませんが、俺はできる限りに大声で叫びました。
シメオンは脳震盪でも起こしたのか、ヒルデガルドさんにされるがままです。あたりには鮮血が飛び散っていますが、ピクリともしません。
本当に早くとめてあげないと、あまりにもムゴすぎる有様になる気がする。

「こっちは、ゲドー・ジャドウの身柄を確保しましたぜ。
こいつは、仲間たちをおいて自分だけ逃げようとしていた、とんでもないやつでさぁ」

「一軍の将としては、万死に値する行為じゃな。敗軍の将は捕虜になって生き恥をさらすよりも、自ら死を選ぶのが常考。おぬしにその覚悟がないのなら、わしが鞆絵の薙刀でその首をはねてやろう」(義仲様。それは悪ノリのしすぎかと。どうせ、死んでいただくのなら、MOVEMENTの巨大歯車にでも挟まっていただいた方が、みなのためになると思います。MOVEMENTはまだまだ得体の知れない機械ですからねぇ。
ベスさんだけでなく、他の方にも体を張って調べていただければ、それだけ機械の正体がつかみやすくなるのでは、ありませんか)

「そうじゃな。このようなやつでも、歯車に挟めば、また機械が逆回転したりして、よい効果を生むやもしれぬ。ゲドー・ジャドウとやら、覚悟はいいな。歯車へゆくぞ。案ずるな、死ねばそこで終り、例え、重傷でも死にさえしなければわしが(憑依して)墓場まで這ってでも運んでやるからな」

「10倍近い人数がいるのに、なんで俺様たちが負けるのか納得いかないよ。
シメオンの教育が悪いか、ガーデンの住民がもともと弱いかのどっちかだよな。してからに、俺様に責任はない。だ〜ひゃっはっは!」

ヴィゼントさん、鞆絵さん&義仲さん組に捕まったゲドーは、ものすごく不機嫌そうな顔で地面にあぐらをかき、半ばキレ気味でステリックに笑っています。

「俺も小僧の天使を捕まえたぞ」

ソーマさんはジェンドの小さな体をゲドーの隣に放り投げました。

「ひっどいなぁ。それにボクは天使じゃなくってヴァルキリーだよ。男の子だけどね。
ゲドーさんとシメオンさんについてきただけで、ボクは無実だよ。
吸血鬼のお兄さん、あんまりひどいことしないでよね♪」

「いくらかわいらしい顔をしても、ムダだ。おまえでは俺の好みには幼すぎる。
いや、別に俺は、好みのやつがあらわれても手加減などはしないぞ。ただ、情報収集の相手としてくわしい話を聞くくらいはするかもしれんがな。
だが、こいつら、三人はどれも俺の基準からは外れているな。
ここで始末するのなら、俺は別にかまわないぞ」

MOVEMENTをさまよい続けたせいでいら立っているのか、ソーマさんは、半ベソをかき(ウソ泣きでしょうけど)、いたいけな雰囲気をかもしだしているジェンドに、冷ややかなまなざしをむけました。
主要三人が捕獲されたのみた心教の信者たちは、戦意を失ったらしく、我さきにと逃げだしていきます。

「本当に腰抜けばかりじゃのう」(ムダな血が流れずにすんでよかったでは、ありませんか。この場から動けない負傷者の方たちの治療してあげないといけませんね)

「重傷者をおいていくわけにもいきませんから、自分が担いで地上まで運びますよ」

「戦も終わって、腹が減ったぞ。誰か俺の栄養補給に使えるやつはいないかな。俺はグルメだからな、獲物の見た目にもこだわるぞ」

逃げる信者たちを追う人は誰もおらず、鞆絵さん&義仲さん、ヴィンセントさん、ソーマさん、それぞれに戦後処理の入った様子です。
俺は、まだ、どこかに隠れてこちらに奇襲をかけくる敵はいないかと周囲を警戒しつつ、馬乗りパンチ継続中のヒルデガルドさんに近寄りました。

「そろそろ、やめてあげてもいいんじゃないですか」

「ホワイ? こいつよりも、おもしろいオモチャをあんたが用意してくれるんなら、それでもいいけど。
そこらへん、ドウナノサ。
倒れてるやつ、適当にみつくろって持ってきてクダサイマセヨ。と、おっ」

