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校長帝国を倒せ!

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校長帝国を倒せ!

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《VS 金 鋭鋒》

(いたな!この団長のニセモノめ!)

 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、学徒兵を大きく迂回して、直接金 鋭峰(じん・るいふぉん)の寄る本陣へと接近していた。

 数で勝る鋭峰は、既に勝利を確信しているのか、余裕溢れる笑みを浮かべている。

(アイツ……。フン!そうやって、笑っていられるのも今の内だ!)

 トマスはいきなり物陰から姿を現すと、金 鋭峰(じん・るいふぉん)に向かって駆け寄った。

「ここにいたのか、鋭峰!」
「お、オマエは……」
「久し振りね、鋭峰」

 物陰から現れたトマスは、横山 ミツエ(よこやま・みつえ)の姿をしていた。
 ニセ校長たちは皆、口調まで校長そっくりだ。もしキャラクターキーが人格や性格までコピーするのならば、ミツエの姿で言い寄れば、隙が出来る筈――。

「み、ミツエ……か?」
「そうよ。どうしても、あなたに会いたくて……」
「私に?」
「うん……。迷惑だった?」

 ミツエはほんのりと頬を朱に染め、鋭峰の顔を伺う。

「い、いや……」
「そ、そう!?よかった……」

 ホッとした顔をして、歩み寄るミツエ。
 鋭峰の前に跪くと、その手をそっと取る。

「あなたが、校長帝国の将軍になったと聞いて、居ても立ってもいられなくて……。私、あなたの力になりたいの」
「私の?」
「そうよ。あなたがシャンバラを敵に回して戦うというのであれば、私も、あなたと共に戦いたい。……迷惑?」

 鋭峰の膝にすがるように、彼を見上げるミツエ。
 その顔は朱く上気し、鋭峰を見つめる目はわずかに潤んでいる。
 完璧に、恋する乙女の顔だ。

「み、ミツエ……」

 ミツエの手を、ギュッと握る鋭峰。

「鋭峰……」

 鋭峰の名を返しながら、ゆっくりと目を閉じるミツエ。
 鋭峰の吐息が、近づいてくるのが分かる。
 薄目を開けて様子を伺いながら、ミツエは、もう一方の手をそっと鋭峰の胸に当てた。
 その掌の中には、極小サイズにまで縮小した【龍金棒】が隠してある。
 コレで鋭峰の心の臓を突けば、一撃で倒せるはず――。

(今だ!)

 龍金棒に意識を集中しようとしたその時、トマスの手が万力のような力でひねり上げられた。
 トマスの手から龍金棒が落ちる。

「な、ナニ……!?」

 驚いて、目を開くトマス。

「何者かは知らんが、こんなつまらん手で私を引っかかけようなどとは、舐められたモノだ」

 鋭峰は、蔑んだ笑みを浮かべていた。
 抵抗しようにも、既に両手を抑えられている。

「く、クソッ!」

 何とか手を外そうともがいてみたが、逆に後ろ手に絡め取られ、うつ伏せに組み敷かれてしまう。
 学徒兵が、トマスの身体を抑えつけた。

「中々の芝居だったが、生憎キーで人格までは変わらん。残念だったな」
「は、放せっ!」   
「そうはいかん。この場にて血祭りに上げ、首級を晒してくれる。そうすれば、少しはオマエたちもわが校長帝国の力を思い知るであろう」

 腰の【栄光の刀】を抜く鋭鋒。
 首に走る冷たい感触が、トマスの胸を鋭く抉った。

「呪うのならば、己の不明を呪うがいい」

 鋭峰の刀が、振り上げられた。
 トマスは思わず、目を瞑る。



キィン!

