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2022年ジューンブライド

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2022年ジューンブライド
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リアクション

 杜守柚(ともり・ゆず)は緊張していた。
 パニエ付きのウエディングドレスは愛らしいシルエットになっており、一見シンプルに見えるが、所々にフリルとリボンが付けられていて可愛らしかった。
「うーん、ちゃんと花嫁さんに見えるでしょうか……?」
 鏡の前で何度もチェックしてみるが、子どもっぽい外見がどうしてもネックだ。着物姿になった時には、パートナーから七五三みたいだと称されたため、なおさらコンプレックスになっている。
 すると控え室の扉がノックされ、高円寺海(こうえんじ・かい)が顔を覗かせた。
「おい、もうすぐ始まるらしいぞ」
「え、もうそんな時間でしたか!? ごめんなさい、海くんっ」
 と、慌てて柚は扉へ向かう。

 模擬結婚式の話を持ちかけたのは柚の方だった。
 スポーツ少年である海は結婚式など興味がなさそうだと思いつつ、このチャンスを逃すのは惜しかった。
 海は了承してくれたものの、将来役に立つかもしれない経験の一つとして捉えているようだった。

「海くんのタキシード、すごく似合ってますね」
 と、教会の前へ向かう途中、柚は言った。
「いつもよりもかっこいいです」
「そうか? 俺としては動きづらいだけなんだが……」
 と、海は返す。
 それは柚も同じだったため、柚もドレスの裾をちょこっと上げて見せた。
「私もです。このドレス、裾が長くて……踏んじゃって転ばないか、心配です」
「そうだな。落ち着いて歩けばいいさ」
 柚はドジなところがあるため、バージンロードを歩いている最中に転ぶ可能性は否定できなかった。
「はい。ありがとうございます、海くん」

 やがてすべての準備が整い、ついに模擬結婚式は始まった。
 海と腕を組んだ柚は、自然と顔をほころばせる。
 彼の歩くペースに必死についていきながら、転ばないように気をつけながら歩いて行く。
 柚のドキドキは高まるばかりだったが、海は一切表情を変えていない。いつも通りだ。
 それでも柚は、彼の隣を歩けることが嬉しかった。模擬であっても、彼の花嫁になれた今が幸せだった。

「どうでしたか、海くん。模擬結婚式、楽しめてもらえましたか?」
「まぁ、悪くはなかったな。いい経験になったと思う」
「それは良かったです。私も、花嫁さんになるのが夢なので、いつか本物の花嫁さんになりたいって思いが強くなりました」
 そう言って柚は微笑み、先ほどまでの幸せな時間に思いを馳せるのだった。

   *  *  *

 模擬結婚式とはいえ、恋人同士で行えば結婚を意識せざるを得ないものだ。もしかすると、そのまま結婚ということだってあり得るかもしれない。
 風祭優斗(かざまつり・ゆうと)はそうした危惧から逃れるために、模擬結婚式の相手をお互いに恋愛の対象ではない鬼城の灯姫(きじょうの・あかりひめ)に頼んでいた。
「模擬結婚式とやらは、ここでやるのか? ずいぶん立派な場所のようだが」
「あ、あはは。本当に立派ですよね。でも、あくまでも模擬結婚式ですから……」
 と、優斗は苦い顔をしながら笑う。
 本当なら体験するのは風祭隼人(かざまつり・はやと)ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)だけのはずだった。しかし、話を聞きつけた優斗のパートナーたちが必死に参加するよう迫ってきたのだ。
 彼女たちの好意には気づいているため、優斗は灯姫に相手役を頼み込んだのだった。

「むぅ……灯さんたら、何をきょろきょろしちゃって……邪魔できないのがもどかしいですわ」
 と、テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)は呟いた。
 模擬結婚式が始まり、二組のカップルがバージンロードを歩いて行く。今行われているものが何だかよく分かっていない灯姫は、どう見たって落ち着きがなかった。
「本当、許せないよね。でも隼人お兄ちゃんとルミーナさん、すごく幸せそう……」
 と、少し寂しげに呟くのはミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)だ。
 ウエディングドレスを身に纏ったルミーナはいつにもまして美しく、とても神々しかった。
 彼女の隣にいる隼人もびしっとタキシードを着込んでおり、いつもより大人っぽく見える。
「そうですわね……ウエディングドレス、着たかったですわ」
「うん、僕も着たかったなぁ……」
 そして二人の少女は、優斗の背中へ嫉妬の視線を送るのだった。
 隼人はまだ未成年であり、結婚するには少し早かった。しかし、4ヶ月前に晴れて恋人同士となったルミーナに対して、確固とした感情を抱いていた。
「健やかなる時も、病める時も、ルミーナ・レバレッジを支え、守り、生涯愛し続けることを誓います」
 強い口調で隼人は誓い、ルミーナは恥ずかしくなってきた。
 しかし、神父に同じ問いを投げかけられて、ルミーナは誓う。
「健やかなる時も、病める時も、風祭隼人を支え、守り、生涯愛し続けることを誓います」
 二人とも前を見つめているため、相手がどんな表情をしているのかは分からない。
「健やかなる時も、病める時も、鬼城の灯姫を支え、守り、生涯愛し続けることを誓います」
 と、隼人の双子の兄である優斗が言う。
 その隣に立つ灯姫は、神父に問いを投げかけられて首を傾げた。
「灯姫、同じことを繰り返せば良いんですよ」
「ん、そうか……。えー、健やかなる時も、病める時も、風祭優斗を支え、守り、生涯愛し続けることを誓います」
 恋愛の対象としてお互いを見ていない彼らには、模擬結婚式というものは難しいらしい。
 隼人は心のどこかで優斗を哀れに思いつつ、次に行う指輪交換にドキドキと胸を高鳴らせた。
 神父の合図で隼人はズボンのポケットから【婚約指輪】を取り出す。
 そしてルミーナを真っ直ぐに見つめると、改めて告白をした。
「ルミーナさん……ただの恋人ではなくて、結婚を視野に入れた恋人として、お付き合いをしてくれませんか?」
「え……っ」
 ルミーナはドキッとして頬を真っ赤に染める。
 参列者として参加していた御神楽陽太(みかぐら・ようた)は、彼女たちの様子を微笑ましく見守っていた。
 陽太が妻と結婚した際、式に参列して祝ってくれたのが隼人たちだった。今日はそのお返しという意味を込めて参列していた。
 ルミーナは隼人の様子をうかがうようにちらりと見た後、静かに口を開いた。
「はい。ですが……どうか、誠実でいて下さいね?」
 と、意味深長な微笑みを浮かべる。
 隼人は少し戸惑いつつも、ルミーナの左手薬指にそっと【婚約指輪】をはめてやった。
 陽太はおめでたい結果にぱちぱちと祝福の拍手を送る。
「おめでとうございます。隼人さん、ルミーナさん」
 すると、つられるようにしてテレサとミアも拍手をした。
 優斗と灯姫もまた、二人に向けて祝福の拍手を送っていた。
 振り返った隼人は恥ずかしそうに照れ笑いをし、ルミーナもはにかむ。
「あ、ああ……ありがとう。俺、絶対にルミーナさんを幸せにするからっ」
 と、彼女の表情をうかがう。ルミーナはただこくりとうなずくだけだった。

担当マスターより

▼担当マスター

瀬海緒つなぐ

▼マスターコメント

皆様、お疲れ様でした。
そしてここまで読んで下さり、ありがとうございます。

今回はおめでたい話が盛りだくさんで……正直、もうお腹いっぱいです。
ごちそうさまでした(笑)

それでは、またの機会にお会いしましょう。
本当にありがとうございました。