俺の言葉に効果があったとは思えないのですが、ヒルデガルドさんが立ち上がりました。

「活きのいいがきたんジャねぇスか」

彼女の視線の先には、まだに誰もいませんが、俺も、気配を感じてます。これは。

「みなさん、また敵がきます。今度は四方からです。俺たち囲まれてますよ」

俺が言う前にすでにみなさんも感じていたらしく、俺たちは武器を構え、背中合わせになって、6人で円をつくりました。

「ソーマ!」

暗がりから声が響き、足音とともに駆けてきたのは、

「北都。来るのが遅いぞ。ルディ。ヴァーナー。銀とミシェルもいるな。おまえら、勝手に迷子になりやがって、探したぞ。一緒に行動するのなら、あまり俺に負担をかけるなよ。
それからルディ。俺がいないからといって、北都におかしな真似はしていないだろうな。
北都に手をだしたら、俺がおまえをおまえの神とやらのところへ即刻、送り込んでやる。
他の者はともかく、俺はおまえには、まったく気を許していないからな、そのことを忘れるなよ」

口ではそう言いながらも、はぐれていた仲間たちと会えて、ソーマさんはほっとした感じです。
新たにこちらにきた5人が自己紹介をする間もなく、俺たち全員は、とっさに危険を察知して、それぞれにその場から飛びのきました。
つい、いままで俺たちのいた場所には青白い閃光を放ちながら、雷撃が直撃。
ゲドーたちも、ゲドーとジェンドが倒れたままのシメオンを引きずって、どうにか危機を逃れたようです。

「おまえら、厄介そうな連中を連れてきてくれたようだな」

ソーマさんの言葉が合図になったように、黒のゴスロリドレスの同じ顔をした少女たち、ローブを羽織った魔術師たち、吸血鬼、狼などの獣人の集団、総勢数百人はいそうな軍団が、わらわらとあらわれ、俺たちに攻撃をしかけてきました。
百や二百ではきかない数がいる気がする。
今度こそやられるかも。

「俺はおまえを必ず守り抜く。ミシェル、俺から離れるな」

「銀。わたしも戦うよ」

「たたかいはよくないですけど、わるいひとたちにここを占拠されるとガーデンのみんながこまるですよ。ぼくもいっしょうけんめい戦うです。けがをした人はなおしてあげるですよ」

「神よ。神の子と天使に、そして、ガーデンの民のために戦うすべての者たちにご加護を」

それぞれが思いを口にしています。そして、誰も逃げようとはしない。たぶん、あの祈ってる人が容疑者のニトロさんの双子の弟さん、自称神父のルドルフ・グルジエフさんですね。

「戦こそ我が人生じゃ。相手に不足はない、斬りまくるぞ」(この数だと手加減しているとこちらがやられてしまいそうですね)

鞆絵さん&義仲さんが薙刀を見えないほどの速さで旋回させながら、前にでます。
さて、俺もがんばらないといけないようですね。

「アーサー王伝説の再現はとりあえず決着がついたんだけど、ガーデンの秘宝っていうか隠された力を使うには、MOVEMENTが鍵になるらしいんだ。
だから、ノーマンの一派も、クロウリの部下たちもみんなこうしてMOVEMENTを押さえにきている」

襲いかかってきた虎の獣人に、アルティマ・トゥーレで氷撃を与えながら、俺は北都が誰かに事情を説明しているのを聞きました。
犯罪王ノーマン・ゲインと20世紀最大の魔術師アレイスタ・クロウリ。
マジェの闇と深くかかわっているらしい彼らとは、事件を捜査していれば、どこかで会うかとは思っていましたが、敵が彼らだと明らかになった以上、どんなに不利でも絶対に負けられませんね。

「うぉおおおりやああああああ」

さっきの戦いとは比較にならないほど荒々しいヴィゼントさんの雄叫び、いや咆哮。
しかし、俺たち一人一人は奮闘、善戦していると思うのですが、いかんせん数が違いすぎます。
総数で二十倍以上は優にいる敵たちに、俺も、視界に入るほかの仲間たちも包囲され、だんだん防戦一方になってきている。
このままでは。

