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【2021クリスマス】大切な時間を

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第2章 思い出しながら

「寒い」
 自宅近くの公園で、杜守 三月(ともり・みつき)はぶるりと震えた。
「もっと上に着て来れば良かった……」
 一人、呟きながら空を見上げる。
 晴れてはいるけれど、太陽の光はとても弱い。
 遠くの空には厚い雲も見える。
「夜には、雪降るかな……」
 帰ろう。
 風邪引きそうだし。
 そう思って、家に引き返そうとした三月の目に、小さな男の子と女の子の姿が映った。
「ゆきがふったらね、おっきなゆきだるまつくろう」
「すなでれんしゅーしておこうね」
 男の子と女の子は無邪気に、砂遊びをしている。
(そういえば、アレくらいだったかな)
 子供達を目で追いながら、三月はパートナーの杜守 柚(ともり・ゆず)の小さな頃を思い出す。

 初めて会った時は、悲しそうに笑う女の子だなって思っていた。
 あまり喋らなくて、いつもぎこちなく笑ってて……。
 時々感情のない喋り方をしていて、そういう時はいつも辛そうに笑っていた。
 言葉を飲み込む癖と、笑顔で感情を隠す癖。
 本心を伝えるのが苦手なのかと思っていた、けれど……。
(……)
 目では子供達を見ながら、三月は今のパートナーの姿を脳裏に浮かべた。
(あの頃に比べると、柚も自然と笑うようになったよね……。感情が表情や言葉に出るようになって)
 本当に良かったと、三月は思わず微笑みを浮かべる。
(あの頃の事は、訊いても教えてくれないけど……)
 脳裏には再び小さな頃の柚の姿が浮かんでいた。
 辛そうに笑っている小さな少女の顔。
「雪が全てを白く染めて、綺麗に消してくれたらいいのにな……」
 ぽつりと呟いて、三月はまた空を見上げた。
 さっきより少し、雲が厚くなっている。
 それから、思わず苦笑する。
 今年のクリスマスは、ちょっとしんみりしてしまった。
 過去のことを思い出してしまって。
 当の柚子は今日は、先輩に誘われ、クリスマスパーティに行っている。
 三月は一人で、留守番をしていた。
「雪、振りそうだよね。降ったら、子供の頃を思い出して、雪だるまを作ろうかな。……あっ、カマクラがいいかな?」
 せっかくだから、早くから作って、柚をビックリさせよう。
 そう思いながら、美月は自宅に向かって歩き出す。
 彼女の喜ぶ顔が見たい。
 昔のような、悲しい、笑みではなくて。
 からかって、驚かせる顔も。その後の笑顔も、見たいから。
「よし、雪が沢山振るように願っとこう。サンタさんにお願い、はさすがに無理があるかな……高校生だしな」
 でも、小さな頃に貰えなかった、彼女のとびっきりの笑顔のプレゼントは。
 今も願ってもいい気がした。
「さっ、早く帰ろう」
 家に走って帰り、三月は準備に励む。
 まずはゆきゆき坊主を作って、靴下と一緒に窓に飾って。
 厚手の服と手袋と。
 ランプや懐中電灯を用意して。
 夜を待った。
 雪を待った――。
 彼女の、笑顔を得るために。

 聖夜に降る真っ白な雪が。
 大切なパートナーの心を、真っ白に染めて。
 灰色の過去から解放し、輝く笑みを授けてくれますように。