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第6章 長い夜、うつらうつらのご奉仕☆

「さて、そろそろ一日の締めくくりのご奉仕をしてもらって、寝ようかしら」
 神殿の客室で、崩城亜璃珠(くずしろ・ありす)はそういうと、手をパンパンと叩いた。
「ご主人様、お呼びでしょうか」
 亜璃珠たちの客室の専属メイドである宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)が、部屋の扉をさっそうと開けて現れると、亜璃珠たちの前にひざまずいて、いった。
「私と小夜子は、もう寝ようと思っているわ。ベッドメイクはちゃんとしてあるようだけど、最後に、今日一日の疲れをとるご奉仕をして欲しいの」
 亜璃珠は、自分自身と、一緒に宿泊している冬山小夜子(ふゆやま・さよこ)とを指して、いった。
「メイドさん、名前は祥子さんっていうんですか? 可愛いですわ」
 小夜子は、深く頭を垂れ、亜璃珠の指示に耳を傾けている祥子の姿を好ましく感じて、ニッコリ微笑んだ。
「はい。わかりました。誠心誠意、お仕えさせて頂きます」
 祥子は一流のメイド作法に乗っ取ってそういうと、亜璃珠と小夜子に、二人並んでベッドに寝そべるよう促した。
「あら。マッサージをしてくれるの? 嬉しいわね」
 亜璃珠は、微笑んだ。
 だが、その瞳は燃えるようで、ギラギラとした鋭い光を放っている。
 祥子の一挙手一投足をじっと観察する亜璃珠は、何かよからぬことを考えているようだ。
 そうとは知らぬ祥子は、うつぶせになった亜璃珠の背中の上に乗って、丁寧にマッサージを始めていく。
「ご主人様。力加減はどうでしょうか?」
「あら。うまいわね。気持ちいいわ」
 亜璃珠は目を細めてそういいながら、毒牙を剥き出す瞬間をうかがっていた。
「ちょっと、背中だけじゃなくて、前もやってくれないかしら」
 亜璃珠の言葉に、祥子は一瞬首をかしげたが、
「わかりました。前もですね。それでは、仰向けになって下さい」
「悪いわね。それじゃ、ここを」
 仰向けになった亜璃珠は、自分の胸を指して、いった。
「えっ!? そこですか」
 祥子はびくびくっとして、亜璃珠の顔をしげしげと眺めた。
「そんなにみつめないでよ。恥ずかしくなるじゃない」
「申し訳ありません」
「じゃ、やってよ」
「は、はい」
 祥子は勇気をふるって、亜璃珠の胸に手をかけた。
「きゃっ! 痛いわ!!」
 亜璃珠は、わざとおおげさに痛がってみせた。
「だ、大丈夫ですか?」
 亜璃珠は、焦る祥子の頬を両手で挟んで、自分の胸もとに引き寄せた。
「ほわ? ご、ご主人様?」
 祥子は、思わぬ展開に心臓がドキドキ鳴りっ放しだ。
「ご褒美よ。頂きなさい」
 がぶっ
 亜璃珠は、祥子の首筋に噛みついていた。
 吸精幻夜が発動する。
「あ、あああああー」
 祥子は目を白黒させた。
「お、お姉様、それはやりすぎですわ」
 驚いた小夜子は、祥子を亜璃珠から引き離そうとした。
 だが、亜璃珠は、そんな小夜子を逆にとらえて、その首筋にも噛みついていく。
 がぶっ
 ちゅうううう
「は、はあああああ」
 小夜子は目を白黒させた。
「ふふ。準備はオッケーですわね」
 亜璃珠は意地悪な笑みを浮かべてそういうと、目をまわしている祥子に手錠と首輪をつけ、ロープで縛り始めた。
「……うう。はっ、私はいったい!? こ、これは!!」
 目を覚ました祥子は、自分が拘束されていることに気づいて、愕然とする。
「気がついたようね。私は心がとっても広いですから、満足にご奉仕できないメイドさんにも別のお仕事を与えてやろうと思いますわ」
 亜璃珠は、祥子に片目をつむってみせて、そういった。
「えっ、どういう? あ、小夜子様!!」
