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ありがとうの日

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ありがとうの日
ありがとうの日 ありがとうの日

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○     ○     ○


「制服姿の人も、沢山いるわね。良かった」
「パレードの為の衣装かもしれないけれど」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、淡く微笑み合う。
 2人は教導団員として、捕虜交換の準備に携わっていた。
 テロや、潜入に備え、現地の警備を担当しているのだが、合間に数日間の休暇をいただけたのだ。
 一番近い都市である、ヴァイシャリーで祭りが行われていると聞き、今日は一緒にのんびり楽しむ為に、訪れたのだった。
 普段着を用意してなかったので、2人共、教導団の制服姿だ。
 だけれど、軍服っぽい姿の者も多いため、さほど目立ちはしなかった。
「いい雰囲気だね……。ヴァイシャリーだから、派手で豪華なイメージもあったんだけれど、今回のイベントは、手作り感あふれるカンジで」
「本当。素朴で心地良いわ」
 人々の表情からも、安堵感が読み取れて。
 ようやく平和が戻ったんだと実感していく。
 同時に……。
「次の戦争までの、狭間の、つかのまの平和でしかないのかもしれない」
 セレンフィリティのそんな小さな呟きは、祭りの音にかき消され、セレアナの耳には入っていない。
(今回は、自分もセレアナも共に生き残れたけれど、次に戦争が起きて、また戦いに駆り出されたとき。今度も生き残れるという保証はない)
 と、そんなことを考えている自分に、セレンフィリティは思わず苦笑する。自分らしくないな、と。
「どうしたの?」
 呟きは聞こえていなかったけれど、考えも聞こえていたわけではないけれど、2人は仲の良い恋人同士だから。
 セレアナは、セレンフィリティが何か深く考え事をしていることに、すぐに気づいた。心配そうに、セレンフィリティを見る。
「あはは、なんでもないの、なんでも〜」
 ごまかし笑いで躱して、セレンフィリティはすたすたと歩き出す。
「おっ、見て」
 セレンフィリティは占いの店を見つけ、指差した。
「恋占いもやってるみたい。占いやっちゃおうか!」
「え?」
「行こういこー」
 セレアナは考える間もなく、セレンフィリティに腕を引っ張られて占いの店の方へと連れていかれた。
「いらっしゃい」
「ようこそいらっしゃいました」
 占いを行っているのは、魔女と英霊の二人組の占い師だった。
「恋占いお願い!」
「了解。それじゃ、この水晶玉にこうして手を当てて」
 魔女の少女に言われた通り、2人は水晶玉に手を当てた。
 占い師は何やら呪文のような言葉を呟いて、水晶玉を覗き込む。
「……はっきり申し上げても良いでしょうか……」
 占い師の言葉にドキッとしながらも、「う、うん……」とセレンフィリティは頷く。
 セレアナは少し怖くなって、そっとセレンフィリティの服を掴んだ。
「良好よっ。明るい未来が見えるわ」
 占い師がにこっと笑顔を浮かべる。
「や、やった!」
「驚かさないでください……」
 セレンフィリティとセレアナがほっと笑みを浮かべる。
「ただし、世界が平和なら。2人が共に歩むのなら、ね」
「うん……世界は分からないけど、あたし達は一緒だから」
「ええ」
 占い師に礼を言って、代金を払い。2人はその店を後にする。
「次はあの店よー! 行くわよっ」
「え? う、うん」
 セレンフィリティは元気にセレアナの腕をぐいぐい引っ張って、出店を回っていく。
 元気すぎるくらいに。

 そうして、祭りを明るく楽しんだ後。
 少し外れた場所のベンチで、購入したアクセサリーを各々つけていたら。
「ねえ」
 セレンフィリティが少し寂しげな顔をセレアナに向けてきた。
 彼女の片方の耳には購入したばかりの、手作りのイヤリングがついている。
 もう片方は、セレアナの耳についていた。
「もしあたしが死んだら、このリングを回収して、片方の耳に付けてちょうだい?」
 そう言う、セレンフィリティの目が潤んでいく。
「嫌よ」
 すぐに、セレアナは言い返す。
「死ぬなんて許さない。死んで別れるのは嫌」
 はっきりと悲しさと厳しさが込められた声で続ける。
「私は我儘なの。私と一緒に生きるのよ」
「……うん」
 指で零れかけた涙をぬぐいながら、セレンフィリティが頷いた。
 だけれど……死はある日突然訪れる可能性がある。
 だから、今日のことを覚えていてほしいと、セレンフィリティは思う。
「共に歩んでいたら、未来も明るいから」
 セレアナのその言葉に、セレンフィリティはまた頷いて。
「そう、だね。うん!」
 元気を出して、立ち上がる。
「お腹空いたわね。そういえば、お腹の足しになるもの、ほとんど食べてない」
「かき氷とか、わたあめしか食べてないわね。何を食べようかしら」
 手を繋いで、明るい街の中へと2人は歩き出す。

