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2022年ジューンブライド

リアクション公開中!

2022年ジューンブライド
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リアクション

「模擬結婚式?」
「ええ、もちろん模擬なので誓いの言葉までの、簡易的なものです」
 と、獅子神ささら(ししがみ・ささら)は説明した。
 小谷友美(こたに・ともみ)は少しわくわくしつつ、にこっと微笑んだ。
「ええ、分かったわ。ぜひやりましょう」

 女の子なら誰もが一度は憧れるウエディングドレスに身を包み、友美はバージンロードを歩いた。長いトレーンは彼女の花嫁姿を本物らしく見せていた。
 白いタキシードを着たささらは友美へそっと腕を出し、彼女をエスコートしながら祭壇の前へ。
 参列していた獅子神玲(ししがみ・あきら)は、二人の幸せそうな様子を眺めてぼーっとしていた。結婚式は素敵だし、憧れを覚えないこともない。しかし、玲には心に決めた人がいないのだ。
 そんな彼女は、自分がまさか身近な人物に想われているとは知らずにいた。
「獅子神ささらは健やかな時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、彼女を敬い、慰め、愛し続けていくと誓います」
 堂々と告げるささらに続き、友美も誓いの言葉を口にした。
「小谷友美は健やかな時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、彼を敬い、慰め、愛し続けていくと誓います」
 これで模擬結婚式は終わりだと友美が思った時、ささらはポケットから一つの指輪を取りだした。
 そして友美の前へ立ち、ささらは言った。
「私にとって友美さん、あなたは女神そのものです。一生懸命な頑張り屋で、見ていて飽きない……愛しいぐらいに可愛い女神です」
「え?」
「だから、さっき神に誓ったように……私の傍に居て、愛し、愛され続けてくれませんか? 私と結婚してください、小谷友美さん」
 プロポーズの言葉と共に指輪を差し出され、友美はかぁっと頬を赤くさせた。
 サプライズでのプロポーズほど嬉しいことはない。
「は、はい……もちろんよっ」
 と、友美はささらを見つめ返す。
 ささらはほっとしたように微笑むと、そっと指輪を彼女の左手薬指へはめた。
 そして、どちらともなく二人は口付けを交わす。見ている人たちが一様に恥ずかしくなるくらい、濃いキスだった。
 模擬だったはずの式は本物となり、仕掛け人の一人であった神父は続きを始めた。
 美人な恋人と無事にゴールインが出来た友美は、幸せでいっぱいだった。
 結婚証明書に二人できちんとサインをし、ささらと友美はついに夫婦となる。
 退場の時が来て、二人はバージンロードを共に歩み始めた。
 教会の外へ出ると、先ほどはいなかったはずの友人たちが一斉にフラワーシャワーを浴びせてくる。
「……断られたらどうしようかと思いました」
 と、冗談のように言うささらに友美はくすっと笑う。
「何を言ってるの、断るわけがないじゃない」
「ええ、そうでしたね。しかし、これから二人は夫婦……友美と呼ぶか、トモミンか、悩みますね」
 と、ささらは楽しそうに笑った。
 友美もつられて笑いだし、フラワーシャワーの先にイコンの待っていることに気がついた。
「あら? どうしてこんなところにイコンが……」
「ふふ、分かりませんか? このままあなたを連れてハネムーンへ行くんですよ」
 と、ささらは友美の手を引いた。またしてもサプライズだ。
 友美は再び胸が熱くなるのを感じたが、ふとささらの手を強く引いて立ち止まらせた。
「待って、その前に話があるの」
「どうかしましたか?」
 と、ささらは首を傾げる。
 友美はそっと自分のお腹に手をやると、はっきり告白した。
「私……赤ちゃんが出来たみたい」

   *  *  *

「昴、結婚しよう」
「え?」
 二人で出かけた帰り道、紫月唯斗(しづき・ゆいと)は恋人である九十九昴(つくも・すばる)へ言った。
 こっそり買っておいた指輪を取り出し、彼女へ差し出す。
「正式に俺の伴侶になってくれ」
 昴はドキドキと鼓動が高鳴るのを感じながら考える。出会ってから一年、付き合い始めて半年……同棲して二ヶ月が経つ頃だった。
 少し早い気もするが、気持ちが変わらないことだけは確信できる。
「……はい。あなたのそばに、いさせてください……」
「昴……」
 にっこりと微笑みを浮かべて昴は彼を見つめた。
「……愛しています、唯斗さん」

 月音詩歌(つきね・しいか)吉木朋美(よしき・ともみ)は結婚式に何を着たらいいか決めかねていた。
「教会だから、やっぱりウエディングドレスかなぁ?」
「うーん、タキシードもあるけれど……あ、これ可愛いっ」
 朋美が手にしたのはシンプルだが、袖や裾にフリルがあしらわれているAラインのドレスだった。
「一緒にウエディングドレス着ちゃう、っていうのもいいわよね」
「二人で、ってこと? うーん」
 詩歌は彼女の手にしたドレスをじっと見つめると、やがてうなずいた。