 祥子は、目をくらくらさせた小夜子が無言のまま自分につかみかかってきたので、悲鳴をあげた。
「は、はわあああ、さ、楽しみましょう」
 小夜子は吸精幻夜による幻惑が続いていて、何が何だかわからない状態のまま、祥子の全身にヌルヌルのローションを塗りたくり始めた。
「いけないわ。こんなことは、お、おやめ下さい!!」
 祥子の抗いの言葉も、小夜子には届かない。
 一連の光景を、亜璃珠はニヤニヤ笑いながらみつめていた。
「さ、さ、絡みあい、ましょう」
 小夜子はそういって、ヌルヌルになった祥子の身体に、絡みついていく。
「く! こ、これは! これは違うわ! 私は、パンツァーの神殿でメイドをやるのよ! 巫女を目指すのよ! それが、奉仕すべきご主人様に逆に奉仕されてるようでは、いけないわ!!」
 祥子は、歯を食いしばった。
「パンツァー神よ、聞いて下さい! 私は、私は!!」
 祥子の目がギラギラと光る。
 全身に、不思議な力がみなぎってきた。
「私はこの人たちに、『ご奉仕』するのよ!!」
 いまや祥子は、襲ってきた小夜子と体勢を入れ替えて、自分が小夜子の上にまたがるようになっていた。
「こんな手錠が、何ですか!!」
 祥子が手首をうちふると、ローションの効果か、手錠はヌルリと外れて、床に転がった。
「な、何ですって!?」
 見守っていた亜璃珠の目が、驚愕に見開かれる。
「小夜子様、目を覚まして下さい!!」
 祥子は、小夜子の手からローションの瓶をもぎとると、その中身を小夜子の全身にぶちまけた。
「はああああ、私がヌルヌルになっちゃいましたわ」
 小夜子は、全身にぬらつく液体を自分の指ですくって、糸を引くその様をみて、どこか恍惚とした表情になった。
「正気に戻すにはこれしか! ヌルヌル癒しのマッサージ!!」
 祥子は、小夜子の全身にマッサージを仕掛けた。
 小夜子の腕を伸ばし、足を伸ばし、痛いけど気持ちいい感じで、筋肉を徹底的に揉みほぐす。
 手刀を、手首に、足首に叩き込んだ。
「い、痛いですわ! でも……あああああああ!!」
 小夜子は絶叫し、失神した。
「さ、小夜子!」
 妹を抱え起こそうとした亜璃珠の腕を、祥子がとらえた。
「さあ、ご主人様! 妹様と同様に全身をリラックスさせて差し上げます!!」
「えっ、わっ、痛いー!!」
 祥子に身体を折り曲げられ、限界ぎりぎりまで筋肉を伸ばされたり、揉みほぐされたりして、亜璃珠は気持ちよさに涙し、我を忘れた。
「ご主人様! 昇天して下さい!!」
 最後に、祥子はベッドの上に直立して、うつぶせになった亜璃珠の背に乗ると、小刻みに跳躍して、自分自身の重みで背骨の矯正を始めた。
「あっ、あっ、ふっ、ふっ、素晴らしい。私の術を破るなんて、あなたは、メイドの中のメイドだわ!」
 亜璃珠は絶叫して、全てのストレスを抜かれた至福のリラックス状態の中で、失神した。
「はあはあ。それでは、ご主人様。ごゆっくりお休み下さいませー☆」
 2人の主人を誠心誠意のマッサージ奉仕で眠らせたことを確認すると、祥子は一礼して、客室から退出するのだった。

「はあ、お風呂からあがって、客室に入ったよ。でも、まだ、寝るには早いもん。だから、メイドを呼んで、ご奉仕してもらうんだもん!」
 久世沙幸(くぜ・さゆき)は、両手をパンパンと叩いた。
「はい、ご主人様。ご奉仕するにゃん☆」
 パニエにニーソのアリス風エプロンドレスを着込んだ神代明日香(かみしろ・あすか)が、猫耳をつけて、ネコのように四つ足の姿勢で駆けて、部屋に飛び込んできたかと思うと、沙幸の前にお座りして、行儀正しくお辞儀をしてみせた。
「あ、あれれ? 猫耳モードなの? 何だか、可愛いね」
 沙幸は、笑っていった。
「はい。ご主人様の、リクエストにおこたえしましたにゃん」
