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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 『誰か』との時間 ■
 
 
 
 ふわっと身体が揺れるような感覚に、七刀 切(しちとう・きり)は目を開けた。
 新幹線の座席でぼんやりしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 一体どのくらいの時間眠っていたのだろうと見回せば。
 ……誰もいない。
 この車両に乗っているのは、切ただ1人。
「寝過ごした!?」
 一瞬ひやっとしたけれど、すぐにそうではないと思い直した。
 何かが違う。どこかが違う。
 この肌に感じる空気の違和感は何なのだろう。
 と……。
 前の座席からすうっと登るように、『誰か』が顔を出した。
 切と目が合うと、『誰か』はニヤニヤと笑った。
 
 ――嫌だ。
 
 その『誰か』はすごく、嫌だ。
 まるで昔の自分を見ているようで吐き気がする。
 
 ――こっちを見るな。
 
 けれど『誰か』はこちらに乗り出すように顔を突き出し、寝過ごしたなんて台詞を言えるようになるとはなぁ、と喉で笑う。
 『昔は親以外の前じゃ寝ることすらできなかったってのに』
 
 ――どうして知っている? 誰なんだ?
 
 その問いには答えず、そいつは逆に問いかけてきた。
 『親殺しの味はどうだった?』
 
 ――最悪。それを皆に隠してることは?
 
 『最低だな。じゃあなんで笑ってられる?』
 
 ――最悪で最低なのにどうして笑える?
 
 そんなことは決まっている。
 『楽しいからだ』

 ――友だちや仲間と過ごす毎日が楽しい。
 皆良い人たちだから笑いあえる。……俺にはそんな資格は無いっていうのに……。

 『資格がない? 本当に?』
 
 ――ああ。
 
 『じゃあその資格は誰からもらえる? 友か、師匠か、親か?
 友とは今だって笑いあえてる。資格など必要ない。
 師匠からその資格とやらを貰えたら、はいそうですかとお前は笑えるのか?
 親から……死んだ相手からどうやって資格をもらうつもりだ?』

 ――それは……。
 
 『結局、資格を与えられるのは自分自身でしかないよ』
 他の誰がおまえには資格があると言っても信じられない。その資格を与えられるのは、自分が笑い合うことを許すことが出来るのは、自分自身でしかない。
 『死んだ人間を理由に、お前は前に進むのを怖がってるだけだ。
 だけど――もういいだろう?
 お前の周りには支え合える人間がたくさんいるんだから』
 そう言われて思い出す。昔、両親に教えられた言葉。

 ――『死と向き合え、罪を実感しろ。その上で誰かを助けた自分を許してやれ』
 どうしようもない罪にまみれた自分たちを許すための言葉。

 『懐かしい教えだな』
 『誰か』は僅かに目を細める。
 決して胸を張れる仕事ではなかった。人殺しという罪にまみれていた。
 でも。
 それでも誰かを救えていたのだ。
 
 ――俺は、俺を許していいのか?
 
 そう尋ねると、目の前の『誰か』はゆっくりと表情を緩め、そして少しずれた答えを返してきた。
『前に進めることを祈ってるよ、“俺”』
 あぁ、そうか。やっと腑に落ちた。まだ全部を許せたわけじゃないけど、でもお前に祈られたら仕方ない。

 ――頑張ってみるよ、『俺』
 それが、夢の中の最期の言葉だった。
 
 
 目を開けると、そこはまだ新幹線の中だった。
 ざわざわとした乗客の気配、子供のぐずる声と宥める母親の声、どこかであがる笑い声。
 まさしくここが現実だと感じられる。
「……パラミタでもないのに不思議な夢を見たもんだ」
 夢の内容の全部を覚えているわけではなかったけれど、何があったのかは何となく記憶に残っている。
 会うはずのない人と会えるのも夢ならではか。
 ユーリウス・シュバルツシルト
 過去に置いてきたはずのその名を呟くと、切は笑った。
 いつもよりずっと……
   心深くから笑えた――。