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校長帝国を倒せ!

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校長帝国を倒せ!

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序章  校長帝国軍、進軍!



 一面に広がる、荒涼とした大地。
 その地平を埋め尽くすように広がる、黒い群れ。
 そして、その向こうに聳え立つ、黒々とした異様な影。

「打倒、校長帝国!」の旗の元集まった戦士たちは、ある者は小高い丘の上から、またある者は遙かな空の高みから、そしてまたある者は己が現身と頼む愛機の中から、校長帝国の大軍団を見つめていた。
 その彼等に向かって、シャンバラ国軍総司令金 鋭峰(じん・るいふぉん)が檄を飛ばす。

「校長帝国を名乗るテロリスト共は、既にツァンダの20以上の村を支配下に収め、しかもその勢力はますます強大になろうとしている。今これを討たねば、その被害は想像もつかないものになる。だが、今から大軍を動員していてはとても間に合わない。彼等を止めることが出来るのは、そこにいる君たちだけなのだ。敵の戦力は強大であり、我が方は寡兵である。しかし!諸君らの知恵と勇気、そしてキャラクターキーの力があれば、必ずや敵を打ち破る事が出来ると、私は確信している。ツァンダの民を救うために、そしてシャンバラの未来を守るために、諸君らの奮闘を期待する」

「いいか、みんな!今鋭峰が言った通りだ!」

 鋭峰の演説を、蒼空学園校長山葉 涼司(やまは・りょうじ)が引き継ぐ。

「俺のニセモノならホントは自分で殴り飛ばしてやりたいところだが、今俺たち校長は身動きが取れない。みんなだけが頼りなんだ!頼む!何としても、校長帝国を倒してしてくれ!」

 ガバッと頭を下げる山葉。
 その映像を最後に、中継は途切れた。


「頼むぞ、みんな……」
「急ぐぞ、山葉。ツァンダのお歴々が、おカンムリなのだろう?」
「済まないな。ウチの不手際で、迷惑かけてしまって」

 隣室には、校長帝国に領地を侵略されたツァンダの首長たちが集まっていた。
 今回の事件の事実関係や今後の防衛計画の説明、それに被った被害の補償についての協議を行うためである。
 また今回に限っては、身の潔白を立てる意味合いもあった。
 この場にいない他校の校長たちも、今はそれぞれに監視下に置かれているはずだ。

「気にするな。万一に備えた手筈は、既に整えてある。今更私がいなくても、問題はない。それに部下のために時間を稼ぐのも、上官の務めだ」
「そう言ってもらえると、助かるね」
「ただし、あくまで貸しは貸しだ。覚えておく」
「やっぱりそうなるか。参ったぜ……」

 額に拳を当て、思わず天を仰ぐ山葉。
 首長たちとの長々とした折衝や賠償のコトよりも、鋭峰に貸しを作ったことの方が、余程気が重かった。
 



「校長帝国軍が、進軍を開始したわ!」

 上空の警戒に当たっていた大型飛空艇オクスペタルム号のキャビンで、卜部 泪(うらべ・るい)が叫ぶ。
 その傍らには、泪が局から連れてきたプロのカメラマンがいる。
 戦場カメラマン一筋ウン十年という、ベテランだそうだ。

 泪は今回の戦いを撮影するため、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の所有するオクスペタルム号に便乗していた。
 この同行取材には、二つの狙いがある。
 一つは、自身の勤めるテレビ局で放送するため。
 そしてもう一つは、各校の名誉回復に利用するためである。

 なにせ、傍目でまるで見分けがつかないような精巧なニセモノが暴れているのだ。
 いくら「あれはニセモノだ」と主張しても、言葉だけで信じてもらうのは難しい。
 そこで、ニセモノ討伐の一部始終を記録した映像を作成し、陽太の《宣伝広告》でこれを広く流布させようというのである。
 陽太は始め自分で撮影するつもりだったが、ちょうど泪が便乗を希望してきたので、全面的に任せる事にした。
 陽太も(オクスペタルム号の操艦に専念出来るし、プロの映像も手に入る)と、この提案を渡りに船と受け入れたのだった。
 
「了解!すぐみんなに連絡します!」

 陽太は無線を手に取ると、地上部隊に連絡を取った。



「始まりましたよ、環菜」

 戦場から遠く離れた、とある一室。
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)はそこで、モニターをじっと見つめていた。
 エリシアは今、戦場にいる陽太の代わりに、彼の妻である御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の側についている。
 妻(当時はまだ妻ではなかったが)の不慮の死に遭ってからというもの、陽太は殊環菜に関しては、過保護といってもいい程気を配っている。
 過保護と思いつつ陽太の言葉に従っている自分も、大差ないのかもしれないが。

 モニターには、今撮影されている戦場の映像が、リアルタイムで映しだされていた。
 今回の撮影では、各校の校長やごく一部の要人に限っては、未編集の映像が中継されることになっている。
 環菜も、その一人に入っていた。

「ウン」

 環菜の返事は、そっけない。

「見ないのですか?」
「ええ。今ちょっと手が離せないし……。それに、どうせ陽太たちが勝つのでしょう?なら、急いでみる必要はないわ」
「自信満々なのですね」
「信じてるから、みんなを。それと……陽太もね」

