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【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

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【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

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第四章 上り坂を走破しろ

 スタートまで1分40秒になると、スクリーンが100のカウントダウンに変化する。30を切る頃には、自然に観客席からコールが起こる。
 東西それぞれの出場者もソリに乗り込み、スタートの合図を待った。

「3……2……1……スタート!

 スピーカーから流れるリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)のアナウンス、司会のヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)は「ボンバー!」の絶叫、そして観客席のコールと共にスタートの合図が鳴った。
 一斉にスタート……しないところが、レースの駆け引きである。もちろん先頭を争うものもいれば、『まずは様子見』とゆっくりソリを走らせるものもいた。
「じゃあ、オレ達も」
 救護班のメンバー、ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)がスノーモービルを走らせる。
「ええ、気をつけて」
 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)は空に舞い上がる。 
 それぞれが選手についていく形で出発した。

「さぁーて、いよいよレースの開始だ。まずは先頭を見てみようか」
 ヴィゼントが叫ぶと同時に、リカインから指示が飛ぶ。
「了解」 
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)を箒の後ろに乗せた宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)は、それまで上空を飛んでいたが、ゆっくり下降して先頭グループに近づいていった。
 優梨子がカメラを操作すると、スクリーンに先頭の10組程が映し出される。右側の東チームがクローズアップされた。
 4頭のチルーに引かせて飛び出したのがリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)
「あら、なんだか調子が良いみたい。ダイエットも必要なかったようですわね」
 前髪パッツンの笑顔を浮かべる。カメラを意識したのか、余裕を持って手を振ってみせた。交代ポイントで観戦するナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)も大喜びだ。 
 それにほぼ並ぶように緋王 輝夜(ひおう・かぐや)清泉 北都(いずみ・ほくと)がソリを走らせる。
「おお、頑張ってますね」
 観客席では、侵食で目立ちこそしないが、顔を腫らしたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が観戦している。
「調子はどうですかぁ?」
 清泉北都が白銀 昶(しろがね・あきら)に尋ねると、ニパッとOKサインをみせた。
 やや遅れてクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)が併走している。いずれも1人乗りの軽快さで坂道を登っていった。
「クロセル殿、ちょっと遅れてしまったでござるか?」
「まだまだスタートしたばかりですからね」
「みなさ〜ん、頑張ってねぇ〜」
 日奈々はサンダーバード達に呼びかけた。
 次にカメラが左側に移動して、西チームを映し出す。
 こちらでトップ争いしているのは辻永 翔(つじなが・しょう)酒杜 陽一(さかもり・よういち)のソリだ。
『キャー! 翔くん、カッコイイー!』
 ソリに同乗している桐生 理知(きりゅう・りち)は心の中で何度も叫ぶ。
「あれ? 勝ってる?」
 陽一は先頭を走る自分自身が信じられなかった。その上、前方のわたげうさぎを見ると、マシュマロや綿菓子のように見えて仕方が無い。なんとか正気を保ちつつソリを走らせた。
 次いで小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)が続く。いずれも女性の1人乗りだ。
パワーブレスを使えば簡単に先頭に行けるんだけど、まだ早いかなぁ」
 美羽はうずうずしながらタイミングを待つ。
 千代は『若さだけで勝てると思ったら間違い』と思いつつも、それが若くない自覚の裏表と気付き、白いため息をついた。
 好むと好まざると、いや、やっぱり好んだのか、2人の女性の尻を追っかける形になったのが清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)のオヤジ?選手。
 山頂で待つ騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、満足そうに中継を眺める。
「アキュートよ、我らの勝利は近いぞー!」
 スタート早々にも拘わらず、ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)は勝利の雄叫びをあげた。

 ここで解説のイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)に切り替わる。
「まだこの時点ではコース幅は広いし、トップ争いも厳しくはない。もうしばらく進んで幅が狭くなった時が最初の勝負だろう。強引に先行してリードを保つか、無理せず一旦引くか」
「先頭集団にいる小鳥遊さんネー。この人、夏季ろくりんピックでも活躍してますヨ」
 キャンディスの解説に、イーオンが「ほう」と興味を持つ。
「ビーチバレーにムシバトルに水球勝負、シャンバラ版バスケットボールにも出てますネ」
「なるほど、場慣れしている意味では、勝負強いかもしれないな」

