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ナラカの黒き太陽 第三回 終焉

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ナラカの黒き太陽 第三回 終焉

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 喫茶室に戻ると、カールハインツと上社 唯識(かみやしろ・ゆしき)戒 緋布斗(かい・ひふと)がカルマやエメたちとともに、レモを待っていた。
「どうだった?」
「ルドルフ校長から、いただいてきた。みんなからの手紙だよ」
 ありがたいよね、とレモは言いながら、カールハインツのひいてくれた椅子に腰掛ける。
「読むから、カルマも聞いてて?」
「うン」
 頷いて、カルマもじっと耳を傾ける。レモは手紙をテーブルに置くと、ゆっくりと噛みしめるようにして、一文一文を読んでいった。

*****

ナラカの太陽という大きなエネルギーは、その何の通りに太陽のようにどこかで光輝き続けさせることはできないだろうか。
ただ輝やいていてほしい。象徴として。何かに利用するのではなく。
レモやみんなの生きている間、時間をかけて、輝いていて欲しい、そう望んでいる。
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)より


太陽の事は、一番詳しいレモさんがそう言うなら、それが最善策なんだろうと思う。でもね、それでレモさんやカルマさんがどうかなってしまうのなら、僕はその案には賛成しない。
個人的には、ジェイダス様が命を賭けて成し遂げようとした事を無にするのは嫌だと思ってる。それでも今、タシガンと天秤をかけたなら、タシガンの平和を取るよ。幸いジェイダス様は生きていらっしゃるからね。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)より


お前の決断は、その後お前がどうなるかも含め、俺は受け入れる。
…だが、そうは割り切れない者がいる事も忘れないで欲しい。
そして、ウゲンも決して悪魔ではなかった事を……。
彼も追いつけない背に苦しんでいた事を、知って欲しい。
それに気付く事も出来ない苛酷な環境にいた事を。
後は、共工殿の願いとお前自身が向き合って決めるんだ。
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)より


俺もクリスティーも、入学した頃に声変わりでうまく歌えなくなったった時期があったんだぜ。
声も変わったろうから、改めて今度はカルマと2人の歌をみんなに披露してやれよ。
楽譜を一緒にしておくから、練習しておくように。
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)より


正直、君達には厳しい事も辛い事も言わなければならなくなるだろうと思っていたから、二人が人の姿を取ったのは正直やりづらいね。
今の僕はレモもカルマもエネルギーを汲み上げる為のシステムではなく、薔薇の学舎の大切な生徒、仲間の一人だと思っているよ。
悪魔の置き土産という言葉を耳にはさんだけれど、そうなるかどうかは本当に君達の選択次第なんだろう。
今はタングートという土地に住む人々の今迄に無い助けを得る事も出来るかも知れない。共工様には何か考えがあるようだったから、一度きちんと話をしてみると良いよ。
僕に出来る事はいつでも相談してくれるかな。あと、理事長は解ってると思うな。
 黒崎 天音(くろさき・あまね)より


レモへ。
エネルギーの事は任せる。
もう何もわからない子供じゃないしな。
カルマと二人でちゃんと戻ってくるように!
 スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)より


全てレモに任せる。
がっ、
俺様みてーな無茶したら承知しねーぞ。いーな!?
 南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)より


君の決断を尊重するよ。
 ハルディア・弥津波(はるでぃあ・やつなみ)
 デイビッド・カンター(でいびっど・かんたー)より


レモやカルマが自分が存在する事に、悪意や疑問を感じているのなら、それじゃ、タシガンとタシガンの吸血鬼達は、自らナラカの太陽に飛びこまなくちゃならないよね。
タシガン島と吸血鬼という種族全てが、始祖ウゲン・タシガンの置き土産みたいなものなんだからさ。
ボクとしてはそれも面白そうだと思ってるんだけど、何しろ暇で暇で退屈してるからね。
まぁでも、折角だからまだ生まれたばかりの君たちが退屈を覚えるまで、楽しく生きられる方法を考えてみたら良いんじゃない?
 ティモシー・アンブローズ(てぃもしー・あんぶろーず)より


ナラカの太陽をどうするのが良いか考えてみた。
温泉にするってのはどうだ?
ナラカの湯とか言って温泉施設の発熱エネルギーに運用する。
そんで黒い温泉まんじゅうをナラカの太陽とかいって名産品にしてみたりとかどうだ?
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)より


レモさんとカルマさんが思うようにするのがいちばんだと思います。
 関谷 未憂(せきや・みゆう)より
もとは何のためにあったんだろうねー? とりあえずレモっちが決めたならそれがいちばんいい答えだよ。
 リン・リーファ(りん・りーふぁ)より
レモさんの自由に。
 プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)より


レモ、君に世話になった友として忠告させてくれ。
ルドルフは何も言わないだろうから私が言うよ。
レモ、君の選択は美しくない。
君は君自身の価値を軽んじているからね。
それは君に命を賭けたジェイダスを軽んじることでもある。
潔い献身は一見美しく見えるが、真の美は蓮の花のように泥の中にあるんだ。
君が美しい解答に辿り着くことを祈っている。
 ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)より


レモ、君は知恵を付けて臆病になったようだな。
背丈ばかりニョキニョキ伸びてもまだまだなのだよ。
よいか、レモ。
無知ゆえの蛮勇も知恵者の臆病さも、同様に唾棄すべきものなのだ。
安易な結論は君の天命や人々の期待に背くことだ。
足掻き給え、結論を先延ばしするのだ。
状況は刻々と変化する。
君がこの手紙を読む頃、我々はナラカの太陽にアプローチをしているだろう。
ナラカの太陽の位置・質量・侵攻速度、判断材料は可能な限り君に送る。
共工も契約者達も動いている、状況は必ず変わるのだよ。
カルマは目覚めたばかりなのだ。いたわってやり給え。
君達は稀有な存在だ。
発端が悪魔の気まぐれだろうとそれは変わらないのだ。
エネルギー革命は数多の民草の命を救う希望なのだよ。
粘り強く戦い給え。
未来への希望を少しでも多く残すのだよ。
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)より

