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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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 警備員の小屋の傍には、イコンの{ICN0003887#シュバルツ}が片膝を付いた姿勢で待機していた。
 現在はシフトの合間の休憩の時間ながら、警備員のグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)すぐ戦線に参加できるよう待機し、コクピット内で休憩をとっていた。
シートに深く腰掛けたグラキエスは腕組みしたまま瞳を閉じ、先ほどまでの戦闘の記憶を思い起こす。
「(巨獣と戦えるかも知れないと聞いて来たが、小型の敵にも対応して、色々なデータを蓄積したいな。アインスから継承したモーションデータに頼ってばかりでは、ツヴァイも面白くないだろう)」
 アインスというのは、彼の前機の愛称であり、ツヴァイとは現在の愛機の愛称である。
 暗闇の中で薄っすら光るコンソールをそっと撫でるグラキエス。『休憩等、無用!』と思っていたグラキエスだが、心は兎も角、体の疲労はやはりあったらしい。それは彼の所持していたメモリーカードが変化した魔道書であるロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)の助言もあったらしい。
「エンド、戦闘をするのはいいんですが、小型の敵も相手にするなら大型より集中力がいります。精神的な疲労が大きくなりますから、休憩はしっかりとって下さいね?」
 ツヴァイの機器類管理・レーダー担当として、本体の姿でイコンに接続しているロアは、本体がメモリーカードなので、自身に得意の【コンピューター】で組んだ様々なプログラムを、イコンのプログラムに色々組み込んでいる魔道書である。
「エルデネストにも同じ事を言われた。ロアは先程の戦闘データの保存、よろしくな」
「わかっています、エンド。それに、私はヴァッサゴー程欲張りではありません」
「システムチェックはあとどれくらいだ?」
「今暫し、そうですね。エンドがグラス一杯の酒を飲む時間程頂けたら……」
 グラキエスとロアが話をしていると、蜂蜜酒の小瓶を持ったエルデネストがコックピットに戻ってくる。
「お待たせしました。グラキエス様、シートの向きを変えてお寛ぎ下さい」
 ツヴァイのコクピットはカスタマイズされており、通常のものより広く、操縦席の後ろに飲み物や軽食まで用意できる寛ぎ空間があった。
「……エルデネスト、その甘い香りのする物はどこから持って来た?」
「この蜂蜜酒ですか? 売り込みをしたいとの事でしたので、分けて貰いました」
「休憩もよいが……」
「細かい動きに対応させるためのバランサーの調節ですね? グラキエス様が休憩を取られる時に行なっておきます」
「ならばいい……」
「では、蜂蜜酒を混ぜた私のオリジナルブレンドを淹れて差し上げましょう」
 エルデネストは、グラスに蜂蜜酒を注ぐと、レモンを絞り、サッとかき混ぜてグラキエスに渡す。
「……美味いな」
 一口飲んでグラスを見つめるグラキエス。思えば、戦闘に夢中になるあまり、喉を潤す水以外でまともに口に入れたものは今日初めてであった。
「光栄です。グラキエス様がお疲れのようでしたので……。ロア、私に過去の戦闘データを下さい」
 エルデネストがバランサーの調整を行いながら、グラキエスに言う。
「そう言えば、荒野で店のエアカーに乗った人物が、襲われているという話を聞いてきました」
「こんな荒野だ。そういう事もある」
「相手は巨獣だそうです」
 グラキエスはグラスを飲み干し、シートを元に戻す。
「小物なら他の者に頼もうかと思ったが、巨獣相手では、俺が行くしかない。何故、黙っていた?」
「お忘れですか? 私の役目は戦闘のサポート。有利にグラキエス様が戦闘を行えるよう補佐する事です」
 隣のエルデネストが微笑む。蜂蜜酒を振舞った事は、グラキエスの体調とツヴァイのチェックの待ち時間を考えての最善の行動であったことは間違いない。
「……まぁいい。ロア、出れるか?」
「システムオールグリーン。ツヴァイのチェック完了です」
「私も、エアカーの位置のマッピング、並びにバランサーの調整、終了しました」
グラキエスが操縦桿を握る。
「出るぞ。空中より探す」
「了解しました。ブースターを起動させます、15秒下さい」
「ふん……蜂蜜酒の礼と言うのも何だが、仕留めた獣が食べられそうなら、その場である程度解体し、蒼木屋の厨房に届けてみるか」
「良いアイデアです」
 ツヴァイが上体を起こし、背後のブースターで一気に月が出る上空へと飛翔していく。