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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

リアクション

(暫し後……)

「くー……あイタッ!」
 前後に揺らしていた頭をゴツンとテーブルに打ち付けたリーブラが目を覚ます。
「……あら、わたくし少し寝てしまったようですわね……」
 半分瞼が閉じた赤い瞳のリーブラが、店内の時計を見て、どうも10分前後寝ていた事を確認する。
「すいません……みな……さん? ……え?」
 リーブラの前には、三人の男が楽しく飲む光景が広がっていた。それは良い。問題は三人の姿である。
「全裸で飲む酒は開放感があっていいだろー! まじでまじで!!」
「ハーッハハハ! 私は蛮族共の快楽の何たるかを理解したぞーー!!」
「どうでぇどうでぇ! 我の筋肉は惚れ惚れしちまうだろぃ?」
 パンツ一丁のラルクとセルシウス、そして褌姿の闘神の書が肩を組んで酒を飲み交わしている。
「あ……ああ、あ、あのあのあのッ!?」
 リーブラが隣でそんな光景を見てケラケラ笑っているシリウスに問いかける。
「お、起きたか?」
「ええ……って、この状況は!?」
 シリウスは、蜂蜜酒をグイッと飲み、リーブラに真面目な顔で言う。
「頼んだピエロギはまだ来てないぜ?」
「ピエロギ?」
「オレの地元の料理で、まぁ、餃子みたいなモンだよ」
「へぇ……じゃなくて! この、状況です!!」
「ん? ああ、闘神の書がセルシウスにフラれただけだ」
「……詳しく!!」
 リーブラに促されて、シリウスが空白の10分間を語り始める。
 結局、ラルクとシリウスに押し切られるカタチでセルシウスも加わった酒宴。
 始めこそ、シリウスとセルシウスのお国自慢、ラルクの修行話等、和やかな話題でスタートしたが……。
「さってと、いい感じに暑くなってきたし脱ぐかなー」
 ホロ酔いのラルクが着ていた衣服を脱ぎだす。
「貴公! な、何を!?」
 パートナーの闘神の書はそれを止めようとしたセルシウスに、
「はっはっは。今宵は無礼講でぃ! そんな小せぇ事ぁ気にするってぇのが野暮でぃ!」
 そう言い放つが、店の女将である卑弥呼から、「全裸は即刻退店」と言われたため、渋々パンツだけはつけることにした。
 それでも闘神の書は、「いい脱ぎっぷりじゃねぇか!! だったら我も負けてられねぇな!」と言い、衣服を脱ぎ、褌一丁となる。
「うっし! こっから本気だぜ!! さーて次は何飲むかなー」
 初めは二人の行動に戸惑っていたセルシウスだが、ラルクの更に酒が進んで上がる一方のテンションに巻き込まれる。
「うおお!? な、何をする!?」 
「おらおらーお前もーぬげーぬげーはっははははは!」
 ラルクはセルシウスのトーガを脱がしにかかる。
 腕力ではラルクに勝てぬセルシウスが、シリウスにアイコンタクトでSOSを送るも、
「セっさん、たまにはハジケよーぜ?」
「なっ!? こ、これだから蛮族共は……」
「蛮族上等だよ! セっさん? 郷に入っては郷に従えって言葉知らないわけじゃねえだろう?」
「!?」
「そうそう。今宵は宴でぃ! 大騒ぎしようじゃねぇか!」
 闘神の書はそう言うと、自分の褐色の筋肉をセルシウスに見せつけ、
「おぬしも、もうちっと体鍛えなきゃな……なんなら我が指導してやろうか?」
「くっ……ど、どこを触っている!? アッーー!」
「ほう、いい臀部だ。エリュシオン人てのはもっとヤワな奴らかと思っていたけどな」
「や、やめろー!!」
「なんでぇ? 男は嫌いか? おぬしはてっきり……」
「わ、私はノーマルだ!! 永光あるエリュシオン帝国の名にかけても!!」
 絡みあう大男二人を見ていたシリウスが冷ややかに止めに入る。
「おい、闘神の書。それ以上やったら、本気で店から叩き出されるぞー? セっさんもあんまり暴れたら食器が落ち……」
 その時、闘神の書の抱き付かれてもがくセルシウスの手が、空いた皿に当たる。
