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第3章 温泉でご奉仕☆

「みなさん、ようこそ。今晩のお疲れ、温泉の湯煙の中で、私が真心こめて洗い清めて、お取り払いいたしますね」
 天津のどか(あまつ・のどか)が、大浴場に立ち昇るもうもうたる湯煙の中、紐で縛るタイプのビキニの水着を着用した姿でいて、引き戸を開けて入場してくる宿泊客たちに挨拶をしていった。
 神殿の地下。
 大浴場の湯槽には、こんこんと湧き出る神秘の温泉が、熱い容量で宿泊客たちの身体を包み込まんと待ち受けている。
 食事の後、多くの宿泊客は、温泉に浸かることを選んだのである。
 脱衣場で着衣を脱ぎ捨て、浴場に入ることにした彼らは、のどかの可愛らしいお出迎えにぎょっとしながらも、温泉の湯を浴びるため、我先にと奥に進んでいった。
 宿泊役だけではなく、神殿内に多人数がたむろするマッチョマンたちも、温泉に入るのを何よりも楽しみにしていた。
「かー、温泉が俺を呼んでいるぜ!!」
「魂が、魂が枯れていて、満たしてくれと叫んでいるぜ!!」
「ほああああああ」
「あふううううううん」
 マッチョマンたちは、めいめいが好き勝手なことをまくしたてながら、身体を隠すこともせずに湯煙の中をかきわけるようにして進み、湯槽にざんぶと飛び込んでいる。
 筋骨隆々としたその肉体をひけらかす様は、のどか的には「素敵」としかいいようのないものであった。
「あっ、お待ちを」
 我慢できなくなって、のどかは、一人のマッチョマンの手を引いていた。
「うん? あいー!!」
 振り向いたマッチョマンは、のどかの身体を目にして、いっきに興奮してしまう。
「身体を洗わせて下さい。精一杯やりますので」
 そういって、のどかは全身にボディソープをしたたらせた。
「う、美しい! あい、あい、ほー、ほっ、ほっ」
 マッチョマンは奇声を発しながら、腰をズンと落として、威勢のいい張り手を放った。
 ばし、ばし
 マッチョマンの分厚い掌がのどかの身体を激しくこすりあげ、ボディソープを泡だてていく。
「は、激しいですね」
 のどかはマッチョマンの力に驚きながらも、こすりあげられ、全身が泡まみれになっていくその状態を、好ましく感じた。
「さあ、お次は、私が、全身を洗ってさしあげます!!」
 そういって、泡に覆われた姿ののどかは、そのまま、マッチョマンの身体にしがみついて、全身の皮膚を相手に絡めていったのである。
 そう。
 のどかは、自らの身体を直接使って、相手の身体を洗おうとしているのである。
「こ、こりゃ、たまんねー!! あぎゃー、ぎゃ、ぎゃ」
 マッチョマンは、奇声を発して喜んでいた。

「みなさん、お風呂の中で、楽しんでるようだね☆ 詩穂も、みんなのためになるかもしれないこと、脱衣場でやっちゃうもん☆」
 脱衣場では、宿泊客たちの脱ぎ捨てた衣服を丁寧に折り畳みながら、騎沙良詩穂(きさら・しほ)一人ニヤニヤと笑っていた。
 詩穂が特にこだわっていたのは、汚れたパンツに対して、いかに丁寧に奉仕するかであった。
 誰もが嫌がる汚いものの処理を進んでやること、また、しぶしぶやるのではなく、心の底から楽しんで行うこと。
 それが、給仕の家系に生まれた詩穂だからこそ知っている、奉仕の精神の粋であったのである。
「ずいぶん熱心にやっているんだね。そんなものを」
 男性のパンツにひたすら奉仕する詩穂の姿を、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が不思議そうにみて、いった。
「そんなものって、女性だってパンツは履くんだもん☆」
 詩穂は、パンツの皺を伸ばして、頬ずりして匂いをかぎ、丁寧に折り畳む作業に没頭しながら、ルカルカの方をみずにいった。
「そういう問題じゃないって。何ていうか、そういうものをみるのは」
 ルカルカは、なぜか赤面している自分を感じた。
「何を恥ずかしがってるんだもん? パンツは決して汚いものではないし、いやらしいものでもないよ☆」
 詩穂は、そこで顔を上げて、ルカルカをまっすぐ見据えていう。
「うん? まあ、そうだな。衣服だしな。大切に扱わないと」
 ルカルカは、なぜかどぎまぎして答えた。
「ルカは、お風呂に入らないの?」
 詩穂の質問に、ルカルカはうっと言葉に詰まった。
「お、お風呂? そ、そうだな。ダリルは入るといってたけど、男女混浴だよね? 水着でもいいといわれたって、お風呂だし、やっぱり脱いで洗ったりで。な、なんていうか、ルカには無理だよ」
 浴場へと通じる引き戸から、温泉と人間の裸の匂いがぷんと漂ってきて、それをかいだ自分の顔が再び真っ赤になるのを、ルカルカは感じた。