○     ○     ○


「先ほどの娘さん達は、辻占の結果でも良い未来が訪れると出ましたが……。少し心労を抱えているようでもございました」
 店を片付けながら邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)はそう言った。
「そうねー。パラミタの未来が分からないから、生きる人々の未来も、流動的なのよね、ホントのところ」
 水晶玉で占いをしていたのはリーア・エルレンという名のシャンバラ古王国時代から生きている魔女だ。
 壱与(壹與比売)の友人でもある。
「さて、委員会に道具をお返ししたら、私達も遊ぼっか。お小遣いも稼いだしね!」
「ええ、楽しむでございますよー!」
 運営委員会から借りた、テーブルや敷物を片付けて、2人はテントへと運んでいく。
 お礼を言って、返した後。
 少女姿の2人も、客として祭りを楽しみ始める。
「それにしても、皆、格好からして楽しそうよね」
「眩しい色の服を纏っている人が多いですね」
 ヴァイシャリーの余所行きの服装の若者達に、日本の祭りの姿の若者達。
 制服姿や、軍服姿の人々も結構見かける。
「……なんかすごい格好の人もいるけどね。恥ずかしくないのかな」
「本当に……」
 2人が見た先には、露出度の高い、踊り子風の衣装をまとった少女の姿があった。
「大胆よねぇ」
「ええ」
「パレードに出る、踊り子さんかしら?」
「そうでございますねぇ」
 そんな会話をしながら、笑い合う。
 その間に、その大胆な服を纏った女性は、屋台の裏に隠れていた。でも、ちらちら顔を覗かせているので、どこにいるのかは一目瞭然だった。
 彼女は、壱与のパートナーの清良川 エリス(きよらかわ・えりす)だ。他のパートナーの悪乗りであんな服を着せられてしまっていた。
 祭りじゃなければ、職務質問を受けるレベルの格好だ。
「エリスが自分を変える勇気を持とうと、駄目元で生徒会選挙に出てみることにしたそうです。ですが、立候補したのは副会長だとか。半端でございます。やるなら王の座を狙うのは当然でしょうに」
「そうよね。そしていずれはヴァイシャリー家から百合園を譲り受けて経営よね!」
「そして、新たな代王となり、ゆくゆくは国家神に……」
 冗談を交えて和やかに2人は会話を楽しんでいく。
「お祭りもいいけど、今年も何か泊りがけで楽しめたらいいわね」
「ええ、温泉合宿は良い思い出でございます。今度は試験など関係なく、ゆっくり行きたいものでございます」
「そうねー」
 合宿の話が出た途端、後ろでガタガタという音がした。
 ……エリスが動揺して、躓いたのだ。
「ひぃっ」
 露わになった太腿を必死に隠す姿は……見なかったことにしてあげる。
 ……だけど。
「あら? こんなところで何してるの。ほら始まるわよ。急いで!」
「え? え? ええーっ!?」
 同じような大胆な衣装をまとった女性が、エリスの手を引いてパレードの方へと連れて行く。
 パレードに出る踊り子と間違われたらしい。
「……助けてあげた方がいいかしら?」
「勇気をつけてもらわなければなりませんから、見守りましょう」
「ん、じゃポップコーンでも買って、沿道でパレード見学しよっ」
「ええ、2人で楽しむのでございます」
 エリスは壱与が心配でついてきたようなのだが、壱与としてはちょっと邪魔だった。
「ちゃいます、うちちゃいますんっパレードの人やあらへん」
 必死に抵抗しているようだけれど、説得力のない格好だ。
「演壇に立つ覚悟で、生徒会役員に立候補したんでしょー。しっかりー!」
 リーアは笑みを浮かべながら、大きな声でエリスを応援する。
「わたくし達が占いを行ったように、しっかり、祭りに貢献してくださいませ」
 壱与もそんな風に応援して。
 リーアと並んでお菓子を食べながら、エリスの妖艶――とは言えない、どたどた踊りと、パレードを楽しく見学していく。