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リアクション
■ ウサギのお団子 ■
「ニルヴァーナでもお月見の習慣があったんだぁ〜。どんな感じなのかな?」
創世学園近くで月冴祭が開かれると聞き、秋月 葵(あきづき・あおい)は興味を持った。
「きっと素敵なんだろうなぁ……」
「葵ちゃん、行きたいんですね」
エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)に指摘され、葵はえへっと笑う。
「うん、見てみたいなー、って。ね、エレンも行こうよ」
「私は葵ちゃんが行きたいところなら、どこでもご一緒します」
「やったー! じゃあ一緒にお月見だねっ」
嬉しそうに跳ねる葵を、エレンディラは嬉しそうに見つめた。
「お月見があるのは丁度良かったです。せっかく贈って頂いたのに、今年は着る機会なく終わってしまうかと思っていました」
エレンディラが出してきたのは、新品の浴衣だった。
どちらも葵の花柄で、色違いのお揃いだ。
葵の姉が送ってきたものだけれど、これまで袖を通す機会が無かった。
今夜の月冴祭にはこれを着ていきましょうと、エレンディラは葵に浴衣を着付けた。トレードマークの大きな蒼いリボンには、お月見らしく兎の飾りをつけて。
準備が終わると、ちょっと待っててと、葵はキッチンへと走っていった。
何をしているのか、エレンディラにはもちろんお見通しだったけれど、気付いていないふりをして戻ってきた葵を迎える。
「もう支度は出来ましたか?」
「うん、バッチリだよっ!」
「ではお出かけしましょうか」
いつもより一層はりきっている葵に微笑を誘われながら、エレンディラは調べておいた通りにニルヴァーナの創世学園へと出発した。
月冴祭会場には多くの人々が月見に訪れていた。
「ニルヴァーナの月も良いものですね」
「地球の月と同じに綺麗だねっ。エレン、あっちの竹林に行ってみようよ。月と竹っていい組み合わせだよね〜」
しみじみと言うエレンディラの手を取って、葵は竹林の間に設けられた小径に入っていった。
「さすがに夜になると冷えるね〜。エレン、もうちょっとこっちに来て」
葵はぎゅっと握っているエレンディラの手を引き寄せて、ぴったりと寄り添った。
こうしていると冷たい秋の夜風も平気。だって触れ合ったところから伝わってくるエレンディラの温もりが、葵を温めてくれるから。
「ふふ、こうして葵ちゃんと見る月は格別ですね」
ゆっくりと歩きながらエレンディラは月を見上げる。
「うん、こっちの月も綺麗……だけど、んっとね……エレンの方が、もっと綺麗……だから……」
照れてしまって、葵の声は段々小さくなる。
月明かりの下で見るエレンディラの浴衣姿はとても大人っぽく見えて、なんだか顔を真っ直ぐに見るのさえ、恥ずかしくてたまらない。
(どうしたんだろ、私……エレンとはいつも一緒にいるんだし、いつだって好きって言えるのに……)
湧き上がってくる圧倒的な照れに、葵自身戸惑う。
「葵ちゃん?」
「え、あ、あー、エレン、あそこに座って一休みしよう!」
照れ隠しに葵は、目に付いた東屋を指さした。
東屋の椅子に座ると、
「実はね、良い物用意してるんだ〜♪」
葵はうきうきと小さな包みを取りだした。
包みを開くとそこには、ウサギの形をしたお団子が2つ。
お月見だからと葵はがんばってお月見団子を作ったのだ。ただ丸いお団子じゃ面白くないからと、耳をつけて赤い目を描いてウサギにしてみた。
「ちょっと形悪いけど、一所懸命作ったんだよ」
葵がお団子を作っていたことをエレンディラは知っていたけれど、そんなことはおくびにも出さないで、まあと目を見開く。
「かわいいウサギさんですね。葵ちゃんが作ったウサギさん、食べるのがもったいないかも」
エレンディラがお団子を1つつまむと、もう片方のウサギ団子も一緒に持ち上がってきた。
「あ、くっついてる」
「離れたくないなんて、まるで私たちみたいですね」
そう言ってエレンディラは頬を赤らめると、さりげなくお茶を用意して差し出した。
「お団子にあうお茶はいかがですか?」
「うん、もらうね〜。やっぱりお団子にはお茶が一番♪」
「そうですね」
互いに照れあいながら、葵とエレンディラはウサギ団子を仲良く食べたのだった。