「何を恥ずかしがってるの? ちゃんと勉強しなきゃいけないんだもん☆」
 詩穂は、説教じみた口調でいった。
「ほら、これをみて!」
 詩穂が手にしたパンツを自分の顔に突き出してきたので、ルカルカは悲鳴をあげて後じさった。
「このシミ、人間のものなんだよ? 恒常的な生命活動から生み出された、尊いものなんだよ☆ テレビで犯罪を報道するときに、よく、『体液』がどうとかいうときの、その体液もここには含まれているんだもん!! それぐらいメジャーで素晴らしいものなんだよ☆」
 詩穂は熱っぽく語った。
「わ、わかるよ。うん。そういう汚いものに自分から進んで仕えることのできる詩穂は、素晴らしいメイドだと思う!! それじゃ」
 ルカルカは、詩穂に背中を向けて、脱衣所から退出していった。
 ダリルが出てくるのを、周囲の見張りをしながら待つつもりだったが、お風呂の匂いをかいでいると、何だか恥ずかしくなってしまうのである。
 だから、神殿の中を巡回して、怪しい者がいないか警備することにしたのだ。
 ルカルカは、どうしても、浴場で行われていることを想像してしまうのだった。
 何だか、淫らなことが行われているように感じてしまうのだった。

「ルカは、本当に入らないつもりなのか?」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、浴場の床にある腰かけに座って、お湯にひたしたタオルで身体をズバーンズバーンと打ちながら、妙に気後れしていたパートナーのことが心配になった。
 恥ずかしがるのはわかるが、だからといってお風呂に入らないというのも、人間の生理に反していると感じたのだ。
 なぜか、パンツァーの神殿のお風呂は、混浴が前提になっている。
 水着着用でいいとはいえ、身体を洗うときは脱いで全裸にならないといけない。
 そういうときは、不思議なことに、湯煙が意志あるもののように身体にまとわりついて、恥ずかしい部分を隠してくれるのだった。
 これこそ、パンツァー神の慈悲に満ちたはからいであるというべきだ、とダリルは思った。
 もういい。
 ルカがいないなら、自分は自分の道をいくだけだ。
 ダリルが、そう思ったとき。
「ダリル様、本日は遠いところからお越し頂き、本当にお疲れさまでございます。私はあなた様の奉仕をいいつかわされました、秋葉つかさ(あきば・つかさ)と申します」
 もくもくと湧き上がる濃厚な湯煙を身にまとった美女がダリルの前に進み出て、膝を屈し、三つ指を突いてお辞儀をして、いった。
「うん? メイドか? ずいぶんあらたまった挨拶をしてくれるんだな。いや、いや、お風呂の中で三つ指を突くだなんて、照れてしまうな」
 そういいながらもダリルは、目の前のつかさに対して、丁寧すぎるいやらしさよりは、むしろ本能のままにお仕えしようとするそのひたむきな心意気に感じ入り、何ともいえないさわやかな気分に浸っていた。
 もっとも、そのひたむきさの中に、どこか影があるのがつかさの特徴だったが。
「その格好、大丈夫か?」
 ダリルは、つかさが水着さえ着用せず、まさに生まれたままの姿でいることに気づいて、指摘する。
「はい。僭越ながら、お風呂に水着だなんて、パンツァー神を冒涜するような行為です。無論全裸でご奉仕させて頂きます」
 そういって、つかさは再び、深々と頭を下げた。
「冒涜、か。しかし、その湯煙が恥ずかしい部分を見事に隠してくれているのをみると、パンツァー神としては、ほどほどの節度を求めているんじゃないか? まあ、いい。たまには、相手の好意に甘えて、ご奉仕してもらうのも一興だろう。ちょうど、疲れていることだしな」
 ダリルは自分で自分に言い聞かせるようにいうと、うなずいて、腰かけに座った状態で背を伸ばし、股を軽く開いて、いった。
「では、好きにしてくれ」
「はい。それでは、さっそく始めさせてもらいますね」
 つかさの奉仕が始まった。
 ダリルの全身にボディソープをたらし、なまめかしい手つきで泡立てて、白く膨らんだ胞子の中にダリルがいるような状態にさせた。
 その間、ダリルは優しい手つきで、つかさの髪を撫でていた。
 そして、つかさは立ち上がると、ダリルの背後にまわって、手にしたタオルで背中を流した。
 丁寧に、丁寧に。
「ふう。これはいいな。気持ちいいぜ」
 ダリルは、全身の疲労がこそげ落とされるような快感を覚えた。
「気持ちいいですか? ありがとうございます」 
 そういいながら、つかさは、手を伸ばして、ダリルの胸を触り、やがて、その下も触ろうとした。
 その手を、ダリルはとらえた。
「うっ!? はああ」
 強い力で手をひねられて、つかさはうめいた。
 涙と同時に、しびれるような感覚が全身にはしる。
 こ、これは?