「あ!」
 テーブルから落下しかけた皿が空中で止まる。
「サイコキネシスか……?」
 空中で止まった皿を拾い上げたのは、従業員の制服を身に付けて接客していたリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)である。
 長い黒髪を邪魔にならないように後ろで束ねたリオンは温和な笑顔で、一旦皿をテーブルに置き、
「こちら、お下げして宜しいでしょうか?」
 と、一同に尋ねる。
「あ……あぁ、よろしく」
 シリウスがリオンに頷くと、リオンは空いた皿やグラスを盆に載せていく。
「いやー蜂蜜酒って本当にうめぇーなー。今度エリュシオンから通販してみっかなー?」
 ラルクは、セルシウスが持ってきていた蜂蜜酒のボトルを逆さにして、最後の一滴を飲んだ後、皿を片付けて戻ろうとしていたリオンに声をかける。
「おっと、店員!! オーダーを頼むぜ!!」
「え? オーダー……注文ですか?」
「ん? 何か問題があるのか?」
「はい。私は料理を届けるのと、空いた食器を片付けるだけにしておいて、と北都に……」
 困った顔をするリオンにラルクが首を傾げていると、様子を見ていた清泉 北都(いずみ・ほくと)が小走りでやって来る。
「お客様! 注文は僕がお伺いします」
 余談になるが、先程【サイコキネシス】で落下した皿を止めたのは北都であった。
 リオンが初バイトをしたコンビニの時よりも成長しているとはいえ、注文を受けさせるのはまだ不安だったため、北都は予めリオンに対し、『お客様に確認した後食器を下げる』『指定されたテーブルに料理を運ぶ』の2つだけを徹底してやるように、と指示していた。
 何かを買う時はいつも北都に出して貰っていたので知らなかった『お金』から、リオンに教えていた北都。すなわち、リオンが持つ彼の中での『常識』はまだまだ勉強中なのだ。
「お、おう……えーとな、まずは蜂蜜酒のおかわりとサイコロステーキと……シリウス、何かあるか?」
「店員さーん、料理と一緒にコレ焼いてくんない?」
「焼く?」
 シリウスが注文をメモに取る北都に見せたのは、生の餃子によく似たシルエットのモノであった。
「何だ、それは?」
 例え酔っても飽くなき探究心を忘れないセルシウスが興味を見せる。
「修学旅行の礼で持ってきたんだ。ピエロギってオレの地元のギョーザみたいなもんでね。厨房でカリッと焼いて欲しいんだ」
 シリウスから受け取った生ピエロギを北都が見つめ、
「これは……三種類あるのですか?」
「ああ、今回はオーソドックスに、ザワークラフトとキノコ、キノコ詰め合わせ、野菜詰め合わせと作ってみたんだ」
「肉はねぇのか?」
 ラルクが問うと、シリウスは苦笑し、
「地元だと肉ってあんまり食わないんだ。だから、ヘルシー志向の連中にもあうんじゃねーか? まぁ、あんまり気にして食うのも楽しくないと思うけどな!」
「へぇ」
 北都はシリウスに頷き、
「わかりました。少々お時間はかかりますが……。他にもありますか?」
「ああ、頼むよ。後は、そうだなぁ……ピクルスを薄切り牛肉で巻いて焼いたの。ズラズィ・ザヴィヤネなんかもいいかな? でも、あんまりメニューにないの頼むと店員さんが大変か」
「いいえ、メニューに無いものでも材料があればやってみます、というのが厨房で腕を振るう者の言葉ですから」
「そいつは楽しみだ」
「ではご注文を復唱させて頂きます。蜂蜜酒、サイコロステーキ、ピエロギ、ズラズィ・ザヴィヤネ。以上でよろしいですか?」
「ああ、よろしくな!」
 注文を取った北都はリオンと共に頭を下げて厨房へと戻っていくのだった。


 自分が夢の世界に居た間の空白時間の出来事をシリウスに聞かされたリーブラは、「なるほど」と呟き、前で酔って騒ぐ三人の男達を見る。
「ですが、そろそろ止めた方がよいのではありませんか?」
「何で? セっさんも楽しそうじゃねぇか」
 シリウスが一足早く着ていたサイコロステーキを口に放り込み、リーブラに尋ねる。
「セっさ……セルシウスさんも一応店員なのですし……」