 明日香はそういって、ネコまねきのような仕草をしてみせ、ニッコリ微笑んだ。
「本当!? わあ、嬉しいな」
「それでは、ご主人様。マッサージでもいたしましょうか」
「はい。お願いしますね」
 沙幸は、くるりと振り向いて、明日香に背中を向けると、いった。
「ああ、これではやりにくいにゃん。脱ぎ脱ぎしてにゃ」
「ええっ!?」
 明日香は、沙幸の衣服を丁寧に脱がせて、肌を露出させた。
「さあ、いくにゃん」
 ぺろぺろぺろ
 明日香に背中を舐められて、沙幸は身悶えた。
「あっ、ちょ、ちょっと、くすぐったいー」
「ネコスタイルのご奉仕だにゃん。この舌、ザラザラして気持ちいいにゃん?」
「うん。気持ち、いいかも」
 沙幸は、いつしか明日香に身を任せるようになっていた。
「ご主人様。胸が大きいですにゃん。きっと、肩がこるのでは?」
 明日香は、沙幸の肩を揉んであげた。
「そう。すごくこるよ。あっ、ありがとう」
 沙幸は、明日香の奉仕に心底から感動した。
「ねえ、お願いがあるんだけど」
「何ですかにゃ?」
「私の全身をマッサージして欲しいな。隅から隅まで、残すところなく、ね。これを使って」
 沙幸は、客室に備えられてあったプラスチックの袋を明日香に手渡した。
 明日香がその袋を破ると、ネバネバとした液体がしみ出てきた。
「にゃー」
 その液体を沙幸の全身に塗り広げると、明日香は、沙幸の身体を手で優しく揉みほぐしてから、やはり、ペロペロと、肌という肌を舐めていった。
「ああ、気持ちいい。うーん、とろける感じ」
 沙幸は目を細めて、リラックスした。
 明日香は、ネコらしく、沙幸の身体のある部分をひっかいたり、かじったりしながら、ザラザラとした舌でどこまでも舐めあげてゆく。
 一心不乱に、ただひたすらお仕えしていった。
 明日香の奉仕するポイントによっては、沙幸の身体がびくびくっと震えて激しく反応することもあったが、構わず奉仕した。
「ああ、あふあ、はー」
 沙幸は、気持ちよさのあまり喘ぐことも多々あった。
 全部終わった後、沙幸は明日香を連れて、地下の温泉に入り、身体をお湯で流した。
 このときも、明日香は、沙幸の身体を洗ってくれた。
 そして。
 深夜、沙幸は明日香を連れて、神殿の最上階にある聖堂の中に入っていった。
 聖堂の中の御神像の前には、エリカと夜薙綾香(やなぎ・あやか)とが、一心に祈りを捧げている。
「さあ、お祈りしよう」
 沙幸は、御神像に向かって祈った。
「パンツァー様、明日香さんはとってもいいメイドだよ。チャーミングだし、猫耳もついてて、にゃんにゃんいうんだよ。むにゃむにゃむにゃ。是非是非、お巫女様の候補としてご推薦いたします」
 沙幸に促されて、明日香もお祈りをすることに。
「にゃんにゃんにゃん。ご紹介にあずかりました神代明日香だにゃん。ご覧のとおりの姿ですが、こんな私でもたっぷりご奉仕したいと思ってるので、よろしくお願いしますにゃ」
 お祈りが終わると、沙幸は、部屋に戻って、明日香にいった。
「さっ、もう寝ようか。お願い。今夜は、一緒に寝てよ」
「にゃん。お安い御用ですにゃ。それでは、添い寝いたしますにゃ」
 こうして2人は明け方までベッドの上で互いに寄り添って、大事なところを突き合わせながら、仲睦まじく眠ったのである。

「さあ、夜だよ。陽子ちゃん、今日はいつもの御礼ということで、日頃の疲れを徹底的にとり払っちゃうよ!!」
 緋柱透乃(ひばしら・とうの)もまた、客室の中で大はしゃぎしていた。
「透乃ちゃん。はりきってますね。私がお仕えされるなんて、何だか新鮮です。でも、この水着はいったい!?」
 透乃にいわれてマイクロビキニにハイレグの水着姿に着替えた緋柱陽子(ひばしら・ようこ)は、顔を赤らめながらいった。
「大丈夫だよ。ほら、私も同じのを着たよ」