「この手も、ずいぶんとかわいいじゃないか」
 ダリルは、つかさの手の甲に口づけした。
「ダ、ダリル様。お放し下さいませ」
 つかさは、あでやかに抗った。
「いいや。責めてるわけじゃない。君の奉仕が素晴らしいからだ」
 ダリルは振り向いて、つかさの肩を引き寄せる。
「責任をとってもらわんとおさまらんだろう?」
 つかさの耳もとに囁いて、ニヤッと笑うダリル。
「せ、責任ですか。申し訳ありません。どうか許して下さい」
 つかさは、観念した。
 ダリルは、つかさの身体を浴場の床にねじ伏せると、その肩を思いきりつねりあげた。
「うっ、ああ! 痛い!!」
 つかさは、激痛と同時に、胸の中から熱いものが湧きあがるものを感じていた。
 ダリルは、自分がひどく興奮していることに気づいたが、なお、つかさを責めたてなければ気がすまないものを感じていた。
 そのとき。
 ブー、ブー
 浴場の床に置いておいた、ダリルの完全防水の携帯が激しい振動を起こした。
「誰だ? 興をそぐな」
 ダリルはブツブツいいながら、携帯を取り上げ、着信にこたえた。
 戦場にいたときの癖で、緊急の連絡手段を常に離さない用心が、仇になったようだ。
 電話をしてきたのは、ルカルカだった。
「いつまで入ってるの? のぼせてるんじゃないかと心配で」
「大丈夫だよ。もう少し楽しんでから出ようと思う」
 ダリルは、不機嫌な声でこたえた。
 お風呂場の外にいるルカルカの声は、ひどく遠くから聞こえてくるように思えた。
「た、楽しむって、何を?」
 ルカルカの声がひきつった。
「温泉をだよ。何を妄想してるんだ?」
 ダリルはそういって、通信を切ると、携帯電話を、浴場の床の上に横たわっているつかさの、身体の中心部に置いた。
 ブー、ブー
 すぐに、携帯がまた振動を始めた。
 ルカルカがこんなに電話してくるなんて、自分が何か淫らなことをしようとしているとでも考えているのだろうか。
 想いながら、ダリルは、震える携帯電話をつかさにぐいぐいと押しつける。
「ああ、揺れますね。私も!!」
 振動する携帯電話を胸に抱きしめ、全身に伝わる微細な感覚に身悶えながら、つかさは浴場の床に横になった状態で、あやしく身をくねらせた。
「ああ、でも、ちょっとのぼせたかな」
 そういって、ダリルは上気した顔を歪ませて笑い、のたうちまわるつかさの上に、自分の身体を覆い被せていった。
 ブー、ブー
 泡まみれのつかさに抱きかかえられたまま振動する携帯の音は、力強い心臓の鼓動のように聞こえた。
 ダリルもまた、泡まみれの状態だったが、そのままつかさを抱きしめた。
「ああ、いい匂いだ。責任をとれ。俺のものになって、果てろ」
 そういいながら、ダリルはつかさを抱きしめて、そのまま、意識を失ってしまったのである。
「ダリル様。幸福のあまり気を失ってしまったのでしょうか。いいでしょう。それでは、私が身体の隅々までご奉仕して、ストレスのもとを十分抜いてさしあげます」
 そういって、つかさは笑った。
 その手が、蛇のように動いていた。

「さあ、クナイ。そこに座って。僕がご奉仕をしてあげますからねぇ」
 清泉北都(いずみ・ほくと)もまた、腰にタオルを巻いた姿で、奉仕の対象であるクナイ・アヤシ(くない・あやし)をさし招いて、いった。
「あれあれ、奉仕ですか。うーん、私なんかが北都様の奉仕を受けてしまって、いいんでしょうか」
 クナイは、首をかしげながらも、浴場の腰かけに座った。
「そういわないでよ。僕はもとは執事だったからねぇ。まずクナイに奉仕しないで、誰に奉仕するというんですか? 流しちゃいますよ、もう」
 そういって、北都はクナイの身体にボディソープをたらして、泡だて始めた。
「不思議なものですね、こういうのって」
 クナイは、母に身体を洗われていた、生まれたばかりの心境に戻ったような心地になって、そういった。
「何が不思議なんですか? 親愛なる相手にご奉仕する。これが人間の原初の姿なんですからねぇ」
 そういいながら、北都はクナイの背中を流し始めた。
(はあ。クナイって着痩せするタイプなんだよね。こうして裸になった姿をみると、筋肉がちゃんとついてて、男らしくていいなあ)
 北都は、クナイの鍛えられた肉体を目の前にして、感嘆せざるをえなかった。
 だが、その感情を、表に出すことは決してしない。
「痛いですか? それとももっと強くこすった方がいいですか?」
