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ナラカの黒き太陽 第三回 終焉

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ナラカの黒き太陽 第三回 終焉

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11.終章

 ……異変は、終わりを告げた。
 ナラカの太陽は、今はその勢いを失った。かわりに、凝縮されていた闇の力は、カルマを通じて少しずつ、ゆっくりと、あらたな生命の源として世界へと還元されていくのだ。今は限られた地域だけではあるが、やがて広がっていくことだろう。
 けれども、命には終わりがくる。いつしかその生命も、ナラカへと向かう。再び太陽の一部となり……そしてまた、地上へと戻るのだ。


 避難勧告も解除され、再び人々はタシガンのそれぞれの地に戻ることができた。
「皆のおかげだ。本当に、ありがとう」
 最後まで指揮を執り続けたルドルフは、協力者たちに心からの謝辞を示した。
「薔薇の学舎だけではなく、皆で一丸となれたからこその結果だと、僕は思っているよ。よくやってくれた」
 ルドルフだけではなく、避難していた市民からも、感謝は捧げられた。
 これにより、タシガンはまたより一層、地球人に対しても開かれた土地になっていくことだろう。

 それは、タシガンだけでなく、タングートにおいてもそうだった。
「本当に、本当に、ありがとうございました!」
 店長と花魄は、そう幾度も繰り返した。
「これから二人で、より紅華飯店が多くの人々を幸せにできるよう、より一層努めてまいる所存。このたびのこと、よき学びとなった」
 鼠白はそう誓い、それから、弥十郎に密かに『プリティプリンセス』の入手方法について尋ねているようだった。
「あの……スレヴィさん」
 花魄は、おずおずとスレヴィに話しかける。
「どうしました?」
 相変わらずの裏声でそう尋ねると、花魄ははにかみつつ「連れてきてくださって、ありがとうございました。男の人ばかりで、ホントはちょっと、……やっぱり怖かったんですけど、スレヴィさんがいたから、安心できました」と、ふわふわのぬいぐるみの手を握る。
「あー……い、いえ」
 よく考えれば、弥十郎も光一郎も花魄に男の姿を見せたが、スレヴィだけは最後までぬいぐるみ姿のままだ。しかも、性別も誤解されたままらしい。
「また、タングートにいらしたら、是非立ち寄ってくださいね。私、ずっと、待ってます!」
 花魄は瞳を涙で潤ませて別れを惜しみつつ、店長とともにタングートへと帰って行ったのだった。