 透乃は、陽子と同系統の大胆な水着姿を披露して、怪しく身をくねらせながらいった。
「そ、そういう問題ではないんですけど」
 陽子は、すっかり恥ずかしくなって、下を向いてしまう。
「最初は戸惑うかもしれないけど、慣れれば平気だよ。うーん、それにしても。あー、陽子ちゃん可愛いー!!」
 陽子の素晴らしい肢体にみとれた透乃は、思わずそう叫んで、陽子をベッドの上に押し倒してしまった。
 すてーん
「あ、あっ、あっ、透乃ちゃん、何するんですか」
 仰向けに倒れた陽子は驚いて手足をばたつかせて、起き上がろうとするが、そこに透乃が馬乗りになってきた。
「別に巫女に興味はないけどね。ご奉仕するよ☆ ハァハァ」
 透乃は、興奮して理性をなくしそうになる自分を必死で制御しながら、ローションの瓶の蓋を開けて、ねばつく液体を陽子の肌にたらし始めた。
「つ、冷たいです!! 透乃ちゃーん!!」
 陽子は、ローションの冷たさに驚き、身をよじらせた。
「大丈夫だよ。ほら、ここがツボー!!」
 透乃は、本能的に探りあてた陽子のツボに、ぐりっと指をめりこませた。
「あ、ああああー!!」
 陽子は、透乃が驚くほどの激しい反応をして、悶えた。
「う、うわー、色っぽいね。うーん、さすが私の妻だよ!! ハードなロマンスだね」
 透乃は、額に汗を浮かべて、力を込めて、熱心にマッサージした。
「はう、はう、ほう、ほう」
 透乃がどこかを突くたびに、陽子はいちいち極端な反応をしてみせている。
 陽子自身も気づかなかった肉体の可能性が、透乃という刺激によって掘り起こされ、少しずつ開花しつつあるようだった。
 いってみれば、陽子は、ダイヤモンドの原石のようなものだったのである。
 磨けば磨くほど、光る。
 その潜在力のあまりの深さに、透乃は感嘆せざるをえなかった。
「まさに神秘の泉だよ! もうローションは必要ないね」
 透乃は、ローションの瓶を捨てると、陽子の激しい反応に影響されて頬が上気し、わけもわからずに、ただ、陽子の胸に抱きついていった。
「さあ、ここで、顔を洗うよ!!」
 透乃は、顔を陽子の肌にこすりつけて、その色香を鼻腔いっぱいに吸引しながら、自分自身の身体も、芯から燃え上がって行くのを感じていた。
 いつのまにか、水着は外れ落ちて、2人は、生まれたままの姿で、甘い蜜の中で身体をくねらせ、絡ませるのだった。

「さっ、もう寝るわよ。今夜、パンツァー神のおかげで素敵に絆が深まるといいわね」
 そういって、明かりを消して、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、傍らに眠るセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の耳もとに甘く囁いた。
「ねえ。こうして二人きりで、静かに過ごす夜も悪くないよね」
「そうね。思えば、こんなに静かな夜は、久しぶりだわ」
 セレアナは、セレンフィリティの手を優しく握って、いった。
「いつもは」
 セレンフィリティは身を起こしてセレアナに覆い被さると、互いの顔を近づけた。
「こうしてキスをして、それからいろいろこすったりして……それはそれで幸せな瞬間だし、あたしたちがこうして結ばれてるってことを確認しあえるわけだけど。でも、ときおりそれで、本当にお互いのことがわかりあえているのか、単に身体だけつながってるだけなのか、ちょっとわからないところがあるわよね」
 セレアナはうなずいた。
「そうね。わからないことがある」
「で、そのことがはっきりしないから、余計に身体の関係を求めたりするし。なんか変なことしゃべってるかな?」
「ううん。続けて」
「あたしはなんかこう、うまく気の利いた言葉をぺラぺラと口に出して、というタイプじゃないし。いまもこうして何かを伝えるのって、恥ずかしくて苦手なんだけど」
