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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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 美味しいお酒を呑んで日頃のストレスを解消しようとブリジッタ・クロード(ぶりじった・くろーど)笹奈 フィーア(ささな・ふぃーあ)を連れて宴会に来ていたのは、笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)である。
「うふふふふふ……」
 半分空いたグラスを持った紅鵡がニンマリと笑う。
「フィーア? 飲んでるぅ?」
「FUFUFU Fi−a pleasant(ふふふ、フィーア楽しい)」
 普段、あまり喋らないフィーアが流暢な英語で話しているのを、隣で飲んでいたブリジッタが見つめる。
「フィーアさん……やっぱり酔ってます?」
「NONONO! I’m Fine!!(ううん、全然!!)」
 無口で表情に乏しいフィーアだが、今は異常に明るい。
「やっぱり、酔ってますね。それ、本当にアルコール抜きの蜂蜜酒なんですか?」
「ひゃっはー! 黎明華の蜂蜜酒は、セルシウスさん直伝! つまりぃ、エリュシオンの蜂蜜酒なのだぁ!!」
「黎明華、ボクにももう一杯くれよぉー」
「勿論! どんどん飲むのだぁー! おっとお酌をしたからには、返杯をもらうのだ〜!」
 黎明華は紅鵡に蜂蜜酒を注ぎ、また紅鵡から返杯を受ける。既に何度も見た光景にブリジッタが口を挟む。
「紅鵡ちゃん……その辺で止めた方が……そのお酒、カロリー高いって知ってます?」
「何を言うのだキミは! キマクで生き抜くためには、空京のサラリーマンだろうが何だろうが明日への活力の高カロリーは必要なのだ、それだけキマクは厳しい土地なのだ〜!」
「そうそう! ボクらが生き抜くために飲むんだよー!! んふふふふ……明日にかんぱーい!」
「明日に乾杯なのだー!!」
「ASS? Me to!! (お尻? 私も頂戴!)」
「フッフッフ、異文化の言葉でも今の黎明華にはその意味がわかるのだー! 飲むのだー!! キマクの命の水とも言うべき蜂蜜酒を頼んで、明日の活力にするのだーー!」
 黎明華と紅鵡の乾杯を見て、フィーアも笑顔で蜂蜜酒を受け取るが、ブリジッタだけは浮かない顔で、黎明華の来襲から続く現在を察知しつつ、これを阻止出来なかった事を一人後悔する。

 少し前……。
 紅鵡達が和やかに宴会を始めていると、そこに黎明華が蜂蜜酒の瓶を持って「キミ達、これを飲むのだー!」と登場した。
 蜂蜜酒をいっぱい売ると、セルシウスから特別ボーナスが出ると聞いたため、頑張って売込みをしていた黎明華。蜂蜜酒についてメモを片手にひと通り話すと、丁度、赤ワインのグラスを空けた紅鵡が琥珀色の液体に興味と持つ。
「いかにも美味しそうなお酒だし呑んでみよう。ブリジッタは?」
「私は今は遠慮しますよ……」
「どうして?」
「……後々、私が気を強く持たなきゃいけない気がするんです」
「Please it Fi−a!(フィーアにも下さい)」
「え、フィーアさんも? でも……これ、お酒だよ?」
 渋る紅鵡にフィーアが、「度数が低いのでいいから!」と頼む。紅鵡やブリジッタは知らないが、実はフィーアはドイツに居た時、母に内緒で少量程度であるけれど時折呑んでいた。ドイツの飲酒可能年齢は16歳以上であり、フィーアが飲んでいても年齢さえ聞かれない限りは別におかしくはない。
「(ブリジッタは兎も角フィーアは未成年……まあ、良いかな? 今日は宴会だし無礼講だからね)」
「紅鵡ちゃん。私が考えている通りの事を今考えているならば、私、殴ってでも止めるからね?」
 ブリジッタによる教育的指導が入る。
「大丈夫なのだー! 黎明華にお任せなのだー!」
 接客から何まで『スマイル100G(実際にスマイルを頼むと支払いが発生する)』の精神で頑張る黎明華が、ドンと胸を拳で叩く。余談だが、彼女は黙っていると大人しそうな「日本人形」風な外見であるので、普通に男性客の注目を集めていた……喋るまでは。
「ノンアルコールの蜂蜜酒ってあるの?」
「度数、度数と、テレカの度数でお小遣い稼ぎを……おっと、昔の話は良いのだ! 水やレモン果汁で割れば、度数など、減ってしまうものなのだー!!」
「あぁ、なるほど!」
「え? 違うと思うんですけど……」
