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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

リアクション

「いよいよ最後の戦い、だね」
「でも、だからこそ気を引き締めないと」
 関谷 未憂(せきや・みゆう)リン・リーファ(りん・りーふぁ)は、トレジャーセンスでダミー缶密集地帯の中から本物の探りを入れた。
 その時、機晶キャノンの着弾音が響いてきた。
「まどかちゃんがいよいよ仕掛けたね」
「そうね。出来れば合流して、サポートをしたいわ」
 未憂は二十メートルのロープを強く握り締めた。また、リンはなぜかイルミンスールの杖で素振りをし、アップを始める。
 さらに、二人はギャザリングへクスで魔力を高める。
「……わたしも……てつだう」
 プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が震える魂によって、さらにそれを底上げする。さらに、幸せの歌で闇属性への対処を行う。
 闇商人がいるから……というのは多分あまり関係ない。
 三人はベルフラマントで気配と姿を消し、未憂とプリムが空飛ぶ箒に、リンが地獄の天使を発動し、浮遊する。
 準備が出来たところで、缶へ向けて飛んでいく。
「未憂、霧!」
 無害な濃度のアシッドミストによる霧が三人の周囲に立ち込めてくる。守備側が彼女達の位置をある程度捕捉したのだろう。
 が、それはこちらも同じことだ。既に、この霧の中にいる守備の人間の数も分かっている。
(ならば、自分達もこの霧を利用するまで!)
 アシッドミストと氷術の瞬間凍結は以前やったことがあるが、直接攻撃と取られる可能性がないとも言えないので、それはしない。というよりも、加減を誤ると自分達も身動きが取れなくなる可能性もあるため、この缶蹴り中はあまり有効ではないだろう。
 そこで、敵を誘導する。
 周囲の霧が晴れるように火術で水分を蒸発させ、それから再び氷術で温度を下げる。それによって、霧の中に入り込むわずかな光を屈折させ、逆に守備側を撹乱させようと試みた。
「ここは私達の領域、夜に漂いし霧の世界。ここから逃れることは出来ないわ」
 刹姫・ナイトリバーの声が霧の中に響いた。
 あえてアボミネーションによる気配を発し、殺気看破やディテクトエビルで敏感になっている人に対し畏怖させようとしているようだが、博識や虹のタリスマンで対策している。
 つまり、霧隠れしているにも関わらず自分の存在を示しているだけだ。
「どこを向いておる?」
 と、そこへ黒井 暦が出てきた。
 片方があからさまに強い害意を発することによって、相対的に自分の存在を悟られにくくしていたようである。
 だが、先程の温度差による光の屈折を利用し、タッチされるを防いだ。むしろ、守りの姿が見えたこの瞬間がチャンスだ。
 プリムが眠りの竪琴を使い、刹姫と暦を眠らせた。
「く、わらわとしたことが……サキ、何を寝ておる!」
 どうやら、暦は若干耐性があったらしく、完全に落ちはしなかった。
「さっさと起きろ!」
 普通にアシッドミストを解除すればいいものを、派手にファイアストームで霧を晴らした。しかも、刹姫を巻き込むように。
「このバカヨミ、熱いじゃない!」
「ふん、寝てるから悪いのじゃ。それより、追うぞ!」
 そんな会話が未憂の後ろの方から聞こえたものの、既に彼女達は缶が目視出来る位置まで来ていた。
 

