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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 修羅場の後も修羅場 ■
 
 
 
「ここが師匠の住んでる所よ〜」
 東京千代田区にある高級マンションを指して師王 アスカ(しおう・あすか)が言うと、蒼灯 鴉(そうひ・からす)は感心したように呟いた。
「いい所に住んでるんだな。大御所って奴か」
「有名な少女漫画家で、私が18歳の時にお世話になったんだぁ。絵がとにかく上手くてさ〜、修行の一環で師匠に弟子入りしたの〜」
「少女漫画家ともお知り合いだなんて、さすがベルの妹ね!」
 オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は機嫌良く言う。正直、アスカの実家に行くと言われたらどうしようかと困っていたところだけれど、行き先が日本なら会う心配もない。
「どんな師匠なんだ?」
 前に会ったポンド・ゴーよりもまともな師匠だといいんだが、と鴉が聞くと、アスカはそうねぇと首を傾げた。
「う〜ん、漫画にすべてをかけちゃった人かなぁ」
「……なんだか嫌な予感がするんだが」
「でもいい人よぉ。修羅場の時以外はね〜。でも急に会いたいってどうしたのかしら〜」
 不思議に思いながら、アスカは師匠の1人である兎桜 アリスのドアチャイムを鳴らした。
 ほどなくドアが開けられた……ものの。
「師匠……じゃない、編集さん? 何で?」
 ドアを開けてくれたのは、アリスではなく泣きそうな顔の編集者だった。
「アスカ、どういうことなんだよ?」
 鴉に聞かれてもアスカも分からない。
「さあ? ――師匠〜会いに来ましたよぉ♪ これお土産……うっ」
 部屋に上がりかけてアスカは気付いた。
(このピリピリ空間……これはもしかして!)
 師匠がいるという仕事部屋を開けてみれば案の定……。
 そこには修羅場が展開されていた。
「アスカ、やっと来たのねっ。このままだと原稿が落ちる……ああ、落ちるわぁ……」
 自分の言った落ちるという言葉に、アリスはくらりと貧血を起こす。
「って師匠! 間に合わないの見越して手紙で呼び出さないでくださいよ〜」
「それだけじゃないわ。ちゃんと……そうよ、あたしこの原稿が終わったら、アスカと鍋をするのよ」
「死亡フラグ立てて遊んでる余裕あるんですかぁ? それで後時間はどのくらい?」
 アスカが尋ねると、青白い幽霊のような顔をした編集が答える。
「デッドラインは19時です」
「後6時間!? 下書きの残りは? ペン入れができる奴下さい!」
 アスカは仕事部屋に走り込むと、早速原稿を手に取りながら鴉、オルベール、ハーモ二クス・グランド(はーもにくす・ぐらんど)に頼む。
「3人共ごめん〜手伝って! 鴉はベタ! ベルはトーン! ニクスは消しゴムかけを! 私はペン入れするから、師匠はまだ真っ白の5枚の下書き、ぱぱっと終わらせて下さい!」
「ベタって何だよ?」
「やり方は他のアシさんに聞いて!」
 自分には教えている余裕はないからと、アスカは必死にペンを動かしている。
「要するに、印がついている部分を塗れば良いのか」
 鴉は他のアシスタントに聞きながら、見様見真似でベタ塗りをする。
「へぇ、こんなシートを使ってるのね……」
 オルベールは興味津々にトーンを貼り、カッターでいらない部分を切り落とし、剥がれないようにしっかりこする。最初は大変だったけれど、やっているうちにコツも分かってきて楽しくなってくる。
「あら意外に楽しいわね。ちょっとバカラス! ベタ塗り終わったら早く寄越しなさいよ!」
 オルベールが命令すると、丁寧にマスキングテープを貼っている鴉が怒鳴り返す。
「うるせぇ、さっさとトーン貼れ女悪魔!」
「鴉にベル! 2人とも口より手を動かすー!」
 にらみ合う2人に、アスカの叱責が飛んだ。
 
 
 そして19時ジャスト。
「お、終わった〜。皆お疲れ〜……」
 ぎりぎりすべり込みで原稿を仕上げ、アスカをはじめとしたアシスタント陣が机に突っ伏す。
「し、死ぬかと思ったわ。手が痛〜い、疲れちゃったわよ」
 オルベールもカッターを握っていた手をぶらぶらと振った。
 そんな中、アリスだけはいそいそとキッチンに行って動いている。
「何でそんな元気なの師匠……」
「これが終わったら鍋をするって言ったでしょ? ちゃんと食材も用意してあるのよ。あとは切って鍋に放り込むだけー」
「用意周到だなぁ。とりあえず、女性陣は作るのを手伝って〜。鴉は器の用意ね〜」
「あらお鍋なの? それならベルも手伝うわ。ニクスも手伝ってちょうだい」
 オルベールもハーモニクスを誘って、鍋の用意をした。
 

 忙しい半日となったけれど、湯気のたつ鍋を囲むとほっとする。
「さあ食べて食べて。材料は奮発したからおいしい鍋になったと思うわよー」
 勧めながらアリスは真っ先に箸を取って食べ始めた。
「やっと飯か……漫画家って大変なんだな」
 ようやく終わったのだと実感しながら、鴉も鍋をつついた。
「う〜ん、やっぱり冬は鍋よね〜。……あら?」
 鍋に手を伸ばした途端、腕に貼り付いていたスクリーントーンに気付いてオルベールは爪でぴっとはがす。
「まさか来るなり手伝わされるだなんて思ってなかったよぉ。うん、この白身おいしい」
 労働の後のごはんは最高だと、アスカがにこにこと鍋を味わっていると、
「で、カラス君とアスカの関係は?」
 いきなりアリスに話を振られ、もう少しで箸を落としそうになった。
「それは……こ、恋人ですけど……」
 つい声が小さくなってしまう。
「恋人かぁ、いいわねー。どこまでいってるの?」
「どどどど、どこまでって……師匠、フリーダム過ぎます〜!」
 ずばりと聞かれ、アスカは真っ赤になった。
「いいじゃない。いろいろ聞かせてちょうだいよ。パラミタだとどういう所でデートするの? というより、パートナーだと1つ屋根の下で暮らしていたりするのかしらー?」
「師匠〜〜〜」
 アリスに質問攻めにあっておろおろするアスカを、オルベールは微笑ましく眺める。
「ふふっ、アスカったら照れて可愛い」
 アスカが照れて答えてくれないと知り、アリスは矛先を鴉に変える。
「それで、告白はどっちから? やっぱり男の意地としてカラス君から?」
「いや、何故にそんなことを……」
「告白は好きです、って直球で? それとも熱い言葉を語っちゃう派なのかしら?」
「それは、その……アスカ助けてくれ!」
 たまらず鴉は助けを求めたが、アスカは首を振る。
「無理よ〜師匠には勝てないわ〜」
「可愛い弟子のことなんだから、気になるのが当然でしょ。面白いネタだったら次の連載にしてあげるから♪」
 今日はとっくりと聞かせてもらうわよと、アリスは鴉とアスカににじり寄るのだった。