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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ お屋敷探検 ■
 
 
 
 地球からパラミタにやってきている生徒の多くは、冬の長期休暇に実家へ帰省する。
 日頃離れて暮らしている家族への顔見せ、そして新年ぐらいは家族と共に迎えようという気持ちからなのだろう。
 だから当然、木崎 光(きさき・こう)も実家に帰るのだろうとラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)は思っていたのだが……。
「日本で寝正月しても、つまんなくね?」
 光から返ってきたのは予想外の返事だった。まあ、こと光に関して言えば、ラデルの予想の範囲を土足で蹴破っていくのが常だから、至っていつも通りなのだけれど。
「それよりパラミタのお貴族様の正月ってどんなもんー? なんか楽しそうじゃね?」
「新年は祝うが、日本のように正月行事は多くない。楽しいというなら光の家のほうだろう」
 こんな小さな子、親がさぞかし心配しているだろうから、正月くらい家に帰ってやればいいのにと、ラデルは思う。だが、光の頭の中はもうすっかり、ラデルの家への興味でいっぱいだ。
「いーや、お貴族様ん家ならご馳走とか、めっちゃ出そうじゃね? ぜってーそっちのほうがいいじゃん」
「僕の家か……」
 ラデルは僅かに眉を寄せた。
 ラデルの屋敷はヴァイシャリーにあるのだけれど、帰ったらどうなるか……。
 家族にも爺やにもメイド長にも、いい相手はいないのか早く結婚しろ見合いをしろ家が跡取りがとせっつかれるの分かり切っている。
 考えるだけでも気が重い。しかし光はもうすっかり決めてしまったようだ。
「そんなビミョーにイヤそうな顔しても無駄だッ! 俺様は行くと言ったら行くのだ! 止めても無駄だ! うわはははははははは!」
「光……」
 家に帰るのは気が進まないが、光が一度言い出したらこちらのの言うことなどまったく聞いてはくれない。
 この状態の光を説得するのと、実家で皆に寄ってたかって嫁嫁と言われるのを我慢するのとのどちらをとるか。
 考えた末、ラデルはそのどちらでもない道をひねり出した。
 
 
「へー、お貴族様となると地球にも別荘があるのか。ってアレか? 軽井沢に避暑とかのノリ?」
「そういう為じゃないよ。こちらで活動する必要がある際、気心の知れた使用人がいた方が何かと便利だから」
 ここなら光の好奇心も満たせ、かつ、口うるさい家族もいないからとラデルは地球にある別邸へと連れてきた。
「で、どっからどこまでがオマエの別荘?」
 きょろきょろと見回す光に、ラデルは何でもないように答える。
「どこも何も、今見えてる範囲は全部……」
「ハ? 何で幾つも建物があるんだ? 別荘ってか、個人の持ち物ってレベルじゃねーぞ、コレ!」
「ヴァイシャリーの家はこんなものではないよ。敷地を歩いて屋敷まで行こうなんて気にならないぐらいだ。それでも、古王国時代には王都にもっと立派な邸宅を構えていたそうだけど」
「うおおおおおお! ストップ・ザ・格差社会ィィィィィ!」
 光は吼えた。
 ぜいぜい息を切らすほど叫んでも、聞こえる範囲にとがめ立てするような人はいない。そんな広さだ。
「分かった。これは探検だな、探検。屋敷の中を案内してもらおうじゃねーか」
「どうして君は案内を頼むときまで横柄なんだろうなァ」
 やれやれと思いながらも、ラデルはこちらだと光を屋敷内に案内した。
 
「無駄に広いから、廊下とか超寒いな! ああ寒い寒い」
 光はラデルの身体をよじのぼり、背中にひっついて暖を取った。それでも寒いと、上着の中に潜り込んで、襟からズボッと顔を出して笑う。
「光がそうするとほとんどホラーだからやめてもらいたいな」
「だってここ、立派なのはいいけどとにかく寒いぞ。暖房代ケチってんのか、コラー!」
 光はやたらと寒がって、屋敷にいる間はずっとラデルにくっついたままでいた。
 歩く! 喋る! 遊べる! 天然湯たんぽ。その名はラデル!
 屋敷探検の時はもちろん、お休みの際のベッドを温めるにも最適モデル。
「……ここまで手間がかかるなら、結婚結婚とうるさく言われてもやはり実家に帰るべきだったかなァ」
 向こうなら家族や爺やもいるから、光も多少は…………変わらないか。
「結婚だと? 俺様命令! パートナーたる俺様の許可無く結婚禁止な!」
 ラデルの呟きを聞きとがめ、光が指を突きつけてくる。
「それはパートナーが決めることではないと思うが……今は大陸中で事件が起こりすぎていて、正直結婚生活どころじゃないね」
「そーそー。色々面白いことがあちこちで起きてんのに、結婚なんてしてる暇なくね?」
 光が同意するが、ラデルが言っているのはそういう意味ではないのだが。
 でもまあ、大陸が落ち着いてラデルが結婚相手の選定を始める頃には光ももう少し成長してくれているだろう。その頃には結婚の許可を自分が出すだなんて無茶苦茶なこともきっと言わなくなっているはず……というかそうあって欲しい。
 今度はあっちを探検するのだとはりきる光をやんちゃな子供を見るような目で眺めると、ラデルは歩きにくいのを我慢して、光をくっつけたまま進んで行くのだった。