「あっ? はあ? うふ、そうですね。ちょうどいいかもしれません」
 目を閉じてくつろいでいたようにみえるクナイは、北都の質問に驚いて目を覚まし、どぎまぎしながら答えているようだった。
「ちょうどいいですか。よかったですよ」
 北都は、ゆっくりと流し続ける。
 だが、クナイは実は、眠っているどころではなかったのである。
(はあ。やばいですね。こうしてお風呂の中で、2人、裸の状態で奉仕されてると、怪しい気持ちになってきてしまいますよ。あまり興奮すると、身体が変な状態になりますからね。特に……)
 クナイは、燃えたぎる熱い想いを必死で抑えようと努めた。
 だが、禁欲的になろうとすればするほど、かえってよからぬ妄想が湧き出すことになる。
 背中を流してもらって、その後の展開が、どこかでみたDVDの映像のように、ハードな印象でクナイの脳裏に浮かび、穏やかならぬ気持ちにさせるのだった。
 一方で、北都は不審がっていた。
 いくら丁寧に洗っても、クナイは目を閉じて眠っているようにしていて、「ありがとうございます」とも何ともいってこない。
 流し方が不満なのか、それともまだ流し足りないのか?
(やれやれ。奉仕というのも、相手に真に喜んでもらうことを考えると、ひとすじ縄ではいかないものなんですよねぇ)
 北都は戸惑いながらも、クナイの顔を覗きこんで、こういった。
「あの、……前も流しましょうか?」
「う、うん?」
 思わぬ言葉に、クナイは目をかっと見開いていた。
「後ろはだいたい終わったので、前をやろうかな、と思ったんですけどね」
 北都は、クナイの反応に内心驚きながらもいう。
「ま、前を? その手で、前を流すんですか? ああ、ボディソープをたらして、ぬめぬめさせるんですね」
 クナイは、動揺のあまり、何をいっているのかわからなかった。
 北都が自分の前にまわっていろいろ覗きこめば、いま興奮していることがばれてしまうかもしれない。
 そして、その興奮を鎮めようと、北都は……。
 ぶふっ
「う、うわっ、大丈夫ですか?」
 クナイがいきなり鼻血を吹いたのをみて、北都は心底驚いた。
「あっ、だ、大丈夫です。ちょっとのぼせてしまったんでしょうか。いけないですね。ほら、浴場の床に赤いものが」
 つーと垂れた鼻血が床に淡くにじんでゆくのを指して、クナイは苦笑する。
「のぼせてしまった? 時間をかけすぎたのが問題だったんですかねぇ。とにかく、一度出ましょう」
 北都は首をかしげながらも、クナイを立ち上がらせ、ふらふらしているその身体に肩を貸して歩き、浴場を出て脱衣所に入ると、床に横たわらせて、自販機で買ったスポーツドリンクを飲ませた。
「ごめんなさいねぇ。気づかなくて」
 謝る北都に、クナイはいやいやと手を振る。
「気持ちがよくって、つい、眠りそうになっていましたよ。でも、私もちょっと弱いですよね」
 鼻血を吹いて、ドリンクを飲み、クナイの膝に頭を乗せてくつろぎながら、クナイは何ともいえない極楽気分でいた。
 鼻血を吹いた瞬間、クナイは、至福の心境に達していたのである。
 想いだけで、人は、たちまちのうちに幸せになってしまうものなのだ。
「ゆっくり休んで下さいね。これも奉仕ですよ。さっきの奉仕が失敗した分、リベンジとしての奉仕をさせて欲しいですねぇ」
 北都は、水で冷やしたタオルでクナイの顔や首を拭いて、うちわでその身体をあおいでやるなど、クールダウン奉仕に努めた。
「あれれ? ダウンさんですか☆」
 ひたすらパンツを折っていた騎沙良詩穂が、北都とクナイの姿に気づいて、すり寄ってきた。
「はい。温泉の近くに、長居しすぎたようですね。いま、回復に向かってますから、ご心配なく」
 北都は答えていった。
「すっぽん、いや、すっぽんぽんでいるのもアレだから、これを履くといいもん☆」
 詩穂は、丁寧に畳んでいたパンツのひとつを差し出した。
 むろん、それはクナイのパンツである。
「はい。ありがとう。じゃあ、履かせてあげますね」
 北都は、詩穂からパンツを受け取った。
「う、うぐ!」
 クナイが再びかっと目を見開いて、両手を一瞬上げて、びくびくと身体を震わせた。
 北都にパンツを履かせてもらうという話から、また変なことを想像してしまったのだ。
 鼻血が再び吹き出しそうになるのを、クナイはこらえた。
(だ、ダメです。これ以上吹いたら、北都様をまた心配させてしまいます!!)
