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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

リアクション

(オリヴィア、そっちはどうー?)
 光学迷彩で姿を消している桐生 円(きりゅう・まどか)は、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)にテレパシーを送った。
(私はオッケーよー)
(ミネルバはー?)
(ミネルバもヘリオちゃんもだいじょーぶー)
 クリスタル・フィーアが警備で缶蹴りの会場に来るというので、せっかくだからとミネルバが百合園に通うヘリオドール・アハトを参加者として誘ったのである。
 なお、彼女もPASD所属で五機精と同じ系統ではあるが、参加しようと警備しようと自由だと主催者からちゃんとお達しはあった。
(残り三十分。そろそろだね)
 今回はとにかく最初から派手な戦いだったため、円はこれまでの缶蹴り以上に、慎重にタイミングを見計らっていた。
 三つの缶付近の設置状況は準備段階で観察、分析済みだ。さすがに向こうも対策を講じており、本物の缶の位置や全部の罠は分からない。
 それでも、トラップの種類や位置関係、および考えられる守備の布陣は把握出来た。
 パートナー達にゴッドスピードを施した後、オリヴィア、ミネルバにはイナンナの加護をかけてもらう。
『準備完了、ですわね。楽しんでいきましょう』
 魔鎧として纏っているエレクトラ・ウォルコット(えれくとら・うぉるこっと)が告げる。
 円は携行用機晶キャノンを構えた。
 本物の缶の周囲にある、ダミー缶や落とし穴が密集している場所に向けてそれを撃ち込んだ。

* * *


 円が機晶キャノンをぶっ放した頃。
「さあ、攻撃側を援護しますか〜」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は空飛ぶ魔法で、空中からホークアイでフィールドを観察していた。
 霧が漂っているため、多少降りないと見えてこない。
 ……かに思えたが。
「ちょっと邪魔ですねぇ」
 召喚獣:フェニックスとサンダーバードを呼び出し、霧を晴らさせた。万が一霧の中に人がいたとしても、見えないのだから問題ない。それどころか、「自分は」攻撃していない。ただ、召喚獣が炎や電撃を振りまいて飛び回っているだけである。
 パラミタ式の缶蹴りとは、ルールの穴を突きながら行うものだ。彼女はこれまでにも、巧みな戦術と戦略をもって挑んできた実力者である。またの名を『守備狩り』。
 本人は直接缶を蹴るわけではなく、これまでもサポートに徹してきた。
 空京では深夜にアンデッドを守備側にけしかけて霍乱を行い、海京では魔法攻撃が禁じられていなかったため、容赦なく缶を守っている人達にふっかけた。
 防衛戦力を削ぐ、それが明日香なりの缶蹴り攻略法だ。ルールに抵触さえしなければ、その手段は問わない。
 トラックやドラゴンやロケットランチャーで暴れ回っている人達のように、派手に暴れたいわけでは決してない。
 しかし、そこで重力が強くなった。奈落の鉄鎖が明日香に掛けられたからである。
「ゴースト三兄弟、ミーに力を! アボミネーション!」
 着地した彼女の眼前に、ジョセフ・テイラーのゴースト達がアボミーネーションを放ちながら、やってきた。
 なお、ジョセフは威勢良く声を上げてこそいるが、赤羽 美央の後ろに隠れている。さらに、彼がその身を蝕む妄執を繰り出してきた。
 しかし、明日香には何ともない。その程度なら対策済みである。缶蹴りを舐めてなどいない。
 と、いうことで美央が明日香の行く手を阻む。
「これ以上先には行かせませんよ」
 ペガサス、アンブラに乗り、明日香の放ったフェニックスとサンダーバードの攻撃に耐える。
 歴戦の防御術、龍鱗化、ファランクス、オートガード、フォーティテュード……美央の力は全て守るため、いかなる攻撃にも耐えるためにある。むしろそれだけ守りを固めなくとも普通に避けながら立ち回ればよさそうなものだが、雪だるま王国の女王にして騎士の身である彼女にはその選択はないようだ。
「えい、ですぅ」
 天の炎を美央の眼前に落とした。あくまで、牽制だ。当てるつもりはないし、落とす座標は間違っていない。仮に間違ったとしても、それは事故だ。
 というよりも、主催者が警備についているのは知っているが、反則の判定は誰がやっているのだろうか? 今更ではあるが。むしろ、いるのかどうか疑わしい。
 その炎にも、美央は引くことはない。
 徐々に明日香との距離が近付く。
「何が来ようとも、今の私に怖いものはありません。今日の私は阿修羅すらも凌駕する存在です! それに、缶を目指す相手が目の前にいる以上、守る者に逃亡は許されません。引かぬ、媚びぬ、省みぬ、です。今日の私はミオウ、さあ力と力のぶつかり合い、全力で掛かってきなさい!」
 確かに黒いペガサスを見ればそれっぽくはあるが、他にも色々混ざり過ぎている気がする。
 反則スレスレの明日香の攻撃に耐え、捕まえることが出来るか。
 今、戦いの幕が、

