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リアクション
第18章 気楽な場で
「うーん、思ったより早く用事が終わったんだけれど……」
さて、どうしようかと、永井 託(ながい・たく)は辺りを見回した。
強い太陽の光が降り注ぎ、空京の街を照らしている。
昼食の時間ということもあり、歩行者の姿が多い。
「ひとまず、どこかでお昼を……おや?」
知り合いの姿を見つけた託は、その人物が入った店を見上げる。
小規模のショッピングセンターだ。
「フードコートでご飯かな? 無難かも」
託はその人物を追って、ショッピングセンターに入った。
「おや、奇遇だねぇ」
託は店に入り、並んでいた仁科 耀助(にしな・ようすけ)に声をかけた。
「おわっ……き、奇遇だね」
「せっかくだから、一緒に食べよ〜」
「うーん、そ、そうだね。ははは」
耀助は多少挙動不審だった。
なんだか食べる以外に目的もあったみたいだけど、碌な事考えてなさそうだなと、託は思う。
「お待たせいたしました。承ります」
店員の女の子が耀助に声をかけてきた。
「あ、うん。待った待った。ハンバーガーをセットでお願いしますー」
「ハンバーガーのセットですね。ありがとうございます」
「レシートの代わりに、キミのメアド欲しいなー」
「申し訳ありませんが、そちらはご用意できません。ただいまのおすすめはこちらでございます。お一つ、如何ですか?」
女の子が耀助に笑顔でセールストークすると。
「じゃあそれ買っちゃう! キミの笑顔が見たいから」
「ありがとうございます」
女の子は飛び切りの営業スマイルを見せてくれた。
(結局ナンパは失敗して、余分なもの買わされてるよねぇ)
託は心の中でため息をつき、隣の店で食べたいものを購入し、先に席に向かった。
「今日はパスタの気分だったから、海鮮パスタにしたよ。君はハンバーガーが食べたくてそれにしたのかな? それとも別の目的があったのかな〜」
「お昼決めかねる時には、こういう店に入るんだよ。それで、一番可愛い娘のいる店で決定!」
「そんな理由で選んだんだ〜」
感心と呆れが混ざったような表情で、託は笑った。
「最近はどうだい?」
パスタを食べながら、託は耀助に尋ねる。
「ん? 少しは増えたけど、まだまだ時間はかかりそうだ〜。そっちは?」
「まだまだ時間?」
「ほら、全生徒(女の子)とお友達になる計画! 薔薇学はまあいいとして、百合園が一番問題なんだ。学院内からほとんど出てこない娘とか、行き帰りお迎えがある娘は声をかけるチャンスがないし。合コンとかを計画するにしても、身分が合わないとかで、拒否されちまったり……蒼学は広すぎて……」
耀助のお友達計画(ナンパ談)は、長々と続く。
託は軽く苦笑しながら聞いていた。
「で、そっちは?」
ぺらぺら沢山喋った後、耀助が託に聞いてきた。
「僕の方は色々と順調だよ。彼女とも上手くいってるし、あっちに行ったりこっちに行ったりで、いろいろ楽しい体験をしているし……まあ、その過程でちょっと怪我をしたり、大学の単位を危うく落としかけてたりはするけれどねぇ」
「なんか大変そうだな。彼女の面倒、オレがみてやろうか〜」
「断る」
のんびりしている託だがそれだけはきっぱりと断った。
「はははは……がっくし。まあ、無理すんなよ」
ちゃらけた口調ではなく、最後の言葉は真面目な声だった。
「ありがと」
託は素直に礼を言う。
「彼女、泣かすようなことしたら、オレ、ホントに彼女慰めにって、仲良くなっちゃうからな!」
「分かった。気を付けるよ」
耀助と託は笑い合った。
「結構時間が経ったねぇ、今日はこれくらいかな?」
「そうだな、互いに用事があるし」
そういう耀助の目は、さっきの女性店員の方に向けられていた。
「……食べ過ぎないようにねぇ」
「大丈夫。美味しいハンバーガーを用意してくれたお礼に、これを渡すだけだから。じゃあな!」
自作の名刺を持って、耀助は女の子の方へと向かって行った。
「またねぇ〜」
やれやれと思いながら、託は歩き出す。
外はとても明るく、道路には若者の姿が多かった。
連れだって歩く女の子の姿は沢山あるけれど。
耀助のように声をかけたいとは思わない。
託には、大切な彼女がいるから……。