 クナイは、必死でこらえた。
 鼻をすすって、にじみ出そうな血を無理やり飲み込んでいく。
「はーい、それじゃ、腰を持ち上げて下さいねぇ」
 北都が甘い声で囁きながら、クナイにパンツを履かせていく。
 その間、クナイは歯を食いしばって、必死で耐えていた。
 興奮を抑え、クナイに気取られないようにするために、運の何分の1かを使ってしまったようだ。
「はい。ぴたっと履けましたね。お利口さんでしたぁ」
 北都は、クナイの全身に汗の玉が浮き出しているのを不思議に思いながら、再びうちわであおぎ、タオルで相手の身体を拭き始める。
「ああ。いろいろ気持ちいいです。ありがとうございます、北都様」
 欲望の全てを抜かれたような心境のクナイは、心地よい脱力感の中で、それだけいうのが精一杯だった。
 北都と目が合い、微笑むクナイ。
「ああ、よかった。今度は、さっきのような失敗はしないようにしますからねぇ」
 クナイの御礼の言葉を聞いて、北都は、やっとホッとしたように感じた。
「また、飲み物もらえないでしょうか? ちょっと、口の中がしょっぱくて」
 飲み込んだ血が喉からあふれて口の中にもにじんでいて、辟易していたクナイはそう頼んだ。
「しょっぱい? 何でですか?」
 北都は、またも首をかしげた。
(本当に、クナイの身体は鍛えられているかと思えば、意外にデリケートで、神秘的なんですねぇ。まっ、そういうところも魅力的ですよねぇ)
 北都は、今後もクナイの身体を研究していこうと、内心でかたく誓うのだった。

「さあ、誠一さん。この大浴場こそ、私たちの愛を確かめる絶好のチャンスです!!」
 ビキニの水着姿の結城真奈美(ゆうき・まなみ)は、腰にタオルを巻いた姿でぼーっとしている佐野誠一(さの・せいいち)に熱く語りかけていた。
「ああ。よろしく頼むぜ!! かーっ、温泉の匂い、たまらねえぜ!!」
 誠一は、鼻をひくひくさせて硫黄の匂いをかぎ、喜びの感情に浸っていた。
 真奈美の奉仕に、特に期待していることはない。
 真奈美の場合、自分に対する奉仕は「できて当然」だという気がするのである。
 だから、お風呂で奉仕してもらうというのも、特別刺激的なシチュエーションではないが、ただ、この神殿の中で、真奈美への自分の奉仕の志がどの程度のものとはかられるのか、そこに誠一は興味があったのである。
「ああ、誠一さん! 煩悩? いいえ、違います。この感情、まさしくです!!」
 真奈美は温泉の熱気と、自分自身の興奮とでほてっている身体に、ボディソープをたらしていった。
「あ、愛ぃ?」
 あまりにもストレートなその発言に、誠一はひきつった顔をみせた。
 泡まみれになった真奈美の身体が、誠一の胸にひっついてくる。
「うわ、ちょ、ちょっと、よせよ。そんなにがっついてやられたら、くすぐったいぜ」
 誠一は身悶えして、真奈美を引き離そうとするが、愛という接着剤は実に強力で、一度くっついた2人を離れさせるのは相当困難なのである。
 誠一を抱きしめ、頬ずりして、その胸筋を舐めあげる真奈美の心中には、ひたむきな愛しかなかったのである。
 男の方はひいているものの、まさに熱々のカップルだった。

「う、うん? 何だー、あの2人、何をやってるんだー」
 ガラガラと引き戸を開けて浴場に入りこんだ十田島つぐむ(とだじま・つぐむ)は、誠一たちのラブラブな様子をみて、ちょっと驚いたようだった。
「すごいな、この温泉は。カップルがやりたい放題やってるって感じだな」
 つぐむは、思わず、立ち止まって、浴場の中をじろじろと眺めまわしてしまった。
 どこを向いても、奉仕、奉仕、奉仕である。
 奉仕の関係は、男女ばかりでなく、同性同士もある。
 なぜ自分はこんなところにやってきてしまったのかと、つぐむはひどく場違いな想いにとらわれた。
