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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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 ■ 決別の帰宅 ■



 またか、とレイカ・スオウ(れいか・すおう)はため息をついた。
 いつの頃からだったろう。
 自分がパラミタに来ていると知らせた覚えはないのに、実家から執拗に連絡が来るようになったのは。
 手紙だったりメールだったりと、連絡は様々だけれど、内容はいつもただ帰って来るようにとの指示だけ。それ以外のことは、理由も何も書かれていない。ましてや、レイカを案じる言葉などあるはずもなかった。

 レイカと、有数企業で資産家の両親、もとい実家とは以前から非常に折り合いが悪かった。
 父、ルドラ・サイクスと同じサイクス姓を名乗ることさえ嫌で、レイカは母方のスオウの姓を使用しているけれど、だからといって母がレイカに優しかったわけではない。どちらもレイカにとっては冷酷な存在だった。
 両親以外の家族は、兄弟は跡継ぎと定められていた兄が1人と、その兄を溺愛していた妹が1人。
 レイカと妹は、兄の補佐が出来るようにと、幼少の頃から虐待に近い教育を施されてきた。
 はじめて親の仕事を手伝わされたのは、レイカが6歳のとき。
 意味も分からず手伝っていたその仕事が、汚職の隠蔽などの汚い工作だったことに気付いたのは8歳の頃。
 そして……両親からけしかけられた兄がレイカを襲ったのもまた、8歳のときだった。
 その際レイカは兄と取っ組み合って抵抗し、決して故意ではなかったが、兄を殺してしまったのだった。

 完全に正当防衛と認められる事件ではあったけれど、サイクス家の醜聞となるのは間違いないこの事件は、表沙汰になることは無かった。事実は隠蔽され、不幸にも事故死した兄の代わりにレイカが跡継ぎとなることが公表されたのみ。
 事情を知る妹は兄を奪った存在であるレイカを許さず、この事件をきっかけに決別してしまった。
 レイカは補佐となる兄弟のないまま、跡継ぎとしての教育をされていたが、10歳のとき家から逃亡した。その後、19歳で契約者となってからは、パラミタで暮らしている。
 そうして実家から逃れた気でいたのに。
「……どこまで私を血の宿命に縛り付ける気なの……」
 レイカはいつものように、実家からの手紙を捨てようとして……ふとその手を止めた。


「ほう、あれが呼び出しに応じたか」
 スウェーデン北部、広大な私有地の中に立つ邸宅で、ルドラは意外そうにその報告を受けた。
 どうせ言うことなど聞くまいと予想していたのに、レイカは連絡に応じて実家に戻ると言ってきた。一体何を考えてのことなのだろう。
「逃げることしか能の無い女だ。浮遊大陸で男でも誑かしていたか?」
 お笑いだ、とルドラは身を揺らす。
「まあ、何を考えてのことでも良い。一度来たら最後だ」
 再び手の内に捕らえたならば、ルドラにはレイカを逃がすつもりなどない。次期トップに据え、死ぬまで金と名誉を搾り出させる。それこそがルドラがレイカに求める役割だ。
「貴様が殺した兄の分まで、養分となってもらおう」
 飛んで火に入る夏の虫。
 これでレイカを手中に収めることが出来るとルドラは確信した。


 ルドラが待ちかまえる邸宅へ、レイカは迷わず足を進める。
 用件などとうに分かっている。跡継ぎになれと言うのだろう。きっと首を縦に振るまで、物理的に家から出られないようにするつもりでいるだろうし、それだけの暴力も用意しているはずだ。
 けれど、それでもレイカは戻らねばならなかった。
 レイカはパラミタで愛する人が出来た。心を許せる大切な人たちも出来た。
 そんな人たちを心配させない為にも、ここで決着をつけておかなければならない。
(必要とあらば、パラミタで得た私の力で、たとえ父を撃ち殺してでも帰らせてもらいます……)
 確固たる決意を胸に、レイカは実家へと向かう。
 ――『さようなら』を言いに行く、ただそれだけのために。