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命の日、愛の歌

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命の日、愛の歌
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「以上。ご理解いただけただろうか」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)に代わって、一足先にレスト・フレグアムと面会を果たしていた。
 戦いで命を落としたユリアナを、密かにヴァイシャリーの墓地に埋葬した者として。
 ラズィーヤは全てを察していたと思われるが、自ら指揮を執ることはなく「わたくしは、申し出に応えたいと思います」とだけ微笑んでレンに言い、彼に全てを任せた。
 サングラスを付けたまま、ラズィーヤから預かった手土産を渡した後、レンは事務的にレストに資料を見せて、駆け足で説明をした。
 遺体が埋葬されていた墓地の写真と地図、掘り起こす日時、立会人、エリュシオンまでの移送ルート等について相談して。
 それから、彼女が次に眠る場所の位置の確認をしたいと申し出た。
「まだ、家も庭も出来てはいないが」
 レストは設計図を見せて、レンに説明をする。
 庭の一角、花壇の側に彼女の墓は設けられるようだった。
「そうか……彼女が寂しくならないように、季節の花を墓の周りに植えてくれるとありがたい」
 その言葉に、レストは無言で頷いた。
 話し合いを終えると、レンは早々に立ち上がる。
 レンは――。
 先の戦いで、レスト・フレグアムが行ったことを、許してはいない。
 再び戦いの場で向かい合えば、剣を交えることになるだろう。
 そう信じているし、心に迷いはなかった。
 だかが、この場において、仕掛けるようなことはしない。
 そんな馬鹿な真似はしないと、信じて送り出してくれた人もいる。
 そして、ユリアナの『願い』も知りえているから。
 死者の願いを踏みにじるような真似はしたくなかった。
「一つだけ……俺から、頼みがある」
 背を向け、歩き始めたレンが足を止めて、レストに目を向けて言った。
「なんだ」
 レストもまた、事務的な口調だった。
 敢えて感情を抑えているかのような。
「彼女の――ユリアナの死を、誰かに謝る真似は止めてもらいたい」
「……」
「あいつは望んで命を差し出した。馬鹿な女ではあったが――」
 レンは軽く目を伏せ、遺品から感じ取った彼女の想いを思い浮かべる。
「お前が謝ればその死は意味を無くす。彼女の尊厳が失われる」
 だから、最期の日が訪れるまでレストには、その死を結果として受け止めてほしいと思った。
 哀しむこともあるだろう。
 悔やむこともあろうだろう、が。
「誰かに許しを乞う真似だけは止めてもらいたい」
「……覚えておく」
 レンの想いに、レストは短くそう答えた。
 軽く首を縦に振ると、レンは静かにその場を後にする。
 ラズィーヤの代わりとしての最低限の礼節だけは守り、退出した。

(命は繋がっていく)
 相談を終えたレストの元に、団員達が向っていく。
 彼は威厳に欠けるところがあるが、団員に慕われているようであった。
(彼が彼として、ユリアナが命を捧げるに相応しいと思えた人間として生きてくれればそれで良い。
 そしてその生きていく先で俺と戦う日が来るならば、その時は全力で相手をしよう。
 それが俺の選んだ生き方。
 ユリアナの死を護る生き方だ――)
 レンは振り向かずに、歩いた。


第1章 武器を置いて、のどかな地へ

 2022年6月上旬。
 去年の同時期、シャンバラとエリュシオンは戦いの最中にあった。
 和平協定、そして同盟が結ばれて。
 現在、両国は力を合わせて、パラミタを救う道を模索しているところだった。
 そんな中。
 エリュシオン帝国第七龍騎士団から、シャンバラに一つの知らせが入った。
 団長のレスト・フレグアムが、御堂晴海(みどう はるみ)と婚約をするという知らせだ。
 晴海は地球の良家のお嬢様であった……。
 ある日、彼女は空京で1人の少女と出会った。
 エリュシオン帝国を拠点とする鏖殺寺院関連組織のメンバーだったクリス・シフェウナ
 彼女とパートナー契約を結び、組織の一員として晴海は百合園女学院に潜入していた。
 そして百合園女学院が離宮調査を行った時に、白百合団員の班長として離宮に向かい、仲間とヴァイシャリーに住まう人々を危機に陥れようとした……が、失敗をして重傷を負い、拘束された。
 終戦後、彼女はエリュシオン側からの要請によりエリュシオンに渡り、当時パートナーを失い、療養中であったレスト(公にされていないが、クリスの義兄)と契約を結び、第七龍騎士団の団員となったのだ。

(複雑な事情があるみたいだけれど、嬉しいことなのよね?)
 エリュシオンに向かう船の中。
 軍服姿の龍騎士団員の姿を恐れてか、地球から訪れた人々――花嫁の親族は酷く緊張しているように見えた。
 エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)は、晴海の親族の護衛として一緒に船に乗ったのだが……。
(なんだか、婚約式じゃなくて、お葬式にでも行くみたいな顔)
 船に乗ってからは、護衛は龍騎士団が担当してくれている。
 エレノアも、親族の側にいることくらいしかやることがない。
(突っ立ってたり座ってるだけだと、芸がないわよね。そう、こういう来賓をお連れして移動する際には、何かしらの余興があった方が華やかでいいのよね)
 そう思って、1人頷くと、エレノアは皆の前に出た。
「披露宴では皆で歌を歌ったりすると思うんです。その練習もかねて……」
 言って、エレノアは神々を賛美する歌を、歌っていく。
 まずは、地球にも伝えられていると思う、シャンバラの讃美歌から。
 それから、エリュシオンの讃美歌も。
 龍騎士団で歌われているという歌も。
「ご存知の方がいましたら、一緒に歌いませんか? 会場で皆で歌うことが出来たら、晴海さんも嬉しいと思います」
 微笑んで呼び変えると、親戚の何人かが一緒にエレノアと一緒に歌いだす。
 厳めしい顔つきの龍騎士達も、次第に警備に就きながら共に歌いだす。
 エレノアも、決して警戒は怠ることなく、親族達の側で、綺麗な声で奏でていく。
「大地を守りし神、世に平和あれ、神に栄光あれ――」 
 親族たちの顔から、緊張の色が抜けていった。