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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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―第二章:宴会芸―

 店内は忘新年会の宴会に訪れていた客達で大賑わいである。
 3番と書かれた個室のお座敷では、樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)達が、喫茶【とまり木】のマスターである如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)と、ラグナ アイン(らぐな・あいん)アルマ・アレフ(あるま・あれふ)ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)達と一緒に賑やかに飲んでいた。

「今日は俺が奢るから、皆心置きなく楽しんでくれよー!」
 佑也の乾杯の挨拶で開幕したのは、一年間の苦労を労っての喫茶【とまり木】の忘新年会。
「なんと、今日は兄者の奢りですか!! でしたら一切の遠慮なく行かせてもらいましょう。てんちょー、この店にあるお酒全部持ってきてください!」
「お前は機晶オイルでも飲んでろ」
 未成年であるツヴァイの注文を即座にキャンセルする佑也。
 宴が進む中、刀真は色々な料理を注文しては佑也と共に味を確かめていた。
「ん! ……これ、美味いな。佑也」
「どれどれ……む! スライスした唐揚げとサラダを上手くあえてある」
「とまり木で出せそうじゃない?」
「このソースは何だろうね……店員に聞いてみたいけど……」
 自分の店の参考になるとふんだ佑也は、キョロキョロと辺りを見回すが、店員はそれぞれ慌ただしく動き回っていたので、次回の注文時にしようと決める。
「みんなで一緒にお酒〜♪ 楽しいし美味しいよね! にゃ〜〜、あー、刀真と佑也見ぃぃ〜〜けっ!!」
「「おわっ!?」」
 二人目掛けてダイブ……ぎゅーと抱きついてきたのは、開始から数杯で完全に出来上がっていた月夜である。
「佑也が奢ってくれるんだ! ありがとう!」
「刀真くん……月夜さん、大丈夫なのか?」
 抱きつかれた佑也が刀真を困惑の表情で見る。先ほどまでほろ酔いだった佑也だったが、驚きのあまり、今やその酔いは吹っ飛んだらしい。
「ずるいー!あたしも月夜ちゃんとモフモフするー!」
 様子を見ていたアルマが両手を広げて月夜に突進する。
「アルマー! ぎゅ〜〜!」
 月夜がアルマを受け止めて、抱きしめる。
 少し背後の白百合が見えた気がした佑也が、慌てて目をこする。
「うへへ〜、愛いのぅ愛いのぅ♪」
 アルマが月夜の頭をなでなでする。
「アルマ、胸おっきい〜〜」
 二人の様子を見ながら酒を飲んでいた刀真が佑也にポツンと呟く。
「普段から甘える時は抱き付いてくるけど、今は酔ってるからキスしてきたりと大胆になるんだよな。佑也も気をつけた方がいいよ」
「キスって……」
「何よ〜〜! 私は普段から大胆だにゃ〜〜!!」
「はいはい。そうだな、月夜は普段から大胆だよな」
 刀真が相槌を打つと、ニンマリと月夜が笑い、
「ね〜〜! アイン!!」
 アルマの胸の質感を堪能した月夜は今度は静かにジュースを飲んでいたアインに抱きつく。
「あう、くすぐったいですよ〜」
「(一応ボクも姉上も未成年って事になってますから、ジュースで我慢しておきましょう)てんちょー、ジンジャエールあるだけ持ってきてください」
 ツヴァイが注文してアインに「姉上も何か……」と言いかけて、その光景にハッとする。
「(……はっ! 月夜女史が姉上にも熱い抱擁を!? お、落ち着くんです、今日は無礼講、無礼講……ぐぬぬ……!)」
 アインを姉上と呼び慕う姉上至上主義者のツヴァイの心中に、沸き起こるジェラシーの炎。
 必死にこらえようとしたが、アインが月夜に箸で料理を食べさせている様を見た時、沸き起こった炎がツヴァイの心の沸点を軽く超えてしまう。
「姉上〜〜〜!!」
 月夜に負けじとツヴァイもアインに抱きつく。