「封印呪縛!」

 開けなかった。
 魔石の指輪で美央をその中に封じ込めた。なお魔石は二つあったため、放置しておくと厄介そうなペガサスもついでに封じておく。
 あくまで足止めだ。攻撃はしていない。まさに外道である。
 
* * *


(この辺りも騒がしくなってきたなぁ。缶に近付くなら今がチャンスやろうか?)
 ブラックコートを纏った上で光学迷彩で姿を消し、日下部 社(くさかべ・やしろ)は缶へと向かっていった。
 残り時間はもう三十分を切っている。攻撃側の生き残りが他にもいるなら、そろそろ頃合だろう。社の推測は大体当たっていた。
 このドサクサに紛れて、何とかダミー缶の密集地帯まで入り込むことに成功した。だが、問題はここからだ。
(この気配……まさかッ!)
 殺気看破で守備の気配を感じ取る。相手もまた、自分と同じように姿を隠してこちらの様子を窺っているようだ。
(間違いあらへん、姿が見えなくとも分かるわ。佐野っち! いや、闇商人として頭角を現し始めたから、『闇っち』か!)
 無論、今残っているはずの守備側の人間を考えれば、自ずと答えは出てくる。
(はっ! 闇……奴はまさか闇のデュエリスト!? ふっ……まさか缶蹴りしに来てまたカードに導かれるとは思わへんかったわ。これも【カードマースターY】と言われる漢の宿命か……ええやろ! 勝負したるわ!)
 マスターではなく、なぜかマースターである。
 社は『マジック・ザ・マスタリング』のデッキを取り出した。
(イメージせよ、日下部 社! ――デュエル!!)
 ここから先は、全て社のイメージである。実際にこのフィールドで行われている出来事――佐野 亮司との缶蹴りの攻防を社視点で見たものだ。多分(※亮司はカードデッキを持ち合わせていない上、今回の缶蹴りは絶対に守り抜くと躍起になっているため、現実においてデュエルしている余裕がない)
 と、いうことで社のターン。
「マスター族、『カノッサ』を守備表示で召喚。カードを二枚伏せて、ターンエンドや!」
「俺はマスター族、『メカシキージョ』を手札から生贄に捧げ、エッシ族、『ショー・K』を召喚。特殊効果『聖像召喚』によりイコントークン、アルマイン、プラヴァー、クルキアータを場に出す!」
「な、最初からイコントークンやと!」
 トークンを削らなければ、ダイレクトアタックが出来ない。非常に厄介である。
「だが、俺にも手はあるんや。『ぞうさん』を攻撃表示で召喚。さらに、伏せカードオープン。魔法カード『悪ノリ』を使い、種族をマスター族からエッシ族に変更! そしてエッシ族に変わった『ぞうさん』を生贄にし――」
 相手は闇商人だ、最初から全力でいかなければやられる。
(この時のために俺は新しいカードを手に入れてきたんや! 今、その力を見せる時ッ!!)
「いでよ! エッシ族『闘』召喚! 神の力を見せてくれや!」
 神のカード、「エッシ三闘神」の一角である激レアカードだ。
「『闘』が場に召喚された時、特殊効果『キー・ビジュアル』が発動や! これにより、『闘』はこのターン、場で最も上位の存在となる。場に出ているエッシ族、マスター族が特殊効果を持っていた場合、その中から任意に一つ選んで一度だけ自分のものとして発動出来るんや! 俺は『聖像召喚』を発動しイコントークン、ギルガメッシュ、エンキドゥ、エレシュキガルを場に出し、イコントークンを相殺!」
 このカードと対等に戦えるのは、同じエッシ三闘神かあるいは……。
「甘いな。『ヒヴィ・ア・ラッタ』に魔法カード『忙殺』を使い、墓地に送る。これにより、マスター族の神のカード『コンクリュージョン・オーバー・ザ・ヴィレッジ』を召喚。さらに特殊効果発動。デッキの中から同じ属性のマスター族のカードがある場合、任意に呼び出すことが出来る。俺は『F.W.E.L』と『ナインロード・サンダー』をデッキから場に召喚。連携特殊攻撃『タイズ・オブ・ウォー』!」
「バカな! グランドマスターが揃ってるやと!?」
 グランドマスターが相手では、エッシ族の神も一柱だけでは太刀打ち出来ない。
 亮司の攻撃により、社の場のカードが一掃され、社のライフもゼロとなった。
 イメージはここまでである。
「ぐ、さすが闇の頂点に君臨する男……俺にまで攻撃を食らったみたいにダメージが伝わってきとる……」
 それはイメージではなく、現実世界において社が吹き飛ばされているからである。
 たまたま彼の近くに円が放った機晶キャノンが着弾し、その爆風で社は吹き飛ばされた。

