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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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第六章 


「あ……ありのまま今起こってることを話すぜ!
 『オレは普通の缶蹴りに参加したと思ったら、人が次々と倒れていく戦場に立っていた』
 何を言ってるか分からねぇと思うが、オレにもまだ状況が飲み込みきれてない。ゲームだとか遊びだとか、そんなチャチなもんじゃあねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を、現在進行形で味わってるぜ……」


・It is the man behind the gun that tells.(勝敗は武器よりも人に有り)


(あとはここの缶だけか)
 佐野 亮司(さの・りょうじ)の元に、二つ目の缶が蹴られた旨の情報が入ってきた。残り一時間を切っているとはいえ、油断は出来ない。
 なぜならば、他の缶を守っていた守備が合流する気配がないからである。おそらく、攻撃側との激しい攻防で疲弊し、こちらへ来る体力が残っている者が少ないのだろう。
 主催者から参加者リストを見せてもらった当初は、今回の缶蹴りは先の二回に比べれば命の危険が少ないと考えていた。
 だが、実際は違った。大荒野ということで、都市部で行われていたこれまでとは違い、自重する者が少なかったのである。
 無論、それを見越した上で準備は行っておいた。
 自身は藤堂 忍(とうどう・しのぶ)を纏い、缶から比較的近い位置で状況を窺っている。また、光学迷彩で姿を消したジュバル・シックルズ(じゅばる・しっくるず)が近くに控えてもいる。
 また、こちらには他の二つの缶よりも策敵要員が多い。
「さあ、みんな。探してきて下さい」
 マザー・グース(まざー・ぐーす)が、ペットの狼四匹をフィールド内に放った。
 また、的確に指示を出すために、ある程度意思疎通可能な賢狼を司令塔として自分の側につかせた。
「あ、見つけても食べちゃダメですよ。ちょっと咆えて、教えてくれれば大丈夫です。あとは、サキちゃん達もいますからね」
 恐竜がフィールド内にいないのが救いだ。
 もしいたら、それほど効果的ではなかっただろう。
 と、思ったら守備側にペガサスならいた。
 赤羽 美央(あかばね・みお)アンブラである。
「さて、隠れている場所といえば岩場の陰くらいですよね。とはいえ、他の缶は隠れながらというよりも、とんでもない手段で蹴りに来たようですが」
 亮司や美央にとってロケットランチャーはまだ想定の範囲だが、ドラゴンやトラックといったものを次々とけしかけたりするのは予想こそすれ、本当にやってくるとは思えないものだった。
「とはいえ、ここに対しても力技で攻めて来るでしょうから、ちょっと楽しみではありますね」
「出来ることなら缶ごと消滅させるような攻撃は勘弁して欲しいけどな」
 前二回は「武器による直接攻撃」が禁止だったが、今回は「直接攻撃」全般が禁止対象だ。だが、はっきり言って至近距離からやらなければ、いくらでも言い訳が出来る。
 そういうルールの穴に、守備・攻撃含めどれほど多くの人が気付いているのだろうか。
「さあ、行くのデス。ゴースト三兄弟!」
 ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が、グースの狼達に続き、ゴーストをフィールドに放った。
「今のところ、空からの奇襲の危険性はないですネ」
 ジョセフが告げる。
 亮司もまた忍の殺気看破によって探るが、まだ空にはその気配がない。
 少し離れた場所で霧が立ち込めてきた。濃度ゼロのアシッドミストである。亮司がいる缶付近は視界が悪くならないように、遊撃要員が前線で積極的に視界を塞ごうとしているのである。
「始まったか」
 ここは、三重の防衛ラインが張られている。
 まず、グースのパートナーが最前線での遊撃、続いて美央が巨大生物やトラックといったものへの対処、そして缶付近の最終防衛ラインである亮司。
 加えて、フィールド内の無数のトラップ。よほど奇想天外な動きを攻撃側がしてこない限り、耐え切ることも可能……なはずだ。
 おそらく、攻撃側の人数も三分の一程度にはなっていることだろう。ここが正念場だ。