「もう、いつまで経っても甘えん坊さんなんですから〜」
 月夜とツヴァイを抱えたアインが根が天然なゆえか、まんざらでもない笑顔を浮かべる。
「ボクも、ボクも!! あ〜〜ん」
 巣で親鳥を待つ燕の子供の様に口を開けるツヴァイ。
「ほら、ツヴァイもあ〜ん」
 アインガ箸でツヴァイの口に料理を運んでやる。
「もぐもぐ……」
「美味しい?」
「美味しい!! じゃ、今度はボクの番だね。はい、姉上。あーん」
 ツヴァイが机の上の料理をアインの口に運ぶ。
「あらあら、ありがとう。あーん」
「コ……コホン! さて、今年もあと数時間で終わるわけだけど、みんなが思う今年一番の出来事って何だろうな?」
 佑也は気恥ずかしさを取り繕うために、皆に話を振ってみる。
「ひっく、ひっく……」
「アルマ? 酔ってるのか……って何で泣いてる!?」
「えぐ……あたしなんか……ぐすっ……」
 アルマは、「去年一番の出来事かー」と思い返してみたのだけれど、やられ役だったりオチ要員だったりする姿しか思い返せなかった。
「(しまった……アルマは泣き上戸なんだっけ……)」
 佑也が少し後悔する。
「そう言う佑也はどうなんだ?」
 月夜にまた抱きつかれていた刀真が、彼女の頭を撫でてやりながら尋ねる。月夜の扱いに慣れているらしい彼には、特に驚きはないらしい。
「俺は、やっぱり自分の喫茶店を経営しだした事かな。興味本位っていうのが先立って始めた事なんだけど、色んなお客さんと出会って、迷惑かけちゃったり、逆に励まされたり…そうやって触れ合っていくうちに、ああ、やっぱりこの店開いて良かったな、って思ってさ」
「確かに、それが一番の出来事だよな」
 刀真が静かに頷く。
「色々と激動の日々だったけど、あのお客さん達や皆の笑顔を守るために、今年は俺ももうちょっと頑張ろうと思うよ」
「今年、じゃなくて来年よね? 佑也?」
 未だ少し涙のにじむ目でアルマが言う。いち早く来年に希望を持ちたい彼女にとっては、今年は既に終わっていた。
「……あはは、折角の飲み会なのに、あんまり真面目な話してもつまらないよね。もっと楽しめる話題の方がいいよな」
 喋って喉が乾いた佑也はビールに口をつける。
 そこで、ひとしきり泣いたアルマがとある事に気付く。
「佑也! 全然酔ってないじゃない!」
「え? そんな事は……」
 佑也が手にしたビールジョッキをアルマに見せる。
 二人の隣では、ツヴァイは酔って良い気分になったためかアインに甘えていた。
「酔いが廻ってきたみたいです……膝枕してください姉上ぇ〜」
 それがフリがガチかはともかくとして、アインはツヴァイを膝枕で歓迎する。
「姉上〜」
 ゴロゴロと猫のようにアインの膝の上で横になるツヴァイ。
「ふふ、私も少し酔ったみたいですね。佑也さん?」
「ウソつけェ! お前らにはアルコール渡してねーぞ!」
「そういえば、佑也さん、先程からチラチラと刀真さんの方を見ていますけど、やっぱり、ああいうのに憧れちゃうんですか?」
「(ダメだコイツら、早く何とかしないと……)樹月くんのリア充ぷりは憧れを超えてるなって思ってただけだよ」
「あら? 男の人は、誰でも”はーれむ”に憧れるものだってお母さんが言ってました」
「……ハーレムなんか……別に。俺はあの人がいればそれでいい……って何言わせんだ!」
「わ、なんだか佑也さんが凄く恥ずかしい事を言ってる気がします」
 アインがクスクスと笑う。
「佑也!」
「ん?」
 アルマの声に佑也が振り向くと、ドンッと、どこかから持ってきたラム酒のボトルを机に叩きつけるアルマ。
「ビールなんか水と一緒、男ならラムよラム!」
「ラムって……ストレートで?」
「モチ!」
「ロ〜〜ン!」
 アルマの声にあわせてアインの膝の上でツヴァイが手を挙げる。
「オーケィ! レッツパーリィ!」
「……ってちょっとアルマさん何をするやめ……アッー!」
 アルマに飲まされながらも、先ほど気恥ずかしい事を口走ったのを忘れるためか、佑也は次第に酔いに身を任せていく。
 余談であるが、嫌がる人間にアルコールを無理矢理勧めると、アルコールハラスメントになるし、飲まされた方も非常に危険である。注意しよう! 酔って寝たと思っていた人間の首筋を触って冷たければ、即座に救急車の召喚が好ましい。