 金属音がして、何かがトマスの顔の前に突き刺さった。
 目を開けたトマスの眼前に、鈍く光る刀が立っている。

「何者だ!」

 手を押さえ、誰何(すいか)の声を上げる鋭峰。

「私が名は『金鋭峰の剣』ルカルカ・ルー(るかるか・るー)。私たちの団長に変身するとは、貴様、死刑執行書にサインしたと知れ

 両の手に【羅英照の鞭】を構えたルカが、鋭鋒を睨みつけていた。

「き、貴様ら、いつの間に……!?お前たち、何をしていた!」

 学徒兵を叱り飛ばす鋭鋒。

「そのコたちを責めちゃ可哀想よ。アタシたち、あっちから来たんだもの」

 おもむろに、上を指差すルカ。
 彼等の頭上に、巨大な黒い影が差す。

「【ジェットドラゴン】!?」
「お前には地獄を見て貰うぞ」

 炎を吐きながら急降下するドラゴンの背にまたがり、【怯懦のカーマイン】を連射するダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
 鋭峰とトマスの周りの学徒兵が、一瞬で倒される。
 学徒兵を振り払い、龍金棒を拾い上げるトマス。

「ま、待て!」
「オマエの相手は、このアタシよ!」

 刀を拾いトマスを追う鋭峰を、2本の鞭が襲う。
 その攻撃を切り払い、ルカに対峙する鋭峰。

「中々やるわね……でも!!」

「キャラクターチェンジ!」

 羅 英照(ろー・いんざお)に変身しながら【ダッシュローラー】で加速するルカ。その姿に《ミラージュ》創りだされた幻影が、幾重にも重なる。

「ルカ!お前、その姿は!?」

 参謀長に変身したルカに、驚きの声を上げるダリル。

「キーを使ったからと言って!」

 刀を振るって応戦する鋭峰。
 しかし、何体ものルカが繰り出す虚実入り乱れた鞭に翻弄され、ルカの身体に刃を届かせる事すら出来ない。
 鞭に切り裂かれ、見る間に無数の血しぶきが上がる。

「グウッ!」
「恐れ多くも団長に化けるとか、身の程を知れ!」

 《サンダークラップ》で身体を麻痺させられた鋭峰が、刀を取り落とす。

「器が違う!」

 鋭峰の身体と首に、鞭が巻き付く。

「采配も、身のこなしも!」

 鞭を思い切り引き絞ったまま、大地を蹴るルカ。

「何より貴様には、あの恐ろしいまでのプレッシャーが、まるで無い!」

 自身を一個の槍と化し、足から鋭峰に突っ込んで行くルカ。
 《龍飛翔突》で威力を増した強烈な一撃が、鋭峰の胸板を直撃する。

「グブアァァァ!」

 血反吐を吐き、崩れ落ちる鋭峰。

「死ね。ジンの為に」

 既に身動きの取れない鋭峰の身体が、《パイロキネシス》の炎に包まれる。

 生きながら焼かれる苦しみに、苦悶の叫びを上げのたうち回る鋭峰。
 だがすぐに、鋭鋒は動かなくなった。

「一足先に蒼学に帰るわよ」

 そう言って、歩き始めるルカ。
 もはや、鋭峰の方を振り返りもしない。

「待て、ルカ」

 ダリルの声に、振り返るルカ。

「頼むから、参謀長の声で、女言葉は止めてくれ」
「ご、ゴメン!こ、コホン……。帰還するぞ、お前たちぃ!?」

 参謀長の真似しているうちに変身が解け、元の高い声になってしまう。

「プ……、ブワハハハ!」
「る、ルカ……!そ、それはナイ、それは!!」

 大笑いするトマスとダリル。

「あぁ、もう!なんで人がカッコつけようと思った途端に、効果が切れんのよ!」

 地団駄を踏むルカ。

「笑ってないで、早く帰るわよ!」

 ふくれっ面をして歩き去ろうとするルカの足が、急に止まる。
 背後に、強烈な殺意を感じ取ったからだ。

「……待て」 
  
 一体どこにまだそんな力が残っていたのか。
 黒焦げになったはずの鋭峰が、ゆっくりと立ち上がる。

「生きては……返さん!」

 鋭峰の身体が、眩い光に包まれる。

「しまった!」
「暴走か!!」

 鋭峰から発せられる光が、ルカたちをも包んでいく。
 鋭峰の姿が、見る間に巨大化していった。