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校長帝国を倒せ!

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第五章  対明倫館戦線





《VS 学徒》

「これで、終わりぃ!」

 目の前の学徒兵を右手の【ファルシオン】で切り捨てざま、そのすぐ後ろにいる学徒に左手の【灼骨のカーマイン】を連射する東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)
 学徒兵は、バッタリと倒れると、そのままドロドロと溶け崩れていく。

「ハァ、ハァ……。さ、流石にちょっと疲れたかも……」

 周りの敵を一通り片付けたのを確かめて、片膝をついて呼吸を整える。

「50までは数えてたんだけど……」

 余りの多さに数えるのを諦めてから随分経つ。たぶん、100体位は倒しただろう。

「でもまだ、十分の一しか倒してないんだよね。あ~、もう!どうしてこんなにいるかな~」

 などと愚痴をこぼしている間にも、新手が目の前の丘を駆け下りてくるのが見える。

「もう来るの~。もうちょっとは休ませてよ~」

 そうは言っても、来てしまったものは仕方がない。
 ファルシオンを杖がわりに立ち上がろうとする秋日子。
 その目が、驚きに見開かれる。

「は、ハイナ……さん?」

 丘の上に立つ、スタイル抜群、露出度満点の人影。あれは紛れも無く、葦原明倫館校長ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)――のニセモノだ。

「な、なんでニセハイナさんが!」

 (敵のボスともなれば、必ず一番後ろに陣取っているに違いない)と頭から決めてかかっていた秋日子は、まさかのハイナの登場に、動揺を隠せない。

「と、とにかく変身しないと――」

 キャラクターキーを取り出して、身体に挿そうとするが、何故だかキーが入って行かない。

「あ、あれ?なんで……って、まさか!」

 慌てて腕時計を確認する秋日子。
 時計を見て愕然となる。

「あぁっ!まだ3分もある!?」

 体調が万全ならまだしも、今の疲労した状態でハイナと戦うのは危険過ぎる。
 
(何とかして、時間を稼がないと……。ここは一旦逃げる?)

 などと秋日子が考えを巡らしていた、その時。

「パーッ!パーッ!

 甲高いクラクションの音が、彼方から聞こえてきた。
 車のようなモノが、もうもうと砂塵を上げ、こちらに向かってくる。

「と、トラックなの……?」

 ドンドンとその大きさを増してきたトラックは、スピードを全く緩めずに、敵に突っ込むと、学徒兵をはね飛ばしながら進み、敵の隊列を真っ二つにする。

「す、スゴイ……」

 秋日子が呆気に取られている間に、ブリュスター・フォールティスはUターンしてもう一度学徒兵を蹂躙すると、猛烈な勢いで土砂をまき散らしながら、秋日子の前に止まった。

 その荷台の上に立つのは、今まで見たこともない、しかし明らかにスーパー戦隊のオマージュと分かるコスチュームに身を包んだ、3人の戦士たちだった。

「トォーゥ!」
「タァーッ!」
「ヤーッ!」

 彼らは掛け声と共に秋日子の頭上を飛び越えると、学徒兵の前に立ちはだかった。

「見つけたぞ、ニセハイナ!」
「これ以上は、やらせん!」
「お前の悪巧みも、ここまでだ!」


「ぬし等、一体何者でありんすか!」

 啖呵を切る3人に、丘の上のハイナが、お定まりの声をかける。

「黒き星条の使徒!神烏の騎士、レイヴンナイト!」
「青き雪花の使徒!彩魚の賢者、ネレイドセージ!」
「白き月華の使徒!白蛇の舞姫、セレインナーガ!」

「神楽戦隊ディバインジャー、オンステージ!!」

 3人の背後に、ドコからとも無く3色の爆発が巻き起こる。

「でぃ、ディバインジャー……?」

 突然の、しかも謎のスーパー戦隊の登場に、呆気に取られるハイナ。


(~ ナレーション ~)

 セレインナーガことルナティエール・玲姫・セレティ・ユグドラド(るなてぃえーるれき・せれてぃゆぐどらど)は、他人(ひと)の涙を放っておけない、人情家の熱血屋である!
 世も人も裁けぬ悪を裁くため、ルナティエールはセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)夕月 綾夜(ゆづき・あや)と共に神楽戦隊ディバインジャーに変身し、敢然と悪に立ち向かうのである!

(~ ナレーション 終 ~)


「お前たち校長帝国の野望は、我々ディバインジャーが打ち砕く!」
「覚悟しろ、ニセハイナめ!」

「え、ええぃ!何をしているでありんすか!ディバインジャーでも何でも構んせん、やっておしまい!」
「ギギー!」

 ハイナの号令一下、一斉に襲いかかる学徒兵。
 たちまち、乱戦が始まった。

「な、何なの一体……。今回はそういう流れってコト……?」

(確かに、『10年前のスーパー戦隊に、やたらと良く似たシチュエーションだな~』とか思ってたけど、まさかオリジナルのスーパー戦隊で参戦なんて……)

 すっかり毒気を抜かれ、学徒兵と大立ち回りを繰り広げるディバインジャーたちを眺めている秋日子。
 その秋日子の背後で突然、

「Rock ’n Roll!!」

 という《叫び》が大音量で響き渡った。

「こ、今度はナニ!?」

 ビックリして振り返る秋日子。

 その声は、トラックの荷台を改造した特設ステージの上で、身も心も完璧に熾月 瑛菜(しづき・えいな)になり切って歌う、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)のモノだ。

 ボーカル&ギターとしてステージ中央でスタンドマイクを握るローザ。
 その右奥でベースを爪弾くグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)
 グロリアーナの反対側で、ドラムを叩くエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)

(同じアメリカ人として、これ以上その姿を見るのは忍びないわ――瑛菜。私に力を貸して。必ずハイナを止める!)