 結婚とは人生における転機の一つである。
 昴は純白のウエディングドレス姿になった自分を見つめ、今は亡き両親のことを考えていた。――晴れの舞台である今日、二人もどこかで見守っていてくれるといい。昔の自分だったら両親を悲しませていたのかもしれないけれど、今は違うから。
 式の準備が整ったと知らせを受け、昴は歩き出した。
 白いタキシードを着た唯斗はバージンロードで花嫁を待っていた。普段と違って顔を隠していないため、少し落ち着かない様子だ。
 やがて昴が一人で歩いてきて、唯斗の隣へ立った。
 おそろいのウエディングドレスに身を包んだ詩歌と朋美もまた、彼らの後を追うようにしてバージンロードを進んでいく。
 そう、ここで行われるのはダブルウエディングなのだ。
 二組のカップルを祝福するようにツァルト・ブルーメ(つぁると・ぶるーめ)は【ディーバード】とともに歌い始めた。

 6月の ジューンブライド
 教会の窓から 差し込む光を 浴びた貴女は
 とても 美しく とても 神々しく
 私には 眩しく見えた

 誓いの言葉 紡いでる 貴女は綺麗だった
 伴侶の方に向ける視線 普段は見ない 表情だった
 そんな表情 見れたことが 何だか嬉しかった
 貴女は今 幸せなのね
 そう感じられたから
 だから大丈夫 胸を張って 共に歩んでください

 順番に愛を誓い合い、キスを交わし、祝福の拍手に包まれる。
 他と違って少しだけ長かった式は終わりへ近づき、ついに退場の時が来た。
 唯斗はすぐに昴を抱き上げようとしたが、昴は【歴戦の立ち回り】で唯斗を避ける。
 そして彼が目を丸くする間もなく、昴は【金剛力】も使いつつ、彼をお姫様抱っこした。
 場内がざわめき、昴は楽しそうにそのまま教会の外へと駆けていく。
 外で待っていた【光竜『白夜』】に飛び乗り、派手に退場していく。
 すると残されていた朋美は大きな声で叫んだ。
「カモン、ヴォルケエェェェイノ!!」
 現れた【機動宙戦ロボ【ヴォルケイノ】】に乗り、詩歌を連れて朋美も退場していく。
 何とも派手な退場をする結婚式だった。

 その後の披露宴にて。
「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」
 受付に現れたのはドクター・ハデス(どくたー・はです)。自称天才科学者で悪の秘密結社オリュンポスの大幹部だ。
「ここが唯斗と昴の結婚式の受付か!」
 何故か高笑いをしながら受付に置かれた名簿に名前を書いていく。

 名前:ドクター・ハデス(←ただし偽名)
 職業:天才科学者(←ただし自称)
 所属:悪の秘密結社オリュンポス(←ただし妄想)

 その様子を見ていた高天原咲耶(たかまがはら・さくや)は、はっとした。
「何書いてるんですか、兄さん!? ちゃんと本名を書かないとダメじゃないですか!」
 と、慌てて兄の書いたものを訂正し始める。

 名前:ドクター・ハデス→高天原御雷
 職業:天才科学者→大学生
 所属:悪の秘密結社オリュンポス→蒼空学園
 住所:東京都墨田区

 自分の名前もきちんと忘れずに記して、先に会場へ入ってしまったハデスを追った。
「ただいま新郎新婦が入場されますので、皆様方盛大な拍手をもって二人をお迎え下さいませ」
 披露宴は今しがた始まったばかりであった。
「申し遅れましたが、本日のこの良き日、司会を務めさせていだきます私、新郎新婦の知人、天樹十六凪(あまぎ・いざなぎ)と申します」
 と、十六凪は丁寧に頭を下げる。
 彼は悪の秘密結社オリュンポスの参謀であったが、ハデスが暴走するのは目に見えていた。そのため、自分だけでもまともな手伝いを、ということで司会を務めている。
「では、次はハーティオンさんによる友人代表のスピーチです」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は突然のことに驚いたが、全員の視線が自分に向いている事に気づき席を立った。
 マイクの前まで進み出て、少し緊張しながらもスピーチを始める。
「う、うむ……あー、ごほん。わ、私は蒼空戦士ハーティオンという者だ。友人の祝辞という事でこの場所に通されたが……その、正直こういう事は苦手なので……失礼があったらご容赦願いたい」
 と、ハーティオンは言ってから、一つ間を置いた。
「本日、私をこの場に呼んでくれたユイトだが……彼とは、先のザナドゥの魔族との戦いや、ハイブラゼルの『大いなるもの』との戦いで共に戦った仲だ。その幾多の戦いを通して、私は彼の強さ、優しさ、そして高潔なる勇気や誠実な心を幾度も見てきた。とても素晴らしい戦士だと思う。スバル。君の選んだその人は決して間違っていない。君を守り、慈しみ、きっと幸せにしてくれるだろう。だが、ユイトは一本気なところがあるので、時に走りすぎて疲れてしまう事もあるだろう。そんな時は、スバルが陰になり日向になりユイトを導き、力になってあげて欲しい」
 少々言葉が固いが、苦手という割にいいスピーチだ。
「そうやって助け合い支えあう君達の姿こそが、「愛」という物の形なのではないかと……私はそう思うのだ。ともかく、言いたい事はただ一つだ。ユイト、スバル。力を合わせて幸せになって欲しい。そして、君達の幸せの為なら、私や君達の周りにいる仲間達は何時でも力を貸すだろう。何かあれば遠慮なく言ってくれ。……以上だ、長々とすまない」
「ありがとうございました。続きましては、ラブさんによる歌のプレゼントになります」
 ハーティオンと入れ替わりに、妖精であるラブ・リトル(らぶ・りとる)が前へ出る。
「はろはろ〜♪ 蒼空学園のナンバーワンアイドル、ラブちゃんよ♪」
 と、先ほどのハーティオンのピーチとは打って変わって、明るくにぎやかな雰囲気へ持っていくラブ。
「今日は唯斗と昴のために、歌で祝福するわね♪」
 と、新郎新婦にウインクをする。
「それじゃ、あたしの歌を聞いてみんな感動に泣きなさーい! ミュージック、スタート!」
 そしてラブは歌い始めた。
 いかにも披露宴といった歌に会場は盛り上がっていく。

