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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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   二

 ミシャグジの洞窟は、円形の筒をすっぽり埋め込んだ形の、竪穴だ。壁に沿って、螺旋状の階段が彫ってあり、頭より高い位置に、一定間隔で提灯が設置されている。
 下へ行く途中途中に橋がかかっており、石灯籠と社祠(しゃし)がある。地下四階までは、ほぼ同じ作りだ。
 橋に足を踏み入れた途端、石灯籠に灯りが点った。
「これが――」
 地面が盛り上り、忍者が現れる。傀儡だ。ミシャグジのエネルギーを元に傀儡が現れることは既に知られていたが、このシステムを止めることは誰にも出来なかった。
「傀儡には傀儡よ!」
 クコ・赤嶺(くこ・あかみね)が「双龍の傀儡」を、忍者たちに向かわせた。
「今の内に、早く!!」
 幅からして、二〜三人は橋を通れるはずだが、忍者がいる以上、一人ずつ走り抜けるしかない。まず、同人誌 静かな秘め事が、続けて房姫が通り抜けた。だが、宇都宮 祥子が差し掛かったとき、忍者を抑え込んでいた「双龍の傀儡」は力尽きた。
「危ない!」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が「狐月【空】」で斬りつける。首を飛ばされた忍者はそのまま凍りつき、振り返った祥子の【疾風突き】を受けて崩れ落ちた。
 しかし忍者は、すぐに立ち上がる。首も、いつの間にか再生している。
「ここは自分たちが!」
「この状態で抜けられるわけないでしょ。私もやるわ。みんなは先へ行って!」
 霜月の言葉に、祥子は「桜の小太刀」を両手に構え、叫んだ。
 忍者は侵入者に反応する。全員が通り過ぎた後、洞窟を出てしまえば追われることもない。つまり、今だけを凌げばよい。
 霜月の居合が、忍者の胴を真っ二つにする。
 クコは襲ってくる忍者を【体術回避】し、【疾風怒濤】でその胸を突いた。ぽっかりと穴が開き、忍者は土くれに戻る。だがしばらくすると、また別の忍者が現れる。
「キリがないわね……」
「後ちょっとよ!」
 祥子は息を切らせながら、二人に声を掛けた。
「お任せを」
 霜月は「狐月【空】」を鞘に戻すと、腰を落とした。
「何度でも、いくらでも、腕が千切れるまで斬って斬って斬り捨てるまで!!」
 そうして、何度目かの抜刀を行った。


 二階へ向かいながら、叶 白竜(よう・ぱいろん)は房姫に尋ねた。
「その鏡というのは、一体、どういう形状でいつから存在する物なのですか?」
「私は直に見たことはありませんが、大きさは手の平ほど、前回の事件の際、オウェンたちが持ってきたそうですから、『梟の一族』に長く伝わる物でしょう……伝承によれば、五千年前にミシャグジを封じた者の仲間が作ったようです」
「五千年……気が遠くなりそう」
 世 羅儀(せい・らぎ)はうんざりしたように嘆息した。
 白竜は、その封じた人物のことが気になっていた。ソウルアベレイターである可能性が高いという。イルミンスールの森で起こった超獣の騒ぎでも、関係者に賢者として魔女がいた。単なる偶然か、それとも?
 何にせよ、「真の王」の周辺では常に大きな犠牲が付き纏う。それを止めるためにも、オーソンの目的が知りたいところではあった。
 と、真面目に考えている白竜の横で、羅儀は相変わらず人の好い笑顔を浮かべ、
「ところで『風靡』が使い手の感情をそのまま相手に伝えるものとしたら、房姫さんがカタルに伝えたいものは何ですか?」
と尋ねていた。オレもこんな可愛らしい女性に斬りつけられて感情を伝えてもらいたいな〜、などと考えているのは内緒だ。
 しかし、それに対する房姫の答えは、彼の予想と反するものであった。
「今回は想いを伝えるのではなく、ただ、無心に、剣を突き刺します。それだけでよい、いえ、そうでなければならぬ――そのように御筆先があったためです」
「え……それって、単にぶすっと刺すってことですか?」
「そうです」
 無表情に、カタルに剣を突き立てる房姫を想像し、羅儀は絶句した。それは普通に傷害か殺人になるのではなかろうか。
「お喋りはやめだ。出たぞ」
 羅儀ではなく、自分への忠告として白竜は呟いた。彼らの目の前に、傀儡の忍者が現れる。
「ここはオレたちにお任せを!!」
 羅儀が「ブリザードショットガン」を構えた。放たれた散弾が忍者を凍りつかせる。
 更に白竜が、残った忍者相手に「22式レーザーブレード」で斬りつけた。【アルティマ・トゥーレ】がその忍者をも凍らせる。
 全く身動きの取れなくなった忍者は、攻撃することも、崩れて再生することも出来なくなった。
「念のために見張っておきます。先へどうぞ」
 白竜と羅儀は、忍者を見張るため欄干に腰かけた。――だが十分後、白竜の持つ<超獣の欠片>が輝き出した。柔らかな音から、不快な金属音への変化。そして、静寂。
<超獣の欠片>ではない、別の欠片を持つ何者かが、近くに現れたという証拠だった。


 不思議なことに、三階では忍者は現れなかった。
 灯篭に火が入っているにも関わらず、うんともすんとも言わない。何かの罠かとしばらく待ってみたが、何も起きない。
「拍子抜けですわね」
 静かな秘め事は、房姫に囁いた。房姫は頷けなかった。何かあるような気がする。だが、それを待っているわけにもいかない。
「先を急ぎましょう」
 契約者たちが全員通り過ぎたその直後、社祠から太い腕が突き出た。――三道 六黒(みどう・むくろ)だ。
「やれやれ。とんだ仕掛けですね」
 続いて両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)ベルナデット・オッド(べるなでっと・おっど)、それに一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)、最後にオーソンが黒装束たちを連れて現れた。オーソンはいつもの白いローブに、サークレットをつけている。中央に黒い石が嵌まっていた。
(だが、役には立ったろう?)
 オーソンは両の目をころりと回して言った。笑っているのでしょうか、と悲哀は思った。