『信じてる』
 以前の、超人的な頭脳を持っていた頃の環菜は、滅多に使わなかった言葉である。
 それはそうだろう。信じなどしなくても、自ずから結果がわかってしまうのだから。
 しかしナラカから帰って来てからは、こうした不確実な言葉を、良く使うようになった。
 そんな変化を、エリシアは好ましく感じている。
 たとえ不確実でも、もしかしたら裏切られるかもしれないとわかっていても、信じ、信頼できる何かが、人には必要なのだと、魔女であるエリシアは思う。

「ハイハイ、御馳走さまでした」

 エリシアは苦笑して、再びモニターに目を戻す。
 その画面を、帝国軍が埋め尽くしていた。



 横一列に並んだまま、突っ込んで来る帝国軍。
 数にモノを言わせて、一気に踏み潰すつもりらしい。

 近づくにつれ、その正体が明らかになってくる。
 それは人間とは似ても似つかないものだった。
 ネズミ色の体色に、鼻も口もないのっぺりとした顔。
 眼窩らしきモノこそあるものの、そこにはまったガラス玉のような眼に、表情めいたモノは一切見て取ることが出来ない。
 まるで出来の悪いマネキンのように、みな同じ姿形をした、無機質な群れ。
 その兵士たちが、各校の制服に身を包み、杖や銃剣、釘バットといった各校を象徴する武器を手にして、ズンズンと迫って来る。
 その雲霞のごとき学徒の群れへ、キーを携えた戦士たちが、我先にと突っ込んでいく。


「おい総司、早くせんか!みんなもう行ってしまったぞ!」

 仲間の後ろ姿を、ヤキモキしながら見送る飛良坂 夜猫(ひらさか・よるねこ)

「まぁちょっと待てって。今大事なトコなんだから」

 しかしそんな夜猫の焦りなど意にも介さず、弥涼 総司(いすず・そうじ)はキャラクターキーの山と格闘していた。

「後輩の雅羅ちゃんにすっかな〜。雅羅ちゃんカワイイしな〜。でも第一弾の梅琳とかリンネちゃんとかアイリスもいいよな〜」

「第一弾……?なんです、それ?」

 山平の質問は気にもとめず、何故か宝箱型のキーボックスを漁り続ける総司。
 気に入ったキャラクターのキーを見つけると、それを床の上に並べていく。

「ぐぬぬ……やはり美緒エンヘドゥが二強過ぎる……ハイナさんが無ぇのが悔やまれるな……ん!これは!?」

 手にしたキーを凝視する総司。

「なんだ、セイニィか……」

 ポイ、と後ろ手に投げ捨てる。

「うわわ!な、何するんですか!」

 慌ててキャッチする山平。

「隠れて高ステータスを誇る環菜や{SNL9998958#フリューネ}、ティセラなんかも捨てがたいが……あ、ジェイダス!?」

 バギッ!!

(ゲッ、首がもげた……って、気づいてない!?ラッキー!)

 よそ見をしている山平に見つからないように、ジェイダスを箱の中に戻す。

イナンナってどんなカンジなのかぁ……。なんたって女神様だしなぁ。気になるなぁ……。ああっ!スーパーレアのマレーナさんもあるっ!?あぁっ!そうか!メルヴィア大尉はまだ商品化してないのかーっ!?」

「いえ、商品化の予定は無いんですが……」

「そんなコトはどうでもいい!早くせい、総司。いい加減、待ちくたびれたぞ!いつまで、そんなセクハラ紛いのコトをやっておる!」

「だーーーっ!」

「決まったか!」
「だ、ダメだ!こんなに沢山あっては決められん!」

 10を越えるキーを前に、頭を抱える総司。

「仕方ない。ここは一発、オレのトレジャーセンスを信じて――」
「な、ナニッ!また一から選ぶのか!」

 総司はやおらキーを全て箱の中に戻すと、目をつぶった。

「でいやぁーー!いくぜ盲パイっ!!」

 気合と共に、勢い良く箱に手を突っ込む。

「確か〜め〜たいぜっみんな、同じじゃないからぁ〜♪」

 フンフンと鼻歌を歌い、鼻の下を伸ばしながら、いやらしい手つきでキャラクターキーをまさぐる総司。
 キーの曲線をなぞる親指の感覚に、全神経を集中する。
 

「でっかい胸は無限大!運命を掴み取れぇぇぇっ!!」

 キーの山から、勢い良く手を引き抜く総司。

(コレが、オレの運命のパイ――!)

 握りしめたキーを確認しようと、手を開いたその時――。


「いいかげんにせんかぁーーっ、このセクハラ男がーーーーーー!」


 バリバリッ、ピシャーーーーン!!


「ブギャァァ!!」


 夜猫の怒声と共に《天のいかづち》が降り注ぎ、総司を直撃した。
 黒焦げになって、バッタリと倒れる総司。
 キーをしっかりと握ったまま、白目を剥き、ピクピクと震えている。

 こうして総司は、本作戦における戦線離脱コントラクター第一号となったのであった。