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なし

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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

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●30

「ふははははっ、クランジΚなら、ほれ、ここにこの通り捕獲したぞ!」
 移動中話しかけられて、ジークフリートは堂々と応えた。
「お兄さんたちは彼女を連行していくところです」クドも告げた。
「……」しかしメフィストフェレスは何も言わず、二人の陰に隠れるようにしている。
「そうですか……これがクランジΚ、ですかね?」石像となったメフィストフェレスを、じっと眺めながら緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は言った。
 事情は聞いた。本当なら結構な話だ。問答無用で破壊してしまうよりずっと優れた解決だろう。鹵獲し、おそらくは教導団庇護下になるのだから。彼女から情報が引き出せるかもしれないし、ことによっては味方にできるかもしれない。
(「けれど……」)遙遠の心の冷静な部分が違和感を表明していた。どこがどう、というわけではない。しかし、今、石化しているメフィストフェレスではなく、彼らと一緒にいるメフィストフェレス(見た感じは女性)のほうに、言い表しようのない危険を感じていた。だから遙遠は、あえて石になっていないほうのメフィストに話しかけたのである。
「クランジΚはこれで無事捕まりましたね。残念ながらラムダは破壊されたと聞きましたが……まずはめでたし、です」
 このとき遙遠は、メフィストが微かに動揺した様子なのを読み取っていた。やはり彼の直感は正しかったようだ。しかし、そのことをおくびにも出さず彼は続けた。
「Κは……彼女は、相手を壊すこと、殺すことが好きなんですよね?」
「なぜ私に……?」メフィストは短く答えた。まるで、長く発言し記録を取られることを恐れているかのように。
「さて? どう思うか知りたかっただけです」
「任務に是も非もない、と思っているのだと……思います」
「彼女――もちろんクランジのことですよ――は、何が好きで、何を幸せに感じているのでしょう?」
 ジークとクドがさりげなく、メフィストの左右についたことに遙遠は気づいた。気づいたが、敢えてそれ無視する。
「あんたはどう思いますか? ……遙遠にとって、クランジとの戦いはあまりにも無益ですからやりたくないのです。それどころか彼女には、できれば任務などから解放されて充実した人生を送ってほしい、と願っています。人を暗殺して回ること、裏切ったり任務に失敗した仲間を追って破壊することが、どうして充実した人生といえましょう? だから遙遠は、お互いが納得できる『落としどころ』を見つけたいと考えています」
「彼女は石だ」メフィスト――いや、クランジΚは冷徹な声で言った。「石は、話を聞くことができない」
 判りました。と頭を下げ、遙遠は引き下がった。
「それでは、気をつけて護送下さい。また会いたいですね。彼女に」
 去りゆく三人の背に、こう一言つけくわえることも忘れなかった。
「できれば次は、『石』ではない彼女に……」