「つぐむ様。今日、ワタシはここで、誰よりも立派につぐむ様にご奉仕してみせます!!」
 つぐむの後から、晒と褌を身につけて浴場に入ってきたミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)が、熱気をおびた口調で、決意のほどを語った。
 つぐむの、立派な奴隷になりたい。
 それが、ミゼの心底の願いだった。
「ほ、奉仕だなんて、そんなだいそれた言い方しなくたって」
 つぐむは頭をかきながら、腰かけに座った。
「いいえ、奉仕です。全部、やらせて頂きます!!」
 ミゼは、つぐむの全身にボディソープをしたたらすと、隅から隅まで、徹底的に洗い始めた。
「うわっ、よせ、くすぐったいよ」
 つぐむは顔をひきつらせて、ミゼを引き離そうとした。
 だが、ここにも愛の接着剤は作用していたのである。
「いろいろ至らなくて、申し訳ございません。不満があれば、ワタシのお尻を叩いて罰をお与え下さい!! それ以上の罰も慎んでお受けいたします!!」
 ミゼは、つぐむの身体のどんな部分だろうと、積極的に手を伸ばして力強くつかみ、真心をこめて洗いに洗ったのである。
「!! そこは痛いって!! や、やめ。わー」
 途中まで我慢していたつぐむも、急所にはしった激痛には耐えられず、思わず立ち上がって、ミゼの身体を突き飛ばしていた。
「あ、ああ! 手元が狂ってしまい、申し訳ありませんでした。どのようにお詫びすればよろしいでしょうか?」
 突き飛ばされ、尻餅をついたミゼは、股を開いて、両手を後ろについた姿勢でつぐむを見上げて、いった。
 次に、どんなすごい仕打ちを自分は受けるのか。
 それを想像しただけで、ミゼは興奮のあまり卒倒しそうだった。
「え? いいよ。突き飛ばしたりして、悪かったな。あー、俺、どうしてこんな神殿にきちゃったんだろ」
 つぐむは、顔をひきつらせたまま、苦笑して、再び腰かけに座ろうとした。
「あっ、もうそんなものには座らないで下さい! 代わりにワタシの上に!」
 ミゼはつぐむが座ろうとした腰かけを奪うと、自分が四つん這いになって、その背中に座るように促した。
「な、なんだよ、別にミゼが椅子にならなくてもいいよ」
 つぐむはどぎまぎしたが、ミゼの迫力におされるかたちで、その人間椅子に腰をおろしてしまった。
 つぐむのお尻が、ミゼの背中にどしんと乗った瞬間。
「あ、ああああああああ!! 震えます!!」
 ミゼは、興奮のあまり絶叫して、うち震えてしまった。
「わー、震えるなよ」
 よろけたつぐむが、苦言を呈する。
 みれば、ミゼの晒も褌も、濡れてしまって中身が少し透けてみえてしまっている。
 人間椅子と化したミゼは、実にセクシーであった。

「誠一さん! 私たちもあれをやりましょう。ああ!!」
 ミゼに触発された真奈美は、自らも人間椅子になって、誠一に座るよう促した。
「お、おい、真似すんなって」
 誠一は苦笑しながら、真奈美の上に座る。
「ああ! 確かにすごいですね、この一体感は!!」
 真奈美もまた、誠一が座った瞬間に絶叫してしまったのである。
 確かな重みが、真奈美の身体をギシギシときしませていた。
「興奮するなって。で、これからどうすればいいんだ?」
 人間椅子と化した真奈美の上に座りながら、誠一はすることもなく、ぼうっとしてしまった。

「ああ、つぐむ様!! もっと、お尻をぐりぐりして下さい!! ああ!!」
 つぐむを背中の上に座らせたまま、ミゼは興奮して、なおも絶叫していた。
 脳内に、異様な妄想が膨れあがる。
(つぐむ様。どうぞお飲みになって下さい)
 ミゼの入れた酒を、つぐむが口に含む。
(うん? これはかなり強いな。ふわー、興奮してきたぞ)
 酒に酔ったつぐむは、凶悪な目つきに変わった。
(あ、あれー、つぐむ様、何をなさるんですか! や、やめて下さい、ああ!!)