* * *


「残り三十分を切ったか」
 結界ギリギリの地点でゲーム中ずっと身を潜めていた柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は、残り時間を確認した。
(アレーティアやリーラが躍起になって誘ってくるから来たが……早い段階であの中に飛び込んだら命がなかったかもしれん)
 なお、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)はイコプラ、リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)は酒でルシェン・グライシスから買収されたからというのが参加動機なのだが、真司はまだそれを知らない。
「でも、他の人達が積極的に攻めていってたからよかったわ。そうじゃなかったら、この時間まできっともたなかったわよ」
 リーラの言うことはもっともだろう。
「では、始めるぞ」
 アレーティアがぽいぽいカプセルを投げ、迷彩塗装を事前に施した自走式電磁加速砲を出現させた。
 運転席に彼女が、補助席にアニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)が乗り込んだ。
「エネルギーの充填開始じゃ」
 真司はライトニングブラストとサンダークラップ、雷術で電力の供給を行う。同じように、アレーティアとアニマがライトニングブラストで、アレーティアに至っては雷術により効率よくなるようエネルギーの流れを調整した。
「風向きが厄介じゃな。タイミングを少しでも間違えば、爆風に巻き込まれて位置が大幅にずれるかもしれぬ。南南東、距離1500、むむ、乱戦になってる時はやはり危険じゃ。しかし、防衛側に隙がなければ……」
 難しい顔をして思案しながら、アレーティアが弾道計算を行っていく。これが海京であれば、アレン・マックスあたりに根回しして上空の都市警備システムや、気象衛星のデータを使ってより正確に算出できたのだろうが、GPSすら使えない大荒野では難しい。
「真司、乗り込むわよ」
 リーラが魔鎧形態となり、真司は彼女を装着した。
 いつもは彼女の形状柄、制服の下に纏うが、今回は空気抵抗を考え、服の上からだ。というより、服の下だと魔鎧とはいえ彼女の視界は悪くなるため、今回のような思い切ったことをした際リーラも真司同様危険だからである。
「しかし分の悪い賭けは嫌いじゃないが、ここまで一か八かとはな……まぁいい、どんな障害だろうと撃ち貫くのみだ」
 真司は自走式電磁加速砲の砲塔に乗り込んだ。傍から見れば血迷っているようにしか思えないが、一応れっきとした人間大砲なので使い方としては間違っていない。そもそも人間大砲っていう発想がおかしいことには突っ込んではいけない。
 感電防止のためにフォースフィールドを展開し、さらに雷術をいつでも使えるようにしておき、自分の身体に流れ込まないようにしておく。
 アレーティアが計算を終えた。
「アニマ、今からデータをそちらへ送る」
「はい、母さん」
 データが定まると、アニマがそれを基に砲塔操作用コンソールを操作して照準を合わせる。
 チャンスは一度。心を落ち着かせるために、セルフモニタリングで精神状態を安定させた。
「エネルギー充填、百パーセント」
 レビテートで若干浮き、空気抵抗を減らす。中腰の姿勢になり、そして、
「発射!」
 まるで光のように、真司は撃ち出された。

* * *


「さて、ミネルバ、ヘリオさん行くわよ!」
 桐生 円による機晶キャノンの砲撃の直後、オリヴィア・レベンクロンは作戦の実行に移った。隠形の術から姿を現し、土遁の巻物を缶の密集地帯に向けて放った。穴の下に缶があろうと、土砂を吹き上げるようにしていけば、本物の缶以外は衝撃で倒れることだろう。
 機晶キャノンの直後に辺り一帯に円が呼び寄せた毒虫の群れは、相手が姿を隠しているだけでなく、毒に備えたせいもあってかあまり効果がなかった。
 が、その間にミネルバ・ヴァーリイとヘリオドール・アハトの二人が、土遁の術で巻き上げた土砂を軽身功で蹴りながら、宙を舞うようにして超高速で缶へと向かっていく。
 ミネルバはゴッドスピードだけでなく、彗星のアンクレットでそれを底上げしている。また、ヘリオドールは元々身体能力が高い。今は以前のようなネガティブ思考もなくなっており、大人しめな性格ではあるものの、時折笑顔を見せるくらいには充実した日々を送っているようだ。
 もっとも、そうでなければこの場には来ないだろうが。
「速いですね。みんな、フォーメンションC。本物の缶を悟られない距離で食い止めて下さい」
 マザー・グースが三匹の狼をミネルバ達に放つ。
(オリヴィア、十時の方向、距離三百メートルに二人。光学迷彩を使って姿を隠してる。それと、二時の方向にも二人。多分狼だと思うけど、二匹待機させてる)
 円からのテレパシーを受け、そちらに注意する。
 エレクトラ・ウォルコットがディテクトエビルによって策敵を行っており、それを円を通じて伝えてきているのだ。もっとも、多少の誤差はやむを得ない。
 ミネルバ達は、十分注意を引いてくれている。なお、オリヴィアもゴッドスピードに加えて千里走りの術で速度を上げているため、二人の動きについていけてるのである。
 その間に、オリヴィアは缶へと向かう。
 目の前からは、二匹の狼が挟み込むように飛び掛ってきた。
「ざぁんねん♪」
 空蝉の術で毒虫の群れと入れ替わる。その際、夜霧のコートで霧化することで、スムーズに術を成功させた。
 この手の毒は、動物の方が敏感だろう。
 円からの砲撃援護を受け、落とし穴やダミー缶を吹き飛ぶのを見ながら、本物を探す。それは、ミネルバとヘリオドールも同じだ。
 さらに、土砂が上がってることを利用し、円が可変型機晶バイクを人型に変形させて送り込んでいた。
 さすがにそれで蹴るのは難しいが、四方向から囲うようにして缶を狙う。
 しかし、その時だった。
 地面が燃え広がった。
(燃える水ね)
 佐野 亮司が地面に燃える水を撒き、牽制してきたのである。
 さらに、
「はは、せめてもの足掻きデース!」
 霧隠れの衣で一時的に霧化してここまでやってきたであろうジョセフ・テイラーが蒼き水晶の杖を発動した。
 能力が使えない状態となったところを、さらにファイアストームで火力が上げられ、接近するのを封じられる。
(こうなったら最後は頼んだわよ、円)