 続いて2番手グループに藤原優梨子のカメラが移動する。こちらはグループと言うよりは混戦集団になっていた。
 スタートダッシュに失敗したもの。先頭グループに続く位置取りを目指したもの。とりあえずは流れに任せたもの。思惑の違いを持つソリが、それぞれのペースで登っていく。

 ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は、すぐ後ろに続くジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)を振り返る。親衛隊員にソリを引かせたジャジラッドは、腕組みしたまま1回だけうなずいた。
 ブルタは周囲からの妨害を警戒しながら、ケンタウロスのスピードを維持した。
「まだ始まったばかり。もうしばらくこの順位を維持せよと」
「私は何もしなくて良いのよね」
 千種みすみ(ちだね・みすみ)はソリにつかまっている。改めてブルタ・バルチャは周りを確認する。
「うーん、誰も仕掛けけてこないんだよねー」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はパラミタホッキョクグマを操っている。ミア・マハ(みあ・まは)ディテクトエビルで警戒を怠らない。
「さすがホッキョクグマ! すいすい登っていくよ」
「しかし誰も攻撃してこないのう」
「ちょっと! 油断しないでよ!」
「わかっとる。しかしイマイチ目の保養にならんのじゃ。レキ、そなただけでも水着になるとか……」
 ミアはレキの胸を突っついた。
「むっ、あれはあれで……なかなか」
 意図的にこの順位につけている戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、ミアの胸ツン攻撃を見逃さなかった。
「どこを見てるんですの?」
 小次郎の耳を引っ張るリース・バーロット(りーす・ばーろっと)。こちらもそんな小次郎を見逃さない。
「きちんとレースに集中してください」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)と魔鎧漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)も堅実に登攀している。
「フラワシの選択は間違っていませんでしたわね」
「クジの選択は……」
 ドレスが言いかけると、中指で裾を軽く弾く。
「余計なコト言ってないで、しっかり見張っててください」
「痛いじゃないの。分かってる」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)のソリも中段につけている。
「それなりにスピードは出ているが……」
「やはり体重かもな。あの30キロは脅威だぜ」
 先頭集団を走る酒杜陽一が目に入る。パラミタセントバーバードは頑張っているが、先頭に立つまでには至らない。
「エイミー、参考までに聞こう。あなたの体重は?」
「……ボス、上官であっても、聞いて良いこととダメなことがあるぞ。どうしてもってんなら、ボスのを聞きたいな」
 ソリの2人を沈黙が支配する。
「まぁ、彼らに頑張ってもらおうか」
「そうだな」
 クレアは手綱を引き締めた。
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)はパラミタ猪にムチを入れて……いなかった。
「全力疾走させるのではなかったのか?」
 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)に追求される。
「そうなんだけどさ」
 ペット好きが災いして、他のように強引な操縦ができない。いまひとつスタートダッシュに乗り遅れたことで、中位グループで坂を登っている。
「やっぱりルーシェが重いのかなぁ」
 スパアアアアアアン!! と周囲の参加者も驚くような破裂音が鳴り響く。
「貴様が言うから乗ってやったのじゃろう。次に同じようなことを言ったら、ソリから蹴り落とすぞ」
 顔に真っ赤な手形を付けたアキラは黙ってソリを操縦した。
 トップを走るリリィ・クロウ同様、チルーに引かせていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)だったが、数の差を痛感する。
「もう1匹か2匹でも用意してたらなぁ」
 それでもまだ始まったばかりと気を引き締めなおす。
「まぁ、1位で目立ちすぎるのも困るしねぇ。この位置をキープして、おっさんにつなげれば良いか」
 交代ポイントで待つ熊谷 直実(くまがや・なおざね)を思い浮かべた。
 馬 超(ば・ちょう)のソリを引くスパルトイは順調だった。速度はそれほどでもないものの、8体立てとしていることで十分なパワーを維持している。
 黙々とソリを操る馬超がスクリーンに映ると、観客席の脇で半身が雪に埋まったコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が大喜びした。
 ケンタウロスに引かせたソリを宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が操る。同乗する湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)野生の勘を存分に働かせていた。
「悪くない位置ではあるけど、ちょっと消極的かな」
 前に出ようかと祥子はランスロットに相談するが、ランスロットは前方を指差す。
「あの狭くなっているところに注意してください。それまでは安全を重視した方が良いです」
 山の中腹を見上げたは祥子は「そうね」と逆に速度を落として、前後左右に十分なスペースを維持した。