* * *


(缶は……あれだね)
 フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)は、缶を発見した。本物の缶はあらかじめ示されたデザインのものだけで、同じデザインのダミー缶は用意出来ない。
 だが、缶は穴の中にある。人一人が入れる程度ではあるものの、よっぽど近くに行かないとデザインが分からないようになっていた。
 そのため、複数ある穴のどれに本物があるのかはまだ分からない。
 近くに守備がいるかどうかはディテクトエビルによってある察知出来る。
 グレイシャルハザードを狭い範囲に集中して使用し、そこから凍てつく炎を繰り出した。そうして水蒸気を発生させつつ、温度差による限定的な蜃気楼を作り出す。
 さらに、アシッドミストを展開。霧によって視界を悪くさせる。
 しかし、その霧で防衛陣を封じるというやり方が間違いだった。
 霧が想定していたよりも濃い。しかも、守備側がすぐ近くにいるのを察知した。
(残り一時間を切ったわ。仕掛けるわよ)
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)からテレパシーが送られてくる。霧に紛れて、作戦を実行しようとするが、
「そこにいる、でもここにはいない。それが私。夜に漂いし漆黒。この私を見つけてごらんなさい。こっちよ。さあおいで」
 声が聞こえてくる。守備側の人間が霧の中に隠れ身で紛れているのだろう。が、アボミネーションで気配を発して威圧しているから丸分かりだ。
「何も、視界を塞ごうとするのが攻撃側だけとは限らんじゃろう?」
 そちらの気配、それも害意が強過ぎるがゆえに、フィーグムントは背後に迫る存在に気付かなかった。

 同じタイミングでグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)も行動を開始した。
 フィールドの中でも高めの土地にある岩場の陰から、霧で視界を封じて守備側の足止めをしているはずのフィーグムントの方を見遣る。そこから再度缶の近くに目線を送ると、ローザマリアがテクノパシーを使い、格安の自動車を缶に向けて走らせているのが分かった。無論、それは穴に嵌るが、トラップを潰すには十分だ。
(朝斗……もといあさにゃんの守っている缶は倒れたようだが、全部倒さんといかんからなぁ。全力でいかせてもらうぞ……!)
 なお、彼女もまたルシェン・グライシスの協力者の一人だ。
 誰も乗っていない自動車に注意が向いているだろう瞬間に、タイムウォーカーで一気に攻める。
 事前にローザマリアによるゴッドスピードも使用しているため、一気に缶がある一帯に迫るが、守備側が事前に掘っていた落とし穴に引っ掛かってしまった。
 そこに、狼とグースがやってくる。
 が、彼女が失敗するところまでは問題ない。本命はローザマリアだ。
 グースと彼女が放った狼達を引きつけている間に、反対方向からローザマリアがアクセルギアを起動した上でバーストダッシュ。缶がある一帯に入り、穴の中を覗き込んだ。
 加速している間に本物の缶を探し、蹴ろうとする。
 しかし、誤算だったのは缶の周囲に人がいないと思いきや、しびれ粉が撒かれていたことだ。
 アクセルギアによって加速していたものの、身体が思うように動かなければあまり意味がない。足止めされているうちに、光学迷彩で姿を消していた亮司が近付き捕まえた。

* * *


「ふふ、『夜』と『闇』が合わされば隙などないわ」
 刹姫・ナイトリバー(さき・ないとりばー)はアシッドミストで霧を生み出し、その中で魔鎧として纏っている夜川 雪(よるかわ・せつ)の隠れ身で気配を絶ちながら、策敵をしていた。
「缶は『闇』の商い人が守っている。なかなかいいめぐり合わせだわ」
『理由はともかくこういうゲームってのはいかに気付かれないか、ってのも重要だろ。それに俺達に出来ることなんて限られてんだから、ブラフ使ってかねーとな』
 実際、大口を叩くほど多くの技を刹姫は持ち合わせているわけではない。
 が、守備側にいる亮司が『闇商人』というあだ名というだけで、テンションが上がっているのである。
「このフィールドを制するものが、夜を制す。まさに、『漆黒たる闇の遊戯』。さあ、いくわよ、ヨミ!」
「ふ、悔しいが、わらわとお主は表裏一体。ゆえにこの戯れ、全力で付き合ってやろう」
 一緒に策敵を行っている黒井 暦(くろい・こよみ)と示し合わせる。
 要するにこの二人――厳密には刹姫だけなのだが、ただ厨二病をこじらせただけの痛い子である。それに加え、今回が初参加だったこともあり、この缶蹴りの怖さをまだ知らなかった。
 そこに、グースの放った遠吠えが聞こえてきた。
『サキ姉、グー姉の狼が攻撃側のヤツを見つけたみたいだぜ?』
 その現場へと急行する。