 ケダモノと化したつぐむに襲われ、ミゼは全身を縛られて、そして……。
「はっ!? つぐむ様がいない!!」
 ふと我に返ったミゼは、自分の上に座っていたつぐむがいないことに気がついた。
 必死になってつぐむの姿を探すミゼの瞳に、驚くべき光景がうつった。
「つぐむちゃん、大丈夫? その泡、流してあげるね」
 竹野夜真珠(たけのや・しんじゅ)が、ミゼがつぐむの身体につけた泡を、洗面器ですくったお湯をかけて、流していたのである!!
「真珠様! 何をなさっているんですか」
 ミゼは慌てて、真珠に駆け寄っていった。
「ミゼが真心こめすぎて、力いっぱいつぐむちゃんの身体をつまんでこするから、つぐむちゃんは身体が痛くなったのよ。それに、人間椅子になってつぐむちゃんを乗せても、椅子になりきれず、身体を震わせているんだから。気をつけないと、ただの自己満足よね」
 真珠は、説教じみた口調でいった。
「ま、真珠様にいわれる筋合いは……! いいでしょう。よく聞いて下さい。ワタシはただ、つぐむ様に所有される『モノ』でありたいというだけです。決して、恋人になりたいなどと考えているわけではありません。ですから、真珠様とは住み分けができているのですよ」
 ミゼは、とうとうと語って聞かせた。
「モノ? そうですか。住み分けができるのですか。うーん」
 真珠は、考え込んでしまった。
「おいおい、本人である俺をおいて、なに2人で勝手なこと言い合ってるんだよ?」
 つぐむは、呆れたような口調でいった。
「はっ!? つぐむ様。申し訳ございません!!」
 ミゼは、つぐむの言葉に驚き、浴場の床に土下座した。
「だから、何でそう、極端に」
「つぐむちゃん、いいから。真珠と一緒に、湯槽につかろう。昔はよく、一緒にお風呂に入ったわよねー」
 真珠は、つぐむの手を引いて、湯槽に向かう。
「なに!? あっ、待って下さい、つぐむ様!!」
 ミゼも、慌てて2人の後を追った。

「はあ、私、幸せですぅ。だって、こうして、千百合ちゃんと一緒にお風呂に入っていられるんだから!!」
 冬蔦日奈々(ふゆつた・ひなな)は、湯槽の中にまったりと浸かって、顔をほてらせながらいった。
「あたしも幸せだよ。こうして、日奈々の身体をくりゅくりゅできるだけでー!!」
 そういって、冬蔦千百合(ふゆつた・ちゆり)は、湯槽の中で手を伸ばして、日奈々の脇腹を優しくつねった。
「きゃあ! 千百合ちゃん、くすぐったいですぅ」
 日奈々は首から下を温泉のお湯に浸からせたまま、身悶えして叫んだ。
 さっきまで2人はお互いの身体を洗いっこしていたので、その肌は玉のように光り輝き、熱で上気して、健康な、かすかな朱の色を浮かべている。
 いま、2人は仲良く並んで湯槽に浸かって、身体をたっぷり熱くさせているのだった。
「えい! 温泉のお湯、頭からかぶるですぅ」
 日奈々は、手ですくったお湯を、千百合の額に振りかけた。
「ひゃあ、熱いー!! もう、日奈々ったら!!」
 お湯のしずくに顔を滑られて、千百合は目をつぶって悶えてみせながら、楽しそうに身体を揺らす。
 そこに、つぐむと真珠の2人も、ざぶんと湯槽に飛び込んできた。
「うわー、熱い! これはきくぜ!!」
 つぐむは、大量のお湯に身体を包まれて、身体の芯まであたたまる心地だった。
「温泉って、いいよねー」
 真珠も、お湯の中で少し身体をかたくさせ、熱さに耐えるよう努めながら、ニコニコする。
「つぐむ様、ワタシも入らせて頂きます!!」
 ミゼも、後から湯槽に飛び込んできた。
 3人の乱入を受けたお湯の表面が波立ち、冬蔦たちの身体も、その波にもまれた。
「あなたたちーも、仲よさそうですぅ」
 日奈々は、つぐむたちに話しかけた。
「仲がいい? そうか? まあ、悪くはないっていうか、俺はちょっとひいてるけどな」
 つぐむは、苦笑していった。
「それにしても、熱いお湯ですぅ。もうすぐ、のぼせてしまいそうですぅ」
 日奈々は、すっかり赤くなった顔を歪ませ、ふうと息を吐いていった。
「そうだねー。ゆでダコになっちゃうねー。きゃあ!」