******

 その他にも、様々な意見や言葉が寄せられていた。
 それら全てに丁寧に目を通してから、レモはぐっと唇を噛む。
「……レモ」
「嬉しいよね、本当に……」
 堪えきれなかった涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
「ごめん。まだ泣いてる場合じゃないのに」
「いいだろ。少しくらいは」
 見ないふりしてやるよ、とカールハインツはレモの頭を軽く撫でる。
「ん……」
「レモ、僕もね、そう思うよ」
 唯識が口を開き、レモを見つめる。
「せっかく生まれたものなんだ。親は関係ない。とにかく、自分を犠牲に、とだけは考えて欲しくない」
 それは唯識の本音だが、素直ではないカールハインツのかわりに、彼の気持ちを代弁しているようなところもあった。
 もしもそんなことになったら、今度こそ、どれだけカールハインツが傷つくかわからない。唯識は幸い、まだそういう大事な存在を失ったことはないが、こう見えて唯識の親友は繊細すぎる心の持ち主なのだ。
 そして、レモにしても。
 決断を乗り越え、見た目には成長したものの、中身までそんなに一気に成長できるものだろうかと唯識は思う。だから、むしろこうして、思わず涙してくれたほうが、ずっと安心できる。
「まだまだ一緒に、薔薇の学舎で学んで行こうよ。失敗もケンカもいろいろしながら、ゆっくり……」
 唯識はメガネ越しに目を細めた。今度は、カルマも一緒に。そんな風に。
「そうですよ。まだまだ、これからです」
 緋布斗もそう言って、ちらりとレモの頭のあたりを見やった。
 自分と同じくらいの身長だったレモが、一人大きくなったのが、少し寂しいのだ。ただでさえ、カールハインツと唯識に囲まれていると、どうしても緋布斗は一人ちびっ子のようになってしまう。
(でもまぁ、僕はいざとなったら大きくなれますし。それに、カルマさんもいますから)
 カルマは髪の色が違うだけで、本当にレモにそっくりだ。これからは、カルマとも仲良くなれるといいと、緋布斗は思う。
「誰も犠牲なんざ嬉しくねぇってことだ。覚えとけよ」
 一方でカールハインツは、ぶっきらぼうにそう口にする。
「それは、カールも同じだからね」
 唯識はやれやれと肩をすくめながら、親友に釘を刺した。
「え、なんでオレまで」
「レモよりも危なっかしいからね……カールは。体は大きいけど」
「別に、そう無茶なんてもうしねぇよ」
「そう? じゃあ、約束してね」
「…………わかったよ。約束する」
 唯識に言われ、しぶしぶとカールハインツは頷いた。
「唯識さんが代わりに言ってくれてよかった。僕の言うことは聞かないんだもん」
「なんだよそれ」
 揶揄するような口調のレモに、カールハインツがかみつく。
「本当でしょ?」
「そんな事ねぇだろ。オレは、おまえの……」
 そこでカールハインツは言葉をきり、若干複雑そうに「……盾のひとつみたいなもんだろうが」と続けた。
「うん、まぁ、そうだけど」
 レモも同意する。そんな二人のやりとりをじっと見ていた緋布斗は、(やっぱりなぁ)と内心で呟く。
 唯識と自分は、同性に対して恋愛感情はもたないし、パラミタでおこる色々なことに興味がいっていて、恋愛するという感覚まで余裕がない。
 ただ、カールハインツのレモに対する感情は、友情よりもっと深いものなのだろうと思える。
 それが恋愛というのかは、まだ緋布斗にはよくわからないけれども。ただ。
「お二人は、ベストカップルですね。羨ましいです」
「!?!?」
 出し抜けにかけられた言葉に、レモとカールハインツは、そろって目を丸くした。
「え……」
 あまりにあっけにとられている様に、エメとリュミエールも思わずくすくすと微笑んでしまう。はたから見れば十分そうなのに、本人たちには欠片も自覚がなかったらしい。だが、すぐに。
「あのな、オレはそういう目でレモを見たことなんてねぇよ」
 前髪をかきあげながら、カールハインツは緋布斗たちにあきれ顔で否定する。
「そんなことより、だ。もう研究所に向かおうぜ。市街地も騒がしくなってきてる。とっととカタつけて、終わらせてやろうぜ」
 がたんと席を立ち、カールハインツはレモとカルマを急かした。
「僕たちも行くよ」
 唯識と緋布斗も、同じように席を立つ。
「そうだね。……カルマ」
 レモはカルマの手をとり、じっと見つめた。
「みんなの言葉も聞いて、考えたんだ。あの太陽を消すんじゃなくて……世界へ返すことはできないかなって。できるかどうかはわからないけど、……やってみよう?」
 ナラカの太陽とは、世界からナラカへと降りてきた負の力が長い時を経て凝縮されたものだ。それを、カルマの体内を通じて、再び世界へと戻す。
 それは、誰も試みたことのないことだ。本来そういった機能も二人には備わっていない。
 それでも、もしかしたら。
 前例がないということは、すなわち不可能という意味ではない。
「…………」
 カルマはやや考えてから、答えた。
「大丈夫ダよ。レモ。ボクたちは、ひトりじゃなイから」
「……そうだよね」
 手紙の束を再び大切に懐に入れ、レモとカルマは一歩を踏み出す。
 この世界に、新たな輪を作り出すために。