(さて、遠目から鴨蹴りや歌菜ちゃんと龍騎士の真剣勝負も見れたことですし、オレも行動を開始しますか)
 缶蹴り中ではあったが、恐竜騎士団と知人達の戦いを結界付近で眺めていたリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、ゲームに集中し始めた。
 数少ない遮蔽物である岩場に姿を隠しながら缶へと接近しようとしたが、そこに狼がやってきた。
(狼? 恐竜ではなく?)
 無論、缶蹴りのフィールドの中とはいえ、野生動物が紛れることだって考えられる。が、これは防衛側のビーストマスターが放った刺客だろう。
 遠吠えで位置を知らせ始めたため、リュースはその場から移動することにする。
(狼に煙幕は……あまり効果がありませんよね。ならば――)
 陽動だ。
 缶は残り一つだ。あと約五十分以内に、攻撃側の誰かが蹴れればそれでいい。とりあえず、新撰組メンツの顔を見ることが出来たので、あとはどうにでもなれ、である。
「さあ、来なさい!」
 わざと狼を引きつけるようにして、荒野へと飛び出していく。
(おや、霧ですか)
 霧が立ち込めてくると、狼達の姿が消えた。
 今度は、白い服の少女の姿が視界に入った。捕まえにかかってきたことから、守備側の人間だ。
「生憎、そう簡単には捕まりませんよ」
 しかし、その時地面の異変に気付いた。
 霧の中、一部が凍っているのである。無論、荒野という土地柄もあり、広範囲には広がっていない。
 しかし、視界を霧で封じることで、転倒を狙ってきているのである。
「ふ、我が氷結はそう甘くはないぞ?」
 眼前に立ち塞がる暦を、地面にある氷に注意しながらかわしていく。一人くらいなら、抜くのはそう難しくない。
 そう、一人なら。
「ここは私達の領域、踏み込んだが最後よ」
 超感覚ですぐに声に気付き振り返るも、一歩及ばなかった。
 霧の中で隠れ身をした状態から、ブラインドナイブスの要領で死角からタッチしにきたのである。
 それでも、リュースは守備の人間を二人(魔鎧含め三人)を一時的に缶から離すことに成功した。

* * *


(な、何とかここまで来れたけど、こ、ここからどうしろっていうんだ!?)
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)は、どうにか生き残っていた。
 開始前に空飛ぶ箒で缶の一キロ圏内ギリギリまで近付きながら銃型HCでマッピングを行い、さらに上空から観察していた同じ攻撃側からの情報を統合しようとした。
 しかし情報撹乱を守備側の誰かが使ったのか、正確な情報かどうかの判断は難しい。
 それに、もう連絡がつく人がもう少なくなっていた。
(攻撃側、残り十四人か……随分減ったな)
 最初は五十人近くいたはずだ。だが、捕まったり、「何らかの理由で」行動不能になったため、今いるのはその人数なのだろう。
(ここにも、爆弾が仕掛けられてるかもしれない。気をつけていかないと)
 誠治は姿勢を低くして、というより匍匐前進でフィールドを進んでいく。理由は単純だ。トラップ解除をしやすくするためと、生き残るためだ。
 背中に空飛ぶ箒を背負っているが、これは非常時用だ。地面に罠を仕掛けているだろうことは、荒野というフィールドを踏まえれば予想出来ることである。だからむしろ、人の注意は地面ではなく飛んでいくものに向けられる。
 と、誠治は考えたからだ。
 断じて、ビビッてるからではない。ビビリであることを自覚してはいるが。
 さすがに、ドラゴンやトラックや巨大昆虫が飛んできたり、その辺で爆発が起こっていたら、普通はまともじゃないと思っても仕方がない。そもそも、誠治は「契約者が知恵とスキルを駆使して行うパラミタ式缶蹴り」だとしか思っていなかったのである。ビラに書かれていたロケットランチャー云々はただの比喩だろうと。
 実際には、ロケットランチャーが生温いほどだったのだが。
(オレは、生き残る……生きて無事に帰って、美味いラーメンを食べるんだ)
 もはや、意識が「缶を蹴る」ことから、「缶蹴りから生還する」に変わっている。というか、こんな缶蹴りが過去にも行われており、かつ死人が出ていないというのだからとんでもない。
(何かが来る!?)
 禁猟区で作ったお守りが反応した。さらに、イナンナの加護によっても身の危険が感じられる。
 顔を上げると、狼が一匹突進してきた。
(見つかったか!)
 弾幕援護で狼を遮る。
 が、立ち上がった瞬間、地面が抉られた。何者かによる遠当てである。物質的なものでないため、サイコキネシスでは対処出来なかった。
 何とか動こうとしたが、
(身体が……!)
 しびれ粉である。
 気配のした方を振り向くと、姿は見えないがわずかに空気が歪んでいた。光学迷彩を使っているせいだ。
 ヒプノシスを試みるも、耐性を持っているらしく、通用しなかった。
 姿こそ見えないが、残った守備の情報から誰かの察しはついた。
「闇……商人ッ!」
 もはや逃げられない。
 ならば、と最後の足掻きにHCにメッセージを打ち込んで残った攻撃陣へ送信した。
『闇商人は姿を消して潜んでいる。気をつけろ』と。