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海の都で逢いましょう

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海の都で逢いましょう
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●ロイヤルガード軍団(?)参上

 雅香はそれからもあちこちのバーベキューを覗いたりして歩いていたが、妙な表示を見て足を止めた。
「ここよりコスプレ可能ゾーンー……?」
 中心部に近い一角がそう名づけられロープで囲われている。といっても足元にロープが置いているだけなので邪魔というほどのものではない。ただ、このロープが何らかの区切りになっているのは確かだ。
 ああそうか、と雅香は理解した。
 その内側に置かれたバーベキューに、ロイヤルガードの面々が集っていたからである。
 といっても本物ではなく、コスプレの。
「まずは乾杯ですわー♪」
 本日の『ろいが☆レイヤー』軍団の提唱者、退紅 海松(あらぞめ・みる)が満面の笑みで腕を上げた。ジュースだけどジョッキ入り、そんな大杯が彼女の右手にある。そしてその衣装は、まさしくロイヤルガードのマントなのであった。といってもレプリカであるからカラリングは本物とは違う、ラインの色は本来の赤でも青でもなく緑、それも鮮やかなエメラルドグリーンだった。
「乾杯です。今日はこのとても面白い趣向の催しに参加させてくれたことを感謝します」
 と唱和したのは御神楽 舞花(みかぐら・まいか)、普段は年齢の割に落ち着いたところのある彼女だが、今日は衣装効果というのか、口調がどことなく昂揚している。そう、舞花もロイヤルガードに変身しているのだ。マントの色は白地に、黄色っぽい橙色という組み合わせだ。
「ワタシも楽しいね♪」
 がちゃんとジョッキを合わせた一人に、舞花と同じ蒼空学園、ローラ・ブラウアヒメル(ことクランジ ロー(くらんじ・ろー))の姿もあった。ローラ版ロイヤルガードマントは、青よりぐっと濃い紺色のラインだ。
「カンパイシヨウネ! ワタシヨイニャンコー★」
 などと奇っ怪な口調で宣言しているのは、なんと謎の猫の着ぐるみだった。通称『如月のよいにゃんこ』、愛嬌のある顔立ちのずんぐりした体格で、左右の目の色が異なっている。どこの誰だか知らないが、昨年秋のハロウィンパーティ@蒼空学園を知っている者ならみんな知っている……と思う。理由は不明だがこのにゃんこのみ、本物のロイヤルガードと同じ白地に赤色の入ったマントをしている。
「どうしてボクまでやってるんだろう……? いや、案外楽しいからいいけど」
 普段の彼女を知る者であれば驚くだろうか。軍団にはアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)もいて、桃色ラインのマントをまとっていた。
 そして全員、マントの下は水着! もとい、よいにゃんこだけはコートを着用しているが彼または彼女は治外法権として、他のメンバーは全員、コスプレイでありながらドレスコードもパスしているという凄い状態なのであった。
 そうそうたる顔ぶれで五人、がっちりと杯を合わせたのであった。
 なお、念には念を入れて全員、コスプレである証拠として腕章を巻いている。
 海松の腕章には『※ロイヤルガードではありません』と書かれてあり、
 舞花の腕章には『※コスプレ中です』と書かれ、
 ローラの腕章には『※ジョークですよ』と書かれ、
 如月正……もとい如月のよいにゃんこの腕章には『よいにゃんこ』とあって、
 そしてアゾートの腕章には『※嘘よーん』とあった。
 なぜか示し合わせたように五人同時にジョッキを置いて、最初に開口したのはローラだった。
「五人……これ、なんか似てる……? わかった! 戦隊モノ!」
 ローラは最近、テレビでそういうものを熱心に観ているらしい。
「そういえば」
 と海松が言った。緑、青(紺)、赤、黄(橙)に桃……トラディショナルな戦隊カラーではないか。しかし海松はそれでは納得しない。
「たしかに五人揃っているので戦隊モノと言えないことはないですが、足りませんわね」
「タリナイッテ、ナニガー?」よいにゃんこが問うた。
追加戦士ですわ!」
 このとき、雷鳴のようにキラリと海松の眼鏡が光ったのである。
