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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 温室でティータイム ■
 
 
 
 実家に植物園があるという話をしたら、パートナーのリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は是非見てみたいと言い出した。
 リリアは空京にある家の温室に気が付いたらもう居た、というやや押しかけ契約な花妖精だ。当人にそう言うと、鶴の恩返し的契約と言って欲しいと苦笑されるのだけれど。
 花妖精なだけに、地球の植物が気になるのだろう。
「植物園といっても、幾つか庭と温室があるだけの普通の庭だよ」
 そう言うエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に、リリアは呆れる。
「地球のことは知らないけど、庭や温室が幾つもあるのを普通だとは言わないんじゃない?」
「そうかな? まあ、それでいいなら一緒に帰ろうか」
 実家でも色々と趣味で花を育てているからとエースは言い、リリアを連れて里帰りをすることにした。
 
 
 帰省に女性を伴って帰ったら両親に色々詮索されそうなので、両親が新年の祝賀会に出掛けて家を空けるタイミングを見計らい、エースは実家に帰った。
「わぁ、本当に植物園みたい」
 荷物を置く時間も惜しんで庭に出たリリアは、感嘆の声を上げた。
「幾つもの区画に分かれてて、テーマに沿って色々な植物が植えてあるのね」
「花の適正温度にあわせて、幾つか環境条件を変えて作ってあるんだ。夏向きとか春、秋、冬で全部管理温度や日照が違うから」
 そう説明しているところに、執事のエルンスト・コーエンがお茶の用意を運んできた。
「お客様は花がお好きなようですから、温室でお茶にいたしましょう」
「ああ、ありがとう」
 エルンストの心遣いに礼を言うと、エースはリリアを呼んだ。
「リリア、うちの執事で俺の教育役でもあるエルンストだ。エルンスト、こちらは……」
「エースの執事さん、はじめまして。パラミタでエースと一緒に暮らしているリリアです」
 よろしくと挨拶するリリアに、エルンストはそうですかと微笑んだ。
「いつもエース様がお世話になっております」
「ええ。でも家は広いし、エースの弟さんや他にも同居人と一緒に暮らしているので、2人きりになかなかなれないんですのよ」
 リリアはそう言って笑うと、お茶の準備が出来るまでもう少し、と温室の花々の上にかがみ込むようにして眺めた。
「新しいパートナーなんだ。地球の花に興味があるっていうから連れてきた」
 見た目は平静を保っているが内心はきっと混乱しているだろうと、エースはリリアを示して説明する。
「今度は本当に奥方候補を連れていらっしゃったのかと」
 自分の立場をよく理解しているエースだから、男女間のこと等の心配は無いと思っていたけれど、とエルンストは笑いながらティーセットを温室のテーブルに並べた。
 今日のお茶は、ミルクティーとスコーン。帰ってくる時間を見計らって焼いたのだろう。
「リリア、お茶の用意が出来たぜ」
 エースに呼ばれてリリアははぁいと答えてテーブルの所にやってきた。
「ここの子たちは愛情一杯で大切にしてもらってるのね。とても気分が良いそうよ」
「そうか。今までと同じようにちゃんと管理してもらえているのが俺も嬉しいよ。エルンスト、このまま引き続き管理を頼む」
 管理褒められ、エルンストは光栄ですと頭を下げる。
「かしこまりました。良い庭師がおりますので、引き続き庭の世話を任せましょう」
「本当に良い温室だわ。でも、ガーベラちゃんが今日はちょっと寒いって言ってるわよん」
 人の心・草の心で花に聞いたことをリリアが伝えると、エースは設置された温度計に目をやった。
「今日は気温が低いからな。窓を閉めてくるよ」
「それでしたらわたくしが……」
 温室の上部に続く階段に向かおうとするエルンストを、エースはいいよと止めた。そして飛行のスキルを使って飛び上がると、5mほどの高さに設置された窓を閉めてきた。
「エース様……そんな無茶をして、怪我でもしては大変です」
 さすがに驚いたエルンストが注意すると、それが、とエースは話す。
「エルンストには黙っていたけれど、俺は色々と異能っぽい事が出来るようになってるんだ」
 こんな感じで、とエースは光術で周囲を明るくしてみせる。
「……。そういう異能の事は、こちらではしばらく伏せておきましょう。パラミタでは沢山そういう方がいらっしゃるので普通なのかもしれませんが、やはり地球ではそのような力は無闇にお使いにならないほうが宜しいかと存じます」
「そうだな。悪かった」
 飛ぶだなんて派手な方法でなく、気付かれにくい力を使う等の配慮をすべきだったとエースは素直に反省した。
 そんなエースを眺めつつ、エルンストは思う。
(エース様も自分の知らない経験を増やしているんですね……)
 この屋敷で暮らしていた頃は、エースの成長はエルンストのよく知るところだったが、今はそうではない。エースの生活の拠点はパラミタにあり、そこで日々様々な経験を積んでいる。
 エルンストはそのことに、少し寂しいような、けれどどこか誇らしいような感慨を覚えるのだった。