 そこで口をつぐんで、セレンフィリティは、セレアナの身体を強く抱きしめた。
「大丈夫よ。言葉で伝えられないことがあれば、言葉に代えて伝えればいいのよ」
 そういって、セレアナもまた、セレンフィリティの手を強く握りしめた。
 闇の中で、毛布の下で寄り添う2つの肉体の火が、あたたかく燃えているようだった。
「あたし、セレアナが好き。理屈とかそういうのを抜きで、セレアナがいいの。セレアナ以外の誰かを、あたしは愛せないの」
 セレンフィリティは、あえて言葉にして、伝えていた。
 言葉で何かを伝えるのが難しいなどということは、決して、ない。
 ただ、シンプルな言葉に気持ちを乗せられれば、誰だって伝えられるのだ。
 頭であれこれと考えるから、難しくなってしまうのである。
「セレン、私もセレン以外の誰かを好きになれそうにないわ」
 セレアナもまた、そう答えた。
 そのとき。
「あら? 何か、光がみえるわ。あれは、何かしら?」
 セレンフィリティは、どこかから降り注ぐ光が、自分たちを照らしていると感じた。
「本当だわ。いったい、これは?」
 セレアナもまた、セレンフィリティがみたのと、同じ光をみていた。
 もちろん、第三者がいたとすれば、明かりを消した後の客室に、光などないと感じるだろう。
 ただ、闇が広がっているだけだ。
 だが、2人は、確かに、みたのだ。
 心の中に射し入る、不思議なあたたかさを持った光を。
「この光、もしかして、神殿の? ああ、セレアナ」
「セレン」
 こうして2人は、神秘の光に見守られながなら、2人で手をつないで、静かに眠り始めたのである。
 これこそ、絆が深まるという、神殿の奇跡にほかならないと感じながら。

「あっ、竜斗さん。光が、不思議な光がみえますよ」
 ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)もまた、その光を目にして、声をあげていた。
「うん?」
 ユリナにマッサージしてもらっていた黒崎竜斗(くろさき・りゅうと)は、顔をあげた。
「おお、これは!」
 竜斗も、驚きに目を見開いていた。
 別室のセレンフィリティたちがみていたのと同じ、神秘のあたたかい光は、竜斗たちの心の中にも射し入っていたのである。
「きっと、私の想いが、パンツァー神に通じたんですね!!」
 ユリナは、おおいなる存在に自分が励まされたように感じて、不思議と意気が高揚してきた。
「うーん、これはいい。光線治療を受けながらのマッサージって感じだな」
 竜斗は不思議と心が安らぐのを感じ、目を閉じて、ユリナにされるがままに、身を任せた。
「竜斗さん。もし竜斗さんに出会っていなかったら、私は、いまごろどうなっていたかわかりませんし、こうしてご奉仕することで、感謝の念を伝えられたらと!」
 ユリナは、額の汗も拭わず、熱心に竜斗の身体を揉みほぐしていた。
「どうです? 痛いですか? あるいは、もっと強くした方がいいでしょうか?」
 ユリナの問いに、竜斗からの返事はない。
 本当に、されるがままになっているようである。
「それでは、足も、やらせて頂きますね」
 ユリナは、うつぶせの姿勢でいる竜斗の足を持ちあげると、足の裏を拳で叩いたり、ふくらはぎを揉んであげたりした。
「どうですか? ほかに、やって欲しいところはありますか?」
 ユリナはまた問うが、竜斗はやはり無言だ。
「それでは、腕も」
 ユリナは竜斗の腕を取ると、二の腕のところをこすったり、掌のツボを押したりした。
「どうです? 竜斗さん?」
 ユリナはまた尋ねるが、竜斗からの反応はない。
「大丈夫ですか?」
 ユリナは不安になって、竜斗の顔を覗きこんだ。
 すると。
「むにゃむにゃむにゃ」
 竜斗は、気持ち良さそうにスースー寝息をたてて、眠っていたのである!