 その思いを歌に込め、魂を賭けて歌うローザ。
 その《震える魂》に、秋日子は強く胸を打たれる。

(な、ナニ……。この感覚……?)

 取り憑かれたようにローザの歌に聞き入る秋日子を、ローザの《幸せの歌》と《驚きの歌》が癒し、奮い立たせて行く。
 身体の底から力が沸き上がってくる感覚に、キーを握り締める秋日子。
 その秋日子に、ローザがウィンクを送った。

「……ウン!」

 秋日子は力強く頷くと、溢れる力に導かれるように、キーを突き立てた。

「キャラクターチェンジ!」「サァーーーホ!」

真田 佐保(さなだ・さほ)、我が明倫館の恥を雪(そそ)ぐため、イザ、参るでござる!」

 秋日子は、ローザの叫びから立ち直ったばかりの学徒の死角を、本物の佐保もかくやという身のこなしで捉えると、次々と屠っていく。

「ここは拙者に任せるでござる!ディバインジャー殿は、校長の偽物を!」
「済まない!」

 秋日子の攻撃で生まれた空間を縫って、3人はハイナの元へと駆ける。

「あたしの歌を聴けーーー!」

 ローザの《咆哮》が、辺りに反響(こだま)した。



《VS ハイナ・ウィルソン》

「校長の名を騙り、姿を借りての悪逆非道、到底許すことは出来ん!」

 流線型の飾りがあしらわれたヘルメットのゴーグルの下から、ハイナを見据えるナーガ。

「神に代わってお前を裁く!」
「我等が正義の舞、その目にしかと焼き付けよ!!」
「そう言っていられるのも今の内でありんす!返り討ちにしてしんしょう!」

 《抜刀術》で抜き放った両手の【花散里】で、ナーガに斬りかかるハイナ。
 その一撃を、間に入ったレイヴンナイトが《ディフェンスシフト》で受け止める。

「その程度の攻撃では、この私の守りは打ち破れん!」
 漆黒のアーマースーツに身を包んだレイヴンが、烏をあしらったヘルメットの下で、ニヤリと笑う。

「ほう……。では、これはいかかでありんしょう?」
「な、ナニッ!」

 《二刀の構え》から、恐るべき早さで《疾風突き》を繰り出すハイナ。
 その激しい攻撃を、レイヴンは【幻槍モノケロス】で必死に受け流す。

「は、早い!」

 ジリジリと圧されていくレイヴン。

「危ない!『ネレイドフレイム』!」

 鯉をモチーフにした群青のローブを翻し、【賢人の杖】から《凍てつく炎》を繰り出すネレイドセージ。
 ハイナは転がってこれを避ける。

「でやぁ!」

 膝立ちになったハイナに、レイヴンがモノケロスで突きかかる。
 その一撃を、ギリギリで受け止めるハイナ。
 だが、受け止めたはずの槍の穂先が素早く動き、ハイナの胸に強烈な一撃を浴びせる。
 《ライトニングランス》の妙技だ。

「クウっ!」

 たたらを踏んで胸を押さえるハイナ。

「今だ!オンステージ、スペシャル!ティファニーナーガ!!

 ハイナに向かって高くジャンプしながら、キーを使うナーガ。
 空中で、白蛇の衣装を身に纏ったティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)に変身したナーガは、両手に武器を構えたまま、ハイナに向かって突っ込んで行く。
 何とか受け止めようとするハイナ。

 ナーガの両肩から長く伸びたショールが、宙にたなびく。

 ハイナの花散里と、ティファニーナーガの【サーペントバイト】と【セレニティスゲイザー】が、火花を散らして打合い、ハイナのキーとティファニーのキーが創り出すエネルギーフィールドが、激しく干渉する。

 一瞬、彼我の力は、拮抗したかに見えた。

 しかし――。

 キィン!と甲高い音を立てて、ハイナの手からはじけ飛ぶ花散里。
 レイヴンの突きで体勢の崩れたハイナには、落下の勢いを載せたナーガの一撃を受けきれなかったのだ。
 ナーガの刃が、ハイナを切り裂く。

「キャアァァ!」

 跳ね飛ばされ、地面を転がっていくハイナ。

「レイヴン! ネレイド! これで決めるぞ!!」
「了解!」
「オッケイ!」

 全パワーを武器に込めるナーガ。
 レイヴンとネレイドの《パワーブレス》を受け、ナーガの武器がさらに白く輝く。
 ハイナは必死に立ち上がろうとするが、間に合わない。

「くらえ!! 真・百舞雪月花ァァァァァァっっっっ!!!」


「キャアァァァァァーーー!!」

 白い奔流と化したナーガが、ハイナを襲う。
 ナーガの軌跡に残る光の残像が、雪の如く舞い、月の如く輝き、そして、散花の如く消えた。

「あ、あちきの危惧が、現実になってしまいんした……。でも、これで終わりではありませんえ!!」

 ハイナの悔しさに応えるかのように暴走を始める、校長キー。
 『大いなる力』が、発動しようとしていた。