 千百合は叫んで、湯槽の中で、日奈々にしがみついた。
「きゃあ! ち、千百合ちゃあん!!」
 日奈々は絶叫して、立ち上がると、お湯をざぶざぶかき分けて、湯槽から出て、露天風呂の方に歩いていった。
 千百合も、日奈々の後を追って、露天風呂の方へ歩いていく。

 露天風呂には、それほど人が入っていなかった。
 遥かな夜空に、星が点々と光り輝いている。
「ぷう。熱かったですぅ」
 冷たい夜気にあたってホッとした日奈々は、その岩石の床に、大の字になって寝そべってしまった。
「日奈々、大丈夫?」
 後を追ってきた千百合が、寝そべっている日奈々の側にひざまずいて、お湯にひたしたタオルで、その身体を拭き始めた。
 日奈々の身体が冷え過ぎないように、という配慮であった。
「ああ。気持ちいいですぅ。千百合ちゃんに身体を拭いてもらうのが、一番気持ちいいですぅ」
 日奈々は満足して、星空をただぼうっと眺めていた。
「日奈々、この神殿、宿泊したカップルの絆が深まるっていうけど、あたしたち、もうカップルじゃないよね」
 千百合の言葉に、日奈々はうなずいた。
「そうですね。私たちは、カップルっていうか、新婚ですぅ。でも、新婚旅行のノリでここにきても、絆は深まると思うですぅ。あっ、ふああ」
 突然、日奈々はびくびくっとした。
 千百合に身体を拭いてもらっていたのが、くすぐったいポイントに触れたらしい。
「日奈々、大丈夫?」
「大丈夫ですぅ。千百合ちゃんも一緒に寝そべって、星空をみましょう」
「うん」
 千百合はうなずいて、日奈々の隣に、自分も大の字になって寝そべって、遥かな星空をみやった。
 神殿の上空に光り輝くその星々の中に、よくみると、2つの星が隣り合って光っている星があった。
 あれが、自分たちの星なのだと、千百合は思ったのである。

「みんな、いなくなったかな? そろそろ、お片づけの奉仕だよ☆」
 騎沙良詩穂は、浴場がしんとなった頃合いをみはからって、清掃のために入りこんだ。
 みると、浴場の床にダリル・ガイザックが仰向けになって伸びている。
 顔がげっそりとやせこけていて、精も根も枯れ果てたといった顔だった。
 秋葉つかさがどんな技を使ったのかは不明だが、真心を尽くしたご奉仕で、徹底的にストレスを抜かれたとみていいだろう。
「う、うう……ここまでやられるとは。貧血気味の状態だ」
 ダリルは、かすかに目を開いて、いった。
「大丈夫? ルカに迎えにきてもらうね☆」
 詩穂はダリルに微笑みかけると、床に転がっていた、何かの液体にまみれた携帯電話を取り上げた。
「うわ、ぬるぬるするなあ☆ 何だ、これ?」
 甘い匂いに閉口しながら、詩穂はルカルカに電話をかけて、ダリルの状態を伝えた。
「さーて、それじゃ、お掃除、お掃除、っと。いろんな毛が落ちてるから、しっかり拾わないと、だもん☆」
 詩穂はニコニコしながら、お風呂の掃除を始めた。
 そこに、天津のどかが襲いかかってきた。
「ようこそ、お風呂へ。最後のご奉仕をしちゃいますよ」
「う、うわー☆ まだいたの? 助けてだもん」
 詩穂はびっくりして逃げようとするが、のどかに手をつかまれて、足を滑らせ、転倒してしまう。
 転倒した詩穂の衣服を器用な手つきで脱がせると、のどかはそのまま、詩穂の身体に覆い被さっていった。
「私の全身で、詩穂さんにお仕えします!!」
「わー、柔らかい☆ 助けて。う、うく」
 詩穂は、くすぐったくて、わなないた。
 新しい世界に目覚めてしまいそうであった。
 みれば、のどかがしていたビキニの水着は、紐がほどけてしまって、浴場の床に散らばっている。
 たちのぼる湯煙が、のどかの恥ずかしい部分を隠してしまっているが、ときどき、ちらちらと何かがかいまみえるのだった。
 身悶える詩穂に、のどかは、温泉の熱いお湯をすくって、振りかけた。
「うわー、熱い☆ いやん、おー、ほっほっほ」
 全身を隈なく熱せられ、お湯でびしゃびしゃにされた詩穂は、観念して目を閉じた。
 のどかは、再び詩穂に覆い被さって、一体化してしまった。
 温泉の夜は、長く続きそうだった。