 黎明華は素早く、蜂蜜酒を二人のグラスに注ぐと、フィーアの分はたっぷりの水と氷とレモン果汁で殆ど水寸前まで割っている(らしい)別の瓶の蜂蜜酒を注ぐ。
「頂きまーす! ゴクッゴクッゴクッ……」
「ひゃっはー! いい飲みっぷりなのだー!」
「紅鵡ちゃん、待っ……そ、そんなに一気に呑んじゃだめぇー!!」
 驚くブリジッタが声をかけるも時既に遅し。
「ぷは〜、美味しにへぇ(美味しいねぇ)、フィーア?」
「Delicious(最高!)」
 フィーアも紅鵡程ではないが、かなり早いピッチでグラスを空ける。
 初めて飲む蜂蜜酒を絶賛し、グラスを空にした紅鵡の顔がみるみる赤くなっていく。
「(あーあ、呑んじゃった、仕方無い、私もお酒を呑んで忘れよう)」
 ブリジッタは自分用のお酒を近くの店員に頼む。
 紅鵡が黎明華にお代わりを頼むと、
「キミ達は運がいいのだー。今なら大サービスで、黎明華が直々にお酌してあげるのだ!」
「えぇ! いいの!?」
「Marvelous!(凄い!)」
「ボク達ラッキーだね!」
 紅鵡とフィーアが喜ぶのを見ていた黎明華が、顔を少し背け、唇の端を吊り上げる。
「(計画通りなのだ……いっぱい注文とって、いっぱい返杯してもらって、黎明華もタダ酒飲めて一石二鳥なのだ〜!)」
 こうして、紅鵡とフィーアは確実に早いペースで酔っ払っていくのであった。

 このような経緯があり、黎明華のほくそ笑いに気付きつつも阻止できなかった事を、今になってブリジッタは後悔していた。紅鵡とフィーアの酔い方だけではなく、黎明華の分の蜂蜜酒のお代も彼女達の注文書に書かれている事も、ブリジッタの悩みの種である。
「(黎明華……恐ろしい子)」
 二人相手にハイテンションで注文取りまくり、そしてもっともっと返杯してもらって飲みまくる黎明華が、皆を見渡す。
「ふむ。キミ達がいっぱい注文してくれたお礼に黎明華が一発芸でもしてあげるのだー!」
「やったー、いいぞー!」
「WOW! Perform little party stunt!(わぁ、一発芸!)」
 ブリジッタの心配をよそに紅鵡とフィーアが喜ぶ。
「では、黎明華とっておきの必殺の『マジック』をご披露してあげるのだ!! この技は黎明華が子供のころに、今は亡き黎明華ママから教わった一発芸なのだ。生真面目で、冗談とか言わない黎明華ママが教えてくれた、唯一無二の芸なのだー!」
「(ああッ! そんな真面目なお母さんからどうしてこのような人が!?)」
 心で叫ぶブリジッタが見つめる中、黎明華は何も持っていない手のひらヒラヒラを見せる。
「はい、タネも仕掛けもございませんのだ」
「うん、何もないね」
「YES(はい)」
「この何も無い手に白いハンカチを掛けて……」
 白いハンカチを黎明華は片手にかける黎明華。
「気を集中させるのだ……」
 真顔になった黎明華に、三人が固唾を呑んでハンカチを見つめる。
「はい、イチ、ニのサ〜ン!!」
 白いハンカチをパッと取る黎明華。
「あ!」
「WOW!(わぁ!)」
 何も無かった黎明華の手には、黒の筆記用具のマジックが握られている。
「ほおーら、マジック!なのだ〜!!」
「(今、袖の中から筆記用具のマジックを出して……)」
 トリックを素早く見抜いたブリジッタだが、紅鵡とフィーアが驚いたり喜んでいるため、場の空気を読んで敢えて黙ることにした。
「ひゃっはー! 黎明華のマジックが見れたので、もっともっとお酒もすすむ……ぅぷ」
 黎明華が口元を抑えて、テーブルを離れていく。
「どうしたの?」
「……飲みすぎハイテンションの峠を越して、き、気持ち悪くなってきたのだ」
 自称酒豪の黎明華といえど、返杯のされ過ぎで『限界』が来たらしい。フラフラと前後に揺れながら、お手洗いの方へ向かっていく。
と、途中で一旦止まり、黎明華が振り向く。
「ちょっとだけ待つのだ! 黎明華は必ず復活するのだー……ぅお!?」
 今度は駆け足で走りだす黎明華の背を見ていたブリジッタが声を出す。
「いい頃合いです」
 既に殆ど空いた蜂蜜酒の瓶と注文書に書かれた『正』の数にウンザリしていたブリジッタが紅鵡に囁く。
「紅鵡ちゃん、そろそろお店出た方が……酔いすぎると帰れなくなりますよ? ……ん?」
 見ると、紅鵡が自分の体を抱きしめ、クネクネとしおらしくしている。
「なんだかボクのカラダが変だね、凄く火照って来ちゃった……」
「……は?」
「あ、可愛い子発見! ……抱いちゃおう!!」
 紅鵡が座敷席で宴会をしていたセミロングの銀髪の女性を見つけ、走りだす。