「あっ、寝てたんですか。でも、うつぶせで、苦しくないですか?」
 ユリナは心配になっていうが、竜斗は何も怖いものはないという顔で寝ているように思えた。
「風邪ひきますよ。もう」
 毛布を、竜斗の肩にまで引き上げてかけてやると、ユリナもまた、ころんとその側に寄り添って、目を閉じた。
「朝まで、私がお守りします」
 ユリナは、竜斗のたくましい顔に頬を押し当てて、囁く。
 竜斗の側に寝ているだけで、ユリナの身体の芯から、熱いものが湧きあがってくるようだった。
 今日は自分が竜斗を支えているが、竜斗もまた、自分以上に大きな力で、自分を支えてくれているのだ。
 そのことを、ユリナは、実感させられたのだった。

「はい、愛羅」
 御影美雪(みかげ・よしゆき)はベッドに腰かけると、パンパンと横を叩いて、風見愛羅(かざみ・あいら)を招き寄せた。
「は、はい。何でしょうか?」
 愛羅は、緊張した面持ちで、美雪の隣に座った。
 ついに、このときがきたのだ。
 美雪は、胸のうちにたかぶる想いを、抑えることができずにいた。
「愛羅。横になってよ。今日の総仕上げをやるから」
 美雪は、ベッドを指していった。
「えっ? 横に? は、はい。わかりました」
 愛羅は美雪の意図を察したのか、顔を赤らめながら、ベッドにうつぶせて、背中をみせる。
 美雪なら、構わない。
 その想いが、愛羅にはあった。
「俺のテクに、驚くなよ」
 美雪はやんちゃな口調でそういうと、ニコッと笑って、愛羅の背中に手をかけた。
 押したり、引いたり、揉んだり、叩いたり。
 愛羅は、美雪の指に弾かれる、ピアノとなっていた。
「どう? 気持ちいい?」
「はい。ああ」
 愛羅は、心からの歓喜の声をもらした。
 本当は、テクなんか関係ないのだ。
 美雪に触れられているという、それだけで、愛羅には喜びなのである。
 そして。
「はあ。うう!!」
 ときおり、美雪の押したツボが愛羅の真芯をとらえたために、叫んで、思わずうち震えてもしまうのである。
「いま、高いキーを押しちゃったかな」
 美雪は笑って、優しいマッサージを再開する。
 次第に、気持ちよさが増していき、うっとりとした心境で、ふと、愛羅はこう洩らした。
「あの、いつもとあまり変わりありませんね、私たち」
「うん? そうか? そういわれれば、そうかな」
 美雪は、愛羅の言葉に、自然とうなずいていた。
 そう。
 マッサージははじめてだが、他のことは、二人で日常的にしていることと、あまり変わらないのだ。
 神殿であろうと、どこであろうと。
 二人が並んで歩んでいく姿が、変わることなどあろうはずもないのである。
 その意味で、今日という日もまた、決して特別ではないのだ。
 無理に、特別と考える必要もない。
「でも……こういうに、幸せです」
 そういったとき、愛羅は、自然と微笑みが浮かぶのを感じた。
 何でもない、当り前の日常こそが、一番の幸せなのだ。
 そのことを、この神殿にまできて、思い知らされていた。
 2人が一緒にいる限り、どこにでも、永遠は現れるのである。
 そして、愛羅は、そのまま、うとうととしていった。
「愛羅。寝ているのか?」
 美雪は、マッサージを続けているうちに、愛羅が眠っていることに気づいた。
 よし、それじゃ。
 美雪は、ささやかな愛情を示したくなった。
「愛羅、いつもありがとうね」
 美雪は、限りない優しさをこめて、愛羅の頬にそっと口づけした。
 そっと。
 飛ぶ鳥の落とす羽毛の先が、かすかに触れるほどの接触だった。
 だが。
「う……美雪……」
 愛羅は目を開けた。
 その頬は、赤らんでいる。
「えっ、起きてた?」
 美雪の顔も、いっきに赤くなった。
 そのとき、2人は、あたたかな光が、どこかから射し込んできたように感じた。
 どこからかはわからないが、あたたかな光が、自分たちの心を直接照らしている。
 そう、直感的に感じたのである。
 そして。
「愛羅……」
 美雪は、あまりにも素直なその心情のまま、愛羅の肩を抱き、寄り添うように横になった。
 毛布をかぶり、お互いをあたためあう。
 夜は、ますます更けていった。