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第十章  キャラクターキーの真実



「それで?僕から何を聞きたいんですか?」

 戦場から遠く離れた『伝統ガジェット研究所』。
 源 鉄心(みなもと・てっしん)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は、その研究所の一室にいた。
 部屋の表札には、『山平研究室』とある。

 鉄心たちは部屋の主であり、キーの開発者でもある山平に聞き込みに来たのだが、当の山平はこの期に及んでまだ何か作っているらしく、鉄心たちの方を見向きもしない。

「あなたに聞きたいのは、まずキーの能力。それに開発の経緯や、キーを奪われた時の状況等です」
「ウーン……。みんな、もう山葉校長に話したことばかりですね……と。ソコに、ほら――」

 後ろも見ずに、手だけでテーブルを指し示す山平。

「事情聴取の時の資料がありますから、ソレ見て下さい。質問はそれからってことで……。よっ……と。コレをココにつないで――」

 どうやら山平は、自分で説明する気は毛頭ないようだった。

「で?ソコって、ドコなんだ……」
「スゴイ状態ですね……」
 
 テーブルの上には、大量の本と紙がうず高く山を成している。
 2人は、その山をうっかり崩してしまわないように、慎重に資料を探して回る。
 幸い資料は山の上の方にあったので、さほど苦労せずに見つかった。
 ……山を崩さずに取るには、物凄い苦労したが。


 書かれていたのは、だいたい次のような内容だった。

 まず山平がキーを開発した動機だが、コレは純粋に玩具として売り出すつもりだったらしい。
 いわゆる変身アイテムと同じノリで、見た目まで変われるおもちゃが出来れば、バカ売れ間違いなしと思ったのだ。
 無論、山平自身が大の特撮マニアだったというのも、理由の一つにある。
 それで、企画をおもちゃメーカーに持っていたものの、「そんなモノ作れる訳もない」とまるで信じてもらえない。
「ならば!」と一念発起した山平が3日3晩寝ないで作ったのが、校長キーであった。

 キーの題材に特撮ヒーローではなく、校長を選んだのは、単純に著作権に抵触するのを避けただけらしい。
 完成したキーの出来は素晴らしく、見事に各校の校長を再現することが出来た。
 さらに山平は、おもちゃとしての完成度をより高めるために、キーに特殊なフィールドを発生する能力を施した。
 キーの発するフィールドが他のキーのフィールドを侵食すると、侵食された方の変身が解けるようにしたのである。
 単なるごっこ遊びから更に一歩踏み出して、キーでバトルが楽しめるようにしたのだ。

 しかしここで、山平の目的は変わってしまう。有名人のキーを作り変身することが、面白くなってしまったのだ。
 こうして山平は特撮ヒーローのキーからキャラクターキーの作成へと、方針を180度転換。各校有名人の再現に、没頭することになる。

 そうして、一通りの人物のキーを作った所で、予想だにしない事態が起こった。
 何者かに、キーを奪取されたのである。
 キーの開発は純粋に山平の趣味で行われ、しかもオタクでマニアでマッドサイエンティストな山平には友人など殆どおらず、さらに彼の研究内容を把握している同僚も上司も一人もいないという有様だったので、どこからキーの情報が漏れたのかはまるでわからなかった。

 驚いた山平は、兎にも角にも山葉に相談。早速秘密裏に捜査が開始されたのだが、その矢先に校長帝国の侵略が起こったのである。

 当然山平は慌てたが、同時に当惑もした。
 自分が作ったキーは、見た目が変わるだけで能力は変わらない筈だ。それが校長たちは、明らかに能力も変わっている。

 そこで山平に、一通の手紙が届く。
 それは、アルベリッヒと名乗る、校長帝国の科学者と思しき人物からのモノだった。

 そこには、校長キーを改造して本物の校長に近い能力を発揮出来るようにした事、巨大化の能力を付け加えた事、学徒兵たちはキャラクターキーを使うと簡単に倒せる事、校長キーのフィールドをキャラクターキーのフィールドで中和しないと、校長を倒せない事、さらには「キャラクターキー量産のためには、変身に制限時間を設けることが効果的」というアイディアまでが書かれていた。

 この情報を元に、山平はキャラクターキーの量産に着手。
 そして現在に至るというのである。

「こ、コレは……」

 その驚愕の内容に、絶句する鉄心。
 鉄心はてっきり、山平が軍事目的でキーを開発したことが全ての原因だと思っていたのだ。
 しかしこの調書を読む限り、ほぼ全ての原因は校長帝国にあることになる。

「それで?まだ何か、僕に聞きたいことが?」

 山平の声に、顔を上げる鉄心。
 いつの間か山平は、鉄心の方を向いていた。
 その顔には疲労の色が濃いが、その眼は炯々(けいけい)と光を放っている。

「い、いや……」
「なら、ちょっと手伝ってくれませんか?このままでは、間に合わない」
「手伝うって……一体何をですか?」

 キョトンとして、イコナが訊ねる。

「何、心配には及びません。キーを挿すだけの、簡単なお仕事ですよ」

 そう言って山平は、一抱えもある宝箱をドサッと床に下ろす。
 そこには、箱からはみ出さんばかりにキャラクターキーが詰め込まれていた。