 ラブの歌ですっかり賑わったところで、ついにメインともいえるイベントがやってきた。
「ウエディングケーキ入刀を行います」
 と、司会の言った途端にハデスが声を上げる。
「ククク、というわけで、出よ! 二人を祝福するために俺が徹夜で作った『ケーキ怪人』よっ!」
 もちろん進行台本には書かれていない、サプライズともいうべきハデスのアドリブである。
 ハデスの声に応えるようにして、ウエディングケーキに手足の生えた怪人が会場へ入ってきた。
「ちょ、ちょっと兄さんっ!?」
 と、慌てて席を立つ咲耶だったが、一足遅かった。
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)がハデスに向けてお仕置きの一振りをかましたのだ。
 背後からの攻撃にハデスはその場に倒れこむ。
「さあ、これにこりたら即時に退場を……」
 と、プラチナムは花嫁の方をちらりと見やった。昴はすでに刀に手をかけているところだったが、抜いてはいないのでセーフだろう。
 咲耶はハデスの元へ駆けつけるなり、呆れたように言った。
「もう、せっかくの結婚式に怪人なんて呼ぶからですよ」
 そして新郎新婦を始めとした全員に謝罪をし、ハデスを連れて場外へ出て行く。
 しかし、ウエディングケーキ怪人はまだ中にいた。すぐにプラチナムは行動しようと進み出たが、聖剣勇者カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)に先を越される。
「俺は聖剣勇者カリバーン……もとい、今回は、ウェディングケーキナイフ勇者・カリバーン!」
 と、新郎新婦の近くの床へ突き刺さる。
「ユイト、スバルよ! 俺を使えっ!」
 しゃべるナイフを目の前にして、唯斗と昴は苦笑いをした。本来ならこのような演出はないはずだが、怪人をこのままにしておくのも問題だ。
「仕方ない、やるか」
「はい……っ」
 二人はカリバーンを手にすると、ウエディングケーキ怪人を一刀両断もとい、入刀した。
「うむ、二人の愛の力、このウェディングケーキナイフ勇者・カリバーンが確かに見届けたぞ!」
 どうやら怪人を倒すことに成功したらしい。
「以上、悪の秘密結社オリュンポスによる余興でした。お次は本物のウェディングケーキ入刀になります」
 と、十六凪は冷静に言った。
 怪人とカリバーンはすぐにプラチナムに促されて退場し、様子を見ていたエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)はため息をついた。
「まったく、いったい何が始まったのかと思ったわい」
 と、自作のウエディングケーキを会場内へ運ぶ。
 エクスは葦原明倫館の食堂を仕切っているため、ケーキだけではなく、料理のすべてを担当していた。
「ほれ、入刀じゃ」
 と、ケーキナイフを二人に持たせるエクス。
 唯斗と目が合うなり、エクスはあからさまに嫉妬しながら言った。
「昴の次はわらわだからな! 今回は盛大に盛り上げてやるが、次はわらわだからな! ちゃんとめとれよ!?」
「ああ、分かってるって」
 と、唯斗は返事をしつつ、昴と一緒にナイフを手に持った。
 本日二度目のケーキ入刀だった。

 何やら騒々しい披露宴だと思いつつ、葛城吹雪(かつらぎ・ふぶき)は使い終わった食器を下げていた。
 たまたまアルバイトで居合わせたのだが、これほど印象深い披露宴は初めてだ。
 会場を出ると、ハデスが妹の咲耶にこっぴどく叱られていた。
「なかなか面白い出し物だったように思いますが……」
 と、呟いた吹雪は先ほどの光景を思い出す。
 新郎新婦を始め、最初は全員が驚いていたが、終わってみると楽しい芝居だった。
 もう一度見たいくらいだと思いつつ、吹雪は彼らの横を通り過ぎていく。
 今日の仕事は幸福なカップルを祝福する披露宴が円滑に進むよう、式場スタッフとして働くことなのだ。
 仕事仲間に何か言われては困ると考え、吹雪は少し歩く速度を速めると、仕事に集中することにした。