 共工と相柳もまた、珊瑚城へと戻った。
 今後、KSGは特別に、正式な『親衛隊』と名乗ることも許され、彼女たちは大喜びだ。ただし、名称としては今後とも、KSGを引き続き使うらしい。
 花魄をはじめ、タングートの人々も、以前ほど男性蔑視ではなくなったようでもある。
 タングートとタシガンを繋ぐゲートは、今後とも利用可能なよう、共工が固定したままになっている。双方の交流は、今後より活発になっていくのかもしれない。
「こちらが、共工様よりの親書です」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)は、今度は共工から預かってきた手紙を、ルドルフへと手渡した。
 今回の騒動について、お互いに協力をしあえたことを嬉しく思うとともに、共に発展を望む……と、そこには記されていた。
「感謝するよ」
 手紙を読み終え、ルドルフは天音をそう労う。この手紙だけではなく、今回の異変の間、タングートとタシガンの間を行き来し、情報共有に努めてくれていたことに関しても、だ。
「ところで、相談があるんだけど、いいかな」
「どうぞ? なんなりと言ってくれ」
「タングートに、『学校』を作るというのはどうかな」
 天音の提案に、ルドルフはやや驚いたようだ。「学校?」と単語を繰り返し、小首を傾げる。
「急速に交流を進めようとしても、少し前に流された噂も考えタングートにタシガンや契約者への悪感情を育てようという動きが出る可能性もあると思ったんだよ。まずタングートとタシガンの交流の始まりとして、タングートに学舎の姉妹校を作るというのはどうかな。お互いの知識を交換する場になるかもしれない」
「なるほど……」
「できたら、共工様達にも、一度薔薇の学舎を見学して貰える機会を作りたいね。普段は女人が立ち入る事は出来ない学舎だけど、学校というものの参考に招待するのも良いんじゃないかな。たとえばだけど、今回の協力者に学舎からのささやかなお礼として『彩々』を一日解放するとか」
「ああ、それについては、僕も考えていたんだ。是非とも、そうしたいね。僕自身、まだ直接には、挨拶もしていないわけだし」
 両者が公的につきあいを続けていくとして、いずれ共工とルドルフが会う場所は必要になることだろう。
「学校については、あくまで提案に留めるけども……両者がともに発展できるよう、努力を続けていかねばならないね」」
 ルドルフは微笑んだ。
 天音もまた、美しく微笑み返す。……ルドルフに対して、天音はまだ伝えていないこともある。だがそれは、また語り合う機会もあるだろう。
 折しもそこに、「失礼します。レモです」とレモが校長室をノックした。
 天音に目で確認し、天音が頷くと、「どうぞ」とルドルフはレモを招き入れる。
「あの、なにかあの後……」
 呼び出された理由がすぐに見当がつかなかったらしく、レモは不安げだ。
「いや、そういうことじゃないよ。ところで、カルマの具合はどうだい?」
「あ、もう大丈夫です。さっき一緒に、彩々で食事もしたところです。ご報告が遅れて、すみません」
 レモはそう恐縮し、ぺこりと頭を下げる。
「それなら良いんだ。君を呼んだのは、もう一つ理由があるんだ。……レモ、君に、イエニチェリの一人になってほしいんだ。どうかな?」
「え……」
 ルドルフの提案に、レモは目を丸くした。
 イエニチェリという立場を知らない薔薇の学舎の生徒はいない。そして、レモは戸惑いながらも、ややあって、口を開いた。
「わかりました。まだまだ未熟な僕ですけど、……精一杯、ルドルフ校長と、薔薇の学舎のために、尽くします」
 かつてのレモならば、辞退していたかもしれない。
 しかし、今はもう、レモは『己が何者か』を十分に知っていた。
 自分は……ただ、レモ・タシガンであると。
 深々と膝を折り、レモは、ルドルフの前に頭を下げた。


 報告を受けたジェイダスから、「美しい選択だった」という短いながら、最高の賛辞が送られてきたのは、その数日後のことだった。



「雨、あがったなぁ」
 タングートに雨が降るのは、珍しいことだ。
 数日間にわたってまばらに降り続けた雨が止み、窮奇は珊瑚城の中庭に出た。
 綺麗に晴れ渡った空を見上げ、その上にいるだろう人々を、窮奇はふと思う。
「妙な奴らもいたけど……まぁ、愉しかったかな」
 そう呟き、また視線を下げた彼女は、そこに、芽吹いた緑を見つけた。
 それは、木・来香(むー・らいしゃん)の植えていった花の種だ。
「どんな花、咲くんだろ?」
 窮奇は膝をおって、露を含んだ双葉を愛おしげに見つめる。



 そんな風に、ゆっくり、ゆっくりと。

 世界は新たな、芽吹きを迎えていく――。



担当マスターより

▼担当マスター

篠原 まこと

▼マスターコメント

●ご参加いただき、ありがとうございました。
リアクションをお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。

●手紙という形なりなんなりで、ご意見をいただき、カルマとレモについてはこういった形となりました。
ある意味、とても幸福な終わりになったと思います。

NPC関連につきましては、また後日、マスターページにてまとめる予定です。
レモとカールハインツについても、ちょっとそこで書くかと思いますので、もしよろしければご参照ください。

●長く続いたレモとカルマの物語も、ここで一区切りです。とはいえ、彼らは薔薇の学舎に留まることになりましたし、タングートも無事復興していくことでしょう。
今回の後日談的な、打ち上げシナリオの準備はしておりますので、そちらは9月中頃にシナリオガイド公開予定です。よろしくお願いいたします。

ご参加いただき、本当にありがとうございました。

●【追記】称号とコメントにミスがありまして、修正いたしました。
ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。