「あれれ、やー兄?」
 社が吹き飛ぶ少し前、日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)は社が亮司と対面しているを目撃した。彼が亮司と拮抗状態にあるうちに、千尋は缶を目指した。
 なお、千尋から見た実際の社と亮司の戦いは割愛させて頂く。
「どれが本物かなー? 分からなくても、みんなで一気に行けば怖くないんだよー♪」
 野生の蹂躙でペット達と一緒に特攻を仕掛ける、千尋。
 が、そのペット達というのが恐竜も生息している大荒野には不似合いな可愛らしいものである。わたげうさぎやパラミタペンギン、ゆるスター、パラミタセントバーナード、さらにはサランマダーに、まだ夏だというのにミニ雪だるままでいる。
「来ましたよ、みんな。さあ、フォーメーションAです」
 しかし、そんな可愛らしいペット達の前に、守備側のマザー・グースと彼女のペットである狼達が立ちはだかった。
 狼のうちの一匹――賢狼が司令塔となって鳴き声で指示を出し、他の四匹が陣形を組んで千尋のペット達に襲い掛かる。
 野生の蹂躙VS野生の蹂躙である。
 決め手となったのは、グースの適者生存だ。さすがに、肉食動物の群れ相手では、千尋には分が悪い。
「さ、捕まえましたよ」
 グースが千尋にタッチしようと前に出てきた。おっとりしたお姉さんかと思ったら、意外と俊敏だ。
「きゃー♪ ちーちゃんタッチされちゃう!」
 グースの手が触れそうになった時、キノコマンが現れ彼女の身代わりとなった。
 その間に、缶へ向かおうとする。
「フォーメーションBです!」
 千尋を再び狼が阻んだ。
「残念。ごめんなさいねー」
 機晶キャノンが着弾したのは、そのタイミングであった。