「あの……戦隊までは理解できたんですが、その先がわかりません」
 舞花が恐る恐る伝えると、得たりとばかりに海松は返答した。
「もうずっと戦隊モノは、最初のメンバーだけでは完結しないようになっているのですわ。すなわち、途中から出てくる戦力補強メンバー!」
「要するにもう一人いるってわけだね」
 というアゾートの声に呼応し、海松は指を鳴らした。
「その通りですの♪ さあ、おいでなさいまし寿子さん!!」
 えっ、と五人の会合を見ていただけの遠藤寿子は言葉を失った。まさか自分が呼ばれるとは夢にも思わなかったのだろう。
「はう〜私も、なの〜!?」
 眼鏡がずり落ちる寿子であるが、行ってきなさい、とアイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)に優しく背を押された。
 よろよろと進み出た寿子は、しっかと海松に抱きとめられる。
「待っておりましたわー♪ 実は今日の衣装、ワタシの手作りですのー♪ 連日徹夜で作り上げましたんですのー♪」
 と言いながら海松は寿子を支えて立たせ、銀色のラインが入ったマントと、『※ロイヤルガードじゃないってば』と書かれた腕章を手渡したのだった。
「おーけー、歓迎するぞ六人目の戦士よ!」
 よいにゃんこがパチパチと拍手した。
「正悟。口調、素に戻ってるね」
 ローラがすかさず突っ込む。
「おっと、そうだった……って、ホンミョウバラスナー!」
 もう手遅れな感じだが『如月のよいにゃんこ』こと如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は仰け反ったのだった。
 せっかくなので、寿子の変身(マントを着けて腕章を巻くだけ)が終わるまでの間、正悟の事情に関して解説を入れよう。
 彼、如月正悟はそもそも元々ロイヤルガードなのである。この時期ちょうど暇でごろごろしていた彼はこの交流会のことを聞きつけ、さらにはコスプレ話も聞いて大いに乗り気になったはいいが、ロイヤルガードがロイヤルガードのコスプレをするのってどうなのよ?という考えに煩悶したあげく、選んだのがこの手段、すなわち、「『如月のよいにゃんこ』という別人格で参加するので許してね大作戦」だったわけだ。
 以上、解説終わり。
「べ、別にロイガがロイガの扮装したって怒られないよね……」
「また口調戻ってるね」
 などと正悟とローラが話している間に準備が終わったようだ。
 拍手に包まれ、銀の追加ロイヤルガード(コスプレだけど)こと、寿子が照れながら出てくる。
「どう、やってみた感想は?」
 アゾートは寿子と並び立って問うた。
「えっと〜よく考えたら普段から魔法少女に変身したりしているから違和感ないよ」
「そうでなくっちゃ」
「これで全員揃ったわけですね、そこで提案なのですが」
 舞花は、さっと懐からカメラを取り出した。
「記念撮影、しませんか?」
 アイリがカメラを受け取り、並んで下さい、とメンバーに指示を出した。
「よーし、せっかくだからあれだ、思い思いのポーズを取って映らないか?」
 もうあんまり隠す気がなくなったのか、にゃんここと正悟は腰に手を当て、ふんぞりかえるようなポーズを取った。
「素敵ですわ〜♪ やはりコスプレの楽しみはポージングにありますもの♪ それではみなさーん♪ できればポージングお願いしますわー♪」
 かく言う海松は中央で飛鳥のポーズ、両腕を上げて片足立ちするのだ。
「どーん!」
 ローラの判断は速い。彼女は左端に立って片腕をぐっと天に延ばした、
「ポーズ、ですか……?」
 こういうリクエストは想定していなかったので舞花は迷うも、やるからにはきっちりやりたいという義務感が先に立った。
「こう……でしょうか……?」
 結局舞花は、右端で、やや試行錯誤してから回転蹴りを放つようなポーズで停止することにした。
「ボクはこれでいいかな。簡単だし」
 両脚を開き、アゾートは正面に正拳突きした。
「はう〜、じゃあ私は〜」
 寿子はさんざ迷って、カワイイ路線に帰着した。すなわち、両手を胸の前で組んで、片足だけ背後に蹴り上げるという、彼女思うところのトキメキポーズである。
「では撮ります……」
 微苦笑しながらアイリは、彼ら六人をひとつのフレームに収めた。

 数分後。
 舞花が携帯で写真を送ってみた御神楽 陽太(みかぐら・ようた)から、驚きと混乱に満ちた返信が入ってきた。