「キミ。全滅したくないのなら、こちらへくるのです」

目の前の敵たちの対応に必死な俺の横にいつの間にかきていた六鶯鼎さんは、俺だけでなく、戦っているほかの人たち全員の間を素早く声をかけてまわり、俺たちは先行する彼の、白衣の背中を追って、MOVEMENTの奥へと走りました。

「ずいぶん誇張した言い方になりますが、私たち調査チームはとりあえず、MOVEMENTの機能のほとんどを把握しました。
ベスくんの献身的な活躍のおかげです。
ですので、いまから、それらを使って、この敵たちを撃退したいと思うのですが、異議のある方はいらっしゃいますか」

振り返りもせず、走りながら語る六鶯さんの説明を全員が黙ってきいています。
声をだす余裕がないだけかもしれませんが。
数分間、全力で走った俺たちは、直径十メートル以上はある巨大な支柱の前で待っていた影野陽太さん、月詠司さん、そして、あちこちに包帯を巻いたり、絆創膏を貼ったりした痛々しい姿になって、司さんの肩を借りてようやく立っている様子のベスさんことヴェッセル・ハーミットフィールドさんと合流しました。
それと彼らと一緒にいる数十人の男の人たちとも。

「この人たちは、ガーデンの職人のおっちゃんたちだよ。最近、MOVEMENTの調子がおかしいっうんで、地下にこもりっきりで整備してたんだ。
俺たちもほんのちょびっとだけ協力して整備は完了した。
MOVEMENTは完全に正常だ。
おっちゃんたちは、これから女房、子供の待つ地上に帰るそうだから、一緒に行こうと思ってさ」

ケガをしてるにもかかわらず、ベスさんは飄々とした感じで、職人さんたちを紹介してくれました。

「戦闘班のみなさん、ありがとうございました。おかげで、MOVEMENTの複雑機構を探索することができました。
ストーンガーデンは時計で、その内部装置であるMOVEMENTには高級機械式時計に内蔵される七大複雑機構のすべてが組み込まれています。
例えばソーマさんが迷い込んだ4年に1度しか使われないエリアは、パーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)に使われている部分でしょう。
閏年の2月29日を示す文字盤は、四年に一度しか使う必要がありませんからね。
機械式時計の中でも複雑機構が3つ以上、組み込まれているものを特別にGRAND COMPLICATION WATCHと呼びます。
ガーデンはまさしくそれなんですよ。
この、ケース径(ケースの直径)数キロメートルの時計は職人の手作りです。まさしく技術の粋ですよ。
みなさん、これは、俺の推理なんですが」

影野さんは、少しためらってから続けました。

「ノーマン・ゲインと同じ姿をした少女? たち、おそらく、彼女たちはガーデンを時計として正常に動かすための潤滑油の役割を担っています。
彼女たちが名乗るartificial ruby(人造ルビー)とは、もともと普通の機械式時計のMOVEMENTに使われている部品です。
artificial rubyなしでは、MOVEMENTは正常に動きません。
ですから、みなさん、artificial rubyを殺さず、できるだけ無傷で捕らえるように気をつけてください。
お願いします」

「自分のクローンだか、分身だかを時計の部品にしておいて、時計を壊したくなったら、それらを事情を知らない他人に殺させる。
ノーマンさんの考えそうなことの気がしますね」

司さんのフォローに俺たちは頷きました。

「で、話を戻すとですね。
この、MOVEMENT内には、その機能を保つためにいくつかの自衛装置が装備されています。
現在の私たちは、職人さんたちの協力のもと、それを使用できる状況にあるわけです。
古くは米倉のねずみ返し、最近ではPCやビルのセキュリティをイメージしていただければよいかと。
そこで、それを使って敵軍を撃退するつもりなのですが、artificial rubyだけは、傷つけるわけにはいきませんので」

「俺がartificial rubyたちの身柄を確保します」

六鶯さんが話し終わらないうちに、俺は名乗りでました。
みんながこんなにがんばっているのだから、俺にできることがあれば、ぜひ、やりたい。そう思ったからです。