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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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「ふむ……人形にしては美しいな」
 セルシウスがグラディウスを見つめて唸ると、グラディウスから降りてきた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が解説する。
「セルシウスさんは建築家として建物を作っていると思うけど、私もシャンバラ王国イコン製造プラントの管理者ということで、イコンの開発・生産に携わってるんだよ」
「何!? 貴公がコレを作ったのか?」
「そなた、本当にイコンについては無知なのだな?」
「我がエリュシオン帝国には、かのような人形は無いからな。そもそも人形を用いて蛮ぞ……いや、貴公達がやる事など騒乱以外無いではないか?」
「お言葉ですが、セルシウスさん?」
 眼鏡をクイと上げたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が口を挟む。
「イコンにより起こった動乱を収められるのもイコンだけです」
「確かに……」
「いつの時代も、文明の誤った使い方をする人はいますよ?」
 静かにベアトリーチェはグラディウスを見上げる。
「……」
「それに、美羽さんとアリサさんは外見こそ幼いものの、2人のイコン操縦技術はシャンバラでもトップクラスですよ」
 セルシウスが驚いた顔で、美羽とアリサを見つめる。
「シャンバラでは、子供でもイコンを操縦できるんだよ」
「な、何だと……!?」
 膝を落とすセルシウス。
「(幼い頃から人形の操縦を出来る蛮族!! 我がエリュシオン帝国でも幼少時から軍事訓練はあるが……戦力は天と地の差ではないか!)」
 現実に打ちのめされたが、ここで引き下がるわけにはいかない。セルシウスは無理を承知で美羽に頼んでみる。
「……このイコン、可能ならエリュシオンに持って帰り研究したいのだが……」
「トップシークレットの技術をエリュシオンに持って行くのは、ちょっとね……」
 美羽が苦笑する。
「そうだな。過ぎた発言であった」
「でも……」
「ん?」
「少しだけなら乗ってみる?」


「サロゲート・エイコーン。通称イコン。パラミタの魔法的技術で作られた巨大人型兵器。 地球人と、パラミタ出身の異種族が協力することで稼動させることができる、か……」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は警備員の小屋の傍に腰掛け、ゆっくり上昇していくグラディウスを見学していた。
「はい、そしてイコンの能力を最大限引き出すには、地球人とパラミタ出身者のパートナー同士での搭乗が大原則です。一人だけでも操縦は可能ですけど、性能は著しく下がりますしね」
 ベアトリーチェが優しく微笑み、コハクに湯気の立つコップを差し出す。
「ベアトリーチェ、これは……?」
 コハクの隣に腰を下ろしたベアトリーチェが自分のコップを持ち上げて言う。
「セルシウスさんが持って来ていた蜂蜜酒を少し頂き、温めて少しお砂糖とレモンを絞ったんです。アルコールは加熱で殆ど飛んでますから、大丈夫ですよ」
 コハクがベアトリーチェに促され、コップに口をつける。
「いかがですか?」
「甘くて美味しい!」
 コハクはベアトリーチェや美羽と違ってイコン操縦の心得が全く無い。ベアトリーチェは一人手持ち無沙汰な彼を気遣ったのだ。
「あー、寒い寒い! って、そりゃ冬だもんねー」
 智緒が小屋から出てきてベアトリーチェとコハクの間に割り込むように腰を下ろす。
「智緒さんも飲みますか?」
 用意の良いベアトリーチェがポットとコップを見せる。
「頂戴頂戴!!」
「寒いなら小屋にいたらいいんじゃ……」
 コハクが言おうとすると、ベアトリーチェが口に人差し指を当てて首を横に振る。
「?」
 立ち上がって窓から小屋の中を覗くコハク。見ると、テーブルで理知と翔が肩をくっつけるように宿題をしていた。

「えっとね……そこはXを代入するんだよ」
「こうか? ……ああ、なるほどな!」
 理知は翔の宿題の面倒を見ていた。
 アリサが点けっぱなしにしていったテレビの音が気になった理知は、リモコンで音声を消す。
シン……とした室内。
「(智緒? アリサちゃんも居ないのね……ハッ!? ひょっとして、二人きり!?)」
 すぐ傍で翔が問題に鉛筆を走らせ、「うーん」と唸る声や息が聞こえる。
「や、ややややっぱり、BGMは必要よね!!」
 理知がリモコンでテレビを再度点けると、男と女のドラマが放送されていた。
「オレ、おまえが好きだ!!」
「あたしも……ずっと好きだった……気づいてくれないかと思って……」
 見つめ合う男と女が口付けを交わす。何度も……濃厚に……。
 思わぬラブシーンにリモコンを持ったまま固まる理知。
「理知?」
「な、なななななぁにぃ!? 翔くん!」
 上ずる声で翔に向き直る理知。
「この問題はXを代入したんだけど、その下の……」
「舌!?」
「……下の問題はどうしたらいいんだ?」
「舌の問題!?」
「入れたらいいのか?」
「へっ!? 入れるの?」
「……代入って事なんだけど」
「代入……ああ、うん! そうよ、代入したら……」
 テンパる理知とマイペースな翔を見ながら、窓の外から智緒が「頑張れー」と無音のエールを送るその背後をフラフラと闇夜を飛ぶ美羽のグラディウス。