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2022年ジューンブライド

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2022年ジューンブライド
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リアクション

 式の始まる直前、竜螺ハイコド(たつら・はいこど)は花嫁控え室の扉をそっと開けた。
「ソラ、準備は出来た?」
「あ、ハコ! うん、大丈夫だけど……どうかな?」
 と、恥ずかしそうにはにかむソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)。右足のほとんど出ているミニドレスには青色のグラデーションでフリルとレースが入っていた。ドレスに合わせた長手袋に、狼耳には小さく音のなる飾りが付けられ、頭には母からもらった小さなティアラをかぶっている。
「……似合うよ、ソラン」
 と、ハイコドはにっこりと微笑んだ。
 ソランも嬉しそうに微笑み、着付けの手伝いをしていた白銀風花(しろがね・ふうか)も呟く。
「ソラン姉様、とても美しいですわ……」
 自分が獣人であることに気づかせてくれたソランを慕っているため、うっとりと彼女の花嫁姿に見とれている。
「ハコ兄様も凛々しくて……ああ、お二人の邪魔をしてはいけませんね」
 と、風花は二人から離れて片付けを始めた。
 ハイコドとソランは改めて向かい合う。
「もうすぐ式が始まるのは分かってる。だけど、言わせてほしいことがあるんだ」
 獣人化しているハイコドの耳がぴくっと揺れる。
「君とともにある限り、獣人として生きたいけど……いいかな?」
「ふふっ。もちろんだよ、ハコ」
 と、不思議といつもより落ち着いた様子でソランは言う。
「神に誓う前に言うよ。愛して守って守られて、永遠に隣にいることを誓います」
「ソラ……ありがとう。愛してる、好きだ、この世の誰よりも」

 空京大社での結婚式が始まった。
 式を挙げるのはハイコドとソラン、柳玄氷藍(りゅうげん・ひょうらん)真田幸村(さなだ・ゆきむら)の二組である。
 氷藍は女性の体だが、【鬼神力】により幸村の身長を超えて新郎になっていた。黒いタキシードを着て、髪もきっちり結っているため、女性ながらも男らしい雰囲気だ。
 そして男性である幸村はウエディングドレスを着用している。恥ずかしさのあまり顔は真っ赤、戦友の視線に気づいてからは感情を抑えるのに必死な様子だ。
「思えば長い日々だった……幸村、お前と出会って、パラミタに旅立つと決めたあの日から、ようやく此処にまで至ったな。まぁ、昔から俺にその気はあったが、まさか本当に女になれるとはな……おかげで元気な子宝にも恵まれた」
 と、スピーチをする氷藍。
 隣で聞いている幸村はただうつむいて、恥ずかしさをこらえるばかりだ。
「だがな、身体はどうであれ心は他でもない男だ。そんな俺の事、お前は何だかんだで遠ざけなかったよな。……感謝している。お前が俺と一緒にいてくれたから、俺は此処まで幸せになれた。ありがとう……何度でも言うぞ、お前が好きだ」
 次はハイコドのスピーチだ。
「えっと、ソランに告白されたのは無人島サバイバルの時で、プロポーズをしたのも無人島だったから、結婚式も無人島かとヒヤヒヤしたけれど、ちゃんとした所で行えてよかった。そういえば、氷藍さん達と知りあったのも無人島サバイバルの時だったよね」
 彼らの付き合う前から二人を知っている藍華信(あいか・しん)は、これまでの二人を思い返して感傷に浸っていた。親友や相棒よりも、父親のような心境だ。
「これまでいろんなことがあったけど、僕はソラのこと、命をかけて守り抜いてみせるよ。今ここに、そう誓う。だから、ソラはいつまでも明るく元気に笑っていて欲しい。ソラの笑顔が僕は大好きだから……」
 ソランは口にはしなかったが、もちろんだとうなずいた。
「最後に、合同で結婚式を挙げてくださった氷藍さんには感謝しています。本当にありがとう」
 と、スピーチを締めくくる。
 次は誓いのキスだった。
 氷藍が幸村を見つめると、彼は恥ずかしさがピークに達したのか耳まで真っ赤になっていた。
 やはり俺の嫁は可愛いと思いながら、氷藍は彼へそっと口付けをした。
 ハイコドとソランもラブラブな様子で口付けをかわす。
「ドレス綺麗だねぇ、憧れちゃうなぁ」
 と、天禰薫(あまね・かおる)は呟いた。
「でも我はまだ二十歳だし、将来の目的もまだよく分かってないからお預けだねぇ」
「……」
 薫の隣にいた熊楠孝高(くまぐす・よしたか)はやや気まずい表情になる。薫とは恋人同士のはずなのだが、薫は最近、彼と「恋人同士である」ということを忘れかけているのだ。このままでは結婚など出来るわけもないのだが、友人の式に参加しては考えないわけにもいかない。
「それにしても結婚式するのってお金がかかりそう……」
 と、薫は改めて周囲を見回す。衣装はもちろんだが、使用する会場にもお金がかかる。今回は新郎である氷藍が神主をしている空京大社だからいいものの、自分の場合はそういうわけにもいかないだろう。
 合計でいくらかかるのだろうかと現実的なことを考えた薫は、すぐに首を横へ振って気持ちを切り替えた。
 ちょうど式が終わりを迎え、二組のカップルが退場していくところだった。
「みんなおめでとう〜! 末永くお幸せになのだ!」
 と、腕を組んで歩くハイコドとソラン、幸村をお姫様抱っこして笑っている氷藍を見守る。
 そして新郎新婦だけでなく参列者もお待ちかねのライスシャワーになると、信は全力で米を投げ始めた。優しさなど皆無だ。
 しかしハイコドたちは幸せにあふれているためか、あまり気にしていない様子だ。
 後藤又兵衛(ごとう・またべえ)もまた祝福のライスシャワーを四人へ送ったが、視線はずっと幸村を見ている。しかも、にやにやと。
 幸村は氷藍の隙をついて抜け出すと、一直線に又兵衛の元へ来た。
「……後藤? その顔はいったい何だ?」
「え? 祝福してやってるに決まってるだろ? まぁ、まさか真田が結婚するとは思ってもなかったが……」
 わなわなと震える幸村を見て又兵衛はあとずさった。その直後、幸村の頭にライスシャワーが降る。
「ぴきゅう! ぴーきゅ、ぴっきゅ♪」
 天禰ピカ(あまね・ぴか)の仕業だ。わたげうさぎの姿をしたピカは無邪気に祝福していたのだが、ついに幸村の怒りは限界を超えた。
「ぴきゅ……?」
 逃げ出した又兵衛の頭からピカは転がり落ちたが、獣化した風化に受け止められる。
 戦友を追ってどこかへ消えた花嫁にもかまわず、式は最後のブーケトスへ。
 ブーケを手にしたソランはドキドキしながら目をつぶると、思いっきり投げた。
 宙を舞うブーケを手にしたのは……ピカだ。
「ぴーきゅ、ぴきゅう♪」
 と、上機嫌な様子でブーケの花を見つめる。
 ピカに結婚願望などはなく、単純にお花が欲しかったようだ。
 始終、何かのおかしい式だったが、これもまた彼ららしくて良いだろう。