「……で、このロープは何なんだい?」
「万が一に備えての命綱です」
 円の元に未憂達が合流したが、なぜかロープを括り付けられてしまった。厳密には、彼女の纏っているエレクトラにであるが。
「話に聞きましたが、最後の切り札に『円さんアタック』、あるいは『円さんシュート』と呼ばれるものがあるんじゃないですか」
「いや、今回は打ち出されなくても大丈夫なんだって! いや、ほんとに!!」
 はっきり言って、あれはもうトラウマものである。
「じゃ、いっくよー、まどかちゃん!」
 円がアクセルギアとロケットシューズを起動するのと、リンがイルミンスールの杖を振り抜くのはほとんど同じタイミングだった。
「やっぱりこうなるのかぁぁああああああ!!!!」
 アクセルギアとロケットシューズ、さらにゴッドスピードがあるのだから、わざわざ打ち出される必要がなかったというのに。
 なお、アクセルギアで体感速度三十倍にした時の速さは、マッハ1ほどである。
 しかし、今回は彼女と同じように発射された者がいた。

(ちょ……いくら何でもそりゃ無茶苦茶だろ!?)
 亮司は燃え盛る炎越しにその姿を見た。
 二方向から缶に向かって、超高速で飛んでくる人間がいるのである。どちらかに抜かれれば、缶の防衛は厳しくなる。
 音速で撃ち出された真司が、アクセルギアを起動した。マッハで撃ち出された身体を動かすには、体感時間を上げなければならない。
 相対時間五秒、体感時間二分三十秒の戦いである。
「切り札は取っておくものですね」
 缶へ合わせて真司が進行方向を微調整し、シュトゥルムヴィントでさらに加速した瞬間、彼の前にパラミタ猪が飛び出してきた。
 グースは狼五匹を中心にけしかけていたが、猪だけは缶の最終防衛にと取っておいたのである。
「ぐあッ!!」
 当然、猪の方が派手に弾かれる。が、それで一瞬でも視界が塞がれれば、ただでさえ制御の難しいシュトゥルムヴィントでのバランスが崩れ、勢いよく地面を滑っていった。
 そして、円の対応をするのは亮司である。
「おい、待て! 我に身体を張って止めろってのか!?」
 ジュバル・シックルズを掴んだ。
「そうだ。何、問題ない。あの猪だって気を失ってはいるが多分死んでないし、シャンバラから海に落ちたって平気な人だっているんだ。音速で飛んでくるものに正面衝突したところで死にはしない。イコンに生身で挑んでる人だっているくらいなんだから」
 コメディ補正がなければ死ぬかよくても重症だ。決して他でやってはいけない。
 と、いうことで光学迷彩を起動したままジュバルを投げるが、実際はぶつかる必要はない。相手のバランスを崩せればそれでいいのだ。
 激突しそうになった瞬間、円がエレクトラを解いた。そのままジュバルが彼女に抱きかかえられる姿勢となって、地面に滑り込む。
「く、仕方ない!」
 気休め程度ではあるが、ダッシュローラーで加速。
 しびれ粉を撒こうとするが、
「効かないよ!」
 円がPキャンセラーを使用した。
 そしてそのまま本物の缶――『ドクターヒャッハー空京万博記念ver.』がある穴彼女が見つけ、一気に蹴り上げる。

 カーン!

 金属音が響き渡った。
 攻撃側の勝利である。